アレサ・フランクリンやメイヴィス・ステイプルズを彷彿させる、ふくよかでダイナミックな歌唱が魅力のシャロン・ジョーンズを核に据え、名うてのミュージシャン達が脇を固めたスーパー・バンド、ダップ・キングス。 90年代中ごろから、ニューヨークを拠点に活動していた彼女達は、生演奏によるパワフルなパフォーマンスと、CD全盛期の時代に積極的にアナログ・レコードを発売するビジネス・スタイルが話題になり、徐々にファンを増やしていく。

また、バンドを支える演奏者の高いスキルは有名ミュージシャンの間でも注目を集め、エイミー・ワインハウスやマーク・ロンソンなどの作品に起用されたほか、バンドのメンバーが結成したメナハン・ストリート・バンドの”Make the Road by Walking”は、ジェイZなどのヒップホップの楽曲にサンプリングされるなど、様々なジャンルのアーティストから高い評価を受けてきた。

しかし、2013年にシャロン・ジョーンズの胆管癌が見つかると、その後は長い闘病生活と並行しての活動に突入する。そんな中でも、ホリデー・アルバムを含む複数の作品を発表し、病と闘いながら音楽活動を行うシャロンを題材にしたドキュメンタリー映画が発表をするなど、限られた時間の中で多くの足跡を残してきたが、2016年の11月に彼女はこの世を去ってしまう。

本作は、彼女が生前に録音した未発表曲を集めた編集盤。当初はアルバム2枚分の楽曲を作る予定だったが、本作では完成に至った11曲を収めている。

アルバムの1曲目は、本作からの先行シングルである”Matter Of Time”。ギターを担当しているビンキー・グリップタイトがペンを執ったこの曲は、三連符を効果的に使った優雅な雰囲気が魅力のミディアム・ナンバー。マヘリア・ジャクソンのゴスペル作品を思い起こさせる雄大なコール&レスポンスと、荒波のように強烈な音を繰り出すホーン・セクションのコンビネーションが面白い曲だ。

また、バンドの中心であるボスコ・マンが制作した”Just Give Me Your Time”は、60年代のジェイムズ・ブラウンを思い起こさせる激しい感情表現と、一つ一つのフレーズをじっくりと歌い込むシャロンの姿が光るスロー・ナンバー。絶妙なタイミングで彼女の歌を盛り立てる演奏が、ヴォーカルの豊かな表情を引き出した良曲だ。力技だけではない、彼女の多才な一面が垣間見れる魅力的な作品だ。

そして、ギターのジョー・クリスピアーノが提供した”Come And Be A Winner”は、軽やかなギターの伴奏が心地よいミディアム・ナンバー。ギターの音色を強調して爽やかな雰囲気を演出する手法は、スピナーズの”It’s A Shame”にも少し似ているが、この曲の演奏はもっと柔らかい。豊かな歌声を巧みに操って、リスナーに語り掛けるように歌うシャロンの姿が印象的な曲だ。

だが、本作のハイライトは何といっても彼女自身がペンを執った”Call On God”だろう。オルガンやコーラスを加えた本格的なゴスペル作品でもあるこの曲は、生演奏をバックに朗々と歌う姿が魅力的。 分厚いコーラスをバックに力強い歌声を聴かせる姿は、70年代にアレサ・フランクリンが発表したライブ録音を連想させる。闘病中とは思えない、力強さと生命力に溢れた歌唱が堪能できる名演だ。

今回のアルバムは、ふくよかで表情豊かなシャロンのヴォーカルと、ダップ・キングスの緻密な演奏が合わさった良質な作品だと思う。見方によっては、過去の路線を踏襲したようにも映るが、それをマンネリ化ではなく、バンドの一貫した作風だと思わせる説得力が、彼女達の凄いところだと思う。むしろ、病と闘いながらも、それ以前と変わらないパワフルなパフォーマンスを披露し続けている彼女と、それを普段の録音と同じような演奏で支えるバンドに、最後までブレることなく貫かれた、彼女達のチームワークと強い信念さえ感じられた。

音楽史に残る傑作を残してきた彼女達の最終作にふさわしい、充実した内容。今後、どんなシンガーを迎えても、本作みたいな音楽は作れないと思わせる力作だ。

Producer
Bosco Mann

Track List
1. Matter Of Time
2. Sail On!
3. Just Give Me Your Time
4. Come And Be A Winner
5. Rumors
6. Pass Me By
7. Searching For A New Day
8. These Tears (no Longer For You)
9. When I Saw Your Face
10. Girl! (you’ve Got To Forgive Him)
11. Call On God





SOUL OF A WOMAN [CD]
SHARON JONES & THE DAP-KINGS
DAPTONE RECORDS
2017-11-17