2018年6月2日付のビルボード総合アルバム・チャート で、BTSの『Love Yourself: Tear』がアジア出身のアーティストとしては史上初、外国語作品としてはイル・ディーヴォの『Ancora』以来12年ぶりとなる1位を獲得した。この記録については色々な意見はあるけれど、ヒップホップやR&Bが好きな自分にとっては、彼らの記録は時間をかけて現代の形になった、韓国のヒップホップやR&Bの一つの到達点のように映った。そこで、今回は番外編として、韓国のヒップホップやR&Bの歴史で重要な役割を果たしたアーティストと楽曲を9組取り上げてみた。
選定基準は
1.韓国のヒップホップやR&Bに何らかの影響を与えた(と思う)アーティストであること
2.単純な売り上げだけでなく、後の時代に何らかの影響を与えた曲であること
この二つ。
それでは、一組ずつ紹介してみよう。
Seo Taiji & Boys – Come Get Some [1995]
韓国のR&B、ヒップホップを語るにあたって、避けて通れないのが90年代前半に一世を風靡した、3人組ダンス・ヴォーカル・グループ、セオ・タジ&ボーイズ。当時、アメリカで流行していたニュー・ジャック・スウィングを取り入れ、歌って踊れてラップもできた同グループは、歌謡曲が中心だった韓国の音楽市場にR&Bブームを巻き起こした。また、グループの解散後、メンバーのヤン・ヒュンソクは芸能事務所YGエンターテイメントを設立。後述するBIGBANGなどのヒップホップ・アクトを育て、韓国をアジア屈指のヒップホップ大国にした。
この曲は、95年にリリースされた4枚目のアルバム『Seo Taiji and Boys IV』に収録。前作『Seo Taiji and Boys III』でロックに取り組んで人々を驚かせた彼らは、このアルバムでDr.DreやIce-Tなどの成功によって注目を集めていた、アメリカ西海岸のヒップホップに挑戦。収録曲の大半が検閲(当時、韓国では検閲制度が存在した)に引っ掛かったという、ポップ・スターらしからぬ過激なリリックと、本場のギャングスタ・ラップにも見劣りしない重厚なサウンドが話題になった。余談だが、BTSは2016年に、セオ・タジの芸能生活25周年記念の企画で、この曲のリメイクにも挑戦している。原曲の雰囲気を残しつつ、21世紀を生きる彼らに合わせてリリックを書き直したラップは必聴。
1TYM – 1TYM [1998]
セオ・タジ&ボーイズ解散後、ヤン・ヒュンソクが立ち上げたYGエンターテイメントからデビューしたのが、4人組の男性グループ1TYM(ワンタイム)。曲の途中でラップを挟む、歌って踊れるヴォーカル・グループが主流の時代に、ラップを中心に据えた独自のスタイルで。後進に多くの影響を与えた。また、グループの解散後、中心人物のテディ・パクはプロデューサーに転身、BIGBANGの”Fantastic Baby”や2Ne1の”Fire”といったヒット曲を数多く手掛け、アジア屈指のヒット・メイカーとして歴史に名を残した。余談だが、BTSのラップ担当の3人は、オーディションの合格時に「1TYMみたいな(あまり踊らない)本格的なラップグループを作ろう」と口説かれたらしい(その後は言う由もがな)。
BoA - ID; Peace B [2000]
2000年にこの曲でメジャー・デビューしたBoAは、韓国人歌手の海外活動の手本として、今も多くのアーティストに影響を与えている。デビュー前から外国語のトレーニングを積み、進出先に合わせて現地語の歌詞をつけた楽曲をリリースする手法は、彼女の成功に倣ったものだ。また、進出先の流行に合わせて、現地向けの楽曲を発表する戦略も、彼女が得意としたものだ(BTSにも、欧米の音楽市場を意識した”Mic Drop”のRemix版や、日本語版だけが作られた”Crystal Snow”がある)。現地の言葉を使うことで、ファンとの距離感を縮めるという韓国のアーティストの得意技は、彼女によって確立されたといっても過言ではない。
