melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

Hip-Hop

Brockhampton - Roadrunner: New Light, New Machine [2021 RCA]

ケヴィン・アブストラクトがカニエ・ウエストのファン・コミュニティで知り合ったメンバーと結成した、「最強のボーイズ・バンド」、ブロックハンプトン。

ラッパーから音楽プロデューサー、スタイリストまで、様々なスキルのメンバーを揃えた彼らは、楽曲制作やビジュアル、映像作品やステージ上での演出まで、幅広く手がけていることで知られている。そのため、彼らのステージは、単なるパフォーマンスの場ではなく、五感を使って楽しむ総合芸術にも例えられるほどだ。

2年ぶりの新作となる今回のアルバムは、従来の路線を踏襲しつつ、発展させたもの。トラックやラップ、ミュージックビデオやパッケージまで、アルバムのほぼ全てに彼らが関与した力作だ。

収録曲の大部分では、サンプリングとコンピュータによる打ち込みを組み合わせ、90年代のヒップホップのローファイな雰囲気と、現代のヒップホップのハイファイなサウンドを見事に融合している。ウータン・クランから、クラウン・ハイヤーズ・アフェアーズまで、新旧の名曲をサンプリングし、ジェイペグマフィアのような若手からチャーリー・ウィルソンのような大ベテランまで、幅広く起用する姿勢からは、「時代に関係なく、良いものは良い」という強いメッセージすら感じさせる。

また、個性豊かな面々によるマイク・リレーは、ウータン・クランのタフさと、ビースティー・ボーイズのリズミカルなライム、エイサップ・モブの自由奔放なパフォーマンスが混ざり合い、独特の存在感を示している。この作品全体が醸し出す自由な空気と、曲の節々から溢れ出るエネルギーが、彼らの魅力なのだろう。

最強の"ボーイズ"バンドの異名に違わず、ヤンチャな心を持った各人の有り余るパワーと、各人のクリエイティビティが遺憾なく発揮されている。本作が6枚目のスタジオ・アルバムだが、彼らが「ベテラン」と呼ばれるのはまだ先のようだ。

Producer
Kevin Abstract, Romil Hemnani, Chad Hugo etc

Track List
1. BUZZCUT feat. Danny Brown
2. CHAIN ON feat. JPEGMAFIA
3. COUNT ON ME
4. BANKROLL feat A$AP Rocky and A$AP Ferg
5. THE LIGHT
6. WINDOWS feat. SoGone SoFlexy
7. I'LL TAKE YOU ON feat. Charlie Wilson
8. OLD NEWS feat. Baird
9. WHAT'S THE OCCASION?
10. WHEN I BALL
11. DON'T SHOOT UP THE PARTY
12. DEAR LORD
13. THE LIGHT PT. II
14. ROBERTO'S INTERLUDE
15. JEREMIAH
16. SEX
17. PRESSURE / BOW WOW feat. ssgkobe




ROADRUNNER: NEW LIGHT, NEW MACHINE
BROCKHAMPTON
Question Everything/RCA Records
2021-04-23



 

iKon - I Decide EP [2020 YG Entertainmen,avex]

アルバム『MADE』が全世界で500万枚を売上げ、2000年代、10年代を代表するボーイズ・バンドとして君臨し続けたビッグバンを筆頭に、「ガール・クラッシュ」という言葉が生まれる前から、「同世代の女性が憧れるガールズ・グループ」というスタイルで唯一無二の地位を築き上げた2NE1、彼女たちの路線を踏襲し、世界的な成功を納めたブラックピンクなど、多くの名グループを送り出してきた韓国の名門YGエンターテイメント

2016年に同社が送り出した男性グループ、iKONは、ソングライティングとラップを担当するB.I.、Bobbyを中心に、個性豊かな面々からなる7人組。中でも、ラップ担当の二人は、クラブ・シーンからのし上がってきた腕自慢のMCが多数参加している人気オーディション番組「Show Me The Money」で奮闘。デビュー前のアイドルの卵が、百戦錬磨のラッパー達を押しのけて優勝するという快挙を成し遂げた。

また、グループはデビュー後に韓国、日本、中国の三ヶ国で新人賞を獲得。2018年にリリースした”Love Senario”は、「観客と一緒に歌うヒップホップ」という、斬新なコンセプトと親しみやすいメロディが高く評価され大ヒット。全米アルバム・チャートを制覇したBTSや、アジアを中心に絶大な人気を誇るトゥワイスの作品を押しのけ、同年の韓国で最も売れたシングル曲になった。

