98年にモス・デフと組んだラップ・グループ、ブラック・スターの名義のアルバム『Mos Def & Talib Kweli Are Black Star』で華々しいデビューを飾ると、詩的な表現と哲学者を彷彿させる深い思索が光るラップで、注目を集めたタリブ・クウェリ。

ニューヨーク州ブルックリン出身の彼は、社会学者の父と言語学者の母の間に生まれ、後に大学教授として教鞭を執る弟を持つなど、アカデミックな家庭環境で育ってきた。そんな彼は、デ・ラ・ソウルの作品に触れたことで音楽へと興味を持ち、90年代中頃から、シカゴのラップ・グループ、ムードなどの作品に参加。レコーディングやライブを通して実力を蓄えてきた。

また、2002年に初のソロ・アルバム『Quality』を発表すると、その後はコンスタントに数多くのソロ作品やコラボレーション・アルバムを発表。マーリー・マールやKRSワンが活躍していた、90年代初頭のニューヨークのヒップホップ・シーンを思い起こさせる、サンプリングを効果的に使ったトラックと、現代社会やそこで生きる人々が抱える、様々な問題に鋭く切り込んだラップで評価を高めていった。

このアルバムは、今年4月に発売したニューヨーク出身のラッパー、スタイルスPとのコラボレーション・アルバム『The Seven』以来、自身名義の作品としては2015年の『Fuck the Money』以来となる、通算8枚目のフル・アルバム。前作同様、自身のレーベル、ジャヴォッティ・ミュージックからのリリースとなる本作は、プロデューサーとしてケイトラナダやオー・ノーが参加し、ゲスト・ミュージシャンとしてロバート・グラスパーアンダーソン・パックが名を連ねるなど、斬新なサウンドで音楽シーンを盛り上げてきた面々が集結した、新しい音へと挑戦する彼の野心を感じさせる作品になっている。

本作の収録曲の中でも、特に異彩を放っているのは2曲目の”Traveling Light”だろう。カナダ出身のケイトラナダがプロデュースを担当し、カリフォルニア州出身のアンダーソン・パックをフィーチャーしたこの曲は、60年代のソウル・ミュージックを連想させる勇壮なホーンの音色と、現代的な電子オルガンの伴奏を組み合わせたトラックが印象的な曲。ホーンの音色を使ったトラックは、多くのヒップホップ作品で見られるものだが、電子オルガンの音色を組み合わせることで新鮮な印象を与えている。アンダーソン・パックの歌も、タリブの切れ味鋭いラップをうまく盛り立てている。育った環境も世代も異なる、三人の持ち味が上手く噛み合った面白い曲だ。

これに対し、マッドリブの弟としても知られる、オー・ノーがプロデュースした”She's My Hero”は、古いレコードから引用した音を活かしたトラックが光る作品。オランダのプログレッシブ・ロック・バンド、スコープが74年に発表した”Kayakokolishi”をサンプリングした、アクション・ブロンゾンの”Bonzai”のトラックを再構築したこの曲。滑らかな管楽器の音色を効果的に使った、物悲しい雰囲気のビートは、ジャスト・ブレイズのプロデュース曲にも似ているが、こちらの方がよりレコードの質感を強調している。このトラックの上で、攻撃的なラップを聴かせるタリブ・クウェリの姿は、常に社会と闘ってきた、彼の孤独さを映しているようだ。

また、BJザ・シカゴ・キッドを招いた”The One I Love”は、サンファの”Can’t Get Close”をサンプリングした電子音楽のテイストが強い作品。泥臭いヴォーカルとモダンなサウンドを組み合わせた音楽性で、グラミー賞にもノミネートしたBJザ・シカゴ・キッドのスタイルを取り込んだ、懐かしさと新鮮さが入り混じった不思議な曲だ。立て続けに言葉を繰り出すタリブのラップと、シャイ・ライツのユージン・レコーズを思い起こさせる、艶めかしいBJのヴォーカルが心を掻き立てる良作。

そして、Jローズがトラックを制作し、リック・ロスとヤミー・ビンガムが客演した”Heads Up Eyes Open”は、本作のハイライトと呼んでも過言ではない作品。ジャスト・ブレイズや9thワンダーが作りそうな、70年代のソウル・ミュージックっぽい音色を使ったトラックが印象的だが、クレジットを見る限り、昔のレコードをサンプリングしたものではないようだ。このソウルフルなビートの上で、個性豊かなラップを披露するタリブとリックのコンビネーションが格好良い。サビでキュートな歌声を聴かせるヤミーの存在が、切れ味の鋭い二人のラップを聴きやすいものにしている。

これまでのアルバムでも、色々なスタイルのトラックに取り組んできた彼。だが、本作から感じるのは、往年のソウル・ミュージックやジャズに触発された音楽で知られる、若い世代の完成を取り込んだところだと思う。ソウル・ミュージックやファンク、ジャズの音を引用してきた彼が、それらの音楽に独自の解釈を加え、新しい音楽として聴かせている若いミュージシャンと組むことで、自分の軸を残しつつ、斬新な作品に仕上げている点が面白いと思う。

知的なリリックで、独創的な世界を組み立ててきた彼が、フレッシュな感性を取り込んで、その世界観を深めた良作。ヒップホップにはまだまだ進化できる可能性があると感じさせる、魅力的なアルバムだ。

Producer
The Alchemist, J Rhodes, KAYTRANADA, LordQuest, Oh No etc

Track List
1. The Magic Hour
2. Traveling Light feat. Anderson .Paak
3. All Of Us feat. Jay Electronica & Yummy Bingham
4. Let It Roll
5. Chips feat. Waka Flocka
6. Knockturnal
7. Radio Silence feat. Amber Coffman & Myka 9
8. She's My Hero
9. The One I Love feat. BJ The Chicago Kid
10. Heads Up Eyes Open feat. Rick Ross & Yummy Bingham
11. Write At Home feat. Datcha, Bilal & Robert Glasper






RADIO SILENCE
TALIB KWELI
JAVOTTI MEDIA/3D
2017-12-01