melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

ロック

PM Warson - True Story [2021 Legare Records]

ロンドン発のシンガー・ソングライター、PMワーソンは、イギリスの豊かな音楽シーンを象徴するアーティスト。ヴォーカルや作詞作曲だけでなく、ギターやオルガンなど、複数の楽器を操るマルチなプレイヤーなのだ。

そんな彼が2021年にリリースした、キャリア初のアルバムは、老練な演奏とダイナミックな表現が光る作品だ。

人間にしか作れない、絶妙な揺らぎを含むドラム、ふくよかな低音を鳴らすベース、艶かしい音色のギターや、いなたいヴォーカルといった演奏は、多くのミュージシャンが自らのスタイルを模索していた、50年代、60年代のソウル・ミュージックを彷彿させる。

また、本作では多くの曲にホーン・セクションやコーラス隊が参加。多人数のバンドが分厚い音の塊を響かせる、60年代後期のソウル・ミュージックの要素も兼ね備えている。

そんな彼の音楽だか、懐かしさより新鮮さの方が強く感じられる。現代の録音機材を取り入れて、音の解像度を高めたり、随所に現代的な表現を盛り込んでいることが大きいと思う。

古い音楽の焼き直しではなく、解釈を加えて新しい音楽として再構築した、本当の意味でのヴィンテージ・ミュージックだ。

Producer
PM Warson

Track List
1.Losing & Winning
2.Seen You Around
3.In Conversation
4.Say The Word
5.I Don't Need No Doctor
6.(Don't) Hold Me Down
7.True Story
8.To Be Alone With You
9.You Gotta Tell Me
10.(Just) Call My Name




In Conversation
Légère Recordings
2021-02-19


    Khruangbin & Leon Bridges - Texas Sun [2020 Dead Ocean]

    タイの音楽とアメリカのサイケデリック・ロックやフォーク音楽を融合したユニークな作風が注目を集め、2015年に初のスタジオ・アルバムをリリースして以来、着実にファンを増やしてきたテキサス出身の3人組、クルアンビン。

    タイ語で「空飛ぶエンジン」(=飛行機)という意味の同バンドは、タイの音楽が持つ独特のファンクネスやサイケデリック要素を活かした演奏スタイルと、ベース担当のローラ・リーがヴォーカルを担当する歌もの、インストゥルメンタルの作品の両方をこなせる音楽性の幅が強味。2019年には初の来日公演とフジロックフェスティバルへの出演を成功させるなど、その人気は世界に広がっている。

    本作は2018年の『Con Todo El Mundo』や同作のダブ盤『Hasta El Cielo』以来となる新作。今回はゲスト・ヴォーカルとして現代のサム・クックとも称される同郷のグラミー賞シンガー、リオン・ブリッジスを招き、彼らが得意とするファンクと、リオンが取り組んできた往年のスタイルのソウル・ミュージックを組み合わせた作品に挑戦している。

    アルバムのオープニングを飾るタイトル曲”Texas Sun”は、淡々とリズムを刻むドラムとベース、一音一音をつま弾くように演奏するギターの上で、しんみりと歌うリオンの姿が心に残るミディアム・ナンバー。ソウル・ミュージックやファンクというよりも、フォーク・ソングのように一つ一つの言葉を丁寧に紡ぎだすヴォーカルの存在感が光る曲だ。ビル・ウィザースや映画「シュガーマン」で取り上げられたロドリゲスのような、フォーク・ソングとソウル・ミュージックの美味しいところを取り込んだ音楽性が面白い。

    続く”Midnight”は、フォーク・ソングの要素を取り入れつつ、色々な楽器の音色を取り入れて華やかな雰囲気を演出したスロー・ナンバー。ソウル・ミュージックとフォーク・ソングの融合という意味では”Texas Sun”にも似ているが、こちらはビル・ウィザーズの『Just As I Am』のようなフォーク色の強いものではなく、『Still Bill』のように色々な音を取り入れたソウル、ポップス色の強いものになっている。

    これに対し、”C-Side”では太いベースの音色と、派手なパーカッションの音色を組み合わせた演奏が光るアップ・ナンバー。ランD.M.C.の”Peter Piper”を彷彿させる煌びやかな上物と、腰を刺激するグルーヴが格好良い。この伴奏の上で、『What’s Going On』のマーヴィン・ゲイやマックスウェルのようにしっとりと歌うリオン・ブリッジのヴォーカルも気持ちいい。今までありそうでなかったタイプの曲だ。

    そして、本作の最後を締める”Conversion”は、リオン・ウェアの『Leon Wear』や『Musical Massage』を連想させる艶めかしい伴奏と、オーティス・レディングの”Try A Little Tenderness”をもっとシックにしたような、切ない雰囲気のヴォーカルが心に響くスロー・ナンバー。リオン・ブリッジの作品ではあまり耳にしない70年代のソウル・ミュージックのような洗練されたサウンドと、クルアンビンの音楽ではあまり耳にしない60年代以前の武骨なヴォーカルの組み合わせが新鮮だ。相手の持ち味を取り込み、自身の魅力を引き出した、コラボレーションの醍醐味を楽しめる楽曲だ。

