melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

イギリス

Jorja Smith - Be Right Here [2021 FAMM]

ビートルズ、ローリング・ストーンズからエイミー・ワインハウスやディジー・ラスカルズまで、世界の音楽シーンに革命を起こし続けた英国のミュージシャン達。その歴史を踏襲し、音楽界に新しい風を吹き込もうとしているのが、ジョルジャ・スミスだ。

彼女が表舞台に出るきっかけとなったのは、2016年に出た初のEP『Project 11』。同作に収められた曲が、ドレイクから高い評価を受けたことで、世界中の音楽好きから注目を集めた。また、彼の2018年作『More Life』の収録曲にフィーチャリング・アーティストとして起用されると、一気にブレイク。同年にリリースされた『Lost & Found』は、ゴールドディスクを獲得する大ヒットとなった。

約3年ぶりとなるスタジオ作品では、これまでの作品の音楽性を踏襲しつつ、それを発展させた楽曲を披露している。

それを象徴するのがアルバムからの先行シングル"Gone“。この曲はシンプルなR&Bのトラックをバックに、訥々と歌う彼女の姿が印象的なスロー・ナンバーだ。上品で洗練されたメロディとトラックは、彼女の歌の魅力を余すことなく引き出している。

このほかにもダブステップの要素を盛り込んだトラックの上で丁寧に歌う姿が光る"Addicted"や、ダンスホール・レゲエとドラムンベースを取り入れた"Bussdown"など、イギリスのミュージシャンらしい、大胆で先鋭的なアレンジや、若さ溢れるみずみずしい歌声、20代とは思えない、妖艶な歌唱が織り交ぜった独特の音楽が楽しめる。

本作は、歌声や表現力、スター性といった彼女の素材を活かしつつ、各クリエイターが大胆な冒険に打って出ている。新旧のポップスとクラブ・ミュージック、伝統的なソウル・ミュージックを飲み込み、消化して、新しい音楽に仕上げて世に投げかけた、現代の英国音楽シーンを象徴する画期的な作品だ。

Producer
Joel Compass, Riccardo Damian, Rahki, Ed Thomas, Gitty, Karl Banx, Charlie J. Perry

Track List
1. Addicted
2. Gone
3. Bussdown
4. Time
5. Home
6. Burn
7. Digging
8. Weekend



BE RIGHT BACK(輸入盤)
Jorja Smith
FAMM
2021-06-04

PM Warson - True Story [2021 Legare Records]

ロンドン発のシンガー・ソングライター、PMワーソンは、イギリスの豊かな音楽シーンを象徴するアーティスト。ヴォーカルや作詞作曲だけでなく、ギターやオルガンなど、複数の楽器を操るマルチなプレイヤーなのだ。

そんな彼が2021年にリリースした、キャリア初のアルバムは、老練な演奏とダイナミックな表現が光る作品だ。

人間にしか作れない、絶妙な揺らぎを含むドラム、ふくよかな低音を鳴らすベース、艶かしい音色のギターや、いなたいヴォーカルといった演奏は、多くのミュージシャンが自らのスタイルを模索していた、50年代、60年代のソウル・ミュージックを彷彿させる。

また、本作では多くの曲にホーン・セクションやコーラス隊が参加。多人数のバンドが分厚い音の塊を響かせる、60年代後期のソウル・ミュージックの要素も兼ね備えている。

そんな彼の音楽だか、懐かしさより新鮮さの方が強く感じられる。現代の録音機材を取り入れて、音の解像度を高めたり、随所に現代的な表現を盛り込んでいることが大きいと思う。

古い音楽の焼き直しではなく、解釈を加えて新しい音楽として再構築した、本当の意味でのヴィンテージ・ミュージックだ。

Producer
PM Warson

Track List
1.Losing & Winning
2.Seen You Around
3.In Conversation
4.Say The Word
5.I Don't Need No Doctor
6.(Don't) Hold Me Down
7.True Story
8.To Be Alone With You
9.You Gotta Tell Me
10.(Just) Call My Name




In Conversation
Légère Recordings
2021-02-19


    Jamie Isaac - (04:30) Idler [2018 Marathon Artists]

