melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

オーストラリア

Izy- Irene [2021 Hopestreet Recording]

「Izy」と書いて、「アイ・ジー」と読む。この不思議な名前のバンドは、オーストラリア北部の都市、メルボルンを拠点に活動する3人組。

音楽一家に育ったギタリスト兼ヴォーカルのリョウ・モンゴメリーが兄弟と結成したグループが元となった彼らは、現在ではリョウに加え、ドラマーのマル・ニトー・ザマットロー、ギター、ベース、ヴォーカルとマルチな才能を発揮しているワリーゴ・ティレルの3人組でステージに立っている。

多彩なルーツを持つ彼らの音楽は、マックスウェルのようなネオソウルの技法と、ロビン・シックに代表されるソウル・ミュージックを経由したポップスのスタイルを融合したもの。そこに、ジャズフォークソング、ハワイや東南アジアのローカルな音楽のエッセンスを加えてバンドの個性にしている。彼らの鋭い感性と、それを具体化する高い演奏技術は、これらの音楽を融合し、どのジャンルにも当てはめられない、独特のアイジー・サウンドを生み出している。

ジャンルの枠に囚われず、ゆったりとした姿勢で向き合える良質なポピュラー・ミュージック。ヘッドフォンでなくスピーカーで、時間をかけて楽しみたい良作だ。

Producer
Ryo Montgomery

Track List
1. Moon (album version)
2. No Further Than You
3. Frantic v
4. Out The Door
5. Irene
6. They Don't Care
7. Not So Tall
8. Smile
9. Don't Turn Off Your Light 1
10. Treat Me Bad
Irene
Irene
HopeStreet Recordings
2021-03-26


Joji - Ballads 1 [2018 88rising, 12Tone, Warner]

2018年11月、アジア出身のソロ・アーティストとしては最高記録となる、ビルボードの総合アルバム・チャートの3位を記録したことで、一躍時の人となったジョージことジョージ・ミラー。

オーストラリア人と日本人の両親の間に生まれた彼は、大阪生まれの大阪育ち、神戸のインターナショナル・スクールで学んできたという日本人。そんな彼は、同世代の人々と同じように、早くからインターネットに馴れ親しみ、音楽活動の前には面白動画やコメディ・ラップなどを投稿していた。しかし、健康問題を理由に動画投稿からは引退。アメリカに移住し、大学生活の傍ら、音楽活動に打ち込むようになる。

音楽活動に力を入れるようになった彼は、中国のハイヤー・ブラザーズや、インドネシアのリッチ・ブライアンなど、アジア出身のミュージシャンをアメリカでブレイクさせている西海岸のレーベル88ライジングと契約。電子音楽やロックなど、様々なジャンルの音楽を消化したサウンドと、作詞、作曲、アレンジの全てをこなせる高い技術で頭角を現した。

本作は、ジョージ名義では2017年の『In Tongues』以来、約1年ぶりの新作となる、初のフル・アルバム。彼自身が全ての曲の制作に関わる一方、サンダーキャットやRLグライムといった、名うてのクリエイターがプロデューサーとして名を連ねた、新人らしからぬ豪華な作品になっている。

セルフ・プロデュースによる”Attention”から続く先行シングル”Slow Dancing in the Dark”は、パトリック・ウィンブリーがプロデュースを担当したスロー・ナンバー。ソランジュの”Don't Touch My Hair”などのヒット曲に携わっていることでも知られるパトリックのアレンジは、シンセサイザーの響きを効果的に聴かせたもの。ヴォーカルを引き立てる音数を絞った伴奏でありながら、前衛音楽のような抽象的な作品にはせず、ポップで聴きやすいR&Bに纏め上げた手腕が光っている。

これに続く”Test Drive”は、トラップやEDMの分野で知られるRLグライムが制作に参加したバラード。ハットを細かく刻んだリズムと、哀愁を帯びたピアノの伴奏を組み合わせたトラックが心に残る。変則ビートを取り入れたスタイルは、ティンバランドがプロデュースしたアリーヤの『One in a Million』にも通じるものがあるが、こちらは歌や伴奏をじっくりと聴かせる作品。現代の尖ったヒップホップをソウル・ミュージックに昇華している。

