melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

2021

Heize - Happen [2021 P Nation]

「江南スタイル」が動画投稿サイトで多くの記録を打ち立て、「聴いて楽しむ」音楽に「観て楽しむ」「誰かと共有して楽しむ」というスタイルがあることを僕らに教えてくれたPSY。

2018年には、8年もの間在籍していたYGエンターテイメントとの契約を終了。翌年に自身のレーベルPネイションを立ち上げると、多くの実績豊富なミュージシャンが彼を慕って集まってきた。

ヘイズこと、ジャン・ダヒェも彼のレーベルに移籍した歌手の一人。2014年にEP『Heize』で表舞台に現れた彼女は、歌、ラップ、ソングライティングをこなす多才さが強み。2016年にはラッパーのオーデション番組『Unpretty Rapstar』の第2シーズンで頭角を表し、2017年以降は音楽賞の常連となる活躍を見せている。また、自身の活動と並行して、シャイニーのジョンヒョンやエピック・ハイ、ファー・イースト・ムーブメントなど、国内外の大物ミュージシャン達とコラボレーションし、韓国を代表する歌姫として、確固たる地位を築いてきた。

移籍後第1作となるEPは、R&Bと歌謡曲の両分野で名作を残してきた彼女の良さが遺憾なく発揮された佳作。 4つ打ちのビートの上で、悲しみを帯びたメロディを朗々と歌う先行シングル"HAPPEN"に始まり、iKONの"Love Senario"を彷彿させる、キャッチーで牧歌的な出だしから、歌とラップが絡み合うバラードが展開する"Like the first time"、図太い音のシンセ・ベースとゆったりとしたメロディがDAM-FUNKっぽい"Why"など、ヒップホップやR&Bに留まらず、歌謡曲やファンクなど、バラエティ豊かな音を聴かせてくれる。

現代の韓国の音楽シーンは、ヒップホップと歌謡曲という対極的なスタイルが主流だ。彼女はその二つを巧みに乗りこなすことで、自身の音楽の幅を広げている。韓国のポピュラー音楽の懐の深さを感じさせる佳作だ。

Track List
1. HAPPEN
2. Like the first time feat. Gary
3. Flu feat. CHANGMO
4. Why
5. The Walking Dead feat. Kim Feel
6. From the Rain feat. Ahn Ye Eun
7. Hi, hello?
8. Destiny, it’s just a tiny dot.






 

Jorja Smith - Be Right Here [2021 FAMM]

ビートルズ、ローリング・ストーンズからエイミー・ワインハウスやディジー・ラスカルズまで、世界の音楽シーンに革命を起こし続けた英国のミュージシャン達。その歴史を踏襲し、音楽界に新しい風を吹き込もうとしているのが、ジョルジャ・スミスだ。

彼女が表舞台に出るきっかけとなったのは、2016年に出た初のEP『Project 11』。同作に収められた曲が、ドレイクから高い評価を受けたことで、世界中の音楽好きから注目を集めた。また、彼の2018年作『More Life』の収録曲にフィーチャリング・アーティストとして起用されると、一気にブレイク。同年にリリースされた『Lost & Found』は、ゴールドディスクを獲得する大ヒットとなった。

約3年ぶりとなるスタジオ作品では、これまでの作品の音楽性を踏襲しつつ、それを発展させた楽曲を披露している。

それを象徴するのがアルバムからの先行シングル"Gone“。この曲はシンプルなR&Bのトラックをバックに、訥々と歌う彼女の姿が印象的なスロー・ナンバーだ。上品で洗練されたメロディとトラックは、彼女の歌の魅力を余すことなく引き出している。

このほかにもダブステップの要素を盛り込んだトラックの上で丁寧に歌う姿が光る"Addicted"や、ダンスホール・レゲエとドラムンベースを取り入れた"Bussdown"など、イギリスのミュージシャンらしい、大胆で先鋭的なアレンジや、若さ溢れるみずみずしい歌声、20代とは思えない、妖艶な歌唱が織り交ぜった独特の音楽が楽しめる。

