melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

2018年04月

Kali Uchis - Isolation [2018 Virgin, Universal]

カリ・ウチスことカリー・マリーナ・ロザリアは、コロンビアのペレイラ生まれ、ヴァージニア州のアレクサンドリア育ちのマルチ・タレント。

子供のころから、アメリカとコロンビアを往き来していた彼女は、ハイスクール時代からピアノやサックスを演奏し、ミックステープやミュージック・ビデオを制作するなど、早くから才能を発揮してきた。

そんな彼女は、2014年にスヌープ・ドッグのミックステープに客演したことで注目を集めると、同年には自身名義のオリジナル曲を発表。翌年には初のEP『Por Vida』をリリースし、タイラー・ザ・クリエイターケイトラナダといった、通好みのクリエイターを起用した、尖った作風が高く評価された。

このアルバムは、彼女にとって初のフル・アルバムであり、初のフィジカル・リリース作品。ユニヴァーサル傘下のヴァージン・レコードからのリリースで、全ての曲を彼女自身が制作。プロデューサーにはサンダーキャットゴリラズ、ケヴィン・パーカーなど、様々な地域、ジャンルのクリエイターを起用。R&Bを軸に、あらゆるジャンルの音楽を飲み込んだ、個性的な音楽を披露している。

本作の収録曲で真っ先に目を引いたのは、ジ・インターネットのスティーヴ・レイシーとコラボレーションした”Just A Stranger”。透き通った音色のシンセサイザーを使ったイントロは、シドの作品を連想させるが、そこから展開されるのは粗く、泥臭い音色のヒップホップ。また、この上に乗るメロディは、スライ&ザ・ファミリー・ストーンを彷彿させる爽やかで軽快なもの。ロックやファンクの要素を盛り込みつつ、ヒップホップに落とし込むレイシーの技術が光っている。

これに対し、ロス・アンジェルスを拠点に活動するクリエイター、ソーンウェーブをプロデューサーに招き、ジョージャ・スミスをフィーチャーした”Tyrant”は、シンセ・ベースを強調した躍動感あふれるグルーヴが心に残るミディアム。ファンクにもレゲエにも似ている独特のリズムが面白い。似ているようで微妙に違う声質の二人が披露する掛け合いのおかげで、楽曲に適度にメリハリがついている点も面白い。

また、コロンビア出身のレゲトン・シンガー、レイコンと組んだ”Nuestro Planeta”は、ルード・ボーイズが制作に参加したレゲトン・ナンバー。レゲトンといえば、中音域や低音域を強調したビートを使うことが多いが、この曲では華やかな高音に重きを置いた、ソカっぽいサウンドを取り入れている。二人の軽妙な掛け合いを盛り込んだヴォーカルを含め、ダディ・ヤンキー、ルイス・フォンシなどの作品とは一線を画した作りが魅力だ。

そして、『Por Vida』にも参加したバッドバッドノットグッドがプロデュースを担当、ゲスト・ミュージシャンとして、これまでにも彼女とコラボレーションしたことがある、タイラー・ザ・クリエイターとブーツィー・コリンズが参加した”After The Storm”は、本作では珍しい、甘いメロディのバラード。アイズレー・ブラザーズの”Between The Seats”を思い起こさせるしっとりとした演奏をバックに、可愛らしい歌声を聴かせている。絶妙なタイミングで入る、ブーツィー・コリンズのMCやタイラー・ザ・クリエイターのラップがロマンティックな雰囲気の楽曲を引き締めている。

この作品の面白いところは、ロックやファンク、レゲエの要素をふんだんに盛り込みながら、きちんとR&Bに落とし込んでいるところだ。ミニー・リパートンやシリータ・ライトの流れを組む繊細な歌声は、ビヨンセやリアーナのようなディーヴァとは対極なものだ。また、バック・トラックも所謂R&Bのものとは大きく異なるものだ。しかし、色々な音楽のエッセンスを取り入れつつ、要所要所をR&Bの手法で固めることで、きちんとR&Bに落とし込んでいる。この絶妙なアレンジ技術が、独創的な作風に繋がっているのだろう。

個性豊かなクリエイターを起用しつつ、彼らのセンスをきちんとコントロールすることで、斬新だが秋の来ない、完成度の高いアルバムに落とし込んだ稀有な作品。音楽以外の分野でも才能を発揮する彼女の鋭い感性が遺憾なく発揮された良作だ。