    ジェイミー・アイザックは、ロンドン南部のクロイドン出身のシンガー・ソングライター兼プロデューサー。

    アデルやジェシーJ、フロエトリーの二人を輩出した芸術学校、ブリット・スクール時代に、後にキング・クルーとしてブレイクするアーチー・イヴァン・マーシャルと出会った彼は、多くの音楽プロジェクトを経験。その一方で、映像制作や脚本作りにも強い関心を抱くなど、好奇心旺盛な青年だった。

    そんな彼は、2013年のEP『I Will Be Cold Soon』を皮切りに、年間1枚のペースで新作を発表。ビル・エヴァンスからビーチ・ボーイズまで、様々な音楽から触発された個性的な作風で、好事家から注目を集めてきた。

    本作は、彼にとって2枚目のフル・アルバム。前作に引き続き、ヴォーカル、ソングライティング、プロデュースを彼自身が担当する一方、演奏にはルディ・クレスウィックやジェイク・ロングといった新しい面々も参加。電子音楽やジャズ、ロックやソウル・ミュージックを取り込み、融合させた独特のスタイルを深化させている。

    本作の幕開けを飾る”Wings”は、ビル・エヴァンスを彷彿させるロマンティックなピアノと、ダニー・ハザウェイやロバータ・フラックのような、70年代のソウル・ミュージックを彷彿させる洗練されたリズム・セクション。ボサノバを取り入れたアレンジとメロディが心に残る、お洒落なミディアム・ナンバー。ジェイミーの繊細なヴォーカルを強調しつつ、スタイリッシュに纏め上げた曲作りが素敵。

    続く”Doing Better”は、ヒップホップのビートと電子音楽のエッセンスを混ぜ合わせた、スロー・テンポのR&B作品。ごつごつとしたビートはディアンジェロの、電子音楽を組み合わせた抽象的なトラックはサンダーキャットの音楽性に近しいが、スマートで滑らかなヴォーカルはマックスウェルに似ているという不思議な作品。方向性の全く異なる演奏スタイルを吸収し、独創的な音楽に還元したジェイミーのセンスが光っている。

    これに対し、3曲目の”Maybe”は、ボサノバと電子音楽の要素を強調した、優雅で前衛的な作風が印象的な曲。ソウル・ミュージックの要素は皆無だが、リスナーの琴線を刺激する哀愁を帯びたメロディと繊細なヴォーカルのコンビネーションは魅力的。ロックに強いミュージシャンを招いたことで、曲中にロック・ミュージシャンらしいアドリブを盛り込んでいる点も心憎い。

    そして、本作の収録曲でも特に異彩を放っているのが”(04:30) Idler / Sleep”、ビル・エヴァンスのような優雅なピアノが心地よい伴奏に、声楽家のような女性の歌声や、壮年の男性による「Sleep」という声を挟み込んだ奇抜なアレンジと、ファルセットを多用した切ない雰囲気のヴォーカルを組み合わせが新鮮な曲だ。斬新な曲でありながら、緊張せず、リラックスして楽しめるのは、彼の美しい歌声と、優しい音色の楽器のおかげだろうか。

    彼の音楽の魅力は、ジャズや電子音楽といった、多くの人を魅了する一方で、繊細さや複雑な表現に敷居の高さを感じるジャンルの手法を、わかりやすくかみ砕き、誰もが楽しめるポピュラー音楽として再構築しているところだ。テディ・ウィルソンやデイブ・ブルーベックのようなジャズ、ブライアン・ウィルソンのような先鋭的なポップス、クラシック音楽にも造詣の深い彼は、高度な演奏技術だけでなく、一つのスタイルを複数の視点から分析して、自分の楽曲に合わせた表現に組み替えている。この、多角的なものの見方と構成能力が、彼の音楽に独自性質をもたらしているのだろう。

    高度で複雑な音楽を闇鍋のように一つの作品に放り込みながら、破綻させることなく、誰もが楽しめる魅力的なポップスとして楽しめる作品に落とし込んだ面白いアルバム。電子音楽ともロックとも異なる個性的なスタイルは、あらゆる人にとって新鮮な音楽に映るだろう。

    Producer
    Jamie Isaac

    Track List
    1. Wings
    2. Doing Better
    3. Maybe
    4. (04:30) Idler / Sleep
    5. Interlude (Yellow Jacket)
    6. Eyes Closed
    7. Slurp
    8. Counts for Something
    9. Melt
    10. Drifted / Rope
    11. Delight




    04:30 IDLER/DIGIPAK
    JAMIE ISAAC
    MARA
    2018-06-01


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