68年に、自身の名前を冠したアルバム『Taj Mahal』でメジャー・デビュー。ジャズやソウル、カリプソやゴスペルなど、色々な音楽を飲み込んだスタイルと高い演奏技術で注目を集め、69年にはローリング・ストーンズが制作した映画「The Rolling Stones Rock and Roll Circus」に出演。92年にはライ・クーダとのコラボレーション・アルバム『Rising Sons』を発表するなど、50年に渡って音楽業界の一線で活躍してきた、ニューヨーク出身のシンガー・ソングライター、タジ・マハルことヘンリー・セントクレア・フレデリックス。
かたや、80年にケヴィン・ムーアの名義で発表したアルバム『Rainmaker』でレコード・デビュー。その後は、ブルースやカントリー、ゴスペルなどへの造詣を活かした作風で、3度もグラミー賞を獲得。2015年にはバラク・オバマ大統領(当時)がホワイト・ハウスで開催したコンサートに、アッシャーやスモーキー・ロビンソン、トロンボーン・ショーティーなどと一緒に出演したことも話題になった、サウス・ロス・アンジェルス出身のシンガーソングライター、ケブ・モことケヴィン・ルーズベルト・ムーア。
双方ともに長いキャリアと豊富な実績を誇り、確固たる個性を打ち出してきた二人による、初のコラボレーション作品が、このアルバムだ。
ケブ・モーのレコード・デビューをタジ・マハルが口添えし、ステージでは何度も共演するなど、これまでにも多くの接点があった二人だが、1枚のアルバムを一緒に作るのはこれが初めて。近年も、ヴァレリー・ジューンやウィリアム・ベル、エスペランザ・スポルディングといった、大人向けのアーティストが新作を発表しているコンコードからのリリースで、二人の持ち味ともいえる雑食性が発揮されたブルース作品になっている。
アルバムの1曲目を飾る”Don't Leave Me Here”は、ビリー・ブランチの泥臭いブルース・ハープで幕を開けるミディアム・ナンバー。マディ・ウォーターズを彷彿させる荒々しいヴォーカルは、60年代初頭のチェス・レコードの作品を思い起こさせる。しかし、サデアス・ウィザスプーンの重々しいドラムや、3人のホーン・セクションによる重厚な伴奏のおかげで、当時の作品にはない華やかさと高級感が漂っている。
これに対し、ケブ・モーが主導した”All Around The World”は、軽快な伴奏と力強い歌声の組み合わせが心地よいポップなミディアム・ナンバー。フランク・ザッパやオドネル・リーヴィーなどの作品に参加している大ベテラン、チェスター・トンプソンがドラムを担当し、マイケルB.ヒックスが軽妙なキーボードの演奏を聴かせるポップな楽曲。ドン・ブライアントやウィリアム・ベルにも通じる泥臭い歌を聴きやすい音楽にアレンジしてみせる、彼らの編集能力が光る曲だ。
一方、ヴァーブやコンコードからアルバムを発表している、ジャズ・シンガーのリズ・ライトをフィーチャーした”Om Sweet Om”は、フォークソングの要素を取り入れた、牧歌的な雰囲気が印象的な曲。チェスター・トンプソンやブルースハープ担当のリー・オスカーといった、ジャズ畑のミュージシャンと、キーボードのフィル・マデイラやパーカッションのクリスタル・タリフェロなど、ロックやポップスに強いミュージシャンを組み合わせることで、ゆったりとした雰囲気を保ちつつも、正確で隙のない、ハイレベルなパフォーマンスを聴かせている。
そして、二人の持ち味ともいえる雑食性が最大限発揮されたのが”Soul”だ。サデアス・ウィザスプーンやマイケルB.ヒックスに加え、シーラE.がパーカッションで参加。タジ・マハルがウクレレやバンジョーを担当したこの曲は、ハワイアンともカリプソとも異なる、陽気で泥臭いサウンドが心地よい曲。どのジャンルにも分類できないが、聴きやすく、楽しい雰囲気の音楽が多い彼ららしい佳曲だ。
今回のアルバムでは、コラボレーション作品に多い、意外性に富んだ楽曲は少なく、どちらかといえば、二人の音楽性が上手く混ざり合った良曲が多い。両者の音楽性が、ブルースをベースにしつつ、色々な音楽を混ぜ込んだものという点も大きいだろう。しかし、華やかな音色の楽器を使って、重厚なブルースにポップな空気を吹き込むのが得意なタジと、ヴォーカルの良さを引き出す技術の高さが魅力のケブという風に、両者の強みが少しずつ違うこともあり、二人のスタイルをベースにしつつも、各人のソロ作品とは一味違う、独特の音楽を生み出している。
ブルースやゴスペル、ソウル・ミュージックなど、二人が親しみ、演奏してきたアメリカの色々な音楽を一枚のアルバムに凝縮した、濃密で充実した作品。アデルやメイヤー・ホーソンのように、往年のブラック・ミュージックから多くの影響を受けたアーティストが人気を集め、BTSがケブ・モーの"Am I Wrong"をサンプリングした楽曲をヒット・チャートに送り込むなど、ルーツ・ミュージックから影響を受けた音楽をたくさん聴くことができる現代。そんな時代だからこそ聴きたい、懐かしいけど新鮮なアルバムだ。
Producer
Keb' Mo', Taj Mahal
Track List
1. Don't Leave Me Here
2. She Knows How To Rock Me
3. All Around The World
4. Om Sweet Om