また、電子音楽畑のクラムス・カジノとジャズ出身のサンダーキャットを起用した”Can't Get Over You”は、80年代のテクノ・ポップを思い起こさせる粒の粗い音を使ったビートと、少しだけエフェクターをかけたヴォーカルが醸し出すレトロな音と、ニーヨやにも通じるらしい爽やかで洗練されたメロディの組み合わせが新鮮な作品。昔の音色を現代の音楽に昇華するスタイルは、サンダーキャットの『Drunk』にも少し似ている。

そして、本作の収録曲では一番最初に公開された”Yeah Right”は彼のセルフ・プロデュース作品。オルゴールのような可愛らしい音色を効果的に使ったロマンティックなトラックと、甘いメロディ、機械で加工した武骨な歌声を組み合わせた異色のバラード。ゴツゴツとしたヴォーカルを、柔らかいメロディのソウル・ミュージックのアクセントに使った演出が新鮮。彼の独創的な発想と確かな技術を端的に示している。

このアルバムの魅力は、アメリカのR&Bの潮流を押さえつつ、その枠を軽々と超える大胆な切り口の楽曲を並べているところだ。トラップやネオ・ソウル、エレクトロ・ミュージックといった、アメリカのR&Bミュージシャンが多用する手法を用いながら、甘いメロディや、加工されたゴツゴツとした歌声といった、他のアーティストの作品では見られない演出が随所にみられるのは面白い。

また、ヒップホップのビートの要素を取り入れながら、90年代のR&Bのような、メロディをじっくりと聴かせる曲が揃っている点も珍しい。おそらく、アメリカ国外で生まれ育ち、コメディなどの動画も作ってきた経歴が、アメリカのR&Bとは一線を画した個性的な音楽を生み出しているのだろう。

ヴォーカル・グループはともかく、本格的なR&Bやヒップホップを歌えるシンガー・ソングライターとなると、まだまだ存在感が弱い東アジア。同地域から、母国でのプロ経験を積まず、直接アメリカでデビュー、成功した彼は、「アジア人に厳しい」と言われていたアメリカのR&B市場に、偉大な記録を残した。ユニークな切り口と確かな実力に裏打ちされた独創的な音楽は「アジア人にしか作れないR&B」の可能性を感じさせる。個性的なキャリアに裏打ちされた、唯一無二の新鮮なR&Bが楽しめる傑作だ。

Producer
Joji, Patrick Wimberly, RL Grime, Clams Casino, Thundercat, Rogét etc

Track List
1.Attention
2.Slow Dancing In The Dark
3.Test Drive
4.Wanted U
5.Can’t Get Over You Feat. Clams Casino
6.Yeah Right
7.Why Am I Still In La Feat. Shlohmo & D33J
8.No Fun
9.Come Thru
10.R.I.P. Feat. Trippie Redd
11.Xnxx
12.I’ll See You In 40






BALLADS 1
JOJI
Warner Music
2018-11-09

CDB - Tailored for Now [2017 Warner Music Australia]

91年に4人組のヴォーカル・グループとして結成。ピーター・アンドレのバック・コーラスとして、マドンナのツアーに帯同するなどして経験を積んだ後、95年にアルバム『Glide With Me』でメジャー・デビュー。”Hey Girl (This Is Our Time)”や、アース・ウィンド&ファイアのカヴァー”Let's Groove”が、ニュージーランドのチャートを制覇、オーストラリアの音楽賞を獲得するなど、一躍人気グループの仲間入りを果たした、メルボルン発の男性ヴォーカル・グループCDB。

97年にはメンバーのアンドリューがガンの治療のため脱退。ユダ・ニコラス加入して2枚目のアルバム『Lifted』をリリース。こちらもオーストラリアのヒット・チャートで46位に入るなど、一定の成果を残した。しかし、その後は各人が自身の活動に力を入れるため、99年にグループを解散してしまう。