Producer
Kali Uchis, Thundercat, BadBadNotGood, Gorillaz, Rude Boyz, Sounwave etc

Track List
1. Body Language Intro
2. Miami feat. BIA
3. Just A Stranger feat. Steve Lacy
4. Flight 22
5. Teeth In My Neck
6. Tyrant feat. Jorja Smith
7. Dead To Me
8. Nuestro Planeta feat.Reykon
9. In My Dreams
10. Gotta Get Up Interlude
11. Tomorrow
12. Coming Home Interlude
13. After The Storm feat. Tyler, the Creator & Bootsy Collins
14. Feel Like A Fool
15. Killer





Isolation
Kali Uchis
Virgin Int'L
2018-04-13

TEN - New Heroes [2018 SM Entertainment]

2年間の活動休止期間が終わった直後に、60万人を動員するツアーを行うなど、デビューから14年の時を経ても、アジア屈指の人気グループとして活躍している東方神起や、平昌五輪の閉会式で、欧米のミュージシャンにも見劣りしない本格的なR&Bを披露したEXOなど、多くの人気ヴォーカル・グループを輩出してきた、韓国のSMエンターテイメント。同社が2016年に送り出したのが、多国籍のメンバーからなる男性ヴォーカル・グループ、NCTだ。

「Neo Culture Tecnology」の頭文字をとったこのグループは、これまでも同社が掲げてきた「国際化」に加え「開放と拡張」をテーマに結成。日本出身のユウタこと中本悠太や、中国出身のクンこと钱锟(チェン・クン)など、外国出身のメンバーが半数を占めるほか、派生ユニットのNCT UやNCT127という形で、楽曲のコンセプトに応じてグループ名と構成メンバーを変え、2018年4月には3名の新メンバーを加えるなど、従来のヴォーカル・グループの枠組みに囚われない。柔軟な発想と本格的なパフォーマンスを武器に、複数の作品をヒットさせてきた。

この曲を歌う、テンことチッタポン・リチャイヤポンクルは、同グループに所属するヴォーカリスト。バンコク出身の中国系タイ人である彼は、同社の研修生を経て2016年にデビュー。その後は主に派生ユニットのNCT Uの一員として活動してきた。しかし、そんな彼は、所属事務所によるシングルの連続リリース企画「SM Station」の第54弾として、2017年にNCTのメンバーでは初のソロ作品となるシングル”Dream In A Dream”を発表。ステファン・カールを起用し、全編英語詞で歌われたこの曲は、韓国や母国のタイよりも、アメリカでヒットするという珍しい記録を残している。

本作は、同企画の第108弾としてリリースされた、彼にとって2枚目のソロ・シングル。楽曲制作にはカナダ人のシンガー・ソングライター、ショーン・フックと、ブリトニー・スピアーズなどの曲を手掛けてきたアメリカ人のシンガー・ソングライター、ジョン・アッシャーを起用。前作に引き続き、英語詞の曲に挑戦するなど、欧米のポップス市場を意識した作品になっている。

シンセサイザーを組み合わせたスタイリッシュなイントロから始まるこの曲は、フォーク・ソングを連想させるつま弾くようなギターの伴奏や、ディプロやスティーヴ・アオキのEDM作品を彷彿させるダイナミックなビートなど、色々な音楽の要素を次々と繰り出す展開が面白いミディアム・ナンバー。このトラックをバックに、彼は22歳(発売日時点)らしい爽やかさと、20代とは思えない大人の色気を感じさせる、甘く切ないヴォーカルを披露している。

そんな彼の作品を聴いて、真っ先に思い浮かんだのは、アッシャーやジャスティン・ビーバーの音楽だ。20代前半の若い感性を活かしつつ、ベテラン・シンガーのような老練した表現を披露する姿は、”U Remind Me”やBurn”などで、20代とは思えない円熟した歌唱を聴かせていたアッシャーとよく似ている。また、R&Bの手法に囚われない、ポップなメロディと多彩なアレンジを取り入れる手法は、R&Bのみならず、ヒップホップやEDMなどを飲み込み、独創的な音楽を生み出すジャスティン・ビーバーを思い起こさせる。この鋭い感性と熟練の技術、あらゆる音楽を飲み込む懐の深さが、彼の作品の魅力だと思う。

様々な国籍のタレントやソングライターを巻き込み、国際化と拡張を続ける韓国のR&Bシーンの熱気と勢いを感じさせる面白い楽曲。マイケル・ジャクソンや日本の三浦大知BIGBANGSOLのように、歌とダンスで世界中の人を感動させる、R&B界のスターになりそうな逸材だ。



PJ Morton - Gumbo Unplugged (Recorded Live At Power Station Studios) [2018 Morton Music]

近年は自身名義の活動だけでなく、人気ロック・バンド、マルーン5のキーボード奏者として活躍している、ルイジアナ州ニューオーリンズ出身のシンガー・ソングライター、PJモートンことポール・モートンJr.

