安室奈美恵やSPEED、三浦大知が在籍していたFOLDERなど、多くのダンス・ヴォーカル・アクトを輩出してきたライジング・プロダクション。同社の所属タレントの中でも、特に異彩を放っているのが、千葉涼平、橘慶太、緒方龍一の3人組、ウィンズだ。

2001年に”Forever Memories”でメジャー・デビューを果たした彼らは、本格的なダンスとヴォーカル、R&Bやヒップホップを取り入れつつ、それに囚われないポップな楽曲で一躍ブレイク。『w-inds.〜1st message〜』や『ageha』などのアルバムがオリコン・チャートの1位を獲得する一方、2000年代半ば以降は、東アジアを中心に海外でも活躍。台湾では4枚のアルバムを現地のヒット・チャートの1位に送り込み、日本出身のアーティストの最多記録を打ち立てるなど、日本を代表するダンス・ヴォーカル・グループとして認められてきた。

このアルバムは、彼らにとって1年ぶり、13枚目のスタジオ作品。発売時点の3人の年齢の合計(千葉:34歳,橘:33歳,緒方:33歳)からタイトルを取ったこのアルバムは、彼らにとって初の完全セルフ・プロデュース作品。本職のクリエイターに師事し、本格的な制作スペースを整備してきた橘を中心に、音楽に強い思い入れを持つ3人の熱意が感じられる力作になっている。

本作の1曲目、”Bring back the summer”は、乾いた音色のギターとシンセサイザーを組み合わせたトラック、ファルセットを多用したヴォーカルが、ファレル・ウィリアムスの音楽を彷彿させるミディアム。ファレルに比べると声量のある橘慶太のヴォーカルと、シンプルで洗練されたビートが印象的。バック・トラックの微妙な響きの違いにも気を配る、彼の良さが発揮された佳作だ。

続く”Dirty Talk”は2018年3月にリリースされた本作からの先行シングル。テディ・ライリーやベイビーフェイスが採用し、90年代初頭に一世を風靡したR&Bのスタイル、ニュー・ジャック・スウィングを取り入れたアップ・ナンバーだ。甘く爽やかな歌声を引き立てる甘酸っぱいメロディと、テディ・ライリーが90年代半ばに結成したヴォーカル・グループ、ブラックストリートの1作目を連想させる、ヒップホップのアレンジを盛り込んだニュー・ジャック・スウィングのトラックが面白い。音楽に対する造詣の深さと鋭い感性、高い表現力が生み出した魅力的な曲だ。

また、本作のリリースと同時にミュージック・ビデオが公開された”Temporary”は、華やかで高揚感のあるサウンドが魅力の電子音楽、EDMの要素を盛り込んだミディアム・バラード。甘い歌声とロマンティックなメロディ聴かせるメロディ部分から、派手なシンセサイザーの伴奏に続く手法は、アッシャーの”Love In This Club”や、ジャスティン・ビーバーを招いたジャックUの”Where Are U Now”に通じるものがある。欧米のエレクトリック・ミュージックと日本のポップスのバラードをうまく混ぜ合わせた、彼らのバランス感覚が光る作品。

そして、本作の収録曲では一番最初にリリースされた”Time Has Gone”は、限界まで音数を絞ったシンプルなアレンジと、繊細なファルセットが魅力のミディアム・ナンバー。90年代後半のイギリスのR&Bを思い起こさせる、洗練されたトラックと味わい深いメロディが魅力的な作品だが、低音の響きやヴォーカルの聴かせ方は今時のアメリカのR&Bっぽい。日本人の琴線に訴えるメロディと欧米のサウンドを融合した良曲だ。

彼らの音楽の凄いところは、日本のポップスの魅力と、アメリカやヨーロッパのヒップホップの心地よいところを、一つの音楽に同居させているところだ。それは、プロダクションの技術を基礎から身に着けた橘慶太の制作能力と、10年以上、歌とダンスに心血を注いできた3人の高いパフォーマンス・スキルがあるから可能だったと思う。

アメリカやヨーロッパの音楽とは一味違う、「日本のR&B」の個性を確立した貴重な作品。1枚のアルバムをじっくり聴き込んでも、各国の個性豊かなアーティストの作品と聴き比べても面白い、細部にまで気を配った曲作りが面白い良盤だ。

Producer
W-inds. Keita Tachibana etc

Track List
1. Bring back the summer
2. Dirty Talk
3. Temporary
4. I missed you
5. Celebration
6. We Gotta Go
7. Time Has Gone
8. Stay Gold
9. The love
10. All my love is here for you
11. Drive All Night
12. Sugar





100(初回限定盤)(Blu-ray Disc付)
w-inds.
ポニーキャニオン
2018-07-04