ジェイミー・アイザックは、ロンドン南部のクロイドン出身のシンガー・ソングライター兼プロデューサー。
アデルやジェシーJ、フロエトリーの二人を輩出した芸術学校、ブリット・スクール時代に、後にキング・クルーとしてブレイクするアーチー・イヴァン・マーシャルと出会った彼は、多くの音楽プロジェクトを経験。その一方で、映像制作や脚本作りにも強い関心を抱くなど、好奇心旺盛な青年だった。
そんな彼は、2013年のEP『I Will Be Cold Soon』を皮切りに、年間1枚のペースで新作を発表。ビル・エヴァンスからビーチ・ボーイズまで、様々な音楽から触発された個性的な作風で、好事家から注目を集めてきた。
本作は、彼にとって2枚目のフル・アルバム。前作に引き続き、ヴォーカル、ソングライティング、プロデュースを彼自身が担当する一方、演奏にはルディ・クレスウィックやジェイク・ロングといった新しい面々も参加。電子音楽やジャズ、ロックやソウル・ミュージックを取り込み、融合させた独特のスタイルを深化させている。
本作の幕開けを飾る”Wings”は、ビル・エヴァンスを彷彿させるロマンティックなピアノと、ダニー・ハザウェイやロバータ・フラックのような、70年代のソウル・ミュージックを彷彿させる洗練されたリズム・セクション。ボサノバを取り入れたアレンジとメロディが心に残る、お洒落なミディアム・ナンバー。ジェイミーの繊細なヴォーカルを強調しつつ、スタイリッシュに纏め上げた曲作りが素敵。
続く”Doing Better”は、ヒップホップのビートと電子音楽のエッセンスを混ぜ合わせた、スロー・テンポのR&B作品。ごつごつとしたビートはディアンジェロの、電子音楽を組み合わせた抽象的なトラックはサンダーキャットの音楽性に近しいが、スマートで滑らかなヴォーカルはマックスウェルに似ているという不思議な作品。方向性の全く異なる演奏スタイルを吸収し、独創的な音楽に還元したジェイミーのセンスが光っている。
これに対し、3曲目の”Maybe”は、ボサノバと電子音楽の要素を強調した、優雅で前衛的な作風が印象的な曲。ソウル・ミュージックの要素は皆無だが、リスナーの琴線を刺激する哀愁を帯びたメロディと繊細なヴォーカルのコンビネーションは魅力的。ロックに強いミュージシャンを招いたことで、曲中にロック・ミュージシャンらしいアドリブを盛り込んでいる点も心憎い。
そして、本作の収録曲でも特に異彩を放っているのが”(04:30) Idler / Sleep”、ビル・エヴァンスのような優雅なピアノが心地よい伴奏に、声楽家のような女性の歌声や、壮年の男性による「Sleep」という声を挟み込んだ奇抜なアレンジと、ファルセットを多用した切ない雰囲気のヴォーカルを組み合わせが新鮮な曲だ。斬新な曲でありながら、緊張せず、リラックスして楽しめるのは、彼の美しい歌声と、優しい音色の楽器のおかげだろうか。
彼の音楽の魅力は、ジャズや電子音楽といった、多くの人を魅了する一方で、繊細さや複雑な表現に敷居の高さを感じるジャンルの手法を、わかりやすくかみ砕き、誰もが楽しめるポピュラー音楽として再構築しているところだ。テディ・ウィルソンやデイブ・ブルーベックのようなジャズ、ブライアン・ウィルソンのような先鋭的なポップス、クラシック音楽にも造詣の深い彼は、高度な演奏技術だけでなく、一つのスタイルを複数の視点から分析して、自分の楽曲に合わせた表現に組み替えている。この、多角的なものの見方と構成能力が、彼の音楽に独自性質をもたらしているのだろう。
高度で複雑な音楽を闇鍋のように一つの作品に放り込みながら、破綻させることなく、誰もが楽しめる魅力的なポップスとして楽しめる作品に落とし込んだ面白いアルバム。電子音楽ともロックとも異なる個性的なスタイルは、あらゆる人にとって新鮮な音楽に映るだろう。
Producer
Jamie Isaac
Track List
1. Wings
2. Doing Better
3. Maybe
4. (04:30) Idler / Sleep
5. Interlude (Yellow Jacket)
6. Eyes Closed
7. Slurp
8. Counts for Something
9. Melt
