melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

2017

Vivian Green - VGVI [2017 Make Noise, Caroline]

ヴィヴィアン・グリーンことヴィヴィアン・サキーヤ・グリーンは、ペンシルベニア州フィラデルフィア出身のシンガー・ソングライター。

子供のころからピアノを演奏し、自作曲を生み出していた彼女は、13歳の時に4人組の女性ヴォーカル・グループ、ユニーク(Younique)に加入。97年にはボーイズIIメンの97年作『Evolution』の収録曲”Dear God”でソングライターとしてデビューすると、その後はソング・ライターやバック・コーラスとして活動、ジル・スコットなどのツアーに帯同するなど、多くの仕事をこなすようになった。

このアルバムは、2015年の『Vivid』から約2年ぶりとなる、通算6枚目のスタジオ・アルバム。前作も扱っている自身のレーベル、メイク・ノイズからのリリースで、配給は前作に引き続き、クリセット・ミシェルやジョニー・ギルの作品を配給しているヴァージン傘下のキャロライン。プロデュースは彼女に加え、他の作品にも携わっているクワメ・ホランドやフィリップ・ランドルフが担当し、ゲストには ミュージック・ソウルチャイルドやシャリッサ・ザ・ヴァイオリンディーヴァが名を連ねた、本格的なソウル作品担っている。

アルバムの実質的な1曲目は、初期のカニエ・ウエスト作品を思い起こさせる、ソウル・ミュージックをサンプリングしたような伴奏が格好良い”Vibes”。声ネタなどを多用し、ヒップホップ色を強めたトラックと、その上でゆったりと歌うヴォーカルが心地よいミディアム。クリセット・ミッシェルシリーナ・ジョンソンなど、ヒップホップを取り入れたスタイルのソウル・ミュージックに取り組んでいる女性シンガーは少なくないが、この曲は他の人の作品よりもワイルドな印象。

また、本作に先駆けてリリースされた”I Don't Know”は、ウェイン・ワンダーやルシアーノなどのレゲエ・シンガーを彷彿させる甘酸っぱいメロディと歌声、陽気でまったりとした雰囲気のトラックが心に残るスロー・ナンバー。レゲエ歌手には伴奏に合わせて、柔らかく歌う歌手が多い中、所々で力強い歌声を響かせる姿が印象的。

だが、本作のハイライトは何といってもフィリップ・ランドルフが制作に参加した”Happy With You”だろう。シンセサイザーを軸にしたシンプルな伴奏をバックに、丁寧にメロディを歌う彼女の姿が印象的なスロー・ナンバー。ギターやドラムの生演奏が主体の50年代から、延々と使われてきた古典的なアレンジとメロディを、豊かな表現力と歌声で新鮮な音楽に聴かせる技は圧巻の一言だ。

そして、ミュージック・ソウルチャイルドを招いた “Just Like Fools”は、同曲の路線を踏襲したバラード、グラマラスで器用な歌が魅力のヴィヴィアンと、柔らかい声と武骨な歌唱が魅力のミュージックの個性がぶつかり合う、ダイナミックなバラード。高い技術とパワーを兼ね備えた両者の持ち味が遺憾なく発揮された名演だ。

彼女のアルバムは、シャンテ・ムーアレイラ・ハザウェイといった歌唱力をウリにした女性シンガーと比較しても保守的な作品に映る。緻密ではあるが、奇抜なアレンジは皆無で、彼女がキャリアをスタートした90年代のR&Bをベースに、ヴォーカルの表現を駆使して楽曲に様々な表情を与えている。その姿は、アレサ・フランクリンやエッタ・ジェイムスといった、ずば抜けた歌唱力を武器に、色々な曲に魂を吹き込んだ名シンガーを思い起こさせる。

「歌」の可能性を極限まで突き詰めた、高い実力を持つ歌手による本格的なヴォーカル作品。斬新なサウンドが次々と生まれる2018年では歌の持つ無限の可能性が堪能できる数少ないアルバムだ。

Producer
Vivian Green, Kwame Holland, Phillip "Phoe Notes" Randolph

Track List
1. Overture
2. Vibes
3. Promise
4. I Don't Know
5. That's What Love Can Do
6. 1st Time (Again)
7. Happy With You
8. Just Like Fools [Revisited] feat. Musiq Soulchild
9. Chances
10. Mutual Feelings feat. Charisa the Violindiva
11. Supa Dope Fresh Beat Show (Interlude)
12. Sunglasses
13. Stop Sleeping (See the Light)



Vgvi
Vivian Green
Make Noise Llc
2017-10-06

112 - Q MIKE SLIM DARON [2017 Entertainment One U.S.]