2017年には、自身の4年ぶりの新作『Gumbo』を発表。同作を引っ提げてツアーを敢行する一方、マルーン5の一員として『Red Pill Blues』を制作。前者はビルボード・チャートに入らない、通好みの作品でありながら、グラミー賞のベストR&B部門にノミネートし、後者は複数の国でゴールド・ディスクに認定される大ヒット作となった。

このアルバムは、本人名義では約1年ぶりのスタジオ・アルバム。新作の録音やツアーで多忙な日々の合間を縫って録音された本作は、オーケストラと組んで『Gumbo』の作品を再演した、スタジオ・ライブ作品だ。といっても、単なる既発曲の再演ではなく、収録曲の順序を替え、MCも盛り込むなど、スピーカーの向こうの観客を意識して演奏された、本格的なライブ録音になっている。

本作の1曲目は、『Gumbo』では3曲目に収録されている”Sticking to My Guns”。軽快なギターのカッティングに荘厳なストリングスを被せる演出は、これから始まるライブへの期待を掻き立てる。軽やかなリズム・セクションの上で、オルガンを演奏しながら歌うモートンの姿は、”Sir Duke”を歌っていたころのスティーヴィー・ワンダーによく似ている。楽しいライブの幕開けにふさわしい1曲だ。

続く”Claustrophobic”では、スピーカーの向こうの観客に語り掛けるところから始まるミディアム・ナンバー。オリジナル版でも印象的だった、年季を感じさせる音のシンセ・ベースを使いつつ、ヴォーカルはメロディを丁寧になぞるスタイルに切り替えている。原曲ではペルが歌っていたパートを、キーヨン・ハロルドのトランペットが担当してる点も見逃せない。

また、前作の最後を飾ったビージーズのヒット曲のカヴァー”How Deep Is Your Love”は、低音を抑え気味にして、軽妙なヴォーカルを強調している。ストリングスの音を控え、ハンド・クラップやオルガンの伴奏でリズムをとる演出からは、ゴスペルの影響も感じられる。ギターやコーラスのアレンジも含め、伴奏全体でグルーヴを生み出す手法は、ゴスペルからロックまで、あらゆるジャンルの音楽に取り組んできた彼の、音楽への深い造詣とセンスの良さを感じさせる。

そして、今作の最後を締めるのは、BJザ・シカゴ・キッドとハミルトンズをフィーチャーした ”Everything’s Gonna Be Alright”。『Gumbo』では6番目に入っていた曲だが、本作では一番最後に収録。多くの歌手に歌い継がれている名曲だが、本作ではライブのクライマックスを意識して、『Gumbo』版の泥臭さを残しつつも、高揚感のある演奏に仕立てている。コール&レスポンスなどのゴスペルで用いられる手法が、他の音楽でも通用することを教えてくれる。

このアルバムから感じるのは、多くのライブを経験してきたモートンの演奏能力の高さだ。難しいフレーズを正確に演奏するだけでなく、楽曲やライブ全体の展開を意識して緩急をつけたり、アレンジを加えたりする。この単なる手先の演奏技術を超えた、楽曲全体に目を配り、具体的なパフォーマンスに落とし込む技が、彼の魅力だと思う。

同じ楽曲でも、演奏の度に違った表情を見せる、ライブの醍醐味が思う存分楽しめる良質な録音。作品としての完成度が高さだけでなく、彼のステージを見てみたいと思わせる説得力もある名盤だ。

Producer
PJ Morton

Track List
1. Sticking to My Guns
2. Claustrophobic feat. Keyon Harrold
3. Religion feat. Lecrae
4. How Deep Is Your Love
5. First Began
6. Go Thru Your Phone
7. They Gon’ Wanna Come
8. Alright
9. Everything’s Gonna Be Alright feat.BJ the Chicago Kid & The Hamiltones




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