melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

Brainfeeder

Louis Cole - Time [2018 Brainfeeder]

フライング・ロータスやサンダーキャット、トキモンスタといった鋭い音楽センスと高い制作技術を武器に、音楽業界で独特の存在感を放っているロス・アンジェルスの音楽レーベル、ブレインフィーダー。同レーベルが新たに送り出したのが、ルイス・コールだ。

ロス・アンジェルスを拠点に活動する彼は、ドラムやキーボードなど、複数の楽器を使いこなし、ジャズや映画音楽、ゲーム音楽など、色々な音楽に造詣が深いという異色のクリエイター。2010年頃からジェネビーブ・アルタディとの音楽ユニット、ノーバディーで音楽好きの間で話題になっていた彼は、2017年にはサンダーキャットの『Drunk』に参加。その縁もあって、自身もブレインフィーダーと契約するに至った。

このアルバムは、自主制作で発表した既発曲に、新曲を加えた8年ぶり2枚目のアルバム。全曲を自身がプロデュースする一方、ゲストとしてジェネビーブ・アルタディが参加するなど、豪華なゲストが集結した作品になっている。

アルバムのオープニングを飾る”Weird Part of The Night”は、ニュー・ジャック・スウィングのビートを取り入れたダンス・ナンバー。80年代のコンピューター・ゲームを連想する、ピコピコという電子音とダイナミックなビートの組み合わせが面白い曲だ。先鋭的なサウンドがウリのブレインフィーダーでは珍しい、キャッチーな楽曲だが、随所に尖ったフレーズを盛り込んでいる点が心憎い。

続く”When You're Ugly”はジェネビーブ・アルタディが客演したミディアム・ナンバー。シンセサイザーを使った太いベースの音が印象的なスタイリッシュな伴奏は、オハイオ・プレイヤーズやファットバック・バンドにも似ている。おどろおどろしい雰囲気のルイス・コールのヴォーカルを、爽やかな歌声のジェネビーブが中和している点も面白い。

また、ジャズ・ピアニストのブラッド・メルドーと組んだ”Real Life”は、スレイヴやクリアーのような 80年代のディスコ音楽を思い起こさせるダンス・チューン。曲の随所に刺々しいフレーズを埋め込むことで、洗練されたメロディとアレンジのディスコ音楽と、前衛的な電子音楽を一つに融合している。先鋭的なディスコ・サウンドという難しい曲を上で、エレガントなピアノの演奏を披露するブラッド・メルドーの演奏技術にも注目。タキシードT-グルーヴのような音楽が好きな人ならきっとハマると思う。

そして、 サンダーキャットを招いた”Tunnels in The Air”は、ロックのビートを取り入れたミディアム・ナンバー。複数の電子楽器を組み合わせた、ゆったりとしたテンポの伴奏の上で、朗々と歌う姿は、ゴリラズの音楽に似ている。細かいフレーズの使い方で、新鮮な楽曲を演出する彼の個性が遺憾なく発揮されたアレンジも素晴らしい。

このアルバムの面白いところは、90年代のR&Bのポップなサウンドと、エレクトロ・ミュージックの斬新さを両立しているところだ。ビデオ・ゲームや映画の音楽のような、短いフレーズでその場の雰囲気を変える音楽や、モダン・ジャズのような奔放に見えて緻密に練り込まれた音楽の手法を盛り込む音で、キャッチーなR&Bのビートと、電子音楽の尖ったサウンドを同居させている。この、色々な音楽に慣れ親しんできた彼だから作れる、大胆で柔軟な発想が彼の音楽の聴きどころだろう。

R&B以外の音楽にも馴れ親しんだ彼だから作れた、2018年の感性で解釈された80年代、90年代のR&Bを楽しめる良作。昔のR&Bを愛聴している人にこそ聴いてほしい、懐かしさと新鮮さが同居した稀有なアーティストだ。

