melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

BlueNote

Robert Glasper x KAYTRANADA - ArtScience Remixes [2018 Blue Note]

2012年に発表した5作目のアルバム『Black Radio』が、グラミー賞の「最優秀R&Bアルバム賞」を獲得するという前代未聞の偉業を成し遂げ、翌年にリリースした『Black Radio 2』もヒット。2016年には、マイルス・デイヴィスが遺した録音と、新たに吹き込んだ自身の演奏を組み合わせ、時代を超えたコラボレーション作品に仕立てた『Everything's Beautiful』で、ヒップホップに慣れ親しんだ世代の新鮮な感性と、ジャズに対する深い造詣を遺憾なく発揮したロバート・グラスパー。

彼が2016年にリリースしたアルバム『ArtScience』をリミックスしたのが本作。

これまでにも、9thワンダーやピート・ロックを起用した『Black Radio』のリミックスや、元D12のMr.ポーターを起用した"Calls"のリミックス・シングルなど、ヒップホップ畑のクリエイターを起用したリミックス作品を発売してきたロバート。しかし、本作で起用したのはカナダのモントリオール出身のエレクトロ畑のクリエイター、ケイトラナダだ。

そんな彼が手掛けたリミックス盤の実質的な1曲目は、ドラムン・ベースのビートを取り入れた”No One Like You”。バス・ドラムの音を強調したビートは、ジャズ・ドラムの音色を活かした上品なトラックに比べるとワイルドな印象。ケーシー・ベンジャミンのサックスが受け持っていたメロディ部分は、アレックス・アイズレーのヴォーカルに担当。複雑なビートに合わせた器用な歌唱と、アーニー・アイズレーの娘(つまり、ロナルド・アイズレーの姪)らしい、滑らかで色っぽい歌声が光っている良曲。原曲の面白いところを残しつつ、ヴォーカルもののエレクロ・ミュージックのようにも聞こえる新しい解釈を披露している。

続く、 ”Thinkin Bout You”では、ロバート自身がヴォーカルを担当していたミディアム・ナンバーを、タリブ・クウェリのラップを加えてヒップホップ作品にリメイクしている。音数を絞り、音と音の隙間を強調した演奏スタイルは残しつつ、ドラムとベースの音を太くして、グルーヴを強調している。抽象的なアレンジの楽曲を、音のバランスを変えるだけで、ディアンジェロを彷彿させるソウル・ミュージックから、ジェイ・ディラの作品を連想させるヒップホップに生まれ変わらせる手法は面白い。

また、ディスコ・ブギーの手法を取り入れた”Day To Day”のリミックスは、パトリック・フォージを思い起こさせるラテン音楽やアフリカ音楽のフレーバーを盛り込んだ作品。どちらも四つ打ちのビートを土台にした音楽だが、リミックス版の方がより洗練されている。オリジナル版以上にロバートの作品っぽいサウンドが心に残る名リミックスだ。

そして、イマン・オマーリを起用した”Find You”は、太いベースと、ロマンティックなピアノの音色が心に残るミディアム。原曲では8ビートやドラムン・ベースなど、複数のビートを組み合わせた先鋭的な構成と、シンセサイザーの音色を多用した伴奏が魅力の、尖った作品だった。しかし、このリミックス版ではミュージックマックスウェルの作品にも似ている。温かい音色としっとりとした伴奏が堪能できる。ロバートの作品では異彩を放っていた原曲を、彼っぽい音楽に落とし込む技術が聴きどころ。

本作では、原作のイメージを打ち壊す大胆なリミックスがある一方、原曲以上にロバートの音楽っぽい作品も並んでいる。おそらく、ケイトラナダがエレクトロ・ミュージックのプロデューサーでありながら、バッドバッドノットグッドなどのバンドとも組み、スヌープドッグからアリシア・キーズまで、あらゆるスタイルのミュージシャンの作品に参加してきたからだろう。個性豊かな面々と仕事をしてきた経験のおかげで、ヒップホップやR&B、ジャズが入り混じったロバートの作品が持つ豊かな魅力を、余すところなく引き出していると思う。

