melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

BMG

Eric Benét – Eric Benét [2016 Jordan House, BMG]

1996年にアルバム『True To Myself』でデビュー。その後は、”You're the Only One”やタミアをゲストに招いた”Spend My Life with You”などのヒット曲と、『A Day in the Life』や『Love & Life』などの優れたアルバムを残してきた、ミルウォーキー出身のシンガー・ソングライター、エリック・ベネイ。彼にとって、スタジオ・アルバムとしては2014年の『From E To U : Volume 1』以来2年ぶり9枚目、アメリカ国内で配給されたアルバムとしては2012年の『The One』以来4年ぶり7枚目となるオリジナル・アルバム『Eric Benét』が、自身のレーベル、ジョーダン・ハウスから発売された。

古いレコードからサンプリングしたフレーズや、シンセサイザーの音色を多用した、ヒップホップ寄りのR&Bが流行していた90年代中期。そんな時代に、彼は、生演奏による伴奏と、スマートで色っぽいハイ・テナー組み合わせたスタイルを携えて音楽シーンに登場。年季の入ったソウル・ファンから若い音楽ファンまで、幅広い層から支持を得てきた。

それから約20年、今や、生演奏を使ったR&Bは、ブルーノ・マーズからアデルまで、色々なミュージシャンのアルバムで聴かれるようになったし、ファレル・ウィリアムズのように、スマートなファルセットやハイ・テナーをトレード・マークにする歌手も増えてきた。だが、どれほど時代が変わっても、彼の音楽が多くの人から愛され続けているのは、流麗で親しみやすいメロディと、ハイトーンだが柔らかい歌という、確固たる個性が確立されていいるからだろう。

さて、本作の収録曲はというと、まず、アルバムのオープニングを飾る”Can't Tell U Enough”は、華やかなホーンで70年代のソウル・ミュージックっぽい豪華な雰囲気を演出したトラックに、滑らかなファルセットが乗っかった、2000年以降のプリンスっぽいファンク・ナンバー。ヒップホップの影響を感じさせる重めのビートを取り入れつつ、過去の作品でも数多く収録されている、少しゆったりとしたテンポのアップ・ナンバーを1曲目に持ってきたところが、作風がブレないことで定評のある彼らしくて格好良い。

続く、”Sunshine”は、艶めかしいギターの音色を軸にしたシンプルな伴奏の上で、繊細な歌声をじっくりと聴かせるスロー・ナンバー。ベイビーフェイスの『Playlist』に収録されていても不思議ではない、美しいメロディとみずみずしいテナーが堪能できる本作の目玉だ。一方、日本盤CDと配信バージョンのみに収められている同曲のリミックス・ヴァージョンは、”Spend My Life with You”で共演したタミアをフィーチャーしたデュエット。ギターの伴奏をキーボードに差し替えるなど、90年代の録音を彷彿させるモダンで洗練されたトラックをバックに、二人が交互に歌うロマンティックな曲だ。オリジナル・ヴァージョンでは、他の曲ではあまり見せないワイルドな歌声を響かせるエリックと、円熟した大人の色気を漂わせるタミアの歌が絡みあう 、本作一番の聴きどころだ。

それ以外の曲では、パンチの聴いたドラムとや力強いギターなど、一つ一つの楽器の音色がはっきりした演奏の上で、力強い歌唱をじっくりと聴かせるスロー・ナンバー”Insane”や、マーク・ロンソンの”Uptown Funk”などのヒットで盛り上がっている四つ打ちのビートと、ホーン・セクションやギター、キーボードなどの音色を重ね合わせたモダンな演奏をバックに、クール&ザ・ギャングっぽい軽快なメロディを聴かせる”Cold Trigger”。日本人の耳にはどうしても山下達郎の”Sparkle”っぽく聞こえてしまう、爽やかなエレキ・ギターのリフを取り入れたラフな雰囲気のトラックと、MCライトのワイルドなラップが、エリックの洗練されたヴォーカルを引き立てる”Holdin' On”や、ディジー・ガレスピーとも競演している、キューバ出身のジャズ・トランペット奏者、アルトゥーロ・サンドヴァルが切れ味鋭い演奏を披露するサルサ・ナンバー”Run To Me”(曲の所々で挟みこまれる、異様にセクシーな声の持ち主は誰なんだろう?)など、いずれも魅力的で捨てがたい、ハイレベルな曲が並んでいる。

