melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

Alternative R&B

Eaeon - Fragile [2021 Mot Music]

レディオヘッドを彷彿させる幻想的なサウンドで、インディ発ながら多くの好事家を引きつけてきた韓国の2人組バンドMOT。

グループが2012年に活動を休止したあとも、ヴォーカルeAeon(イ・イオン)は個人として活動を続け、2018年にはBTSのRMのソロ・アルバム『mono.』に収録された"badbye"でコラボレーション。「韓国のジェイムス・ブレイク」と例えられる神秘的な演奏で、世界屈指のスターの作品に強いインパクトを残した。

約10年ぶりとなる新作の目玉は、"badbye"での客演のお礼とばかりに、RMが参加した"Don't"だ。シンセサイザーとギターやベースを組み合わせた重厚な伴奏をバックに、感情を吐き出すイ・イオンと、優しく語りかけるRMのラップの対比が光る。"badbye"が好きな人は是非聴いてほしい佳曲だ。

それ以外の曲も、ピアノを使った弾き語りにシンセサイザーで彩りを添えた"Bye Bye"や、電子楽器の音色の上で言葉を紡ぐ"Maybe"、コンピュータが作り出す幻想的な音をバックに朗々と歌う"Btfl Mind"など、新しい機材を使って、イ・イオンが生み出す繊細なメロディとみずみずしいヴォーカルを盛り上げる曲が多い。

欧州で盛んなフォークとエレクトロニカ、ソウルとエレクトロニカを融合させるスタイルを、韓国のポップスに適用しようとした野心的な作品。 世界屈指の人気スターになった BTSのリーダーが惚れ込むことも納得の、美しいメロディと緻密な演奏、前衛的なサウンドが堪能できる良作だ。

Producer
eAeon etc

Track List
1. Don't feat. RM
2. Bye Bye
3. I Just
4. Evermore
5. Let's Get Lost
6. Mad Tea Party feat. Swervy
7. Btfl Mind
8. I Wonder
9. Null feat. Jclef
10 Maybe




Bye Bye
Motmusic
2021-04-30


Khruangbin & Leon Bridges - Texas Sun [2020 Dead Ocean]

タイの音楽とアメリカのサイケデリック・ロックやフォーク音楽を融合したユニークな作風が注目を集め、2015年に初のスタジオ・アルバムをリリースして以来、着実にファンを増やしてきたテキサス出身の3人組、クルアンビン。

タイ語で「空飛ぶエンジン」(=飛行機)という意味の同バンドは、タイの音楽が持つ独特のファンクネスやサイケデリック要素を活かした演奏スタイルと、ベース担当のローラ・リーがヴォーカルを担当する歌もの、インストゥルメンタルの作品の両方をこなせる音楽性の幅が強味。2019年には初の来日公演とフジロックフェスティバルへの出演を成功させるなど、その人気は世界に広がっている。

本作は2018年の『Con Todo El Mundo』や同作のダブ盤『Hasta El Cielo』以来となる新作。今回はゲスト・ヴォーカルとして現代のサム・クックとも称される同郷のグラミー賞シンガー、リオン・ブリッジスを招き、彼らが得意とするファンクと、リオンが取り組んできた往年のスタイルのソウル・ミュージックを組み合わせた作品に挑戦している。

アルバムのオープニングを飾るタイトル曲”Texas Sun”は、淡々とリズムを刻むドラムとベース、一音一音をつま弾くように演奏するギターの上で、しんみりと歌うリオンの姿が心に残るミディアム・ナンバー。ソウル・ミュージックやファンクというよりも、フォーク・ソングのように一つ一つの言葉を丁寧に紡ぎだすヴォーカルの存在感が光る曲だ。ビル・ウィザースや映画「シュガーマン」で取り上げられたロドリゲスのような、フォーク・ソングとソウル・ミュージックの美味しいところを取り込んだ音楽性が面白い。