ジャズ・ミュージシャンが他者の作品に自身の解釈を加え、新しい音楽に仕立て上げるように、ケイトラナダがロバートの音楽の自身の感性で再構築し、新しい音楽に落とし込んだ良質なリミックス作品。既存の音楽を分解、再構築して新しい音楽を生み出すという、ジャズやヒップホップ、エレクトロ・ミュージックに共通する手法の醍醐味が堪能できる良企画だ。

Producer
KAYTRANADA, Robert Glasper

Track List
1. Intro (Robert Glasper x KAYTRANADA)
2. No One Like You feat. Alex Isley [KAYTRANADA Remix]
3. Thinkin Bout You feat. Talib Kweli [KAYTRANADA Remix]
4. Day To Day (KAYTRANADA Remix)
5. Name Drop Interlude (Robert Glasper x KAYTRANADA)
6. Find You feat. Iman Omari [KAYTRANADA Remix]
7. Written In Stone (KAYTRANADA Remix)
8. Outro (Robert Glasper x KAYTRANADA)






Chris Dave And The Drumhedz - Chris Dave And The Drumhedz [2018 Blue Note]

クリス・デイヴことクリストファー・デイヴィスは、テキサス州ヒューストン出身のドラマー。

10代のころから教会やジャズ・バンドなどでドラムを叩いていた彼は、「黒人のハーバード」の異名を持つハワード大学に在学していたころ、プリンスやジャネット・ジャクソンの作品を手掛けていたジャム&ルイスの知己を得る。

彼らとの出会いをきっかけに、ミント・コンディションのレコーディングにかかわるようになったクリスは、その後も、マックスウェルやディアンジェロのようなR&Bシンガーや、ミッシェル・ンデゲオチェロやロバート・グラスパーのような複数のジャンルに跨る作風のミュージシャン、アデルや宇多田ヒカルといったポップス畑の大物まで、様々なジャンルのアーティストの作品に参加。高い演奏技術と豊かな表現力で、ミュージシャン達から高い評価を受けてきた。

本作は、彼にとって初のスタジオ・アルバム。この作品は、ロバート・グラスパーのバンドで共演したこともあるデリック・ホッジや、マイルス・デイヴィスの作品でも演奏しているフォーリー、メイサ・リークやQ-ティップなどのアルバムにも携わっているゲイリー・トーマス、坂本龍一からエド・シーランまであらゆるジャンルのミュージシャンとセッションしているピノ・パラディノの4人と結成した、ドラムヘッズ名義のアルバム。この中では、アンダーソン・パックやミント・コンディションのストークリーといった、過去に共演経験のある面々のほか、ゴアペレやサー、ビラルやトゥイートなど、多くの人気R&Bシンガーがヴォーカルを担当。ジャズ・バンドで磨き上げた高い演奏技術と、個性豊かなシンガーの表現力を組み合わせた、魅力的なヴォーカル作品に仕上げている。

アルバムの収録曲で最初のヴォーカル曲は、ケンドリック・ラマーなどを擁する、トップドーグ所属の女性シンガー、サーを招いた”Dat Feelin’”。ファンクの要素を盛り込んだ泥臭く、躍動感のある演奏をバックに、しゃがれ声が響き渡るアップ・ナンバー。どことなく、スリーピー・ブラウンの音楽を思い起こさせる武骨さが面白い。

続く、”Black Hole”は、アンダーソン・パックが制作とヴォーカルを担当した楽曲。変則的なビートとエフェクターを多用したサイケデリックな音色の伴奏のインパクトが強い曲だ。ヒップホップともジャズともファンクとも異なる、一癖も二癖もあるサウンドと、歌とラップを混ぜ合わせた歌唱の組み合わせが光っている。

そして、エリック・ロバートソンに加え、元スラム・ヴィレッジのエルザイと元リトル・ブラザーのフォンテをフィーチャーした”Destiny n Stereo”は、クリスの力強いドラムと、ピノが鳴らす太いベースの音が、ジェイ・ディラの作品を連想させるミディアム・ナンバー。ヒップホップのビートを人力で再現する手法は、ウィル・セッションズやザ・ルーツが行っているし、クリスもロバート・グラスパー・エクスペリメンツで経験している。今回の演奏は、そのスタイルを踏襲したものだが、ほかのアーティスト以上に、楽器の音色を強調しながら、ヒップホップのビートのように聴かせて演出は新鮮。天国のジェイ・ディラが、彼らを後ろから操っているのではないかと錯覚してしまう曲だ。