しかし、2019年には自身のトラブルが原因で、リーダーのB.I.が脱退。その後は、グループの活動が停滞する中で、88ライジングが主催するイベントに出演するなど、試行錯誤の日々が続いた。

本作は、彼らにとって約1年ぶりとなる新作。本来は2019年中にリリースされる予定だったが、B.I.の脱退に伴って一度お蔵入りになったものだ。今回リリースされたものでは、彼が歌ったパートを別のメンバーの歌で録り直し、新曲を追加したものになっている。

アルバムのオープニングを飾る”Ah Yeah”はマーチング・バンドのリズムを取り入れたミディアム・ナンバー。規則正しいマーチのリズムの上で、あえてリズムを崩したように歌うスタイルがヒップホップっぽい。“Love Senario”で見せたヒップホップと異ジャンルの融合を押し進めつつ、よりラップを強調した作風の楽曲だ。

続く“Dive”はアコースティック・ギターとハーモニカの音色をアクセントに使ったアップ・ナンバー。前奏はカントリー音楽のそれそのものだが、ヴォーカル・パートは80年代の韓国の歌謡曲の要素をふんだんに盛り込んでいる。カントリー音楽の音やラップを効果的に使うことで、韓国人にとって耳なじみのあるメロディを新鮮な音楽のように聴かせるテクニックが心憎い。“Love Senario”の続編にも聴こえるこの曲は、日本人にも懐かしく感じられる心地よさが印象的だ。

これに対し“All the world”はアナログ・シンセサイザーの透き通った音色を効果的に使った、ダンス・ナンバー。ピコピコという電子音を挟み込みんだトラックは、アフリカ・バンバータのような80年代のヒップホップや、スレイヴのような70年代のディスコ・ブギーに近いものだ。日本でも人気があるタキシードディム・ファンクのサウンドを、韓国向けにアレンジした手腕が魅力だ。

そして、今回の再始動に合わせて書き下ろされた”Flower”は、ヴォーカルのドンヒョクが制作、プロデュースした曲。ギターの伴奏から始まるこの曲は、切ない雰囲気のメロディから爽やかなサビへと続く展開が聴きどころ。ビッグバンの人気曲”声を聞かせて”の路線を踏襲した佳曲だ。

今回のアルバムは、大成功を収めた前作『Return』で見せた、ヒップホップと他のジャンルの音楽の融合を進めつつ、6人組としての新たなスタイルを模索したものだ。特に、「歌うようにラップする」スタイルが魅力だったB.I.の穴を埋める5人のヴォーカルと、グループ唯一のラッパーとして重責を担うことになったBobbyの役割分担を工夫した跡が見受けられる。また、B.I.が残してきた楽曲を採用しつつ、グループの楽曲の大部分を手掛けてきた彼抜きで作った新曲を追加するなど、6人組として新たな一歩を踏み出そうとする意欲もうかがえる。

グループに対する逆風に真正面から立ち向かい、変わらない魅力と新たな一面を披露してくれた逸品。ヒップホップがポップスを組み合わせた作風を進化させた6人の姿が堪能できる良作だと思う。

Producer
B.I., Millenium, Diggy, HRDR etc

Track List
1. Ah Yeah
2. Dive
3. All The World
4. Holding On
5. Flower





SKY-HI - Free Tokyo [2018 avex]

AAAのメンバーとして、”恋音と雨空”や”逢いたい理由”などのヒット曲を残し、紅白歌合戦への出演や東京ドーム公演といった大舞台も経験する一方、一人のヒップホップ・アーティストとしても、Mother Ninjaや西風雲といったユニットを経て、着実に実績を残してきたのが、SKY-HIこと日高光啓だ。

ウィットに富んだ歌詞と、爽やかで耳当たりの良い声が魅力の彼は、ポップスの要素を取り入れた本格的なヒップホップ・アーティストとして、AAAのファンやヒップホップ好きに留まらない、様々な人々からの支持を集めてきた。また、2017年には上海や香港、ニューヨークやロンドン、パリでの公演を含むワールド・ツアーを成功させている。

