melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

女性グループ

ITZY - Guess Who [2021 JYP Entertainment]

オーナーであるJ.Y.パクを筆頭に、個性豊かなタレントを擁する、韓国の3大芸能事務所の一つ、JYPエンターテイメント

その人材の豊富さは、現在はAOMGとH1GHR Musicを率いて、韓国とアメリカの音楽シーンの橋渡しをしているジェイ・パクを世に出した2PM、中国を代表するヒップホップ・アーティストとして、世界を舞台に活動するジャクソン・ワンが所属するGot7、デビュー数ヶ月で多くの記録を打ち立てた、メンバー全員が日本出身のNiziUといった、出身者の顔ぶれを見てもわかるだろう。

同事務所からデビューしたITZY(イッジ)は、韓国出身の女性5人組。全員が2000年以降に生まれた若いグループながら、全員が3〜5年の研修生期間を経験した実力派だ。

2019年にEP『IT'z Different』でデビューすると、キュートな歌声と安定したパフォーマンスで台頭。翌年にはレゲトンやトラップの要素を取り入れた"Not Shy"が複数の国でヒット。人気グループの仲間入りを果たした。

前作から約8ヶ月という短い間隔でリリースされた本作は、本格的な海外進出を意識したのか、"Not Shy"の路線を踏襲、深化した曲が目立つ。

アルバムに先駆けて公開されたシングル曲"In the Morning"は、ブラックピンクの"Ddu-du Ddu-du"を彷彿させる、トラップ・ビートを使ったミディアム・ナンバー。J.Y.パクが作者に名を連ねた曲が、最先端のサウンドを取り入れている点は興味深い。

他にも、マディ・ウォーターズを思い起こさせる荒々しいギターと、90年代のティンバランド作品っぽいチキチキ・ビートを組み合わせた "Sorry Not Sorry"、イギリスのプロデューサーを起用して、バチャータやマンボを取り入れた"Shoot!"など、ヒップホップやラテン音楽のような、アメリカで人気のあるサウンドが光っているのが本作の特徴だ。

ここにきて大きく路線を変えられたのは、彼女達の高い実力によるところもあるが、グループのスタイルによるところも大きい。

ガールズ・グループにはスパイスガールズやTLCのように、各メンバーの個性を強く打ち出すものと、リトル・ミックスやフィフス・ハーモニーのように、メンバー全員でグループの個性を表現するものがある。彼女達の場合は、5人でグループの個性を確立する典型的な後者なのだ。5人が一体となって、互いの強みを活かし、弱みを補いながらグループの個性を発揮するスタイルのおかげで、音楽性の変化にも柔軟に対応している。これができるのも、厳しい研修生生活で身につけた高い技術と、タレントの個性と人格を大切にするJYPの文化で育ったからだろう。

彼女達の音楽からは、芸能事務所がタレントを育て、グループを作って送り出すアジアの手法の強みを再確認できる。チーム故に柔軟に変化できる彼女達と、それを支えるスタッフの実力が遺憾無く発揮された良作だ。

Producer
J.Y.Park, LYRE, 
  • earattack, 
  • KASS, 
  • Lee Hae-sol etc


  • Track List
    1. .In the morning

    2. Sorry not sorry

    3. Kidding me

    4. Wild wild west

    5. Shoot!

    6. Tennis (0:0)





     

    E-girls - My Way feat. FIRE BALL, MIGHTY CROWN & PKCZ® [2018 Rhythm Zone, avex]

    EXILEを筆頭に、三代目J Soul BrothersやGenerations、Rampageなどの個性的なグループを輩出する一方、DOBERMAN INC(現在のDOBERMAN INFINITY)やm-flo、Crystal Kayといった、叩き上げのヒップホップ、R&Bアクトを巻き込んで拡大を続けるLDH。同エージェント初の女性グループがE-girlsだ。

    「EXILEのDNAを受け継ぐガールズ・グループ」をコンセプトに結成された彼女達は、ヒップホップに根差したダンスやヴォーカルと、ファッション・モデルとして活躍するメンバーもいる端麗な容姿が強み。2013年に”Celebration!”(Cool & The Gangの同名作品とは別曲)でレコード・デビューすると、2017年までにリリースした4枚のスタジオ・アルバムが、オリコンのアルバム・チャートの1位を獲得し、ゴールド・ディスクに認定されるなど、LDHの看板グループのひとつとして活躍してきた。

