melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

ゴスペル

Marilyn McCoo & Billy Davis Jr. - Blackbird: Lennon-McCartney Icons [2021 BMG]

60年代後半から70年代にかけて、一世を風靡した男女混成デュオ、5thディメンション。同グループの中心人物であり、人気が絶頂だった時期にメンバー同士で結婚したのが、ビリー・デイヴィス Jr.とマリリン・マックーの夫妻だ。

75年にグループを脱退した後は、夫婦デュオとして活動。76年には"You Don't Have to Be a Star (To Be in My Show)"が全米チャートを制覇すると、その後も立て続けにヒット曲を発表。ディスコ音楽の時代を象徴するデュオとして一世を風靡した。 また、音楽活動と並行してドラマや舞台にも進出。複数の分野で成功を収め、アフリカ系アメリカ人では珍しい、エンターテイナー夫婦として知られるようになった。そして、21世紀に入ってからも2人は精力的に活動。2008年には60年代、70年代のラブソングを歌ったカヴァー集『The Many Faces of Love』を出すなど、今も一線で活躍している。

13年ぶりの新作となるアルバムは、ビートルズの楽曲を歌ったカヴァー集。アメリカにおける人種差別と、それに対する抗議運動の流れ呼応したものになっている。そのため、アルバムのジャケットには警官などの暴力で命を落とした人々の名前が並べられ、タイトルには公民権運動に触発されて作られたビートルズの名曲"Blackbird"を用いるなど、アルバムを通して明確なテーマが打ち出されている。

だが、社会に対するメッセージを強く打ち出した作品にも関わらず、堅苦しさは微塵も感じない。むしろ、ジョンとポールが手がけた有名な曲を、大胆な解釈でソウル・ミュージックに組み替えた2人の姿が印象的だ。

ストリングスを贅沢に使って、スピナーズを彷彿させる優雅なディスコ音楽に仕立て直した"Yesterday"や、重厚なコーラス隊をバックに並べて、本格的なゴスペル作品として生まれ変わらせた"Blackbird"や"Help!"、アース,ウィンド&ファイアもカヴァーした楽曲を、シンセサイザーを多用したアレンジで90年代後期のR&Bっぽくスタイリッシュに仕上げた"Got to Get You into My Life"など、 さまざまなR&Bのスタイルを取り入れて、ビートルズの楽曲に新しい息吹を吹き込んでいる。社会に強いメッセージを投げかけつつ、あくまでもエンターテイメント作品として聴かせようとしているのが印象的だ。

ヒップホップ・グループのブギー・ダウン・プロダクションは、ラップを通して人々にメッセージを伝えるヒップホップを「エデュテイメント(Edutament = Education +  Entertainment)」と表現したが、2人の音楽も娯楽を通して人々にメッセージを投げかけている。メッセージ性を保ちつつ、聴き手を楽しませることを忘れない2人の姿勢が心に残る。

Track List
1. Got To Get You Into My Life feat. Yancyy
2. The Fool On The Hill feat. Natalie Hanna Mendoza
3. Blackbird
4. Yesterday
5. Ticket To Ride
6. The Long and Winding Road
7. Silly Love Songs
8. Help!
9. (Just Like) Starting Over feat. James Gadson
10. And I Love Her  

 


BLACKBIRD: LENNON-MCCARTNEY ICONS
MARILYN MCCOO & BILLY DAVIS JR.
ADA/BMG Rights Management
2021-05-07

 

Merry Clayton - Beautiful Scars [2021 Motown Gospel]

メリー・クレイトンの名前を知らなくても、映画「バックコーラスの歌姫達」に出演した、ローリング・ストーンズのバックコーラスの女性といえば思い出すかもしれない。

レイ・チャールズのバック・コーラスであるレイレッツの一員だった彼女は、同グループから発展したシスターズ・ラヴとしても多くの傑作を残している。特に、シスターズ・ラヴ時代の楽曲は、そのレアリティと内容の良さから、多くのファンが追い求めていることでも知られており、インターネットが発達し、再版市場が成熟した今も、幻の名作と評されている。

