1992年にイマチュア(後にIMXに改名)のリード・シンガーとしてデビュー。2003年以降はソロ・シンガーとしても6枚のアルバムを残している、ロス・アンジェルス出身のシンガー、マーカス・ヒューストン。甘酸っぱい歌声と大人びたメロディが共存したイマチュア時代から、半裸のジャケット写真が象徴するような大人の色気が漂うヴォーカリストへと脱皮を遂げた彼の、新しいアルバム『White Party』からの先行シングル『Complete Me』が配信限定で発表された。

この曲を聴いて、まず驚かされるのは、一気に豊かになった彼の声量だ。これまでの彼は、どちらかといえば線の細い、柳の枝のようにしなやかな歌声を聴かせる、セクシーな歌手という印象だった。ところが、この曲では、逞しい歌声を張り上げ、シスコ(ドゥー・ヒル)やジョーといった、2000年前後に一世を風靡した力強い歌声が魅力のバラーディアの影響が垣間見える、本格的なソウル・シンガーに成長したことがうかがえる。

また、忘れてはならないのが、大きく成長した彼の歌声の魅力を引き出している、プロデューサーのイマニュエル・ジョーダン・リッチの存在。シャナチーから発売された前作『Famous』でも辣腕を振るっていた彼は、本作でもその実力をいかんなく発揮している。

ピアノの伴奏をバックに、物悲しいメロディを歌うところから始まり、ハリウッド映画のサウンドトラックを彷彿させる重厚なオーケストレーションを挟んで、再びピアノと歌の演奏に戻る。最近のブラック・ミュージック界隈では珍しい、オーソドックスでシンプルな構成の作品だが、リッチは、それぞれの場面を主役の歌を引き立てるための道具として活用し、各場面にマーカスの見せ場を用意することで、壮大でロマンティックなバラードに仕立て上げている。

本作とはだいぶ曲調が異なるが、この曲を聴くと、シスコの”Incomplete ”や、ジョーの”Thank God I Found You”に次ぐ、名バラードをマーカスが生み出すのではないかと期待してしまう。

過去の音楽へのオマージュや、前衛音楽や実験音楽に触発された斬新な試みを行うミュージシャンが目立つ中、歌一本で勝負できるシンガーがまた一人登場した。早く新作が聴きたいなあ。

Producer
Immanuel Jordan Rich