god – 0% [2002]
BTSが所属する芸能事務所BigHitの創業者である”Hitman”Bangことパン・シヒョクは、後に2PMやTWICEを輩出する韓国の3大芸能事務所の一つ、JYPエンターテイメントのソングライターからキャリアをスタートしている(BTSの作品にも、彼が関わった曲がある)。そんな彼がJYP在籍時に制作した曲の一つがこれ。5人組のボーイズ・グループgodに提供したこの曲は、韓国の歌謡曲とR&Bを融合した、スタイリッシュなトラックと味わい深いメロディが印象的。同時代に活躍した日本のR&Bデュオ、ケミストリーにも通じるものがあるポップな曲だ。アメリカのヒップホップやR&Bを取り入れながら、自国のポップスに落とし込むBTSのスタイルは、彼のJYP時代の経験も反映されているのだろうか。なお、2002年にリリースされた、日韓共催のワールド・カップのオフィシャル・アルバムに収められている”True East Side”も彼の作品。
Wonder Girls – Nobody [2008]
godと同じJYPエンターテイメント発の女性5人組(楽曲発表時点)、ワンダー・ガールズ。彼女達が2008年に発表したこの曲は、韓国人の楽曲として初のビルボード総合シングル・チャートの76位に入った。シュープリームスのような60年代のアメリカのガールズ・グループを連想させる、レトロな雰囲気のミュージック・ビデオと、当時欧米で流行していた、エイミー・ワインハウスのような往年のソウル・ミュージックの要素を取り入れたR&Bで、韓国の歌手がアメリカで注目されるきっかけを作った。2010年以降、韓国出身のアーティストが、アメリカで流行している音楽をいち早く取り入れて自分達の音楽に還元し、現地に輸出するようになったのは、彼女達の成功によるものが大きい。なお、この手法をアジアの若い女性に共感される歌詞やミュージック・ビデオという形で応用したのが、同じJYP出身の女性グループ、TWICEだ。
SHINee - Sherlock [2012]
欧米のヒット・チャートにこそ入らなかったものの、アメリカの音楽メディア、ローリング・ストーンの「ボーイズ・グループの名曲50選」で、非英語圏発の楽曲としては最高位となる12位に選ばれるなど、海外の音楽メディアから注目を集めていたのが、SMエンターテイメント所属の5人組(録音当時)、シャイニー。イギリスやデンマークのクリエイターを起用して録音した楽曲は、ニュー・ジャック・スウィングなどの90年代にアメリカやヨーロッパで流行していたR&Bを、現代向けにリメイクしたもの。ハーモニーやマイク・リレーをウリにするヴォーカル・グループは、育成に膨大な時間がかかることもあり、当時の欧米市場では少数派になっていた。そういう状況で、複雑なメロディやコーラス・ワークを用いたR&Bが作りづらくなった欧米のプロデューサーが、アジアの音楽市場に目を向けるきっかけになったのは、彼らのような、厳しい鍛錬でスキルを磨き、高い歌唱技術が求められる欧米のR&Bを自分達のものにしたヴォーカル・グループの存在が大きい。
BIGBANG – Fantastic Baby [2012]
BTSのメンバーが、インタビューの度に影響を受けたグループとして名前を挙げているのが、YGエンターテイメント所属の5人組、ビッグ・バン。2006年のデビュー以降、ヒップホップやR&Bとエレクトロ・ミュージックを組み合わせたスタイルで、多くのヒット曲を残してきた。中でも、2012年にリリースされた”Fantastic Baby”は全世界で500万ユニット以上販売された、彼らの代表曲。ヒップホップではあまり用いない四つ打ちのビートに歌とラップを組み合わせた楽曲と、アシンメトリーやモヒカン、青髪といった奇抜なビジュアルや、テーマ性の強いミュージック・ビデオを組み合わせた演出で、当時のレーベル・メイトだったPSYとともに、「音楽を動画で楽しむ」時代のロール・モデルとなった。また、各メンバーが作詞、作曲やステージ演出にも積極的に関わっている彼らの存在が、BTSを含む後進のグループが、ソングライティングにかかわる機会を増やした点も見逃せない。