実は、この文章を書く前に、過去の作品も一通り聴きなおしてみた。そして、彼が発表した楽曲を聴き続ける中で強く感じたことは、エリックが自分のスタイルを貫きながらも、時代の変化に合わせて、核以外の部分を微妙に調整しているということだった。流麗なメロディを、繊細でしなやかなハイ・テナーを使って丁寧に歌い上げるというスタイルは、デビュー当時から変わっていないが、アレンジや音の仕上がりは、時代によってかなり変わっている。本作でいえば、”Can't Tell U Enough”などのビートは、90年代の曲のそれと比べると音の輪郭がはっきりしているし、ディスコ音楽の流行を意識したと思われる”Cold Trigger”や、ヒスパニックの割合が多くなった現代のアメリカらしい、サルサを取り入れた楽曲”Run To Me”のように、特定のジャンルから強い影響を受けた楽曲が増えている。このように、彼は時代の変化を意識し、90年代の音楽のリメイクにならないよう、自身の音楽を更新しているように思えた。

自分の持ち味を大切にしつつ、時代の変化にもきちんと適応する、彼の良さが発揮された佳作。多くのベテラン・ミュージシャンが、自身の代表作が生み出すイメージに縛られて、時代に合わせた作風への転換に苦戦する中、それをいとも簡単に成し遂げたスキルは、もっと注目されてもいいと思う。

Producer
Eric Benét

Track List
1. Can't Tell U Enough
2. Sunshine
3. Insane
4. Cold Trigger
5. Home
6. Holdin' On feat. MC Lyte
7. Fun & Games
8. Run To Me feat. Arturo Sandoval
9. Floating Thru Time
10. Broke, Beat & Busted
11. That Day
12. Never Be The Same (Luna's Lullaby)
13. Sunshine Remix feat. Tamia





Eric Benet
Eric Benet
Primary Wave
2016-10-07

Mayer Hawthorne ‎– Man About Town [2016 VAGRANT]

2009年に発表した甘いメロディのミディアムナンバー、”Just Ain't Gonna Work Out”がソウル・ファンの注目を集めて以来、ソロ活動に客演にと大忙しのミシガン州はアナーバー出身のシンガー・ソングライター、メイヤー・ホーソン。2015年にリリースされたDJのジェイク・ワンとのユニット、タキシード名義でのアルバム以来となるオリジナル・アルバムが、米BMG傘下のロック・レーベル、ベイグラントから発表された。

モーメンツやマンハッタンズを彷彿させる、ロマンティックなメロディのソウル・ミュージックにはじまり、ガレージ・ロックやラップ風のヴォーカルのR&B、4つ打ちのディスコ・ミュージックまで、作品ごとに新しいスタイルを取り入れてきた彼。だが、今回のアルバムでは、新しい試みを少し抑え、ファースト・アルバムから続く、ソウル・ミュージックとヒップホップを融合させた作風に集中している。

実質的な1曲目、”Cosmic Love”は、ジェフ・ローバー・フュージョンの”Rain Dance”(ジャ・ルールとアシャンティが歌った、”Down 4 U”でサンプリングされたことでも有名だ)にも似た、ふわふわとしたキーボードの音色の上で、彼の甘い歌声が響くミディアム・バラード。彼の過去作が好きな人なら、この曲を聴いた瞬間にCDをレジに持って行くだろう。この後も、60年代のモータウン・サウンドを連想させる緻密なバンドの演奏に、ドラム・マシンの音色をアクセントとして加えたトラックと、軽快なメロディが心地よいミディアム・ナンバー”Book Of Broken Hearts”や、彼の声を幾重にも重ねて、デルフォニックスやシャイ・ライツを連想させる甘いコーラスを一人で再現した”Breakfast In Bed”など、どの曲がシングル・カットされても違和感のない良曲を次々と繰り出している。

そんな本作のハイライトは、本作では唯一、ロックに寄ったアップ・ナンバー”Love Like That”と、アナログ・シンセとホーン・セクションのリフが70年代のスライ・ストーンを思い起こさせる”Out Of Pocket”の2曲。デビュー・アルバムのころからちょくちょく見受けられる、彼の雑食性が反映された楽曲の一つだが、経験を重ねてしなやかさを増したヴォーカルのおかげで、ノーマン・ホイットフィールドが手掛けたテンプテーションズの楽曲のような、癖のあるソウル・ミュージックとして楽しめる。

甘い歌声とロマンティックなメロディ、そして歌声を引き立てる堅実で丁寧な伴奏の3つが揃った本作は、使われる音色こそ違えど、60年代、70年代のソウル・ミュージックに限りなく近い。過去の音楽を踏襲しつつ、現代のサウンドと融合させた彼の作品は、保守的だが新しい、何度聞いても飽きないものだ。

Producer
Mayer Hawthorne etc

Track List
1. Man About Town
2. Cosmic Love
3. Book Of Broken Hearts
4. Breakfast In Bed
5. Lingerie & Candlewax
6. Fancy Clothes
7. The Valley
8. Love Like That
9. Get You Back
10. Out Of Pocket





Man About Town
Mayer Hawthorne
Bmgri
2016-04-08


Joe – My Name Is Joe Thomas [2016 Plaid Takeover]

