2016年の『Wings』が、韓国人アーティストの作品では当時の最高記録となるアルバム・チャート26位に入ったBTS。すると、2017年の『Love Yourself : Her』がアジア人歌手初のアルバム・チャート1桁順位となる7位に入るスマッシュ・ヒット。また、同作に収録されている”Mic Drop”をスティーヴ・アオキが再構築したリミックス版は、坂本九、PSY以来となるアジア人による全米でのミリオン・セラーを達成。一躍人気アーティストの仲間入りを果たした。
その後も、2018年から2019年にかけて発表された3枚のアルバム『Love Yourself : Tear』『Love Yourself : Answer』『Map of The Soul : Persona』が立て続けに全米アルバム・チャートを制覇。シュープリームスやワン・ダイレクション、バックストリート・ボーイズといった、ポップス史を代表する名グループに並ぶ大記録を残し、同作を掲げたライブ・ツアーは欧州、南北アメリカ、アジア、中東の代表的なスタジアムを片っ端から満員にするという偉業を成し遂げた。また、2019年の『Map of The Soul : Persona』は韓国国内のアルバム・セールス記録を更新するとともに、アジア人歌手の作品としては史上初となる、全世界で1年間に最も売れたアルバムという大記録も打ち立てるなど、21世紀を代表するヴォーカル・グループ呼ぶにふさわしい輝かしい足跡を残してきた。
本作は『Map of The Soul : Persona』から約9ヶ月の間隔を経てリリースされた、彼らの通算4枚目のスタジオ・アルバム。前作の続編という位置づけだが、同作に収録された7曲のうち4曲を(うち1曲は前作のイントロ)を前半に配置し、後半に新曲を加えた構成になっており、むしろ前作を本作の予告編のように聴かせる構成になっている。
アルバムの実質的な1曲目となる”Boy with Luv”はフィーチャリング・アーティストにホールジーを招いたアップ・ナンバー。ブリトニー・スピアーズやチェイン・スモーカーズを手掛けてきたメラニー・フォンタナが制作に参加した楽曲は、彼らの若く溌溂とした声を活かした、さわやかでしなやかなメロディが心地よい。洗練されたトラックとみずみずしい歌声の組み合わせは、ドネル・ジョーンズの”U Know What’s Up”やラフ・エンズの”No More”にも少し似ている。ケミストリーやEXILEのプロデューサーとしても知られている松尾潔さんが得意とする「美メロ」の路線を踏襲した曲なので、彼らのファンはチェックすべきだろう。
また、エド・シーランが制作に参加した”Make It Right”は、両者の持ち味が遺憾なく発揮されたアップ・テンポ寄りのミディアム・ナンバー。短いフレーズに多くの言葉を詰め込みつつ、メロディをきちんと聴かせる、エドの作風と、シンプルで味わい深いサビを丁寧に聴かせるBTSのスタイルが融合した佳曲だ。2019年にエド・シーランはコラボレーション・アルバム『No.6 Collaborations Project』を発表しているが、こちらに収められていても違和感のない内容だ。個人的にはエドとのデュエット・ヴァージョンも聴いてみたいと思うのは自分だけだろうか。
これに対し、本作が初出となる”Black Swan”はクリス・ブラウンやミュージック・ソウルチャイルドの作品も手掛けている。オーガスト・リゴがソングライティングに参加したバラード。表現を止めることを「1度目の死(2度目の死は生命の終わり)」と評したアメリカの舞踏家、マーサ・グレアムの言葉にインスパイアされた作品は、クラシック音楽で用いられるような繊細なギターの音色を効果的に使ったアレンジと、空気を切り裂くように激しい歌唱とラップの組み合わせが印象な作品。「そっとしてくれ」「もう逃してくれ」という言葉は、音楽業界の頂点に上り詰めてしまったことからくる重圧なのか、それとも、兵役(最年長のJinは2022年までに兵役に就かなければいけない)によって表現の機会が奪われてしまうことへの恐怖なのか、色々な解釈ができる曲だ。
そして、本作の発売と同時にシングル・カットされた”ON”は、ロック・マフィアの名義でジャスティン・ビーバーやマイリー・サイラスなどの曲を手掛けてきたアントニーナ・アルマートを制作者に招いたミディアム・バラード。マーチング・バンドのビートを取り入れたアレンジと、ゆったりとしたメロディの組み合わせが面白い曲。世界屈指のポップスターに上り詰めた彼らが、頂点に立ったからこそ感じる不安と、それに立ち向かおうとする意思を力強いドラムの上で歌ったものだ。ライブではどんな演出で披露されるのか、今から楽しみになる。
