91年にアルバム『Mariah』で表舞台に現れて以来、華々しい実績を残してきたマライア・キャリー。2017年にルイス・フォンシの”Despacito”に並ばれるまで、20年以上の間に渡って、全米シングル・チャートの連続1位の単独記録を保有していた95年のシングル”One Sweet Day”を筆頭に、ポップスの世界にヒップホップの手法を持ち込んだ”Honey”、ウータン・クランの鬼才、オール・ダーティー・バスタードを起用したリミックスも話題になった”Fantasy”など、アルバムをリリースする度にクラシックを残してきた。
その一方で、私生活は決して安定していたとはいえず、2000年代に入ると低迷。しかし、2005年にはアルバム、『The Emancipation Of Mimi』を発表。彼女の豊かな表現と、電子楽器を駆使したヒップホップのビートを融合したスタイルで復活。デビュー当時からの武器である天性の歌声と、キャリアを積んで磨きがかかった技術で、アメリカを代表する歌手として活躍している。
このアルバムは、彼女にとって4年ぶりとなる通算15枚目のスタジオ作品。ソニー傘下のEpicに移籍して録音された本作は、先行シングルを担当したDJマスタードを筆頭に、ティンバランドやナインティーン85といったヒップホップ界のヒットメイカーや、宇多田ヒカルとのコラボレーションも話題になった、エレクトロ・ミュージック畑のクリエイター、スクリレックスなど、尖ったサウンドが魅力のプロデューサーを迎え、新しい音に挑戦した作品になっている。
アルバムのオープニングを飾る”GTFO”は、ナインティーン85がプロデュースしたミディアム・ナンバー。空を浮かぶようなふわふわとしたシンセサイザーの音色は、アリーヤの”Rock The Boat”にも似ている。浮遊感のあるトラックの良さを活かしつつ、豊かな表情を吹き込むマライアのテクニックが印象的。パワフルな歌声だけでなく、繊細な表現も使いこなす2018年の彼女の歌を堪能できる佳曲だ。
続く”With You”は、DJマスタードが制作に携わった本作からの先行シングル。ピアノの伴奏を軸にしたシンプルなトラックと、彼女の歌声にフォーカスを当てた構成は、ジャム&ルイスがプロデュースした”Through the Rain”に通じるところがある、ヒップホップ畑のクリエイターらしい聴きどころをしっかり聴かせる構成と、彼女のダイナミックなヴォーカルが心に残る曲だ。
これに対し、スリック・リックとブラッド・オレンジをフィーチャーした”Giving Me Life”は、ヒップホップのビートと甘いメロディの組み合わせが面白いミディアム・ナンバー。ソランジュやティナーシェなどの作品を手掛けているロック・ミュージシャン、ブラッド・オレンジが制作に参加したこの曲は、シンセサイザーを使って組み立てたトラックの上で、セクシーな歌声を披露するマライアの存在感が特徴的。キャムロンの”Oh Boy”をサンプリングした”Boy”を思い起こさせる本作の隠れた目玉だ。
そして、日本盤限定のボーナス・トラックとして収録されたのが”Runway”だ。世界屈指のDJであり、ジャスティン・ビーバーをフィーチャーした”Where Are U Now”などの、ポップスのヒット曲も残しているスクリレックスを起用した本作は、彼女の”Butterfly”と”We Belong Together”を引用したからか、90年代後半から2000年代前半にかけて、大人の色気と巧みな表現技術を身に着けた彼女の音楽を彷彿させる曲になっている。日本向けの配信版に収められている、Kohhのラップを加えたリミックス・ヴァージョンも見逃せない。
今回のアルバムは、これまでの路線を踏襲しつつ、現代のトレンドに合わせてメロディやトラックをアレンジした、良くも悪くも安定した作品になっている。病と闘いながら着実に前に向かって進んできた彼女の歩みと、今後への強い意志を感じさせる粒ぞろいの楽曲を揃えたところが、本作の面白いところだろう。
波乱万丈の人生を歩みながら、多くの名曲を残してきた彼女の豊かな経験と高い表現力が存分に楽しめる、質の高いアルバム。ベテランらしい老練さを身に着けながら、デビュー当時と変わらない美しい歌声を聴かせてくれるマライアの偉大さを確認できる内容だ。
Producer
Mariah Carey, DJ Mustard, Nineteen85, No I.D., Blood Orange, Skrillex etc
Track List
1. GTFO
2. With You
3. Caution
4. A No No
5. The Distance feat. Ty Dolla Sign