そんな彼が、2018年8月7日から2週間限定で無料公開したのが、このミックス・テープ『Free Tokyo』(21日以降は有料で配信)だ。これまでにもアルバム『Marble』を600円で販売し、Ed Sheeranの”Shape of You”や、Logicの”1-800-273-8255”のトラックに自身のラップを乗せた作品を、自身のYouTubeのアカウントから発表するなど、大胆な発想と行動が話題になってきた彼。この作品は、日本のアーティストとしては史上初、海外でもBTSのJ-Hopeの『Hope World』くらいしか例のない、「無料で配布された商業作品」になっている。

アルバムの1曲目に収めらているタイトル・トラック”Free Tokyo”は、ピアノっぽい音色の演奏の伴奏に乗せて、自身の半生を綴ったラップが心に残る作品。「左耳の障害が俺にくれたフロウ&ライム」「AK(69)やAnarchy、Norikiyoにはなれないし、だからこそいつでも自分でいれることが大事」といったフレーズは、華やかな舞台で活躍し、新しい音楽と試みで周りを驚かせてきた彼の葛藤と、真摯に音楽に向きあってきた姿を反映している。

続く”Name Tag”は、”Free Tokyo”の曲中でも言及されていたSALUと、韓国のソウル出身、現在は大阪を拠点に活動するMoment Joonを招いた曲。リズム・マシーンを駆使した変則ビートと、日本のヒップホップ界では珍しい出自の三者による「出自ではなく、自分の実力で評価を勝ち得る」ことを綴ったリリックが面白い作品。なかでもMoment Joonのパートは「あ、銃の話?撃ったことのない癖に?」「俺の財布には札の代わりに在留カード、黙って働く、それが日本が提示する〇〇(聞き取れず「条件」などの意味か?)」など、日本に移住した韓国人という独特の立ち位置にいる彼にしか描けない、個性的なものになっている。

また、本作の収録曲では唯一、陽気な雰囲気の”I Think, I Sing, I Say”は、Paloalto率いるHi-Lite Records所属の韓国人ラッパーReddyを起用したもの。シンセサイザーの軽やかな伴奏に乗せて、「世界には色々な人がいるけど、俺はみんなを尊重するし、自分で考えて、歌うし、言葉を発するよ」(大意)という前向きなメッセージを打ち出した曲。日本語と韓国語、異なる言語で言葉を紡ぐ二人が、同じ方向を向いてメッセージを投げかける姿が印象的だ。

そして、本作の最後を締めるのが”The Story Of "J"”は、ホラー映画を思い起こさせるおどろおどろしい伴奏が心に残る楽曲。「全部聞かないとわからない、昔の話、覚えてない」というサビのフレーズの通り、最後まで聴かないと内容を誤解してしまう、細部まで作り込まれたラップが光る曲。Eminemの”Stan”にも通じる、起伏のあるストーリー性と、絶妙な言葉選びが光っている。

今回のアルバムは、これまでのソロ名義やグループでの活動を踏まえつつ、これらの活動と一線を画したものになっている。今年の3月に発売したベスト・アルバム『ベストカタリスト -Collaboration Best Album-』や、6月に発表したシングル”Snatchaway/Diver's High”では、バンドの演奏を盛り込んだトラックを取り入れ、2018年のツアー「SKY-HI TOUR 2018 -Marble the World-」では、大人数のバンドを帯同している。しかし、本作では、トラックの殆どをコンピュータで組み立てるなど、近年のスタイルとは大きく異なるものになっている。

また、私的な事柄を扱ったものや、複雑怪奇な表現を織り込んだリリック、通好みのラッパーを起用したゲスト陣などは、ヒップホップとポップス、両方の世界で活躍する彼の作品としては、非常にヒップホップ界寄りで、尖ったものになっている。この、過去の作品とは一線を画した独特の制作スタイルが、日本では異例の無料配信を実現したのだと思う。

発売日翌日の彼のブログでは、日本の音楽業界に対する危機意識が鋭い筆舌で語られていたが、この問題意識に対する一つの答えを、作品という形で表明した歴史的なアルバム。CD、テレビ、ラジオ、ライブ、そしてインターネット、あらゆるメディアを舞台に表現者として活躍してきた彼にしか生み出せない、作品の内容と配布方法、両方の視点から新しい音楽のビジネスの可能性を打ち出した歴史に残る名作だ。

Producer
Sky-Hi

Track List
1. Free Tokyo
2. Name Tag feat. SALU & Moment Joon
3. What are you talking about? feat. Hideyoshi & Novel Core
4. I Think, I Sing, I Say feat. Reddy
5. Dystopia
6. The Story Of "J"






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