2004年のデビュー以来、アッシャーやファレル・ウィリアムズと並んで、R&B業界のトレンドを生み出し続けてきたシンガー・ソングライター、ジョン・レジェンドの2014年以来となる5枚目のオリジナル・アルバム。
前作『Love In The Future』は、シンセサイザーの音色を多用したサウンドや、ボビー・コールドウェルの”Open Your Eyes”のカヴァーに代表される洗練されたメロディの楽曲など、それ以前のアルバムとは大きく異なる作風で注目を集めた彼。本作では、過去のアルバムの路線を踏襲しつつ、2016年のトレンドにも適応した、新しいジョン・レジェンドを披露している。
まず、このアルバムで最初に聴いてほしいのは、チャンス・ザ・ラッパーが参加した先行リリース曲”Penthouse Floor”だ。ストリーミング配信が中心のミュージシャンとしては、初めてグラミー賞候補になった、2010年代の音楽シーンを象徴するラッパーが参加したこの曲。シンセ・ベースやシンセ・ドラムを使ったビートの上に、シンセサイザーやギターのフレーズがふわふわと漂う、宅録ではないかと思うくらいシンプルなサウンドが特徴的だ。このトラックの上で、ゴスペルから強い影響を受けたパワフルなヴォーカルが響く演奏は、エレクトロ・ミュージックと、楽器の演奏や生の歌声を重視したヴィンテージ・ミュージックが同時に流行している、2016年という時代を象徴した楽曲だと思う。また、この曲に先駆けてリリースされた”Love Me Now”も、前作に近い路線の打ち込み中心のトラック。だが、こちらは2006年の『Once Again』の収録曲を彷彿させるバート・バカラックなどの、60年代に流行した白人音楽家のスタイルを取り入れたポップなメロディを伸び伸びと歌っている。サム・スミスやアデルといった、黒人音楽の影響を受けた白人シンガーの活躍する時代。彼が白人のポピュラー・ミュージックを取り入れるのも自然な流れだと思う。
しかし、本作は一番の注目曲は、アラバマ・シェイクスのヴォーカル、ブリタニー・ハワードが参加したタイトル曲”Darkness and Light”だ。スワンプ・ロックを彷彿させる、重くゆったりとしたドラムに、エフェクトを抑え気味にしたギターを加えた伴奏の上で、ゴスペル仕込みのパワフルな歌声を惜しみなく披露したこの曲は、デビュー当時の彼を思い起こさせる、泥臭いパフォーマンスが印象的だ。だが、この曲の面白いところは、泥臭いサウンドに、透き通ったシンセサイザーのリフを絡ませたことだろう。70年代のサザン・ソウルっぽいドロドロとした演奏に、音楽制作では欠かせないものになったデジタル楽器の音色を加えることで、懐かしいけど新しいR&B作品に纏め上げたことは、特筆すべきだと思う。
ダフト・パンクやマーク・ロンソンが70年代、80年代のサウンドを現代に作り変えたサウンドで成功を収め、ロバート・グラスパーがヒップホップの手法を取り入れてジャズの世界をリードするようになった2016年。時代や地域の枠を超えて、色々なジャンルの音楽が混ざり合い、新しいサウンドを生み出す時代を象徴するようなアルバム。モータウンやスタックスが広め、各地のミュージシャンに引き継がれてきたソウル・ミュージックを、2016年の音楽シーンに適合する形でリメイクした魅力的な作品だろう。
Producer
Blake Mills, John Ryan, Greg Kurstin, Miguel, BloodPop. Ludwig Göransson, The Belle Brigade, Eg White
Track List
1. I Know Better
2. Penthouse Floor (feat. Chance the Rapper)
3. Darkness and Light (feat. Brittany Howard)
4. Overload (feat. Miguel)
5. Love Me Now
6. What You Do to Me
7. Surefire 08. Right By You (for Luna)
9. Temporarily Painless
10. How Can I Blame You
11. Same Old Story
12. Marching Into the Dark
前作『Love In The Future』は、シンセサイザーの音色を多用したサウンドや、ボビー・コールドウェルの”Open Your Eyes”のカヴァーに代表される洗練されたメロディの楽曲など、それ以前のアルバムとは大きく異なる作風で注目を集めた彼。本作では、過去のアルバムの路線を踏襲しつつ、2016年のトレンドにも適応した、新しいジョン・レジェンドを披露している。
まず、このアルバムで最初に聴いてほしいのは、チャンス・ザ・ラッパーが参加した先行リリース曲”Penthouse Floor”だ。ストリーミング配信が中心のミュージシャンとしては、初めてグラミー賞候補になった、2010年代の音楽シーンを象徴するラッパーが参加したこの曲。シンセ・ベースやシンセ・ドラムを使ったビートの上に、シンセサイザーやギターのフレーズがふわふわと漂う、宅録ではないかと思うくらいシンプルなサウンドが特徴的だ。このトラックの上で、ゴスペルから強い影響を受けたパワフルなヴォーカルが響く演奏は、エレクトロ・ミュージックと、楽器の演奏や生の歌声を重視したヴィンテージ・ミュージックが同時に流行している、2016年という時代を象徴した楽曲だと思う。また、この曲に先駆けてリリースされた”Love Me Now”も、前作に近い路線の打ち込み中心のトラック。だが、こちらは2006年の『Once Again』の収録曲を彷彿させるバート・バカラックなどの、60年代に流行した白人音楽家のスタイルを取り入れたポップなメロディを伸び伸びと歌っている。サム・スミスやアデルといった、黒人音楽の影響を受けた白人シンガーの活躍する時代。彼が白人のポピュラー・ミュージックを取り入れるのも自然な流れだと思う。
しかし、本作は一番の注目曲は、アラバマ・シェイクスのヴォーカル、ブリタニー・ハワードが参加したタイトル曲”Darkness and Light”だ。スワンプ・ロックを彷彿させる、重くゆったりとしたドラムに、エフェクトを抑え気味にしたギターを加えた伴奏の上で、ゴスペル仕込みのパワフルな歌声を惜しみなく披露したこの曲は、デビュー当時の彼を思い起こさせる、泥臭いパフォーマンスが印象的だ。だが、この曲の面白いところは、泥臭いサウンドに、透き通ったシンセサイザーのリフを絡ませたことだろう。70年代のサザン・ソウルっぽいドロドロとした演奏に、音楽制作では欠かせないものになったデジタル楽器の音色を加えることで、懐かしいけど新しいR&B作品に纏め上げたことは、特筆すべきだと思う。
ダフト・パンクやマーク・ロンソンが70年代、80年代のサウンドを現代に作り変えたサウンドで成功を収め、ロバート・グラスパーがヒップホップの手法を取り入れてジャズの世界をリードするようになった2016年。時代や地域の枠を超えて、色々なジャンルの音楽が混ざり合い、新しいサウンドを生み出す時代を象徴するようなアルバム。モータウンやスタックスが広め、各地のミュージシャンに引き継がれてきたソウル・ミュージックを、2016年の音楽シーンに適合する形でリメイクした魅力的な作品だろう。
Producer
Blake Mills, John Ryan, Greg Kurstin, Miguel, BloodPop. Ludwig Göransson, The Belle Brigade, Eg White
Track List
1. I Know Better
2. Penthouse Floor (feat. Chance the Rapper)
3. Darkness and Light (feat. Brittany Howard)
4. Overload (feat. Miguel)
5. Love Me Now
6. What You Do to Me
7. Surefire 08. Right By You (for Luna)
9. Temporarily Painless
10. How Can I Blame You
11. Same Old Story
12. Marching Into the Dark