続く”Midnight”は、フォーク・ソングの要素を取り入れつつ、色々な楽器の音色を取り入れて華やかな雰囲気を演出したスロー・ナンバー。ソウル・ミュージックとフォーク・ソングの融合という意味では”Texas Sun”にも似ているが、こちらはビル・ウィザーズの『Just As I Am』のようなフォーク色の強いものではなく、『Still Bill』のように色々な音を取り入れたソウル、ポップス色の強いものになっている。

これに対し、”C-Side”では太いベースの音色と、派手なパーカッションの音色を組み合わせた演奏が光るアップ・ナンバー。ランD.M.C.の”Peter Piper”を彷彿させる煌びやかな上物と、腰を刺激するグルーヴが格好良い。この伴奏の上で、『What’s Going On』のマーヴィン・ゲイやマックスウェルのようにしっとりと歌うリオン・ブリッジのヴォーカルも気持ちいい。今までありそうでなかったタイプの曲だ。

そして、本作の最後を締める”Conversion”は、リオン・ウェアの『Leon Wear』や『Musical Massage』を連想させる艶めかしい伴奏と、オーティス・レディングの”Try A Little Tenderness”をもっとシックにしたような、切ない雰囲気のヴォーカルが心に響くスロー・ナンバー。リオン・ブリッジの作品ではあまり耳にしない70年代のソウル・ミュージックのような洗練されたサウンドと、クルアンビンの音楽ではあまり耳にしない60年代以前の武骨なヴォーカルの組み合わせが新鮮だ。相手の持ち味を取り込み、自身の魅力を引き出した、コラボレーションの醍醐味を楽しめる楽曲だ。

本作は、白人のサイケデリック・バンドと黒人のソウル・シンガーのコラボレーションでありながら、スライ&ザ・ファミリー・ストーンやジミ・ヘンドリックス、ファンカデリックのような、黒人のサイケデリック・ミュージックとは一線を画したものになっている。それは、彼らが東南アジアのファンクやサイケデリック・ロックという、外国人のフィルターを噛ませた音楽から影響を受けていることや、リオン・ブリッジが60年代以前の泥臭いソウル・ミュージックを土台にしていることが大きいと思う。もっと言えば、他の人とは異なるユニークなスタイルを武器にしている両者が組んだからこそ、単なるサイケデリック音楽+ソウル・ミュージックの組み合わせとは一味違う、バラエティ豊かな音楽が生まれたのだろう。

単なる懐古趣味とは対極の、故い音楽を温ねて新しい音楽を想像した魅力的なソウル作品。4曲と言わず、もっと多くの作品を録音してほしい、そう思わせる説得力と魅力にあふれた傑作だ。

Track List
1. Texas Sun
2. Midnight
3. C-Side
4. Conversion



Texas Sun
KHRUANGBIN & LEON BRIDGES
DEAD OCEANS
2020-02-07

6lack - East Atlanta Love Letter [2018 LoveRenaissance, Interscope]

ドレイクのように新しいサウンドを乗りこなし、歌とラップを織り交ぜたスタイルを繰り出すアーティストや、トレイ・ソングスのように、シンプルなトラックの上で、歌声とメロディを丁寧に聴かせるスタイルのシンガー、はたまた、ボーイズIIメンのように往年のソウル・ミュージックの良さを現代に蘇らせる手法がウケているベテランなど、様々なスタイルのシンガーが凌ぎを削るアメリカのR&B市場。その中で、独特のスタイルで頭角を現しているのが、ジョージア州アトランタ出身のシンガー・ソングライター、スラックこと、ロドリゲス・バルデス・ヴァレンティン。

フロー・ライダーが経営するレーベルと2011年に契約すると、大学を中退し、音楽ビジネスを学びながら、楽曲を制作。一時期はマイアミで自身の音楽レーベルも経営していた。