    本作は、2018年2月の”Pain, pain”以来となる、通算23枚目のシングル。彼女達にとって、初の配信限定作品であり、初のコラボレーション・シングルでもある。このシングルでは、99年のWorld Clash in NYを皮切りに、世界中のサウンド・クラッシュを制覇し、アジアを代表するサウンド・システムとして知られているMighty Crownと、同システムのメンバーからなるレゲエ・グループ、Fire Ball、m-floのVerbalや元EXILEのDJ MAKIDAIなどからなるヒップホップ・ユニット、PKCZ® と組んでいる。

    タイトル・トラックの “My Way”は、ダブを連想させる強烈なエフェクトをかけた、ゆったりとしたテンポのリディムと、彼女達の妖艶な歌声から始まるダンス・ナンバー。Mighty Crownの手による高揚感のあるリディムと、荒々しいFIRE BALLのDJ、E-girlsのエネルギッシュなパフォーマンスが合わさった、格好良いダンスホール・レゲエ作品に仕上がっている。

    これに対し ”Let’s Feel High”は、グラマラスなリディムの上で、FIRE BALLとPKCZ®の面々が個性豊かなパフォーマンスを繰り出す華やかな作品。フックを担当するE-girlsの荒々しいヴォーカルは、百戦錬磨のゲストたちのパフォーマンスにも見劣りしない迫力がある。どちらの作品も、Mighty Crownの作品と勘違いしそうな、尖ったリディムを採用している点も面白い。

    このシングルを聴いてて感じたのは、彼女達とLDHの大胆で緻密な曲作りと戦略だ。男性DJを起用することが多いMighty Crownと組むことで、彼らの作品とも、彼女達の作品とも一線を画した、新鮮で独創的な曲を生み出している。また、配信限定の楽曲として尖ったレゲエ音の作品を発表することで、「CDの売り上げ」で判定される日本のヒット・チャートの呪縛から逃れつつ、世界中の音楽好きに向けて、彼女達の存在をアピールすることに成功していると思う。

    ポップス界の一線で活躍するグループとは思えない、本格的なレゲエのサウンドと、彼女達の魅力であるキャッチーでスタイリッシュなR&Bが融合した、異色の作品。日本でも本格的なダンスホール・レゲエがポップスのいちジャンルとして受け入れられるのではないか?そんな期待を抱かせる良曲だ。

    Producer
    Mighty Crown

    Track List
    1. My Way feat. FIRE BALL, MIGHTY CROWN & PKCZ®
    2. Let’s Feel High feat. FIRE BALL, MIGHTY CROWN & PKCZ®





    VanJess - Silk Canvas [2018 VanJess]

    ナイジェリア生まれ、カリフォルニア州育ちのジェシカとイヴァンナの姉妹によるヴォーカル・グループ、ヴァンジェス。

    2009年頃から活動を開始。当初はレディ・ガガやアリアナ・グランデのヒット曲を、息の合った歌で本格的なR&B作品に生まれ変わらせていた。その後は、2012年あたりから「Louder than Words」や「Lights Camera Cure」などのプロジェクトに関わりながら、多くのステージを経験。2016年以降は2か月に1曲のペースで、オリジナルのシングルをリリースしてきた。

    このアルバムは、彼女達にとって初のスタジオ・アルバム。2017年以降にリリースされた楽曲をほぼ全て収録した本作は、配信限定の自主制作アルバムながら、リトル・シムズやG-イージーなどの作品に携わっているアイアムノーバディーや、自身もミュージシャンとして活躍する一方、ヴァネッサ・ホワイトなどの作品にも参加しているクロエ・マルティーニといった、気鋭のクリエイターが集結。尖ったサウンドと落ち着いた歌声が織りなす、独特の世界を展開している。