6. Giving Me Life feat. Slick Rick&Blood Orange
7. One Mo' Gen
8. 8th Grade
9. Stay Long Love feat. Gunna
10. Portrait
11. Runway
12. Runway feat.KOHH
その一方で、私生活は決して安定していたとはいえず、2000年代に入ると低迷。しかし、2005年にはアルバム、『The Emancipation Of Mimi』を発表。彼女の豊かな表現と、電子楽器を駆使したヒップホップのビートを融合したスタイルで復活。デビュー当時からの武器である天性の歌声と、キャリアを積んで磨きがかかった技術で、アメリカを代表する歌手として活躍している。
このアルバムは、彼女にとって4年ぶりとなる通算15枚目のスタジオ作品。ソニー傘下のEpicに移籍して録音された本作は、先行シングルを担当したDJマスタードを筆頭に、ティンバランドやナインティーン85といったヒップホップ界のヒットメイカーや、宇多田ヒカルとのコラボレーションも話題になった、エレクトロ・ミュージック畑のクリエイター、スクリレックスなど、尖ったサウンドが魅力のプロデューサーを迎え、新しい音に挑戦した作品になっている。
アルバムのオープニングを飾る”GTFO”は、ナインティーン85がプロデュースしたミディアム・ナンバー。空を浮かぶようなふわふわとしたシンセサイザーの音色は、アリーヤの”Rock The Boat”にも似ている。浮遊感のあるトラックの良さを活かしつつ、豊かな表情を吹き込むマライアのテクニックが印象的。パワフルな歌声だけでなく、繊細な表現も使いこなす2018年の彼女の歌を堪能できる佳曲だ。
続く”With You”は、DJマスタードが制作に携わった本作からの先行シングル。ピアノの伴奏を軸にしたシンプルなトラックと、彼女の歌声にフォーカスを当てた構成は、ジャム&ルイスがプロデュースした”Through the Rain”に通じるところがある、ヒップホップ畑のクリエイターらしい聴きどころをしっかり聴かせる構成と、彼女のダイナミックなヴォーカルが心に残る曲だ。
これに対し、スリック・リックとブラッド・オレンジをフィーチャーした”Giving Me Life”は、ヒップホップのビートと甘いメロディの組み合わせが面白いミディアム・ナンバー。ソランジュやティナーシェなどの作品を手掛けているロック・ミュージシャン、ブラッド・オレンジが制作に参加したこの曲は、シンセサイザーを使って組み立てたトラックの上で、セクシーな歌声を披露するマライアの存在感が特徴的。キャムロンの”Oh Boy”をサンプリングした”Boy”を思い起こさせる本作の隠れた目玉だ。
そして、日本盤限定のボーナス・トラックとして収録されたのが”Runway”だ。世界屈指のDJであり、ジャスティン・ビーバーをフィーチャーした”Where Are U Now”などの、ポップスのヒット曲も残しているスクリレックスを起用した本作は、彼女の”Butterfly”と”We Belong Together”を引用したからか、90年代後半から2000年代前半にかけて、大人の色気と巧みな表現技術を身に着けた彼女の音楽を彷彿させる曲になっている。日本向けの配信版に収められている、Kohhのラップを加えたリミックス・ヴァージョンも見逃せない。
今回のアルバムは、これまでの路線を踏襲しつつ、現代のトレンドに合わせてメロディやトラックをアレンジした、良くも悪くも安定した作品になっている。病と闘いながら着実に前に向かって進んできた彼女の歩みと、今後への強い意志を感じさせる粒ぞろいの楽曲を揃えたところが、本作の面白いところだろう。
波乱万丈の人生を歩みながら、多くの名曲を残してきた彼女の豊かな経験と高い表現力が存分に楽しめる、質の高いアルバム。ベテランらしい老練さを身に着けながら、デビュー当時と変わらない美しい歌声を聴かせてくれるマライアの偉大さを確認できる内容だ。
Producer
Mariah Carey, DJ Mustard, Nineteen85, No I.D., Blood Orange, Skrillex etc
Track List
1. GTFO
2. With You
3. Caution
4. A No No
5. The Distance feat. Ty Dolla Sign
6. Giving Me Life feat. Slick Rick&Blood Orange
7. One Mo' Gen
8. 8th Grade
9. Stay Long Love feat. Gunna
10. Portrait
11. Runway
12. Runway feat.KOHH