5. Shake Me In Your Arms
6. That's Who I Am
7. Diving Duck Blues
8. Squeeze Box
9. Ain't Nobody Talkin'
10. Soul
11. Waiting On The World To Change
かたや、80年にケヴィン・ムーアの名義で発表したアルバム『Rainmaker』でレコード・デビュー。その後は、ブルースやカントリー、ゴスペルなどへの造詣を活かした作風で、3度もグラミー賞を獲得。2015年にはバラク・オバマ大統領(当時)がホワイト・ハウスで開催したコンサートに、アッシャーやスモーキー・ロビンソン、トロンボーン・ショーティーなどと一緒に出演したことも話題になった、サウス・ロス・アンジェルス出身のシンガーソングライター、ケブ・モことケヴィン・ルーズベルト・ムーア。
双方ともに長いキャリアと豊富な実績を誇り、確固たる個性を打ち出してきた二人による、初のコラボレーション作品が、このアルバムだ。
ケブ・モーのレコード・デビューをタジ・マハルが口添えし、ステージでは何度も共演するなど、これまでにも多くの接点があった二人だが、1枚のアルバムを一緒に作るのはこれが初めて。近年も、ヴァレリー・ジューンやウィリアム・ベル、エスペランザ・スポルディングといった、大人向けのアーティストが新作を発表しているコンコードからのリリースで、二人の持ち味ともいえる雑食性が発揮されたブルース作品になっている。
アルバムの1曲目を飾る”Don't Leave Me Here”は、ビリー・ブランチの泥臭いブルース・ハープで幕を開けるミディアム・ナンバー。マディ・ウォーターズを彷彿させる荒々しいヴォーカルは、60年代初頭のチェス・レコードの作品を思い起こさせる。しかし、サデアス・ウィザスプーンの重々しいドラムや、3人のホーン・セクションによる重厚な伴奏のおかげで、当時の作品にはない華やかさと高級感が漂っている。
これに対し、ケブ・モーが主導した”All Around The World”は、軽快な伴奏と力強い歌声の組み合わせが心地よいポップなミディアム・ナンバー。フランク・ザッパやオドネル・リーヴィーなどの作品に参加している大ベテラン、チェスター・トンプソンがドラムを担当し、マイケルB.ヒックスが軽妙なキーボードの演奏を聴かせるポップな楽曲。ドン・ブライアントやウィリアム・ベルにも通じる泥臭い歌を聴きやすい音楽にアレンジしてみせる、彼らの編集能力が光る曲だ。
一方、ヴァーブやコンコードからアルバムを発表している、ジャズ・シンガーのリズ・ライトをフィーチャーした”Om Sweet Om”は、フォークソングの要素を取り入れた、牧歌的な雰囲気が印象的な曲。チェスター・トンプソンやブルースハープ担当のリー・オスカーといった、ジャズ畑のミュージシャンと、キーボードのフィル・マデイラやパーカッションのクリスタル・タリフェロなど、ロックやポップスに強いミュージシャンを組み合わせることで、ゆったりとした雰囲気を保ちつつも、正確で隙のない、ハイレベルなパフォーマンスを聴かせている。
そして、二人の持ち味ともいえる雑食性が最大限発揮されたのが”Soul”だ。サデアス・ウィザスプーンやマイケルB.ヒックスに加え、シーラE.がパーカッションで参加。タジ・マハルがウクレレやバンジョーを担当したこの曲は、ハワイアンともカリプソとも異なる、陽気で泥臭いサウンドが心地よい曲。どのジャンルにも分類できないが、聴きやすく、楽しい雰囲気の音楽が多い彼ららしい佳曲だ。
今回のアルバムでは、コラボレーション作品に多い、意外性に富んだ楽曲は少なく、どちらかといえば、二人の音楽性が上手く混ざり合った良曲が多い。両者の音楽性が、ブルースをベースにしつつ、色々な音楽を混ぜ込んだものという点も大きいだろう。しかし、華やかな音色の楽器を使って、重厚なブルースにポップな空気を吹き込むのが得意なタジと、ヴォーカルの良さを引き出す技術の高さが魅力のケブという風に、両者の強みが少しずつ違うこともあり、二人のスタイルをベースにしつつも、各人のソロ作品とは一味違う、独特の音楽を生み出している。
ブルースやゴスペル、ソウル・ミュージックなど、二人が親しみ、演奏してきたアメリカの色々な音楽を一枚のアルバムに凝縮した、濃密で充実した作品。アデルやメイヤー・ホーソンのように、往年のブラック・ミュージックから多くの影響を受けたアーティストが人気を集め、BTSがケブ・モーの"Am I Wrong"をサンプリングした楽曲をヒット・チャートに送り込むなど、ルーツ・ミュージックから影響を受けた音楽をたくさん聴くことができる現代。そんな時代だからこそ聴きたい、懐かしいけど新鮮なアルバムだ。
Producer
Keb' Mo', Taj Mahal
Track List
1. Don't Leave Me Here
2. She Knows How To Rock Me
3. All Around The World
4. Om Sweet Om
5. Shake Me In Your Arms
6. That's Who I Am
7. Diving Duck Blues
8. Squeeze Box
9. Ain't Nobody Talkin'
10. Soul
11. Waiting On The World To Change