また、グループを離れた後も、ローリング・ストーンズやキャロル・キングなどバックコーラスを務め、ローリング・ストーンズの“Gimme Shelter”で見せた彼女のパフォーマンスは、主役のミック・ジャガーを喰ったと例えられる名演として知られている。

そんな彼女の27年ぶりとなる新作は、シスターズ・ラヴのアルバムを残したモータウン発のアルバム。本格的なゴスペル作品を目指したということもあり、アップテンポ、スローテンポの楽曲ともに、彼女のパワフルな歌声が堪能できる。

だが、それ以上に面白いのはオリジナル曲と一緒におさめられたカヴァー曲のラインナップだろう。レオン・ラッセルの"A Song For You"やファイブ・ステアステップスの"Ooh Child"のカヴァーでは、原曲の要素を残しつつ、本格的なゴスペルにアレンジする大技も見せている。ダイナミックな歌声と絶妙な匙加減のアレンジ、この二つが本作の聴きどころだと思う。

20世紀の音楽シーンに多くの伝説を残した名歌手の確かな実力を確認できる名盤。ゴスペルだからって敬遠してると損するよ。

Producer 
Leon Adler, Terry Young

Track List
1. A Song for You
2. Touch the Hem of His Garment
3. Beautiful Scars
4. Love Is a Mighty River
5. God's Love
6. Deliverance
7. Room at the Altar
8. He Made a Way
9. Oh What a Friend
10. Ooh Child Medley




Beautiful Scars
Merry Clayton
Motown
2021-04-09


Snoop Dogg - Bible Of Love [2018 RCA Inspiration]

92年にドクター・ドレの”Deep Cover”に客演する形で表舞台に登場。同年に発表された、”Nuthin' but a 'G' Thang”の冒頭で、多くのラッパーに引用されるフレーズを残し、名を上げたスヌープ・ドッグことカルバン・ブロータス。

93年に、ドレがプロデュースを担当した初のスタジオ・アルバム『Doggystyle』を発表。全世界で1000万枚を売り上げる大ヒット作になるが、同時期に殺人事件への関与が疑われたため、一時的に活動が停滞。また、ドレと所属レーベルのオーナー、シュグナイトとの軋轢もあり、2枚目のアルバム『Tha Doggfather』ではドレが制作から外れ、三年のブランクを挟んでのリリースとなる。

その後は、レーベルを移りながら、2017年までに15枚のスタジオ・アルバムと7枚のコラボレーション作品、3枚のEPと多くのミックス・テープを制作。2013年には、スヌープ・ライオンと改名してレゲエ・アルバム『Reincarnated 』を録音し、同じ年にはディム・ファンクと組んだ『7 Days of Funk』発表、2015年にはファレル・ウィリアムスが全面的にプロデュースした『Bush』を発売するなど、作品ごとに個性豊かなミュージシャンを起用し、リスナーの度肝を抜いてきた。

本作は、今年2月に発売されたEP『220』から僅か1か月、スタジオ・アルバムとしても2017年の『Neva Left』以来、約10か月ぶりとなる新作。アルバム毎に様々なコンセプトを提示してきた彼が、本作のテーマに選んだのはゴスペル(余談だが、彼は『Reincarnated 』を録音した時に、ラスタファリズムに改宗したはずだが、現在はどうなったのであろうか?)。ロニー・ベリアルなど、ヒップホップ畑のプロデューサーを多く招く一方、ゲストには、キム・バレルやメアリー・メアリーのような人気ゴスペル・ミュージシャンや、クラーク・シスターズやランス・アレンのようなゴスペル界の大御所、フェイス・エヴァンスやK-Ciのような有名R&Bシンガーまで、個性豊かな面々を招聘。ラッパーの視点を介した、ヒップホップに慣れ親しんだ若者にも楽しめる、キャッチーで格好良いゴスペル作品を残している。

30曲を超える収録曲のなかで、最初に目を惹いたのはフェイス・エヴァンスをフィーチャーした”Saved”。3rdジェネレーションと組ませ、力強いコール&レスポンスを披露した壮大なゴスペル・ナンバーだ。スヌープの声がほとんど入っていないので、どちらかといえばフェイスの新曲っぽい。ヒップホップの要素を織り込んだ曲が多い本作では珍しい、歌の力だけで勝負した良曲だ。

