2年間の活動休止期間が終わった直後に、60万人を動員するツアーを行うなど、デビューから14年の時を経ても、アジア屈指の人気グループとして活躍している東方神起や、平昌五輪の閉会式で、欧米のミュージシャンにも見劣りしない本格的なR&Bを披露したEXOなど、多くの人気ヴォーカル・グループを輩出してきた、韓国のSMエンターテイメント。同社が2016年に送り出したのが、多国籍のメンバーからなる男性ヴォーカル・グループ、NCTだ。

「Neo Culture Tecnology」の頭文字をとったこのグループは、これまでも同社が掲げてきた「国際化」に加え「開放と拡張」をテーマに結成。日本出身のユウタこと中本悠太や、中国出身のクンこと钱锟(チェン・クン)など、外国出身のメンバーが半数を占めるほか、派生ユニットのNCT UやNCT127という形で、楽曲のコンセプトに応じてグループ名と構成メンバーを変え、2018年4月には3名の新メンバーを加えるなど、従来のヴォーカル・グループの枠組みに囚われない。柔軟な発想と本格的なパフォーマンスを武器に、複数の作品をヒットさせてきた。

この曲を歌う、テンことチッタポン・リチャイヤポンクルは、同グループに所属するヴォーカリスト。バンコク出身の中国系タイ人である彼は、同社の研修生を経て2016年にデビュー。その後は主に派生ユニットのNCT Uの一員として活動してきた。しかし、そんな彼は、所属事務所によるシングルの連続リリース企画「SM Station」の第54弾として、2017年にNCTのメンバーでは初のソロ作品となるシングル”Dream In A Dream”を発表。ステファン・カールを起用し、全編英語詞で歌われたこの曲は、韓国や母国のタイよりも、アメリカでヒットするという珍しい記録を残している。

本作は、同企画の第108弾としてリリースされた、彼にとって2枚目のソロ・シングル。楽曲制作にはカナダ人のシンガー・ソングライター、ショーン・フックと、ブリトニー・スピアーズなどの曲を手掛けてきたアメリカ人のシンガー・ソングライター、ジョン・アッシャーを起用。前作に引き続き、英語詞の曲に挑戦するなど、欧米のポップス市場を意識した作品になっている。

シンセサイザーを組み合わせたスタイリッシュなイントロから始まるこの曲は、フォーク・ソングを連想させるつま弾くようなギターの伴奏や、ディプロやスティーヴ・アオキのEDM作品を彷彿させるダイナミックなビートなど、色々な音楽の要素を次々と繰り出す展開が面白いミディアム・ナンバー。このトラックをバックに、彼は22歳(発売日時点)らしい爽やかさと、20代とは思えない大人の色気を感じさせる、甘く切ないヴォーカルを披露している。

そんな彼の作品を聴いて、真っ先に思い浮かんだのは、アッシャーやジャスティン・ビーバーの音楽だ。20代前半の若い感性を活かしつつ、ベテラン・シンガーのような老練した表現を披露する姿は、”U Remind Me”やBurn”などで、20代とは思えない円熟した歌唱を聴かせていたアッシャーとよく似ている。また、R&Bの手法に囚われない、ポップなメロディと多彩なアレンジを取り入れる手法は、R&Bのみならず、ヒップホップやEDMなどを飲み込み、独創的な音楽を生み出すジャスティン・ビーバーを思い起こさせる。この鋭い感性と熟練の技術、あらゆる音楽を飲み込む懐の深さが、彼の作品の魅力だと思う。

様々な国籍のタレントやソングライターを巻き込み、国際化と拡張を続ける韓国のR&Bシーンの熱気と勢いを感じさせる面白い楽曲。マイケル・ジャクソンや日本の三浦大知BIGBANGSOLのように、歌とダンスで世界中の人を感動させる、R&B界のスターになりそうな逸材だ。