余談だが、ビッグ・バンのスンリとBTSのJ-Hopeは光州市の出身でダンス・スクールの出身。下積み時代のBTSは、メンバーの中でも特にダンスが上手いと評されていたJ-Hopeを鍛えたこのスクールで、修行を積んでいたらしい。
Epik High – Born Hater [2013]
ビッグ・バンや2Ne1など、ラップが得意なアイドル・グループの活躍が目立つ韓国だが、クラブ・イベントで実績を上げ、メジャー・デビューを果たす叩き上げのヒップホップ・アーティストも数多くいる。その一つが、韓国系カナダ人のタブロを中心とした3人組、エピック・ハイ。彼らは、スタンフォードで文学の修士も取得しているタブロの詩的な表現と社会に対する鋭い批評、本格的なヒップホップのビートから、歌謡曲の伴奏まで、あらゆるトラックを乗りこなす器用さを武器に、ポップスの市場でも成功を収めてきた。メンバーの軍務が終わり、YGエンターテイメントに移籍した2013年に発表されたこの曲は、2010年頃に起きたタブロの学歴を巡る誹謗中傷事件をヒントに「自分達を批判する人々へのメッセージ」を歌ったもの。ヒップホップの世界ではお馴染みの「気の利いた悪口」を、自身の身に起きた事件と絡めることで、「彼の現実を歌ったポップス」に昇華している。
また、この曲では事務所の後輩であるウィナーのミノ、後にiKonとしてデビューするボビー、B.I.の3人が客演。アイドルでありながら、韓国の人気ラップ・オーディション番組「Show Me The Money」でも好成績を収めた3人が、叩き上げのMCにも負けない攻撃的なラップを披露している。ビッグ・バンのG-ドラゴンのような、高い声域を活かした軽妙なラップが主流だったアイドルが、RMやSUGAのような重く、パンチの効いた声質で、毒を含んだ言葉を使えるようになったのは、ポップスの歌手とも積極的に交流していたエピック・ハイと、彼らの影響を受けた若い世代の存在も大きいのだ。
Super Junior - Lo Sient feat. Lislie Grace [2018]
『Love Yourself: Tear』がリリースされる直前の2018年4月に発表され、アメリカのラテン音楽のデジタル・シングル・チャートでアジア人初の1位を獲得したのが、SMエンターテイメント所属の11人組(オフィシャル・サイトのプロフィールより)、スーパー・ジュニア。この曲ではヒップホップやレゲトンのヒット作を多く手掛けているプレイン・スキルズを制作者に起用し、23歳にもかかわらず多くのヒット曲を残しているレスリー・グレースをフィーチャーしている。今のアメリカではカミラ・カベロやカルディBといった、中南米にルーツを持つヒップホップ、R&Bアーティストが存在感を増しているが、そんな時代にいち早く適応した作品。BTSの”Air Plane Pt.2”にも言えることだが、洗練された色気と柔軟さと柔軟さが求められるラテン音楽と、アジア系ミュージシャンは相性が良い。また、彼らは韓国のヴォーカル・グループでは珍しく、海外向けの外国語曲をあまり録音していない。近年、韓国語の曲で海外に進出するアーティストが増えたのは、彼らのような先達の存在も大きいのかもしれない。
今回は、独断と偏見で、韓国のR&B、ヒップホップに大きな影響を与えた9組のアーティストを選んでみた。個人的には、取り上げたかったけど、字数やテーマの都合で断念したアーティストが何組もいるし、影響力や知名度は乏しくても、素晴らしい楽曲を残したアーティストも沢山いる。音楽に興味のない人には「K-Pop」と一括りにされがちだが、アメリカのR&Bシンガーが個性豊かなように、日本のラッパーが全員同じスタイルではないように、韓国でも多彩なタレントが切磋琢磨して、バラエティ豊かな音楽市場を築き上げたことに注目してもらえたらうれしい。
