2006年に発売した初のスタジオ・アルバム『In My Own Words』 がアメリカ国内だけで140万枚 も売れ、多くの音楽賞を獲得したことで、ソングライターがアーティストの有力なキャリア・パスとして再評価されるきっかけになった、アーカンソー州カムデン出身のシンガー・ソングライター、ニーヨことシャイファー・シミア・スミス。

デビュー作が成功した後も、2017年までにリリースした5枚のアルバム全てをアメリカの総合アルバム・チャートの10位以内に送り込みながら、ソングライターやプロデューサーとして、リアーナラトーヤといったR&Bシンガーから、セリーヌ・ディオンのようなポップ・スターまで、多くのアーティストに楽曲を提供。2012年にモータウンへ移籍してからは、A&R(アーティストの発掘と育成を担当する部門)のヴァイス・プレシデント(トップを補佐する役員)に就任。BJザ・シカゴ・キッドラポーシャ・ラナエリル・ヨッティといった、高いセンスとスキルが魅力の名手を送り出してきた。

このアルバムは、彼にとって通算7枚目のスタジオ・アルバム。ソングライター、クリエイターであり、会社経営者としても多くの仕事を抱えながら録音された本作は、全ての曲で彼自身がソングライティングを担当。プロデューサーには、彼の代表曲”So Sick”を一緒に制作したスターゲイトのほか、OGパーカーやステレオタイプスといったヒット・メイカーが多数参加。しなやかで親しみやすいメロディと爽やかな歌声というニーヨの魅力を引き出した作品になっている。

アルバムの実質的な1曲目となる”1 MORE SHOT”は、エリック・ベネイアン・ヴォークなどを手掛けてきたカーティス”ソース”ウィルソンをフィーチャーし、メイジャーの名義でも活躍するブランドン・グリーンと気鋭のクリエイター、マントラ・ビーツを制作者に迎えたダンス・ナンバー。ジェイソン・デルーロの近作を彷彿させる、鮮やかな音色を多用したカリプソっぽいアレンジと、ニーヨの繊細なメロディが光る好作。ハウス・ミュージックのビートを取り入れつつ、上物を強調してラテン音楽っぽく仕立てるアレンジが面白い。

これに対し、スターゲイトがプロデュースを担当した”PUSH BACK”は、ニューヨーク出身のシンガー・ソングライター、ビービー・レクサとロンドン出身のラッパー、ステフロン・ドンをゲストに招いた作品だ。この曲は、スタイリッシュな作風が持ち味のスターゲイトのプロデュース曲では珍しい、レゲトンのビートを用いたダンス・ナンバー。ニーヨの流麗なヴォーカルと、ステフロンのラガマフィン、ポップス畑出身らしい、硬い声質のビービーのヴォーカルのコントラストが聴きどころ。

また、本作のリリース直前に発表された”APOLOGY”は、彼同様、ソングライターの実績が評価され、エンパイア配給のスタジオ・アルバムも発売しているコンプトン出身のシンガー・ソングライター、エリック・ベリンガーと共作したバラード。重いドラムの音を土台にしたヒップホップ色の強いトラックと、ラップのように多くの言葉を詰め込んだメロディという、エリックのカラーが強い曲。 爽やかな歌声としっとりとしたメロディが魅力のニーヨが、ラップのようなメロディに取り組む姿は新鮮だ。

それ以外の曲では、本作のタイトル・トラック”GOOD MAN”も見逃せない作品だ。DJキャンパーがプロデュースを担当、ソングライティングにラファエル・サディークが参加したこの曲は、ディアンジェロが2000年に発表した”Untitled (How Does It Feel)”をサンプリングしたバラード。随所に印象的なフレーズを織り込みつつ、楽曲全体の展開に目を配る構成が特徴的なニーヨの楽曲では珍しい、様々なメロディをモザイクのように組み合わせたスタイルの作品だ。ディアンジェロの楽曲を引用して、彼のスタイルを取り入れつつ、ニーヨの洒脱な歌唱法の組み合わせが新鮮なスロー・ナンバーだ。

このアルバムで彼が披露したのは、多くのソングライターやプロデューサーを招き、彼らの作風を取り入れることで、音楽の幅を広げているところだろう。エリック・ベリンガーやパーティー・ネクストドアといった、楽曲とキャラクターの両方が評価されて頭角を現したシンガー・ソングライターや、ステレオタイプスやDJキャンパーのような尖った作風がウリのヒット・メーカーを揃えつつ、自身も制作に関与することで、楽曲のバラエティと一貫性を確保している。このアルバムからは、「実績豊富なミュージシャンのニーヨ」を「音楽プロデューサーのニーヨ」の目で分析し、伸びしろを活かそうとしているように映る。

マネージメントという新しい仕事を通して、自分の可能性を広げた魅力的な作品。プレイヤーの能力ととマネージメントの技術は相対するものではなく、互いの可能性を引き出す車の両輪であることを教えてくれる優れたアルバムだ。

Producer
Ne-Yo, Darhyl Camper Jr, OG Parker, StarGate, The Stereotypes, DJ Camper etc

Track List
1. ""Caterpillars 1st"" (INTRO)
2. 1 MORE SHOT
3. LA NIGHTS
4. NIGHTS LIKE THESE feat. Romeo Santos
5. U DESERVE
6. SUMMERTIME
7. PUSH BACK feat. Bebe Rexha & Stefflon Don
8. BREATHE
9. ON UR MIND feat. PARTYNEXTDOOR
10. BACK CHAPTERS
11. HOTBOX feat. Eric Bellinger
12. OVER U
13. WITHOUT U
14. APOLOGY
15. OCEAN SURE feat. Candice Boyd & Sam Hook
16. ""The Struggle..."" (Interlude)
17. GOOD MAN





グッド・マン
NE-YO(ニーヨ)
ユニバーサル ミュージック
2018-06-08