そして、サーに加えて、アナ・ワイスをヴォーカルに迎えた”Job Well Done”は、ジャズともロックとも形容しがたい摩訶不思議なアレンジと、急激にテンポが変わる構成、レディオヘッドを思い起こさせる幻想的なメロディの組み合わせが斬新な作品。ジャズやヒップホップ以外の音楽のエッセンスをふんだんに盛り込みつつ、ダイナミックなグルーヴや表情豊かな歌唱で、ジャズとして聴ける曲に落とし込む技は圧巻の一言。

このアルバムの面白いところは、ハード・バップやモダン・ジャズのような「ステレオタイプのジャズ」とも、ヒップホップやR&Bのような現代のブラック・ミュージックとも適度に距離を置きながら、ジャズが好きな人にも、ブラック・ミュージシャンが好きな人にも楽しめる音楽を作り上げていることだろう。ソウル・ミュージックやゴスペル、ファンクやロックといった色々な音楽を取り込み、ジャズの枠を広げた、70年代のマイルス・デイヴィスやジョン・コルトレーンの思想を取り込み、現代の音楽に当てはめる発想が功を奏したのだと思う。

ロバート・グラスパーやサンダーキャットとは異なるアプローチで、ジャズ・ミュージシャンの可能性を示した良質な作品。ジャズに馴染みのない人にはジャズの面白さを、ジャズが好きな人には、楽器の持つ無限の可能性を教えてくれる名盤だと思う。

Producer
Chris Dave and the Drumhedz

Track List
1. Rocks Crying
2. Universal Language
3. Dat Feelin’ feat. SiR
4. Black Hole feat. Anderson .Paak
5. 2n1
6. Spread Her Wings feat. Bilal &Tweet
7. Whatever
8. Sensitive Granite feat. Kendra Foster
9. Cosmic Intercourse feat. Stokley Williams
10. Atlanta, Texas feat. Goapele
11. Destiny n Stereo feat. Elzhi, Phonte Coleman & Eric Roberson
12. Clear View feat. Anderson .Paak
13. Job Well Done feat. Anna Wise& SiR
14. Lady Jane
15. Trippy Tipsy






Chris Dave & the Drumhedz
Chris Dave And The Drumhedz
Blue Note Records
2018-01-26

Gregory Porter - Nat "King" Cole & Me [2017 Blue Note, Decca]

グレゴリー・ポーターはカリフォルニア州サクラメントに生まれ、同州のベイカーズで育ったシンガー・ソングライター。

牧師の母のもとに生まれた彼は、フットボールの実績を認められ、生活費を含む一切の面倒を見てもらえるフルブライト奨学金を得て大学に進むなど、将来を嘱望されていた。しかし、大学時代に負った怪我が原因でスポーツの道を断念。ニューヨークに移住し、料理人をしながら音楽の道を模索するようになる。

音楽活動を続ける中で、高いパフォーマンスの技術が周囲の耳目を引くようになった彼は、2010年に初のフル・アルバム『Water』をリリース。音楽ファンだけでなく、批評家からも高い評価を受け、グラミー賞にノミネートするなど、大きな成功を収める。その後も、ブルー・ノートを含む複数のレーベルから作品を発表した彼は、豊かな低音と滑らかな高音、それらを組み合わせた巧みな表現を武器に、2010年代を代表するジャズ・シンガーの一人に挙げられるまでになった。

このアルバムは、2016年にブルー・ノートから発売された『Take Me to the Alley』以来、約1年ぶりの新作となる通算5枚目のスタジオ・アルバム。収録曲の全てが1940年代から60年代にかけて、多くのヒット作を残した、シンガー・ソングライター、ナット・キング・コールの楽曲に取り組んだカヴァー集。配給元にジャズの名門、デッカが加わり、制作には6回もグラミー賞を獲得しているプロデューサーのヴィンス・メンドーサのほか、ベースのルーベン・ロジャースやドラムのユリシーズ・オーウェンズといった名うてのミュージシャンが参加。グレゴリーが敬愛するナットの名曲と真摯に向き合った、本格的なカヴァーを披露している。