選定基準は
1.韓国のヒップホップやR&Bに何らかの影響を与えた(と思う)アーティストであること
2.単純な売り上げだけでなく、後の時代に何らかの影響を与えた曲であること
この二つ。
それでは、一組ずつ紹介してみよう。
Seo Taiji & Boys – Come Get Some [1995]
韓国のR&B、ヒップホップを語るにあたって、避けて通れないのが90年代前半に一世を風靡した、3人組ダンス・ヴォーカル・グループ、セオ・タジ&ボーイズ。当時、アメリカで流行していたニュー・ジャック・スウィングを取り入れ、歌って踊れてラップもできた同グループは、歌謡曲が中心だった韓国の音楽市場にR&Bブームを巻き起こした。また、グループの解散後、メンバーのヤン・ヒュンソクは芸能事務所YGエンターテイメントを設立。後述するBIGBANGなどのヒップホップ・アクトを育て、韓国をアジア屈指のヒップホップ大国にした。
この曲は、95年にリリースされた4枚目のアルバム『Seo Taiji and Boys IV』に収録。前作『Seo Taiji and Boys III』でロックに取り組んで人々を驚かせた彼らは、このアルバムでDr.DreやIce-Tなどの成功によって注目を集めていた、アメリカ西海岸のヒップホップに挑戦。収録曲の大半が検閲(当時、韓国では検閲制度が存在した)に引っ掛かったという、ポップ・スターらしからぬ過激なリリックと、本場のギャングスタ・ラップにも見劣りしない重厚なサウンドが話題になった。余談だが、BTSは2016年に、セオ・タジの芸能生活25周年記念の企画で、この曲のリメイクにも挑戦している。原曲の雰囲気を残しつつ、21世紀を生きる彼らに合わせてリリックを書き直したラップは必聴。
1TYM – 1TYM [1998]
セオ・タジ&ボーイズ解散後、ヤン・ヒュンソクが立ち上げたYGエンターテイメントからデビューしたのが、4人組の男性グループ1TYM(ワンタイム)。曲の途中でラップを挟む、歌って踊れるヴォーカル・グループが主流の時代に、ラップを中心に据えた独自のスタイルで。後進に多くの影響を与えた。また、グループの解散後、中心人物のテディ・パクはプロデューサーに転身、BIGBANGの”Fantastic Baby”や2Ne1の”Fire”といったヒット曲を数多く手掛け、アジア屈指のヒット・メイカーとして歴史に名を残した。余談だが、BTSのラップ担当の3人は、オーディションの合格時に「1TYMみたいな(あまり踊らない)本格的なラップグループを作ろう」と口説かれたらしい(その後は言う由もがな)。
BoA - ID; Peace B [2000]
2000年にこの曲でメジャー・デビューしたBoAは、韓国人歌手の海外活動の手本として、今も多くのアーティストに影響を与えている。デビュー前から外国語のトレーニングを積み、進出先に合わせて現地語の歌詞をつけた楽曲をリリースする手法は、彼女の成功に倣ったものだ。また、進出先の流行に合わせて、現地向けの楽曲を発表する戦略も、彼女が得意としたものだ(BTSにも、欧米の音楽市場を意識した”Mic Drop”のRemix版や、日本語版だけが作られた”Crystal Snow”がある)。現地の言葉を使うことで、ファンとの距離感を縮めるという韓国のアーティストの得意技は、彼女によって確立されたといっても過言ではない。
god – 0% [2002]