93年のデビュー以降、マライア・キャリーとのデュエット曲”Thank God I Found You”や、ミスティカルがラップで参加したテディ・ライリー作のダンス・ナンバー”Stutter”などのヒット曲を数多く発表してきた、ジョージア州はコロンバス出身のシンガー・ソングライター、ジョーにとって12枚目となるオリジナル・アルバム。

生演奏のダイナミックなサウンドを活かしたヴィンテージ・ミュージックや、80年代のディスコ・サウンドからインスピレーションを得た楽曲など、新しいスタイルの音楽が次々と登場する中、彼のように一時代を築いたミュージシャンの多くは、流行の音楽を取り入れたり、コアな音楽ファンをターゲットに据えたインディー・レーベルへと移籍したり、もしくはライブ中心の活動へと軸足を移したりと、戦略の修正を余儀なくされている。そんな中、彼は所属レーベルこそ何度も変わっているが、20年以上、自分のスタイルを守りながら、コンスタントに有力レーベルから作品をリリースしてきた。

2014年の『Bridges』に引き続き、米BMG傘下のプライド・テイクオーバーから発表された本作は、1999年にリリースされた彼の代表作『My Name Is Joe』に引っ掛けたタイトルに違わない、あの頃と同じジョーのサウンドが次々と繰り出される懐かしい作品だ。1曲目の”Lean Into It”のイントロを聴いた瞬間から、しっとりとしたメロディとシンプルで無駄のないバック・トラック、感情をむき出しにしつつも、艶を失わない滑らかな歌声が織りなす、彼のロマンティックな世界が眼前に広がっている。

その後も、フラメンコ・ギターの色っぽい音色とパーカッションをアクセントに使った、エロティックな空気が流れるミディアム・バラード”Wear The Night”や、グッチ・メインをゲストに招いたシンセサイザーの無機質なトラックが印象的なミディアム”Happy Hour”、電子音と楽器の音色が複雑に絡んだ、不思議な雰囲気のバラード”Lay Your Down”など、新しい音やゲストを加えつつも、滑らかな声で語り掛けるように歌う彼のスタイルで、全ての曲をジョー節に染め上げている。中でも、声だけでも存在感があるグッチ・メインに、あえて抑え気味の声でラップをさせて、ロマンティックなラブ・ソングのアクセントにして見せた”Happy Hour”などは、個性的なゲストやプロデューサーで自分の音楽を磨き上げてきたジョーらしい起用術だ。

もっとも、このアルバムのハイライトは”Our Anthem”と”Hello”だろう。オーティス・レディングの”Try a Little Tenderness”をサンプリングした前者は、ファンファーレのようなお馴染みのイントロにはじまり、崩れ落ちるようなピアノのフレーズや、メトロノームのように精密なリズムを刻むパーカッションといった、原曲のフレーズを取り込みつつ、同曲にインスパイアされたメロディ(替え歌?)を朗々と歌いつつ、最後にはオリジナル・ヴァージョンのサビを原曲に忠実な形で披露するという、大胆なアプローチを見せる。滑らかな歌声が武器のジョーが、その声を活かしつつ、オーティスの荒れ狂うような歌唱を再現したところに、ベテランにしか出せない表現の幅が垣間見える。

また、アデルの2014年作『25』に収録されている大ヒット曲”Hello”のカヴァーは、2010年代屈指の人気を誇る女性シンガーのダイナミックな歌唱が印象的なポップ・バラードを、数多くの名バラードを残してきたジョーの解釈で本格的なR&Bバラードにリメイクしている。アレンジは原曲に忠実なものだが、曲中では通常のしっとりとしたヴォーカルに加え、荒々しい地声やかすれるようなファルセットなどを使い分け、原曲の爆発するような感情表現を残しつつ、豊かな歌声を聴かせるソウル・バラードに生まれかわらせている。サビで聴かせる、泣き崩れるようなヴォーカルは、もはや楽曲に新しい意味を与えている。

長い時間かけて一つのスタイルを磨き上げてきたシンガーにしかできない、大胆な表現と繊細なアレンジの妙味が光っている。歌の職人と呼んでも過言ではない、一つの道を究めたシンガーの完成された技が堪能できる魅力的な作品だ。

Producer
Joe, Gerald Isaac etc

Track List
1. Lean Into It
2. Don’t Lock Me Out
3. Wear The Night
4. So I Can Have You Back
5. No Chance
6. Happy Hour feat. Gucci Mane
7. Hollow
8. Hurricane
9. Cant’ Run From Love
10. Tough Guy
11. Lay you Down
12. I Swear
13. Love Centric
14. Celebrate You
15. Our Anthem
16. Hello
17. Happy Hour (Original Mix)




マイ・ネーム・イズ・ジョー・トーマス
ジョー
Pヴァイン・レコード
2016-12-14

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