アルバムの1曲目は、50年に発表された”Mona Lisa”。ドラムの音を抜きオーケストラをバックに、甘い歌声を響かせるスロー・ナンバー。羽毛布団のように柔らかい音色のオーケストラと、メロディをじっくり歌うグレゴリーのコンビネーションは、50年代の音楽の持つ上品で優雅な雰囲気を忠実に再現している。

続く”Smile”は、54年にリリースされた彼の代表曲。喜劇王チャップリンが作曲した映画『モダン・タイムズ』のテーマ曲に歌詞をつけたこの曲は、「笑っている限りは明るい明日が来る」という風刺映画のテーマ曲が元ネタとは思えない、前向きな歌詞と美しいメロディが多くのアーティストに愛され、カヴァーされてきた作品。今回の録音では、流れるようなストリングスの音色をバックに、恵まれた歌声を活かした、力強さと優しさを兼ね備えたヴォーカルを披露している。

また、彼のキャリアの絶頂期である64年にリリースされた”Love”はピアノ、ベース、ドラムの所謂ピアノ・トリオによる伴奏を取り入れた演奏。原曲よりシンプルな編成で、アップ・テンポにアレンジした演奏の上で軽やかな歌を聴かせる姿が印象的。メロディを崩して歌うグレゴリーのスタイルも、オリジナルのメロディを大きく弄らずに歌ったナットのバージョンとは一味違うものだ。ジョス・ストーンやダイアナ・クラールなど、様々なジャンルのミュージシャンが歌ってきた名曲に、大胆なアレンジを加えることで、新鮮な作品に聴かせた発想が光っている。

そして、キューバの作曲家、ファレス・オズヴァルドの作品をカヴァーした演奏が元ネタの”Quizás, Quizás, Quizás”は、パーカッションの音色を効果的に使った、妖艶なラテン・ナンバーをオーケストラの伴奏に乗ってしっとりと歌い上げた斬新なアレンジが光る曲。サビの一部に原曲の面影を感じる箇所もあるが、それ以外は、ラテン音楽がオリジナルとは思えない、ジャズやブルースのエッセンスを取り込んだ50年代風のスロー・ナンバーに仕上げた、ヴィンスのアレンジが功を奏した良曲だ。元々、色々なタイプの曲に対応できる歌手だが、グレゴリーはふくよかな歌声をじっくりと聴かせる曲がよく似合う。

今回のカヴァー集では、彼の持ち味であるふくよかで温かい歌声を活かし、シンプルだがよく練り込まれた演奏をバックに、丁寧な歌唱を聴かせる作品が目立っている。声の太さこそ違うものの、聴き手を包み込むような優しい歌声を武器に、多くの足跡を残してきたナット。彼の音楽を研究し、自分の声質や歌唱スタイルと似た部分を取り入れつつ、異なる部分については自分に合わせてアレンジしたグレゴリーの試みが、見事に成功していると思う。また、現代のジャズとは大きく違う、グルーヴよりも上品で洗練された伴奏の作品が多かった50年代の音楽を、当時のテイストを残しつつ、現代のリスナーの耳にも合うよう、細かい調整をかけている。この、歌と演奏、両方の視点から、当時の音楽を現代向けにアレンジしたことが、本作の面白い点だと思う。

ナットの音楽の普遍的な魅力を引き出しつつ、2017年を生きる彼の音楽に還元した良質なカヴァー集。60年代以降の音楽に比べ、目を向けられることの少ない50年代以前の音楽の良さを現代に伝える貴重な録音だと思う。

Producer
Vince Mendoza

Track List
1. Mona Lisa
2. Smile
3. Nature Boy
4. L-O-V-E
5. Quizas, Quizas, Quizas
6. Miss Otis Regrets
7. Pick Yourself Up
8. When Love Was King (arrangement of an original Gregory Porter composition from Liquid Spirit)
9. The Lonely One
10. Ballerina
11. I Wonder Who My Daddy Is
12. The Christmas Song





ナット・キング・コール&ミー
グレゴリー・ポーター
ユニバーサル ミュージック
2017-10-27


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