ダフトパンクやマーク・ロンソン、メイヤー・ホーソンなどの活躍で、往年のソウル・ミュージックが再び注目を集める中、少々影が薄くなった感じもする、90年代に流行した打ち込みやサンプリングが主体のR&B。だが、当時活躍していたミュージシャンの近況に目を向けると、ブランディやジョーはコンスタントに新作を発表しながら、ステージにも立ち続け、アフター7 やアズ・イェットなどの、90年代に活躍していたヴォーカル・グループは、実に十数年ぶりとなるオリジナル・アルバムをリリースするなど、リアルタイムで彼らの音楽に慣れ親しんだ世代を主なターゲットに、活発な動きを見せている。

そんな中、90年代のR&Bから強い影響を受けたという若いシンガー・ソングライター、デイマー・ジャクソンが、5曲入りのミニ・アルバムを携えて音楽シーンに姿を現した。

フランスの古城のような美しい建築と、「ハング・ジャイル」と呼ばれるほど劣悪な待遇で有名な、ボルガール刑務所があるルイジアナ州の都市、デリッダー出身の彼は、子供のころから教会で歌い、キーボードを中心に多くの楽器を習得してきた多芸多才なミュージシャン。影響を受けたアーティストに、ドネル・ジョーンズやルーシー・パールの名を挙げる彼は、90年代のR&Bから影響を受けた楽曲を作りながら、ボビー・ヴァレンティノやクリセット・ミッシェルなどと同じステージに立ってきた、経験豊かな新人。

さて、このアルバムに耳を傾けると、オープニングを飾る”Calling Me”では、R.ケリーの”Bump n' Grind”とジョーの”I Wanna Know”を混ぜ合わせたような、緊張感あふれるビートをバックに、去りゆく恋人への思いをつづった、切羽詰まった男の心境が見事に表現されている。この曲ひとつを取っても、彼が90年代のR&Bをしっかりと研究してきたことがよく伝わってくる。

続く”Crazy”はLSGの”My Body”を薄口にしたような、程よくドロドロとしたトラックがたまらないスロー・ナンバー。ヴォーカルに少しだけエフェクターをつかって、キース・スウェットのような癖のある声を再現したところに、彼の遊び心とセンスの良さを感じる。

また、数少ないミディアム・ナンバー”Dance”は、彼に多大な影響を与えたルーシー・パールの”Dance Tonight”のリメイク。シンセサイザーが中心の伴奏は、ルーシー・パールのそれとは異なるが、ラファエル・サディークのように、場面ごとに異なる声色を使い分けるデイマーと、クレジットには名前が載っていないが、ドーン・ロビンソンのパートを歌う女性ヴォーカルの、少し気怠い雰囲気もきちんと取り入れている。オリジナルの空気を見事に再現した良質なカヴァーだ。

一方、本作のハイライトであるスロー・ナンバー”Juicy”では、ジャギド・エッジを彷彿させるバスドラムとチキチキという音を強調したビートの上で、エフェクターを効かせた声を幾重にも重ねた、一人ヴォーカル・グループと呼びたくなるような演奏。キース・スウェットが作るようなロマンティックなメロディが光る素晴らしいバラードだ。

アルバム全体を通して聞くと、ブルーノ・マースやジョン・レジェンドが過去の音楽を参考にしつつ、現代の音楽シーンで通用する独自のサウンドを生み出したように、デイマーも90年代のR&Bを踏襲しつつ、そこから21世紀に通用するサウンドが生み出せないか、模索しているように見える。
粗削りな部分がちらほら見えるのは気になるが、彼の緻密な研究と大胆な発想には、それ以上に期待が持てる。今後の展開が楽しみな、魅力的な新人だと思う。
Producer
Damar Jackson

Track List
1. Calling Me
2. Crazy
3. Dance
4. Juicy
5. Good Thing