    本作の収録曲で最初に目を惹くのは、2曲目の”Control Me”。本作の発売と同時にシングル・カットされたこの曲は、ドイツのデュッセルドルフ出身、現在はロス・アンジェルスを拠点に活動するアイアムノーバディーが制作を担当。ずっしりと重い電子ドラムの音と、音量こそ小さいが輪郭のはっきりしたストリングスのような伴奏を組み合わせた神秘的なトラックの上で、歌というより、詩を読むような硬い声で言葉を紡ぐ二人の姿が心に残るミディアム・ナンバー。ニッキー・ジョヴァンニを彷彿させる鋭い声質のメロディから、エリカ・バドゥを思い起こさせる艶めかしい歌声のサビに繋がる展開が聴きどころ。

    これに続く”Touch the Floor”は、クロアチア出身のクロエ・マルティーニなどがプロデュースし、キングストン出身のシンガー兼サックス奏者、マセーゴをフィーチャーした作品。ウェイン・マーシャルの”Check Yourself”などに使われたことでも知られるリディム、”Masterpiece”っぽいビートのダンス・ナンバーだ。癖の強いビートにも関わらず、ラップではなく、ジャネイを連想させる、高音中心の爽やかなメロディを丁寧に歌う二人の姿が光っている。難解なトラックを優雅に歌う二人の高い実力が心に残る良曲だ。サックスで参加したマセーゴもいい味を出している。

    また、”Touch the Floor”のプロデューサーにも名を連ねている、ジェイ・オエバデージョとアイアムノーバディーが共同で制作した”Addicted”は、シンプルなトラックとゆったりとしたメロディが心地よいミディアム・ナンバー。音数を最小限に絞ったビートと洗練された歌声の組み合わせは、シーザシドといった、現代の人気R&Bシンガーの音楽に通じるものがある。似ているようで微妙に違う声質の二人の歌声が、ソロ・シンガーの曲にはない、複雑なメロディを生み出している。

    そして、プラチナ・ディスクに認定されたヒット曲や、グラミー賞のノミネートも経験しているワシントンD.C.出身のラッパー、ゴールドリンクを招いた”Through Enough “は、電子楽器で90年代のヒップホップのビートを再現した刺激的なトラックが格好良い曲。スタイリッシュなヒップホップのビートに、流れるようなヴォーカルの組み合わせた手法は、ジャネイの”Hey Mr. D.J.”に凄く似ている。ケイトラナダとも組んだことがあるゴールドリンクが、電子音を多用した、洗練されたビートも違和感なく乗りこなしている点も面白い。BTSの”Paradice”を手掛けたことも話題になった、ローファイルことタイラー・アコードが作ったトラックも含め、全ての面で本作の目玉と言っても過言ではない曲だ。

    このアルバムを聴いていると、洗練されたメロディと巧みな節回しで多くのリスナーを魅了したジャネイやフロエトリーといった女性デュオのことを思い出す。しかし、ヴァンジェスが偉大な先輩たちと違うのは、電子楽器の音色を強調した前衛的な作風でありながら、ヒップホップのリズミカルなビートと、R&Bの複雑でダイナミックなメロディを同居させているところだ。最先端のサウンドを積極的に取り入れながら、昔のR&Bを思い起こさせるスタイルが、彼女達の音楽の魅力だと思う。

    斬新なトラックに対応するため、ラップのような起伏の少ないメロディにシフトする歌手が多い中、複雑なビートに美しいメロディを乗せる二人の高いヴォーカル・スキルは、もはや自主制作の枠を超えている。じっくりと歌を聴かせる90年代以前のR&Bのスタイルを踏襲しつつ、最先端のサウンドを取り入れた彼女達の音楽は、新しい音が好きな人も、昔のR&Bが好きな人も魅了しそうだ。

    Producer
    Chloe Martini, KAYTRANADA, Lophiile, Louie Lastic, Ogee Handz, Jay "Kurzweil" Oyebadejo etc

    Track List
    1. My Love
    2. Control Me
    3. Touch the Floor feat. Masego
    4. Filters
    5. Honeywheat
    6. Addicted
    7. Cool Off the Rain (Interlude)
    8. Through Enough feat. GoldLink
    9. Another Lover
    10. 'Til Morning
    11. Best Believe
    12. The One
    13. Easy feat. Berhana & Leikeli47
    14. Rewind Time feat. Little Simz






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