同じハイスクールに通っていた面々で結成。その後、メンバー交替を繰り返しながら、地元を中心に多くのライブを行い、豊かなバリトン・ヴォイスと滑らかなハイ・テナーが織りなす、美しいコーラスで名を上げてきた、アトランタ出身の4人組ヴォーカル・グループ、112。

93年にショーン・コムズが率いるバッド・ボーイと契約すると、95年に映画「Money Train」のサウンド・トラックに収録されている”Making Love”で、華々しく表舞台に登場した。

また、96年にアルバム『112』を発表するとノートリアスB.I.G.などをフィーチャーした”Only You”や、アーノルド・ヘニングスがプロデュースしたバラード”Cupid”などが立て続けにヒット。その後も、ショーン・コムズ作のノートリアスB.I.G.への追悼ソング”I'll Be Missing You”に客演する一方、自身の名義でも”Dance with Me”や”Peaches & Cream”などのヒット曲を発表。2007年以降はバッド・ボーイを離れ、複数のレーベルから作品をリリースしてきた。

本作は、2005年の『Pleasure & Pain』以来、実に12年ぶりとなる通算5枚目のスタジオ・アルバム。といっても、彼らはこの12年間にメンバーの大半がソロ作品を発表し、色々なミュージシャンの楽曲に参加するなど、精力的に活動し、力を蓄えてきた。このアルバムでは、SWVAfter7ラトーヤ・ラケットの作品を配給しているeOneをパートナーに選び、プロデューサーにはブライアン・マイケル・コックスやケン・ファンブロといった、90年代から活躍するクリエイターを起用。一世を風靡した112のサウンドをベースにしつつ、2017年に合わせてアップ・トゥ・デイトした楽曲を聴かせている。

アルバムの実質的な1曲目となる”Come Over”は、ベティ・ライトとザ・ルーツのコラボレーション・アルバムにも携わっているショーン・マクミリオンが参加したスロー・ナンバー。メロー・ザ・プロデューサーとエクスクルーシブスが手掛けるトラックは、電子楽器を使ったシンプルなビートだ。90年代後半に流行したスタイルのトラックを使いつつ、これまでの4人の作品ではあまり聴けなかった、強くしなやかなヴォーカルを披露する手法が新鮮だ。線が細く色っぽい歌声が魅力の4人が、力強いパフォーマンスも使いこなせるようになったことに、時間の流れを感じさせる。

続く、”Without You”は、ビヨンセやアッシャーのような大物から、クリセット・ミッチェルやジニュワインのような通好みの名シンガーまで、多くの歌手の作品にかかわってきたエルヴィス・ヴィショップが制作を担当。シンセサイザーを使ったシンプルなトラックは、”Come Over”に似ているが、ヴォーカルのアレンジでは、彼らの繊細でしなやかな声を活かした、緻密な編曲技術を披露している。彼らの代表曲”Cupid”のフレーズを取り入れた点も含め、90年代から活躍する彼らの持ち味を尊重しつつ、それを現代向けにアレンジしたセンスが印象的だ。

そして、本作に先駆けてリリースされた”Dangerous Games”は、”Without You”も手掛けているエルヴィス・ヴィショップと共作したバラード。グラマラスで滑らかなヴォーカルと、美しいハーモニーの組み合わせは、112というよりボーイズIIメンの新曲っぽい。繊細さとしなやかさを兼ね備えた歌声で、ダイナミックな感情表現と正確無比で重厚なコーラスを披露するスタイルは新鮮だ。

だが、本作の目玉は何といっても”Both Of Us”だろう。マライア・キャリーやアッシャー、クリス・ブラウンなどに楽曲を提供してきたブライアン・マイケル・コックスのプロデュース、ゲスト・ヴォーカルとして、112と一緒に90年代以降のR&Bシーンを盛り上げてきたジャギド・エッジが参加したこの曲は、ロマンティックなトラックをバックに、美しいメロディを個性豊かなヴォーカルが歌い上げる豪華なバラード。ヴォーカル・グループが好きな人なら、最初の一声を聴いた瞬間に涙腺が崩壊すること間違いなしの、経験を積んで老獪さを増した8人のヴォーカルが堪能できる名バラードだ。強烈な個性がウリのラッパーやソロ・シンガーが流行っている2017年には貴重な、歌の技術で勝負した名演だ。

今回のアルバムは、これまでの作品同様、スマートで繊細なヴォーカルや、ヒップホップをベースにした硬質なトラックを軸に据えつつ、時に大胆に感情を吐き出し、時に力強く歌う場面や、分厚いハーモニーを聴かせるアレンジなど、旧作では見られなかった表現にも挑戦している。バッド・ボーイ時代から続くヒップホップをベースにしたスタイルと、経験を積んで深みを増した表現が融合したことが、本作に新鮮さと奥深さをもたらしていると思う。

若者向けのヒップホップをバックボーンに持ちつつ、大人向けのミュージシャンへと成長を遂げた4人のパフォーマンスを思う存分堪能できる良盤。ヴォーカル・グループに厳しい時代と言われる時代でも良質な音楽の魅力は変わらないと感じさせる、強い説得力のある音楽だ。

Producer
Bryan-Michael Cox, Marcus Devine, Elvis Williams, Ken Fambro etc

Track List
1. Intro
2. Come Over
3. Without You
4. Dangerous Games
5. Both Of Us feat. Jagged Edge
6. True Colors
7. 112/Faith Evans Interlude
8. Wanna Be
9. Still Got It
10. Lucky
11. 1’s For Ya
12. Thank You Interlude
13. Simple & Plain
14. My Love
15. Residue



