今や、トラックメイカーとラッパーの分業が当たり前になっている、アメリカのヒップホップ界。その中で、プロダクションとラップの両方をこなし、良質な作品を生み続けているのが、ブラック・ミルクことカーティス・クロスだ。

かつてはモータウン・レコードが拠点を置き、ジェイ・ディラやエミネム、デリック・メイやジェフ・ミルズを輩出したことでも知られるデトロイト出身の彼は、2000年代中頃から、スラム・ヴィレッジやウータン・クランのRZA、ファラオ・モンチなどの作品に、プロデューサーやラッパーとして参加。2016年には、ロバート・グラスパーがマイルス・デイヴィスの作品をリメイクした『Everything's Beautiful』に携わるなど、様々なジャンルの音楽で腕を振るってきた。

また、2004年にラップ・グループ、B.R. Gunnaの名義で初のスタジオ・アルバム『Dirty District Vol. 2』をリリースすると、以後は1年に1作以上のペースでアルバムを発表。多作でありながら、高いクオリティを維持し続けるミュージシャンとして、ヒップホップ好きの間では知られる存在となった。

本作は、彼自身の作品としては、2016年に発表したR&Bバンド、ナット・ターナーとのコラボレーション・アルバム『The Rebellion Sessions』以来となる新作。全ての曲を彼がプロデュースする一方で、ゲストとしてドゥウェレなどを招聘。ラップ主体でありながら、ソウル・ミュージックのような温かさと優しい雰囲気を感じさせる作品に仕上げている。

アルバムの1曲目は、スーディーをフィーチャーした”unVEil”。シンセサイザーを多用し、その音をエフェクターで加工した幻想的なサウンドが、ファンカデリックにも少し似ているミディアムだ。神秘的な雰囲気のトラックをバックに、次々と言葉を繰り出すブラック・ミルクのラップと、R&Bシンガーらしからぬ、淡白なスーディーのヴォーカルの組み合わせが新鮮だ。

これに対し、ドゥウェレを招いた”2 Would Try”は、DJプレミアやピート・ロックが90年代に作っていた複雑なビートと、ロバート・グラスパーの作品を思い起こさせる、ジャズのエッセンスを盛り込んだキーボード伴奏を組み合わせたトラックの上に、軽妙なラップと泥臭いヴォーカルが乗ったアップ・ナンバー。ジャズとヒップホップを混ぜ合わせるスタイルは、ギャングスターのグールーによるプロジェクト『Jazzmatazz』にも近しいが、こちらの方がヒップホップ色が強い。

また、6曲目の”True Lies”は、テンポを落として粘り強いベースと色っぽいギターの音色を際立たせたトラックが面白い、ミディアム・テンポの楽曲。ファンカデリックやバーケイズのような、ロックの要素を取り込んだソウル・ミュージックやファンク・ミュージックのスタイルを取り入れつつ、ヒップホップに落とし込む技術が光っている。ヒップホップとロックの融合は、ザ・ルーツなどが既に取り組んでいるが、彼らとは異なるアプローチがあることを再認識させられる良曲だ。

そして、本作の最後を締める”You Like To Risk It All / Things Will Never Be”は、アナログ・シンセサイザーと、昔のレコードから抜き出したような、温かい音色のドラムを組み合わせたビートの上で、畳み掛けるようにラップをする姿が心に残る曲。変則的なビートと早口なラップの組み合わせは、トウィスタを思い出させるが、彼の音楽に比べると派手なギミックは抑え気味で、丁寧にラップを聴かせる作風が印象的だ。

彼の音楽の面白いところは、サンプリングとシンセサイザーを組み合わせたトラック・メイクのような、90年代には既に確立された手法が中心でありながら、新しい音楽のように聴こえるところだ。既に普及した方法を使いながら、その組み合わせを変えることで、表現の幅を広げている点は興味深い。恐らく、ラップも含め、楽曲を構成する全ての要素に気を配り、バラエティ豊かな曲に落とし込める点が大きいのだろう。

ヒップホップを構成する複数の要素に精通することで、自身の作品の可能性を広げた好事例。既に広まった手法であっても、楽曲を構成する他の要素と組み合わせて使うことで、表現の幅は広げられることを教えてくれる良盤だ。

Producer
Black Milk

Track List
1. unVEil feat. Sudie
2. But I Can Be feat. Ab
3. Could It Be
4. 2 Would Try feat. Dwele
5. Laugh Now Cry Later
6. True Lies
7. eVE
8. Drown
9. DiVE
10. Foe Friend
11. Will Remain
12. You Like To Risk It All / Things Will Never Be





Fever
Black Milk
Mass Appeal Records
2018-03-23