アルバム『MADE』が全世界で500万枚を売上げ、2000年代、10年代を代表するボーイズ・バンドとして君臨し続けたビッグバンを筆頭に、「ガール・クラッシュ」という言葉が生まれる前から、「同世代の女性が憧れるガールズ・グループ」というスタイルで唯一無二の地位を築き上げた2NE1、彼女たちの路線を踏襲し、世界的な成功を納めたブラックピンクなど、多くの名グループを送り出してきた韓国の名門YGエンターテイメント

2016年に同社が送り出した男性グループ、iKONは、ソングライティングとラップを担当するB.I.、Bobbyを中心に、個性豊かな面々からなる7人組。中でも、ラップ担当の二人は、クラブ・シーンからのし上がってきた腕自慢のMCが多数参加している人気オーディション番組「Show Me The Money」で奮闘。デビュー前のアイドルの卵が、百戦錬磨のラッパー達を押しのけて優勝するという快挙を成し遂げた。

また、グループはデビュー後に韓国、日本、中国の三ヶ国で新人賞を獲得。2018年にリリースした”Love Senario”は、「観客と一緒に歌うヒップホップ」という、斬新なコンセプトと親しみやすいメロディが高く評価され大ヒット。全米アルバム・チャートを制覇したBTSや、アジアを中心に絶大な人気を誇るトゥワイスの作品を押しのけ、同年の韓国で最も売れたシングル曲になった。

しかし、2019年には自身のトラブルが原因で、リーダーのB.I.が脱退。その後は、グループの活動が停滞する中で、88ライジングが主催するイベントに出演するなど、試行錯誤の日々が続いた。

本作は、彼らにとって約1年ぶりとなる新作。本来は2019年中にリリースされる予定だったが、B.I.の脱退に伴って一度お蔵入りになったものだ。今回リリースされたものでは、彼が歌ったパートを別のメンバーの歌で録り直し、新曲を追加したものになっている。

アルバムのオープニングを飾る”Ah Yeah”はマーチング・バンドのリズムを取り入れたミディアム・ナンバー。規則正しいマーチのリズムの上で、あえてリズムを崩したように歌うスタイルがヒップホップっぽい。“Love Senario”で見せたヒップホップと異ジャンルの融合を押し進めつつ、よりラップを強調した作風の楽曲だ。

続く“Dive”はアコースティック・ギターとハーモニカの音色をアクセントに使ったアップ・ナンバー。前奏はカントリー音楽のそれそのものだが、ヴォーカル・パートは80年代の韓国の歌謡曲の要素をふんだんに盛り込んでいる。カントリー音楽の音やラップを効果的に使うことで、韓国人にとって耳なじみのあるメロディを新鮮な音楽のように聴かせるテクニックが心憎い。“Love Senario”の続編にも聴こえるこの曲は、日本人にも懐かしく感じられる心地よさが印象的だ。

これに対し“All the world”はアナログ・シンセサイザーの透き通った音色を効果的に使った、ダンス・ナンバー。ピコピコという電子音を挟み込みんだトラックは、アフリカ・バンバータのような80年代のヒップホップや、スレイヴのような70年代のディスコ・ブギーに近いものだ。日本でも人気があるタキシードディム・ファンクのサウンドを、韓国向けにアレンジした手腕が魅力だ。

そして、今回の再始動に合わせて書き下ろされた”Flower”は、ヴォーカルのドンヒョクが制作、プロデュースした曲。ギターの伴奏から始まるこの曲は、切ない雰囲気のメロディから爽やかなサビへと続く展開が聴きどころ。ビッグバンの人気曲”声を聞かせて”の路線を踏襲した佳曲だ。

今回のアルバムは、大成功を収めた前作『Return』で見せた、ヒップホップと他のジャンルの音楽の融合を進めつつ、6人組としての新たなスタイルを模索したものだ。特に、「歌うようにラップする」スタイルが魅力だったB.I.の穴を埋める5人のヴォーカルと、グループ唯一のラッパーとして重責を担うことになったBobbyの役割分担を工夫した跡が見受けられる。また、B.I.が残してきた楽曲を採用しつつ、グループの楽曲の大部分を手掛けてきた彼抜きで作った新曲を追加するなど、6人組として新たな一歩を踏み出そうとする意欲もうかがえる。

グループに対する逆風に真正面から立ち向かい、変わらない魅力と新たな一面を披露してくれた逸品。ヒップホップがポップスを組み合わせた作風を進化させた6人の姿が堪能できる良作だと思う。

Producer
B.I., Millenium, Diggy, HRDR etc

Track List
1. Ah Yeah
2. Dive
3. All The World
4. Holding On
5. Flower