Q Mike Slim Daron
112
Ent. One Music
2017-10-27

Precious Lo’s - Too Cool For Love [2018 P-Vine]

2000年代前半ごろから、ディム・ファンクなどの台頭によって注目を集め、近年はスヌープ・ドッグとディム・ファンクのコラボレーション作品や、メイヤー・ホーソンがヴォーカルを担当するタキシードのヒットも話題になっている、80年代テイストのソウル・ミュージック。2017年には日本人クリエイター、T-Grooveの『Move Your Body』が発売され、収録曲が複数の国のヒット・チャートに名を刻むなど、世界中のミュージシャンを巻き込んで盛り上がっているこのジャンルで、新たに頭角を現したのが、カナダ出身の二人組、プレシャス・ローズだ。

トロントを拠点に活動する、ニック・タイマーと日系カナダ人のギル・マスダによるこのユニットは、2000年ごろから、ヒップホップ・ユニット、サークル・リサーチの名義で複数の作品をリリースしている、経験豊富なベテラン。2017年には、後にイギリスのコンピレーション・アルバム『Roller Boogie Volume 3』にも収録される、T-Grooveのシングル”Roller Skate”にフィーチャーされたことでも話題になった。

今回のアルバムは、サークル・リサーチ名義の2008年作『Who?』以来、約11年ぶり、現在の名義では初となるスタジオ・アルバム。プロデュースはサークル・リサーチ名義で、ヴォーカルは二人が担当。ゲストとして、音楽とヴィジュアルの両分野で独創的な作品を残している、トロント出身のシンガー・ソングライター、メイリー・トッドなどが参加。ヒップホップの世界で培った経験と、ソウル・ミュージックへの深い造詣を活かした、本格的なソウル作品を披露している。

アルバムの1曲目は、タイトル・トラックの”Too Cool For Love”。ゆったりとしたビートと、ポロポロと鳴り響くピアノの音色を強調したトラックと、ラップのような抑揚のあるメロディは、ディスコ音楽というより、ディアンジェロやサーラ・クリエイティブ・パートナーズのような、ヒップホップを取り入れたソウル・ミュージックに近い。長い間、ヒップホップに取り組んできた彼ららしい曲だ。

この路線を突き詰めたのが、アルバムに先駆けてミュージック・ビデオが制作された”Right Time For Us”。太いシンセサイザーの音色を使ったビートが格好良いミディアム・ナンバー。ヴォーカルが入っている個所は少なめで、トラックのアレンジによって曲に起伏をつけているスタイルは、エイドリアン・ヤングの作品を彷彿させる。

また、”Older Now”との組み合わせで、7インチ・レコード化された”Small Town Girl”は、軽妙な伴奏とゆったりとしたメロディが心地よいスロー・ナンバー。ファルセットを多用した滑らかな歌唱は、メイヤー・ホーソンのそれを思い起こさせる。レゲエのエッセンスを盛り込んだ緩いビートとメロディも見逃せない。

そして、本作の隠れた目玉が”Older Now”。シカゴが生んだソウル界の巨匠、ジーン・チャンドラーの80年のヒット作”Does She Have A Friend?”のフレーズをサンプリングしたこの曲は、アナログ・シンセサイザーの音色を使ったスタイリッシュでグラマラスな伴奏の上で、メロディを崩すように歌う姿が心に残るミディアム・ナンバー。伴奏だけを聴くと”Does She Have A Friend?”のテイストが強いが、ヴォーカルのアレンジで現代のヒップホップのように聴かせている。

今回のアルバムの面白いところは、80年代のソウル・ミュージックと現代のヒップホップやR&Bの手法を組み合わせ、80年代の音楽の雰囲気を残しながら、現代のリスナーの琴線に響く作品に仕立てているところだ。音色選びやアレンジでは、随所にモダンな80年代のソウル・ミュージックの要素を取り入れつつ、メロディやアレンジに現代のブラック・ミュージックの先鋭さを盛り込むことで、80年代の洗練された雰囲気を残しつつ、過去の音楽とは一線を画した、現代的な新しいソウル・ミュージックに纏め上げている。

ヒップホップに慣れ親しんだ世代のミュージシャンによる、鋭い視点と斬新な解釈が面白いソウル・アルバム。サンプリング・ソースという形で結びつくことの多かった、80年代ソウルと現代のヒップホップの新しい関係を感じさせる良作だ。

Producer
Circle Research

Track List
1. Too Cool For Love
2. More Than Frends (feat. Maylee Todd)
3. Without You (feat.Tyler Smith)
4. Still The Same (feat.Tyler Smith)[Buscrates 16-Bit Ensebmle Remix]
5. Falling For You
6. Problems
7. Right Time For Us
8. This Is Love (Circle Research Remix)
9. Night Ridin’(feat. Tyler Smith)
10. Fly Away (Tyler Smith Remix)
11. Thinking
12. Small Town Girl
13. Older Now
14. U Turn Me Up





トゥ・クール・フォー・ラヴ
ザ・プレシャス・ローズ
Pヴァイン・レコード
2018-02-14

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