これに対し、『Hidden Figures』のサウンドトラックに収録されている”I See A Victory”でも美しい歌声を聴かせてくれたキム・バレルを起用した”Sunshine Feel Good”はロマンティックなメロディと滑らかな歌が心に残るミディアム。乾いた音色を使った軽快なビートは、ネプチューンズの作品っぽくも聴こえるが、プロデューサーはトネックスの名義で多くのヒット作を残している、西海岸出身のゴスペル・シンガー。B.スレイドだ。ジェイZの2017年作『4:44』でも、美しい歌声を聴かせてくれた彼女だけあって、ヒップホップとの相性は抜群だ。

また、近年はヒップホップやR&Bのミュージシャンとコラボレーションすることが多い、チャーリー・ウィルソンを招いた ”One More Day”は、キーボードの伴奏をバックに朗々と歌う姿が印象的なミディアム・バラード。色っぽい歌唱と、ダイナミックなパフォーマンスをを使い分ける技術が魅力のチャーリーだけあって、この曲でも豊かな表情を見せてくれる。

そして、アルバムの最後を締める ”Words Are Few”は、本作の収録曲を複数手掛けている、B.スレイドが参加した壮大なスロー・ナンバー。トネックス名義の作品でも聴かせてくれた、キャッチーでスタイリッシュなメロディやトラックと、大胆に強弱をつけたヴォーカル・アレンジで、親しみやすさと荘厳さを両立した曲作りは圧巻の一言、脇を固めるスヌープのラップが、曲に起伏をつける手法は、R&Bシンガーとの共演でも多用されているものだ。

このアルバムでスヌープが披露したのは、ヒップホップ・アーティストのフィルターを通した、現代のゴスペル音楽だ。ビートを含む伴奏やアレンジ、メロディでは若者に人気のヒップホップやR&Bの技法を盛り込みつつ、歌詞やヴォーカルでは王道のゴスペル・スタイルをきちんと聴かせる。この絶妙なさじ加減が、本作の醍醐味だと思う。

デビュー20年を超える大ベテランとなり、新しい音楽を開拓するだけでなく、既に存在する音楽の魅力を発掘して再評価する役割も求められれるようになった、スヌープ・ドッグの豊かな経験と高い制作技術が発揮された良作。多くのミュージシャンが自身の原点に掲げるゴスペルの魅力を、現代のヒップホップやR&Bに慣れ親しんだ若いリスナーに届けてくれる面白い作品だ。

Producer
Snoop Dogg, Lonny Bereal etc

Track List
Disc 1
1. Thank You Lord Intro feat. Chris Bolton
2. Love for God feat. Uncle Chucc, The Zion Messengers & K-Ci
3. Always Got Something to Say
4. Defeated feat. John P. Kee
5. In the Name of Jesus feat. October London
6. Going Home feat. Uncle Chucc & The Zion Messengers
7. Saved feat. Faith Evans & 3rd Generation(ereal Family)
8. Sunshine Feel Good feat. Kim Burrell
9. Sunrise feat. Sly Pyper
10. Pure Gold feat. The Clark Sisters
11. Pain feat. B Slade
12. New Wave feat. Mali Music
13. On Time feat. B Slade
14. You feat. Tye Tribbett
15. One More Day feat. Charlie Wilson
Disc 2
1. Bible of Love Interlude feat. Lonny Bereal
2. Come as You Are feat. Marvin Sapp & Mary Mary
3. Talk to God feat. Mali Music & Kim Burrell
4. Changed feat. Isaac Carree & Jazze Pha
5. Praise Him feat. Soopafly
6. Blessing Me Again feat. Rance Allen
7. Blessed & Highly Favored Remix feat. The Clark Sisters
8. Unbelievable feat. Ev3
9. No One Else feat. K-Ci
10. Chizzle feat. Sly Pyper & Daz Dillinger
11. My God feat. James Wright
12. When It's All Over feat. Patti LaBelle
13. Crown feat. Tyrell Urquhart, Jazze Pha & Issac Carree
14. Call Him feat. Fred Hammond
15. Change the World feat. John P. Kee
16. Voices of Praise
17. Words Are Few feat. B Slade








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