    本作は、白人のサイケデリック・バンドと黒人のソウル・シンガーのコラボレーションでありながら、スライ&ザ・ファミリー・ストーンやジミ・ヘンドリックス、ファンカデリックのような、黒人のサイケデリック・ミュージックとは一線を画したものになっている。それは、彼らが東南アジアのファンクやサイケデリック・ロックという、外国人のフィルターを噛ませた音楽から影響を受けていることや、リオン・ブリッジが60年代以前の泥臭いソウル・ミュージックを土台にしていることが大きいと思う。もっと言えば、他の人とは異なるユニークなスタイルを武器にしている両者が組んだからこそ、単なるサイケデリック音楽+ソウル・ミュージックの組み合わせとは一味違う、バラエティ豊かな音楽が生まれたのだろう。

    単なる懐古趣味とは対極の、故い音楽を温ねて新しい音楽を想像した魅力的なソウル作品。4曲と言わず、もっと多くの作品を録音してほしい、そう思わせる説得力と魅力にあふれた傑作だ。

    Track List
    1. Texas Sun
    2. Midnight
    3. C-Side
    4. Conversion



    Texas Sun
    KHRUANGBIN & LEON BRIDGES
    DEAD OCEANS
    2020-02-07

    The New Respects - Before The Sun Goes Down [2018 Credential]

    少ない人数と比較的安価な機材で作れるヒップホップやR&B、電子音楽の隆盛によって、不利な立場に置かれている、ロック・バンド。

    アメリカのポップス史を振り返ると、スライ&ザ・ファミリー・ストーンやアイズレー・ブラザーズ、ファンカデリックなど、黒人によるロック・バンドが多くの名作を残していたが、近年は少数派になっていた。そんな中、数少ない黒人によるロック・バンドとして頭角を現しているのが、ナッシュビルを拠点に活動する4人組、ザ・ニュー・リスペクツだ。

    彼女達は、ヴォーカル兼ギターのジャスミン・マレン。ギターのザンディ、ベースのレキシのフィッツジェラルド姉妹、彼女達の兄弟であるドラムのダリウスからなる4人組。10代の頃からゴスペル・シンガーであるジャスミンの母、ニコールのステージで演奏するなど、多くのステージを経験してきた叩き上げのバンドである。

    本作は2017年の『Here Comes Trouble』以来となる新作で、彼女達にとって初のフル・アルバム。10曲の新曲に加え、前作に収められている”Come As You Are “、”Frightening Lightning”、”Trouble”を収録したものになっている。

    新曲のうち、本作に先駆けて公開されたのは7曲目の”Something To Believe In”。スライ&ザ・ファミリー・ストーンの”Family Affaire”を思い起こさせる軽快なビートと、陽気な歌声が心に残るアップ・ナンバー。リズミカルなギターの演奏と、パワフルでありながら適度に力を抜いたジェシーの歌声が印象的な曲だ。キュートでセクシーなコーラスは、スリー・ディグリーズやエモーションズに少し似ている。

    これに対し、本作のリリース直前に発表された”Before The Sun Goes Down”は、しなやかなベース・ラインと少しゆったりとしたテンポの演奏、流麗なメロディと可愛らしい歌声の組み合わせが心地よい楽曲。粗削りな音色の楽器を組み合わせて、ポップで洗練された楽曲を生み出すセンスと技術に驚かされる。ベース・ラインがカーティス・ブロウなどの80年代のヒップホップに少し似ているのも見逃せない。

    また、エミネムなどを手掛けているセロン・フェムスターが制作に参加した”Freedom”は、ゴツゴツとしたサウンドを活かした泥臭いミディアム・ナンバー。60年代のスタックス・レコードや、70年代のハイ・レコードのような、往年のアメリカ南部の音楽レーベルが遺したお蔵入り作品ではないかと思わせる、泥臭い演奏が魅力のミディアム・ナンバー。重く荒々しい伴奏をバックに、雄叫びのような力強い歌声を響かせるジャスミンには、エッタ・ジェイムスやビヨンセのような威圧感すらある。

    それ以外の曲では、”Future”も見逃せない。エフェクターを使って電子楽器っぽく仕立てたベースが生み出すグルーヴと軽快にリズムを刻むギターの伴奏が心地よい曲。スライ&ザ・ファミリー・ストーンの尖った雰囲気と、ザ・ルーツの安定感が融合したような曲だ。

    このアルバムの聴きどころは、ツイン・ギターにベース、ドラムにヴォーカルという、ビートルズの時代から現代まで、多くのバンドが取り入れてきたスタイルを用いながら、独自性を発揮しているところだ。シンプルな編成のバンドでありながら、様々なアーティストの演奏手法を引用し、独自性を発揮しているところだ。ロックという成熟した分野で、過去の蓄積を利用しつつ、それらを組み合わせて独自の作品を組み立てているのが彼女達の面白いところだと思う。

    ヒップホップやエレクトロ・ミュージックのような打ち込み音楽に押されがちなバンド・サウンドの魅力と可能性を感じさせる良作。アルバムを聴き終えた後、楽器が弾きたくなる魅力的な作品だ。

    Track List
     Ben Shive, Jeremy Lutito, Theron Feemster


    Track List
    1. Ain't Goin' Nowhere
    2. Before The Sun Goes Down
    3. What You Really Want
    4. Trigger
    5. Hands Up
    6. Freedom
    7. Something To Believe In
    8. Come As You Are
    9. What Makes The World
    10. Trouble
    11. Frightening Lightning
    12. Future
    13. Rich





    BEFORE THE SUN GOES DOWN [LP] [Analog]
    THE NEW RESPECTS
    CREDENTIAL RECORDINGS
    2018-08-17

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