本作は、歌声や表現力、スター性といった彼女の素材を活かしつつ、各クリエイターが大胆な冒険に打って出ている。新旧のポップスとクラブ・ミュージック、伝統的なソウル・ミュージックを飲み込み、消化して、新しい音楽に仕上げて世に投げかけた、現代の英国音楽シーンを象徴する画期的な作品だ。

Producer
Joel Compass, Riccardo Damian, Rahki, Ed Thomas, Gitty, Karl Banx, Charlie J. Perry

Track List
1. Addicted
2. Gone
3. Bussdown
4. Time
5. Home
6. Burn
7. Digging
8. Weekend



BE RIGHT BACK(輸入盤)
Jorja Smith
FAMM
2021-06-04

Crystal Thomas – Now Dig This! [2021 Dialtone]

アメリカ南部、ルイジアナ州の一帯は沼などの湿地が多いことから、バイユー・ゲート(bayou gate)と呼ばれている。

また、ニューオーリンズを含むこの地は、ファンク・バンドのミーターズやゴスペル歌手のマヘリア・ジャクソンといった、有名なミュージシャンを生み育てきた。この土地で演奏されるユニークな音楽はニューオーリンズ・ジャズ・ニューオーリンズ・ファンクと呼ばれている

ルイジアナ州北西の都市、シュリーブポート出身のシンガー、クリスタル・トーマスはこの地域の将来を担うことを嘱望されている、期待の若手(といっても妙齢だが)だ。

今回のアルバムでは、2年前に出た前作に引き続き、ラッキー・ピーターソンやチャック・レイニーといった、現代のアメリカを代表するベテランのブルース・ミュージシャンとコラボレーション。新曲に加えて、往年のブルースやソウルの楽曲をカバーすることで、当時の音楽が持つ熱量を現代に甦らせている。

彼女の力量は、アルバムのオープニングを飾るバーバラ・ウエストのカヴァー、"I'm A Fool For My Baby"を聴けばよくわかる。ルイジアナ音楽界の重鎮、トゥーサン・マクニール作の激しいダンス・ナンバーを堂々と歌い上げている。50年代のアメリカでは、ブルースがダンス音楽として重用されていたが、その頃の熱気を完璧に再現している。

また、"Blues Funk"はタイトル通りのブルースとファンクが合わさった音楽、ブルース・ファンクのスタイルで演奏されるアップ・ナンバー、ブルースの持つ怪しげな雰囲気と、ファンクの持つ色気が同居した楽曲は、間違いなく「ブルース・ファンク」だ。

また、ミディアム、スロー・ナンバーにも見逃せない曲が多い。特にジャニス・ジョップリンの楽曲をブルースにアレンジした"One Good Man“や、ジャズ・オルガン奏者、シャーリー・スコット作のスロー・ナンバー"The Blues Ain't Nothing But Some Pain”では、トーマスの大胆な表現と力強い歌声を余すことなく聴くことができる。

本作では彼女の恵まれた身体能力が生み出す迫力のある声と、豊富なステージ経験で培われた表現力が遺憾なく発揮されている。また、本作で彼女と共演しているチャック・レイニーやラッキー・ピーターソンといったベテラン・ミュージシャン達は、熟練の技を遺憾なく発揮している。彼女達の高い演奏技術と豊かな経験が、新旧の楽曲に命を吹き込んでいるのだ。

ルイジアナの豊かな音楽文化が堪能できる佳作。いつの日かライブで観たいと思わせる説得力が心に残る。

Track List
1. I'm A Fool For You Baby
2. I Don't Worry Myself
3. Take Yo' Praise
4. Ghost Of Myself
5. Blues Funk
6. One Good Man
7. No Cure For The Blues
8. Can't You See What You're Doing To Me
9. The Blues Ain't Nothing But Some Pain
10.Let's Go Get Stoned



No Cure For The Blues
DIALTONE RECORDS
2021-03-05


 
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