ヒップホップやエレクトロ・ミュージックに歩み寄ったサウンドと、歌とラップを混ぜ合わせた歌唱スタイルが流行の中心になっている、2010年代のR&Bシーン。その中で、流行りの音と適度に距離を置き、自身のスタイルを貫くことで存在感を発揮しているのが、K.ミッチェルこと、キンバリー・ミッチェル・ペイトだ。

テネシー州のメンフィスで生まれ育った彼女は、幼いころからギターやピアノに慣れ親しみ、ジャスティン・ティンバーレイクやブリトニー・スピアーズも指導したというトレーナーの下で、ヴォーカルの腕を磨いてきた実力派。

その後、フロリダの大学に進み、子育て期間を経て卒業した彼女は、ロースクールに進学しながら音楽活動を開始。2009年にジャイヴと契約すると、ミッシー・エリオットを招いた”Fakin’ It”でメジャー・デビューを果たす。また、2011年にはミッシーのほか、R.ケリーやアッシャーが参加した初のフル・アルバム『Pain Medicine』を録音するが、諸事情によりお蔵入り。ジャイヴから離れることになる。

そんな彼女は、VH1のリアリティー・ショーに出演したことから注目を集め、アトランティックと契約。2013年に初のフル・アルバム『Rebellious Soul』を発表すると、総合アルバム・チャートの2位、年間アルバム・チャートの167位という新人としては異例のヒット。その後も、2014年の『Anybody Wanna Buy a Heart?』や2016年の『More Issues Than Vogue』が商業的な成功を収め、賞レースの常連に名を連ねるなど、スターダムを駆け上がっていった。

このアルバムは、そんな彼女にとって約1年ぶり、通算4枚目となる新作。ほぼすべての曲で彼女がペンを執る一方、リル・ロニーやチャック・ハーモニーといった、主役の声を引き立てる美しいヴォーカル作品に定評のあるクリエイターが多数参加。現代では希少なものになった、本格的なR&B作品に仕上がっている。

アルバムに先駆けて公開された”Make This Song Cry”は、ジェイZの”Song Cry”をサンプリングしたミディアム・バラード。今も多くの人に親しまれている、彼の代表曲のフレーズに乗って、切々と言葉を紡ぐ彼女の姿が印象的な曲だ。有名名曲をサンプリングした作品には、原曲のイメージに縛られたものや、原曲の持ち味を壊してしまうものも少なくないが、この曲では元ネタの持ち味を残しつつ、本格的なソウル・バラードに換骨奪胎している。

また、クリス・ブラウンをフィーチャーした”Either Way ”は、シャンテ・ムーアやリル・モーを手掛けているダニエル・ブライアントが制作に参加したミディアム・ナンバー。おどろおどろしいストリングスの音色と、キンバリーのパワフルなヴォーカルが光る佳曲だ。メロディの部分で聴ける彼女のラップにも注目してほしい。

そして、同曲に続く”Birthday”は、シカゴ出身のプロデューサー、ヒットメイクを起用したバラード。シンセサイザーの音色を組み合わせ、ヒップホップのエッセンスを盛り込んだバック・トラックは、R.ケリーやメアリーJ.ブライジを彷彿させる。そんなトラックの上で、緩急織り交ぜたダイナミックな歌唱を聴かせる姿は、往年のチャカ・カーンやミリー・ジャクソンを思い起こさせる。電子楽器を多用した現代的なサウンドを取り入れつつ、歌唱力で勝負した異色の作品だ。

それ以外の曲では、マイケル・ジャクソンやマライア・キャリーなどに楽曲を提供しているロドニー・ジャーキンスと作った”Woman of My Word”の存在が光っている。ゴスペルのコール&レスポンスを思い起こさせる、ダイナミックなグルーヴに乗せて、パワフルな歌声を披露した雄大なバラード。現代的なヒップホップやR&Bの仕事が多いロドニーだが、この曲のようなヴォーカルで勝負するタイプの作品でも実力を発揮している。

本作の聴きどころは、随所で現代のR&Bの要素を取り入れつつ、あくまでも歌で勝負したところだろう。メアリーJ.ブライジやビヨンセなど、実力と人気を兼ね備えたシンガーは少なくないが、歌を強調したある意味保守的な作風で、高いクオリティの作品を残せる歌手はとても貴重だ。この、豊かな歌声と、それをコントロールする技術、歌の才能を活かす楽曲作りの才能は、アレサ・フランクリンのような、歴代の名歌手の流れを踏襲したものだが、尖った音が求められる現代では異色ではかえって新鮮に聴こえる。

現代では希少な、「歌」を存分に味わえる名シンガー。新しい音に抵抗感のある人にこそ聴いてほしい、大胆な表現と安定したパフォーマンスが光る名盤だ。

Producer
DJ Camper, Lil' Ronnie, Hitmaka, Louis Biancaniello, Darkchild etc

Track List
1. Welcome to the people I used to know
2. Alert
3. God, Love, Sex, and Drugs
4. Make This Song Cry
5. Crazy Like You
6. Kim K
7. Takes Two feat. Jeremih
8. Rounds
9. Either Way feat. Chris Brown
10. Birthday
11. Fuck Your Man (Interlude)
12. No Not You
13. Giving Up On Love
14. Help Me Grow (Interlude)
15. Heaven
16. Run Don't Walk
17. Industry Suicide (Interlude)
18. Talk To God
19. Brain On Love
20. Woman of My Word
21. Outro





Kimberly: People I Used to Know
K. Michelle
Atlantic
2017-12-15