2002年にアルバム『Songs About Jane』で表舞台に登場して以来、発売した5枚のアルバム全てが、アメリカでプラチナ・ディスクを獲得し、複数の国でゴールド・ディスクに認定されるなど、21世紀を代表するロック・バンドとして、多くの足跡を残してきたマルーン5。

ロス・アンジェルスの同じハイスクールに通っていた、4人によって結成されたバンド「カーラズ・フラワーズ」が前身である彼らは、メンバーの脱退や復帰、加入を経験しながら、レコーディングやライブを継続的に行ってきた。また、2010年以降は、オーディション番組で共演したことがきっかけに作られた、クリスティーナ・アギレラとのコラボレーション・シングル”Moves like Jagger”を皮切りに、ラッパーやR&Bシンガーとの共作にも積極的に取り組んできた。そして、2014年以降は、ソロ・アーティストとしても実績豊富な、PJモートンをキーボード奏者として迎え、これまで以上にR&B志向を強めるなど、着実にファン層を広げていた。

本作は、2014年の『V』以来となる、通算6枚目のスタジオ・アルバム。前作に引き続き、インタースコープから配給されたアルバムで、プロデュースはヴォーカルのアダムのほか、ディプロやジョン・ライアンといった、各ジャンルを代表するヒット・メイカーが担当。ゲストにはSZAケンドリック・ラマーなど、今をときめく面々が名を連ねた、トップ・ミュージシャンにふさわしい作品になっている。

まず、このアルバムの目玉といったら、なんといっても”What Lovers Do”だろう。キーボード担当のサム・ファーラーが制作を主導し、フィーチャリング・アーティストとしてSZAを招いたこの曲は、シンセサイザーと乾いた音色の生演奏を巧みに組み合わせたサウンドと、爽やかな歌声の組み合わせが心地良いミディアム・ナンバー。カラっとした音色と甘酸っぱいテナー・ヴォイスをフル活用した作風は、ファレル・ウィリアムスをフィーチャーしたカルヴィン・ハリスの”Feels”によく似ている。

これに対し、もう一つのシングル曲である”Wait”は、彼らの楽曲のほか、ワン・ダイレクションなどの作品に携わっているジョン・ライアンが制作に参加したミディアム・バラード。大部分の伴奏をシンセサイザーで録音した、R&B寄りの伴奏をバックに、アダムの甘い歌声を思う存分堪能できる。シンセサイザーを多用した伴奏と、スウィートな歌声の組み合わせは、ウィークエンドの音楽を連想させる。

そして、クラブDJの世界では常にトップクラスの人気を誇るディプロと、同分野を代表するシンガーの一人として、高い評価を受けているジュリア・マイケルズを起用した”Help Me Out”は、切ないメロディが印象的なアップ・ナンバー。甘い歌声のアダムと鋭い歌声のジュリアのコンビネーションが光る佳曲だ。ディプロ達が作る、洗練された伴奏も見逃せない。

しかし、アルバムの収録曲でも特に異彩を放っているのが、ケンドリック・ラマーを招いた”Don't Wanna Know”だろう。ジャスティン・ビーバーの”Love Yourself”や、映画「シング」の主題歌であるスティーヴィー・ワンダーの”Faith”などを手掛けている、ベニー・ブランコがプロデュースした、ウィズ・カリファやエイコンの作品を彷彿させる、陽気なビートが心地よいミディアム・ナンバーだ。カリプソやアフリカ音楽の要素を盛り込んだこの曲は、軽妙な歌を聴かせるアダムと、普段の攻撃的なイメージとは全く違う、リズミカルなラップを披露するケンドリック・ラマーのコンビネーションが面白い。ポップで洗練されたサウンドが魅力のロック・バンドと、ハードコアなラップをウリにするラッパーのコラボレーションとは思えない、意外性が魅力だ。

今回のアルバムでは、前作に引き続き、R&Bやヒップホップへの傾倒を深めた、スタイリッシュなメロディと伴奏の楽曲が並んでいる。シングル化された “What Lovers Do”や“Don’t Wanna Know”のように、ほとんどR&Bといっても過言ではない、電子楽器を駆使したモダンなビートを取り入れた作品も多い。にもかかわらず、R&Bシンガーやラッパーの作品と一線を画しているのは、甘酸っぱい歌声で爽やかに歌い上げる、アダムの存在が大きいと思う。黒人シンガーとは一味違うヴォーカルで、R&Bの手法を盛り込んだ楽曲を作り上げたことが、彼ら凄いところだろう。

現代のアメリカの音楽界のトレンドになっている、ヒップホップやR&Bを吸収しつつ、自分達の音楽に昇華した面白い作品。ビートルズ以降、色々な国のミュージシャンが取り組んできた、黒人音楽を取り込んだ演奏の、一つの完成形ともいえるアルバムだ。

Producer
Adam Levine, Jacob "J Kash" Hindlin, Jason Evigan, Diplo, John Ryan, Benny Blanco etc

Track List
(DISC 1)
1. Best 4 U
2. What Lovers Do feat. SZA
3. Wait
4. Lips On You
5. Bet My Heart
6. Help Me Out with Julia Michaels
7. Who I Am feat. LunchMoney Lewis
8. Whiskey feat. A$AP Rocky
9. Girls Like You
10. Closure
11. Denim Jacket
12. Visions
13. Don’t Wanna Know feat. Kendrick Lamar
14. Cold ft. Future

(DISC 2)
1. Moves Like Jagger
2. Dayllight
3. Maps
4. Stereo Hearts
5. This Love, with 6. Animals





レッド・ピル・ブルース(デラックス盤)
マルーン5
ユニバーサル ミュージック
2017-11-01