アメリカ南部、ルイジアナ州の一帯は沼などの湿地が多いことから、バイユー・ゲート(bayou gate)と呼ばれている。

また、ニューオーリンズを含むこの地は、ファンク・バンドのミーターズやゴスペル歌手のマヘリア・ジャクソンといった、有名なミュージシャンを生み育てきた。この土地で演奏されるユニークな音楽はニューオーリンズ・ジャズ・ニューオーリンズ・ファンクと呼ばれている

ルイジアナ州北西の都市、シュリーブポート出身のシンガー、クリスタル・トーマスはこの地域の将来を担うことを嘱望されている、期待の若手(といっても妙齢だが)だ。

今回のアルバムでは、2年前に出た前作に引き続き、ラッキー・ピーターソンやチャック・レイニーといった、現代のアメリカを代表するベテランのブルース・ミュージシャンとコラボレーション。新曲に加えて、往年のブルースやソウルの楽曲をカバーすることで、当時の音楽が持つ熱量を現代に甦らせている。

彼女の力量は、アルバムのオープニングを飾るバーバラ・ウエストのカヴァー、"I'm A Fool For My Baby"を聴けばよくわかる。ルイジアナ音楽界の重鎮、トゥーサン・マクニール作の激しいダンス・ナンバーを堂々と歌い上げている。50年代のアメリカでは、ブルースがダンス音楽として重用されていたが、その頃の熱気を完璧に再現している。

また、"Blues Funk"はタイトル通りのブルースとファンクが合わさった音楽、ブルース・ファンクのスタイルで演奏されるアップ・ナンバー、ブルースの持つ怪しげな雰囲気と、ファンクの持つ色気が同居した楽曲は、間違いなく「ブルース・ファンク」だ。

また、ミディアム、スロー・ナンバーにも見逃せない曲が多い。特にジャニス・ジョップリンの楽曲をブルースにアレンジした"One Good Man“や、ジャズ・オルガン奏者、シャーリー・スコット作のスロー・ナンバー"The Blues Ain't Nothing But Some Pain”では、トーマスの大胆な表現と力強い歌声を余すことなく聴くことができる。

本作では彼女の恵まれた身体能力が生み出す迫力のある声と、豊富なステージ経験で培われた表現力が遺憾なく発揮されている。また、本作で彼女と共演しているチャック・レイニーやラッキー・ピーターソンといったベテラン・ミュージシャン達は、熟練の技を遺憾なく発揮している。彼女達の高い演奏技術と豊かな経験が、新旧の楽曲に命を吹き込んでいるのだ。

ルイジアナの豊かな音楽文化が堪能できる佳作。いつの日かライブで観たいと思わせる説得力が心に残る。

Track List
1. I'm A Fool For You Baby
2. I Don't Worry Myself
3. Take Yo' Praise
4. Ghost Of Myself
5. Blues Funk
6. One Good Man
7. No Cure For The Blues
8. Can't You See What You're Doing To Me
9. The Blues Ain't Nothing But Some Pain
10.Let's Go Get Stoned



No Cure For The Blues
DIALTONE RECORDS
2021-03-05