本作の大きな変化は、これまでの作品で見られた奇抜でインパクトの強い曲が減り、シンプルで味わい深い曲が増えていること。その一方で、歌詞の中身は過去の作品で見られた青年の葛藤のような要素が影を潜め、世界を股にかけるトップ・アーティストになったことに伴う苦悩を歌ったものが増えたことだ。もちろん、彼らのような経歴のアーティストは珍しいものではなく、有名なところでは「リアル・スリム・シェイディ」から2000年代を代表するミュージシャンに上り詰めたエミネムがいる。しかし、彼と大きく異なるのは、ブレイク後のエミネムのリリックが、従来通り皮肉の効いたものでありながら、核となるメッセージに迷いが見られたのに対し、BTSの歌詞には葛藤や苦悶はあっても迷いが見られないことだ。それは「防弾少年団」というグループ名が示す通り、彼らの作品が若い世代を守るための音楽という軸を持っているからだろう。その点は「俺はインシンクじゃないんだよ、俺に期待するな」(“The Way I Am”の歌詞より)と歌いながら、自身の軸となる価値観を表明できなかったエミネムのようなアーティストとの大きな違いだろう。
このアルバムで、アメリカの音楽史上、初めて4枚のアルバムをヒット・チャートの1位に送り込んだヴォーカル・グループという快挙を成し遂げた彼等。しかし、彼らがどれだけ年を重ねようとも、多くの記録を残そうとも、彼らの音楽は若い人々を世間の逆風から守る防弾チョッキであることは変わらないことを改めて表明してくれた名盤。ポップスの王道を走るサウンドと、彼らにしか書けない独創的な歌詞が組み合わさった唯一無二の傑作だ。
Producer
Pdogg, Hiss Noise, F. Gibson, Arcades, Bad Milk, McCoan, Suga, El Capitxn, Ghstloop, Tom Wiklund, Sleep Deez, Bram Inscore, Supreme Boi, Jimin
Track List
1. Intro : Persona
2. Boy With Luv Feat.Halsey
3. Make It Right
4. Jamais Vu
5. Dionysus
6. Interlude : Shadow
7. Black Swan
8. Filter
9. My Time
10. Louder than bombs
11. ON
12. UGH!
13. Zero O'Clock
14. Inner Child
15. Friends
16. Moon
17. Respect
18. We are Bulletproof : the Eternal
19. Outro : Ego
その後も、2018年から2019年にかけて発表された3枚のアルバム『Love Yourself : Tear』『Love Yourself : Answer』『Map of The Soul : Persona』が立て続けに全米アルバム・チャートを制覇。シュープリームスやワン・ダイレクション、バックストリート・ボーイズといった、ポップス史を代表する名グループに並ぶ大記録を残し、同作を掲げたライブ・ツアーは欧州、南北アメリカ、アジア、中東の代表的なスタジアムを片っ端から満員にするという偉業を成し遂げた。また、2019年の『Map of The Soul : Persona』は韓国国内のアルバム・セールス記録を更新するとともに、アジア人歌手の作品としては史上初となる、全世界で1年間に最も売れたアルバムという大記録も打ち立てるなど、21世紀を代表するヴォーカル・グループ呼ぶにふさわしい輝かしい足跡を残してきた。
本作は『Map of The Soul : Persona』から約9ヶ月の間隔を経てリリースされた、彼らの通算4枚目のスタジオ・アルバム。前作の続編という位置づけだが、同作に収録された7曲のうち4曲を(うち1曲は前作のイントロ)を前半に配置し、後半に新曲を加えた構成になっており、むしろ前作を本作の予告編のように聴かせる構成になっている。
アルバムの実質的な1曲目となる”Boy with Luv”はフィーチャリング・アーティストにホールジーを招いたアップ・ナンバー。ブリトニー・スピアーズやチェイン・スモーカーズを手掛けてきたメラニー・フォンタナが制作に参加した楽曲は、彼らの若く溌溂とした声を活かした、さわやかでしなやかなメロディが心地よい。洗練されたトラックとみずみずしい歌声の組み合わせは、ドネル・ジョーンズの”U Know What’s Up”やラフ・エンズの”No More”にも少し似ている。ケミストリーやEXILEのプロデューサーとしても知られている松尾潔さんが得意とする「美メロ」の路線を踏襲した曲なので、彼らのファンはチェックすべきだろう。