BTSが所属する芸能事務所BigHitの創業者である”Hitman”Bangことパン・シヒョクは、後に2PMやTWICEを輩出する韓国の3大芸能事務所の一つ、JYPエンターテイメントのソングライターからキャリアをスタートしている(BTSの作品にも、彼が関わった曲がある)。そんな彼がJYP在籍時に制作した曲の一つがこれ。5人組のボーイズ・グループgodに提供したこの曲は、韓国の歌謡曲とR&Bを融合した、スタイリッシュなトラックと味わい深いメロディが印象的。同時代に活躍した日本のR&Bデュオ、ケミストリーにも通じるものがあるポップな曲だ。アメリカのヒップホップやR&Bを取り入れながら、自国のポップスに落とし込むBTSのスタイルは、彼のJYP時代の経験も反映されているのだろうか。なお、2002年にリリースされた、日韓共催のワールド・カップのオフィシャル・アルバムに収められている”True East Side”も彼の作品。
Wonder Girls – Nobody [2008]
godと同じJYPエンターテイメント発の女性5人組(楽曲発表時点)、ワンダー・ガールズ。彼女達が2008年に発表したこの曲は、韓国人の楽曲として初のビルボード総合シングル・チャートの76位に入った。シュープリームスのような60年代のアメリカのガールズ・グループを連想させる、レトロな雰囲気のミュージック・ビデオと、当時欧米で流行していた、エイミー・ワインハウスのような往年のソウル・ミュージックの要素を取り入れたR&Bで、韓国の歌手がアメリカで注目されるきっかけを作った。2010年以降、韓国出身のアーティストが、アメリカで流行している音楽をいち早く取り入れて自分達の音楽に還元し、現地に輸出するようになったのは、彼女達の成功によるものが大きい。なお、この手法をアジアの若い女性に共感される歌詞やミュージック・ビデオという形で応用したのが、同じJYP出身の女性グループ、TWICEだ。
Wonder Girls
Loen Entertainment
2008-10-02
SHINee - Sherlock [2012]
欧米のヒット・チャートにこそ入らなかったものの、アメリカの音楽メディア、ローリング・ストーンの「ボーイズ・グループの名曲50選」で、非英語圏発の楽曲としては最高位となる12位に選ばれるなど、海外の音楽メディアから注目を集めていたのが、SMエンターテイメント所属の5人組(録音当時)、シャイニー。イギリスやデンマークのクリエイターを起用して録音した楽曲は、ニュー・ジャック・スウィングなどの90年代にアメリカやヨーロッパで流行していたR&Bを、現代向けにリメイクしたもの。ハーモニーやマイク・リレーをウリにするヴォーカル・グループは、育成に膨大な時間がかかることもあり、当時の欧米市場では少数派になっていた。そういう状況で、複雑なメロディやコーラス・ワークを用いたR&Bが作りづらくなった欧米のプロデューサーが、アジアの音楽市場に目を向けるきっかけになったのは、彼らのような、厳しい鍛錬でスキルを磨き、高い歌唱技術が求められる欧米のR&Bを自分達のものにしたヴォーカル・グループの存在が大きい。
BIGBANG – Fantastic Baby [2012]
BTSのメンバーが、インタビューの度に影響を受けたグループとして名前を挙げているのが、YGエンターテイメント所属の5人組、ビッグ・バン。2006年のデビュー以降、ヒップホップやR&Bとエレクトロ・ミュージックを組み合わせたスタイルで、多くのヒット曲を残してきた。中でも、2012年にリリースされた”Fantastic Baby”は全世界で500万ユニット以上販売された、彼らの代表曲。ヒップホップではあまり用いない四つ打ちのビートに歌とラップを組み合わせた楽曲と、アシンメトリーやモヒカン、青髪といった奇抜なビジュアルや、テーマ性の強いミュージック・ビデオを組み合わせた演出で、当時のレーベル・メイトだったPSYとともに、「音楽を動画で楽しむ」時代のロール・モデルとなった。また、各メンバーが作詞、作曲やステージ演出にも積極的に関わっている彼らの存在が、BTSを含む後進のグループが、ソングライティングにかかわる機会を増やした点も見逃せない。