そんな彼は、2015年にインタースコープ参加のラブルネッサンスと契約。2016年にアルバム『Free 6lack』をリリースすると全米総合アルバム・チャートの34位に入り、ゴールド・ディスクを獲得。収録曲の”Prblms”はダブル・プラチナに認定され、グラミー賞にノミネートするなど、気鋭のシンガー・ソングライターとして高い評価を受けた。

このアルバムは前作から2年ぶりとなる彼にとって2枚目のスタジオ・アルバム。2017年にリリースされた、タイ・ダラ・サインカリードが客演した”OTW”などは未収録なものの、多くの新録曲を収録、フューチャーやミーゴスのオフセットやJ.コールなどの豪華なゲストが参加し、T-マイナスやStwoなどが制作に関わった力作になっている。

本作の1曲目は、フランスのプロデューサーStwoが制作に携わった”Unfair”。ケイトラナダやジョルジャ・スミスの作品も手掛けているStwoの繊細なバック・トラックと、スラックの物悲しい歌声の組み合わせが心地よいミディアム・ナンバー。エレクトロ・ミュージックやヒップホップと、マックスウェルやディアンジェロのような現代のソウル・シンガーの音楽を融合した面白い曲だ。

これに対し、ジャスティン・ビーバーやドレイクなどを手掛けているカナダのクリエイター、T-マイナスが制作に関与した”Pretty Little Fears”は、語り掛けるようなJ.コールのラップと、ささやきかけるような歌声が絡みあう切ない雰囲気のミディアム・バラード。極端に音数の少ないトラックは、電子音楽のクリエイターの作品かと錯覚させる。

また、本作に先駆けて発売されたシングル曲”Switch”は、サム・スミスやカリッドなどのキャッチーなR&Bを作ってきた、ニュージーランドの作家、ジョー・リトルを起用した楽曲。90年代中期のヒップホップのような、粗削りな音を使った伴奏と、派手ではないが味わい深いメロディを丁寧に歌い込むヴォーカルが心に残るミディアム・ナンバー。音数を絞り込み、音と音の隙間を効果的に聴かせるスタイルは、ジェイ・ディラやディアンジェロの音楽にも似ている。90年代に一世を風靡した手法を、現代向けにアップデートした技術が光っている。

そして、本作のリリース直前に発表された”Nonchalant”は、Stwoがトラック・メイクを主導した作品。電子音を組み合わせたトラックはFKJムラ・マサの音楽にも似た神秘的な雰囲気を醸し出している。その上に乗る、歌ともラップとも詩の朗読とも形容しがたい、微妙な抑揚で紡がれる言葉が心に残る良曲だ。

今回のアルバムは、前回の路線を踏襲しつつ、トラックやヴォーカルのアレンジを前作以上に練り込んだ印象がある。音楽投稿サイトで話題になるような、尖った作風の電子音楽やヒップホップのエッセンスを盛り込みつつ、大衆向けのキャッチーで洗練されたR&Bに落とし込む、この新鮮さと安心感の絶妙なバランスが本作の良さだと思う。

YouTubeや大規模な音楽フェスの隆盛によって、「リスナーにどれだけ新鮮な印象を与えるか?」ということに重きを置くミュージシャンが多い中、細部にまで気を配った曲作りと、丁寧なパフォーマンスでリスナーの耳目を惹いた個性的な作品。歌で勝負するR&Bの原点に立ち返りつつ、楽曲全体で新鮮さを感じさせる曲作りが光る佳作だ。

Producer
Stwo, T-Minus, JT Gagarin, Bobby Johnson, DJDS, Joel Little etc

Track List
1. Unfair
2. Loaded Gun
3. East Atlanta Love Letter feat. Future
4. Let Her Go
5. Sorry
6. Pretty Little Fears feat. J. Cole
7. Disconnect
8. Switch
9. Thugger's Interlude
10. Balenciaga Challenge feat. Offset
11. Scripture
12. Nonchalant
13. Seasons feat. Khalid
14. Stan






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