10. Drifted / Rope
11. Delight
アデルやジェシーJ、フロエトリーの二人を輩出した芸術学校、ブリット・スクール時代に、後にキング・クルーとしてブレイクするアーチー・イヴァン・マーシャルと出会った彼は、多くの音楽プロジェクトを経験。その一方で、映像制作や脚本作りにも強い関心を抱くなど、好奇心旺盛な青年だった。
そんな彼は、2013年のEP『I Will Be Cold Soon』を皮切りに、年間1枚のペースで新作を発表。ビル・エヴァンスからビーチ・ボーイズまで、様々な音楽から触発された個性的な作風で、好事家から注目を集めてきた。
本作は、彼にとって2枚目のフル・アルバム。前作に引き続き、ヴォーカル、ソングライティング、プロデュースを彼自身が担当する一方、演奏にはルディ・クレスウィックやジェイク・ロングといった新しい面々も参加。電子音楽やジャズ、ロックやソウル・ミュージックを取り込み、融合させた独特のスタイルを深化させている。
本作の幕開けを飾る”Wings”は、ビル・エヴァンスを彷彿させるロマンティックなピアノと、ダニー・ハザウェイやロバータ・フラックのような、70年代のソウル・ミュージックを彷彿させる洗練されたリズム・セクション。ボサノバを取り入れたアレンジとメロディが心に残る、お洒落なミディアム・ナンバー。ジェイミーの繊細なヴォーカルを強調しつつ、スタイリッシュに纏め上げた曲作りが素敵。
続く”Doing Better”は、ヒップホップのビートと電子音楽のエッセンスを混ぜ合わせた、スロー・テンポのR&B作品。ごつごつとしたビートはディアンジェロの、電子音楽を組み合わせた抽象的なトラックはサンダーキャットの音楽性に近しいが、スマートで滑らかなヴォーカルはマックスウェルに似ているという不思議な作品。方向性の全く異なる演奏スタイルを吸収し、独創的な音楽に還元したジェイミーのセンスが光っている。
これに対し、3曲目の”Maybe”は、ボサノバと電子音楽の要素を強調した、優雅で前衛的な作風が印象的な曲。ソウル・ミュージックの要素は皆無だが、リスナーの琴線を刺激する哀愁を帯びたメロディと繊細なヴォーカルのコンビネーションは魅力的。ロックに強いミュージシャンを招いたことで、曲中にロック・ミュージシャンらしいアドリブを盛り込んでいる点も心憎い。
そして、本作の収録曲でも特に異彩を放っているのが”(04:30) Idler / Sleep”、ビル・エヴァンスのような優雅なピアノが心地よい伴奏に、声楽家のような女性の歌声や、壮年の男性による「Sleep」という声を挟み込んだ奇抜なアレンジと、ファルセットを多用した切ない雰囲気のヴォーカルを組み合わせが新鮮な曲だ。斬新な曲でありながら、緊張せず、リラックスして楽しめるのは、彼の美しい歌声と、優しい音色の楽器のおかげだろうか。
彼の音楽の魅力は、ジャズや電子音楽といった、多くの人を魅了する一方で、繊細さや複雑な表現に敷居の高さを感じるジャンルの手法を、わかりやすくかみ砕き、誰もが楽しめるポピュラー音楽として再構築しているところだ。テディ・ウィルソンやデイブ・ブルーベックのようなジャズ、ブライアン・ウィルソンのような先鋭的なポップス、クラシック音楽にも造詣の深い彼は、高度な演奏技術だけでなく、一つのスタイルを複数の視点から分析して、自分の楽曲に合わせた表現に組み替えている。この、多角的なものの見方と構成能力が、彼の音楽に独自性質をもたらしているのだろう。
高度で複雑な音楽を闇鍋のように一つの作品に放り込みながら、破綻させることなく、誰もが楽しめる魅力的なポップスとして楽しめる作品に落とし込んだ面白いアルバム。電子音楽ともロックとも異なる個性的なスタイルは、あらゆる人にとって新鮮な音楽に映るだろう。
Producer
Jamie Isaac
Track List
1. Wings
2. Doing Better
3. Maybe
4. (04:30) Idler / Sleep
5. Interlude (Yellow Jacket)
6. Eyes Closed
7. Slurp
8. Counts for Something
9. Melt
10. Drifted / Rope
11. Delight