余談だが、ビッグ・バンのスンリとBTSのJ-Hopeは光州市の出身でダンス・スクールの出身。下積み時代のBTSは、メンバーの中でも特にダンスが上手いと評されていたJ-Hopeを鍛えたこのスクールで、修行を積んでいたらしい。
Epik High – Born Hater [2013]
ビッグ・バンや2Ne1など、ラップが得意なアイドル・グループの活躍が目立つ韓国だが、クラブ・イベントで実績を上げ、メジャー・デビューを果たす叩き上げのヒップホップ・アーティストも数多くいる。その一つが、韓国系カナダ人のタブロを中心とした3人組、エピック・ハイ。彼らは、スタンフォードで文学の修士も取得しているタブロの詩的な表現と社会に対する鋭い批評、本格的なヒップホップのビートから、歌謡曲の伴奏まで、あらゆるトラックを乗りこなす器用さを武器に、ポップスの市場でも成功を収めてきた。メンバーの軍務が終わり、YGエンターテイメントに移籍した2013年に発表されたこの曲は、2010年頃に起きたタブロの学歴を巡る誹謗中傷事件をヒントに「自分達を批判する人々へのメッセージ」を歌ったもの。ヒップホップの世界ではお馴染みの「気の利いた悪口」を、自身の身に起きた事件と絡めることで、「彼の現実を歌ったポップス」に昇華している。
また、この曲では事務所の後輩であるウィナーのミノ、後にiKonとしてデビューするボビー、B.I.の3人が客演。アイドルでありながら、韓国の人気ラップ・オーディション番組「Show Me The Money」でも好成績を収めた3人が、叩き上げのMCにも負けない攻撃的なラップを披露している。ビッグ・バンのG-ドラゴンのような、高い声域を活かした軽妙なラップが主流だったアイドルが、RMやSUGAのような重く、パンチの効いた声質で、毒を含んだ言葉を使えるようになったのは、ポップスの歌手とも積極的に交流していたエピック・ハイと、彼らの影響を受けた若い世代の存在も大きいのだ。
Super Junior - Lo Sient feat. Lislie Grace [2018]
『Love Yourself: Tear』がリリースされる直前の2018年4月に発表され、アメリカのラテン音楽のデジタル・シングル・チャートでアジア人初の1位を獲得したのが、SMエンターテイメント所属の11人組(オフィシャル・サイトのプロフィールより)、スーパー・ジュニア。この曲ではヒップホップやレゲトンのヒット作を多く手掛けているプレイン・スキルズを制作者に起用し、23歳にもかかわらず多くのヒット曲を残しているレスリー・グレースをフィーチャーしている。今のアメリカではカミラ・カベロやカルディBといった、中南米にルーツを持つヒップホップ、R&Bアーティストが存在感を増しているが、そんな時代にいち早く適応した作品。BTSの”Air Plane Pt.2”にも言えることだが、洗練された色気と柔軟さと柔軟さが求められるラテン音楽と、アジア系ミュージシャンは相性が良い。また、彼らは韓国のヴォーカル・グループでは珍しく、海外向けの外国語曲をあまり録音していない。近年、韓国語の曲で海外に進出するアーティストが増えたのは、彼らのような先達の存在も大きいのかもしれない。
今回は、独断と偏見で、韓国のR&B、ヒップホップに大きな影響を与えた9組のアーティストを選んでみた。個人的には、取り上げたかったけど、字数やテーマの都合で断念したアーティストが何組もいるし、影響力や知名度は乏しくても、素晴らしい楽曲を残したアーティストも沢山いる。音楽に興味のない人には「K-Pop」と一括りにされがちだが、アメリカのR&Bシンガーが個性豊かなように、日本のラッパーが全員同じスタイルではないように、韓国でも多彩なタレントが切磋琢磨して、バラエティ豊かな音楽市場を築き上げたことに注目してもらえたらうれしい。