また、エド・シーランが制作に参加した”Make It Right”は、両者の持ち味が遺憾なく発揮されたアップ・テンポ寄りのミディアム・ナンバー。短いフレーズに多くの言葉を詰め込みつつ、メロディをきちんと聴かせる、エドの作風と、シンプルで味わい深いサビを丁寧に聴かせるBTSのスタイルが融合した佳曲だ。2019年にエド・シーランはコラボレーション・アルバム『No.6 Collaborations Project』を発表しているが、こちらに収められていても違和感のない内容だ。個人的にはエドとのデュエット・ヴァージョンも聴いてみたいと思うのは自分だけだろうか。
これに対し、本作が初出となる”Black Swan”はクリス・ブラウンやミュージック・ソウルチャイルドの作品も手掛けている。オーガスト・リゴがソングライティングに参加したバラード。表現を止めることを「1度目の死(2度目の死は生命の終わり)」と評したアメリカの舞踏家、マーサ・グレアムの言葉にインスパイアされた作品は、クラシック音楽で用いられるような繊細なギターの音色を効果的に使ったアレンジと、空気を切り裂くように激しい歌唱とラップの組み合わせが印象な作品。「そっとしてくれ」「もう逃してくれ」という言葉は、音楽業界の頂点に上り詰めてしまったことからくる重圧なのか、それとも、兵役(最年長のJinは2022年までに兵役に就かなければいけない)によって表現の機会が奪われてしまうことへの恐怖なのか、色々な解釈ができる曲だ。
そして、本作の発売と同時にシングル・カットされた”ON”は、ロック・マフィアの名義でジャスティン・ビーバーやマイリー・サイラスなどの曲を手掛けてきたアントニーナ・アルマートを制作者に招いたミディアム・バラード。マーチング・バンドのビートを取り入れたアレンジと、ゆったりとしたメロディの組み合わせが面白い曲。世界屈指のポップスターに上り詰めた彼らが、頂点に立ったからこそ感じる不安と、それに立ち向かおうとする意思を力強いドラムの上で歌ったものだ。ライブではどんな演出で披露されるのか、今から楽しみになる。
本作の大きな変化は、これまでの作品で見られた奇抜でインパクトの強い曲が減り、シンプルで味わい深い曲が増えていること。その一方で、歌詞の中身は過去の作品で見られた青年の葛藤のような要素が影を潜め、世界を股にかけるトップ・アーティストになったことに伴う苦悩を歌ったものが増えたことだ。もちろん、彼らのような経歴のアーティストは珍しいものではなく、有名なところでは「リアル・スリム・シェイディ」から2000年代を代表するミュージシャンに上り詰めたエミネムがいる。しかし、彼と大きく異なるのは、ブレイク後のエミネムのリリックが、従来通り皮肉の効いたものでありながら、核となるメッセージに迷いが見られたのに対し、BTSの歌詞には葛藤や苦悶はあっても迷いが見られないことだ。それは「防弾少年団」というグループ名が示す通り、彼らの作品が若い世代を守るための音楽という軸を持っているからだろう。その点は「俺はインシンクじゃないんだよ、俺に期待するな」(“The Way I Am”の歌詞より)と歌いながら、自身の軸となる価値観を表明できなかったエミネムのようなアーティストとの大きな違いだろう。
このアルバムで、アメリカの音楽史上、初めて4枚のアルバムをヒット・チャートの1位に送り込んだヴォーカル・グループという快挙を成し遂げた彼等。しかし、彼らがどれだけ年を重ねようとも、多くの記録を残そうとも、彼らの音楽は若い人々を世間の逆風から守る防弾チョッキであることは変わらないことを改めて表明してくれた名盤。ポップスの王道を走るサウンドと、彼らにしか書けない独創的な歌詞が組み合わさった唯一無二の傑作だ。
Producer
Pdogg, Hiss Noise, F. Gibson, Arcades, Bad Milk, McCoan, Suga, El Capitxn, Ghstloop, Tom Wiklund, Sleep Deez, Bram Inscore, Supreme Boi, Jimin
Track List
1. Intro : Persona
2. Boy With Luv Feat.Halsey
3. Make It Right
4. Jamais Vu
5. Dionysus
6. Interlude : Shadow
7. Black Swan
8. Filter
9. My Time
10. Louder than bombs
11. ON
12. UGH!
13. Zero O'Clock
14. Inner Child
15. Friends
16. Moon
17. Respect
18. We are Bulletproof : the Eternal
19. Outro : Ego