その後、各人のソロ活動を経て2006年に再結成。2008年にマイケル・ジャクソンのカヴァー” P.Y.T. (Pretty Young Thing)”を発表すると、2010年には同曲を含むベスト・アルバムを発売している。

今回のアルバムは、彼らにとって実に20年ぶりとなる新作。彼らが活躍した90年代のR&Bを中心に、今も根強い人気のある曲を、原曲の雰囲気を活かしつつ、彼らのスタイルに合わせてアレンジ、カヴァーしている。

アルバムのオープニングを飾る”If I Ever Fall In Love”は、ゲフィンからデビューした、4人組男性ヴォーカル・グループ、シャイの93年のヒット曲のカヴァー。スロー・テンポのバラードを荘厳なアカペラに組み替えた発想の大胆さが光っている。90年代に活躍し、当時の空気を知る彼らのセンスと、長いキャリアで培われた実力が発揮された曲だ。

これに対し、ボビー・ブラウンの89年のヒット曲”Every Little Step”のカヴァーは、原曲を意識した明るくポップなダンス・ナンバー。ベイビーフェイス作の甘酸っぱいメロディと、跳ねるようなニュー・ジャック・スウィングのビートを忠実に再現するだけでなく、4人のヴォーカルも、当時の彼らを連想させるような、甘く爽やかな、ポップスのスタイルに寄せている。往年の名曲と彼らの輝きは、今も色あせていないことに気づかせてくれる名カヴァーだ。

また、この曲とは異なる手法でオリジナルを忠実に再現したのが、SWVが92年に発表した”Right Here ”のカヴァー。本作では、93年にリリースしたリミックス・ヴァージョンをベースにしているが、原曲でサンプリングしているマイケル・ジャクソンの”Human Nature”の音源は使わず、シンセサイザーなどを使ってイチから作っている。SWVのヴァージョンでは、ココ達の若く溌剌とした歌声が印象的だったが、今回のカヴァーでは成熟した4人の豊かな表現力と滑らかなハーモニーで、流麗なメロディの魅力を強調している。原曲ではマイケル・ジャクソンの声を使っているパートも、メンバーがマイケルそっくりに歌っているなど、凝った作りが面白い。

そして、本作の目玉といっても過言ではないのが、ボーイズIIメンが92年にリリース。総合チャートで13週連続1位を獲得し、92年のナンバー・ワン・ヒットになった”End of the Road”のカヴァーだ。ベイビーフェイスの手によるロマンティックなメロディと、メンバーの力強い歌声と高い技術力を生かしたダイナミックなアレンジが魅力のバラードを、原曲に忠実な形でカヴァーしている。オリジナル同様、キーボードなどを使ったきらびやかな伴奏と、年季を重ねてスケールが大きくなった4人のヴォーカルが堪能できる本格的なバラード。90年代の彼らを知る人が聴いたら、その進化に驚くと思う。

今回のカヴァー・アルバムは、彼ら自身も何度となく耳にしてきたであろう90年代の楽曲を中心に取り上げているだけあって、その完成度は非常に高い。しかも男性ヴォーカル・グループの作品だけでなく、男性ソロ・シンガーや女性グループ、キッズ・グループの作品も取り上げるなど、その守備範囲は生半可なものではない。これらの曲をアレンジも含め忠実に再現し、さらに自分達の色も盛り込めたのは、ロック・シンガーとして活躍していたゲイリーやアンドリュー達、各メンバーの努力の賜物だと思う。

90年代に活躍したポップ・グループの手によって、彼らが腕を磨き、飛躍していった時代の音楽を現代によみがえらせた。魅力的なカヴァー・アルバム。気にある曲があったら、ぜひ元ネタを検索して欲しい。豊かで奥深い、90年代のR&Bが思う存分堪能できると思う。

Producer

Gary Pinto, Andrew De Silva

Track List
1. If I Ever Fall In Love
2. She's Got That Vibe
3. Every Little Step
4. Right Here
5. The Floor
6. This Is How We Do It
7. End of the Road
8. Just Got Paid
9. I Want Her
10. All My Life
11. 90's Chill Medley [Can We Talk, That’s the Way Love Goes, I Like the Way (The Kissing Game), Candy Rain]





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