Producer
Louis Cole

Track List
1. Weird Part of The Night
2. When You're Ugly feat. Genevieve Artadi
3. Everytime
4. Phone
5. Real Life feat. Brad Mehldau
6. More Love Less Hate
7. Tunnels in The Air feat. Thundercat
8. Last Time You Went Away
9. Freaky Times
10. After The Load is Blown
11. A Little Bit More Time
12. Trying Not To Die feat. Dennis Hamm
13. Things 14. Night 15. They Find You (Bonus Track for Japan)






Thundercat - Drank [2018 Brainfeeder]

サンダーキャットことステファン・ブルーナは、カリフォルニア州ロス・アンジェルス出身のベーシスト兼プロデューサー。

15歳のころからプロ・ミュージシャンとして活動し、エリカ・バドゥやフライング・ロータスの作品でも演奏。2011年に、自身名義では初となるスタジオ・アルバム『The Golden Age of Apocalypse』を発表すると、電子音楽にジャズやヒップホップの手法を盛り込み、最小限度の音数で、楽器の響きと音の隙間を効果的に聴かせた独特の作風で、多くの音楽ファンを唸らせた。

その後も、自身名義の作品を発表しながら、多くの人気ミュージシャンのアルバムに参加。ケンドリック・ラマーの『To Pimp a Butterfly』や『Damn』、NERD『No One Ever Really Dies』、カマシ・ワシントンの『Harmony Of Difference』など、先鋭的な音楽性で人気の作品に携わってきた。

本作は、2017年に発売した3枚目のスタジオ・アルバム『Drunk』のリミックス盤。90年代半ばにアメリカ南部の都市ヒューストンから広まった「チョップド&スクリュード」という手法を用いて、既存の曲に新しい表情を吹き込んできたオージー・ロン・シーと、彼が率いるチョップスターズのDJキャンドルスティックがリミックスを担当。多くの人に親しまれたアルバムに、ヒップホップの技術で新しい表情を吹き込んでいる。

本作の特徴を端的に示したのは、2曲目の”Drink Dat”。オリジナルが『Drunk』の17曲目に収録されているこの曲は、サンダーキャットの甘い声と、爽やかなラップを繰り出すウィズ・カリファのパフォーマンスが魅力のミディアム・ナンバー。チョップド&スクリュードの手法で加工されたサウンドは、何日も煮込まれたシチューのようにドロドロで、聴いているこちらもとろけそうなもの。音の足し引きは最小限に抑え、再生速度とエフェクトに工夫を凝らすだけで、全く違う曲に聴かせるテクニックは流石だと思う。

これに対し、大きくテンポを変えているにもかかわらず、聴き手に違和感を抱かせないアレンジを披露しているのが7曲目の”Tokyo”だ、『Drunk』ではベースの速弾きが格好良かったこの曲だが、テンポを落として弱めのエフェクトをかけたことで、ミディアム・テンポのスタイリッシュなR&Bに仕立てなおしている。この曲自体がオリジナル作品に聴こえるのは、原曲の高い完成度と、リミキサーの優れた技術おかげだろうか。

また、ファレルを起用した”The Turn Down”は、お馴染みのネプチューンズ・サウンドを使った軽快なトラックを、サイケデリックなスロー・ナンバーに落とし込んだ異色の作品。ドラムやシンセサイザーの音色では、ファレルのテイストを残しているが、遅いテンポのドロドロとしたトラックに改変している面白い曲だ。

そして、ケンドリック・ラマーをフィーチャーした”Walk On By”は、リズム・マシーンを使ったモダンなトラックと、サンダーキャットの繊細なヴォーカルが魅力のR&B作品だったが、この曲ではテンポを落として、じっくりと歌い込んだソウル・バラードのように聴かせている、繊細で滑らかなヴォーカルを丁寧に聴かせるアレンジは、ロナルド・アイズレーがバラーディアとして一時代を築いた、80年代のアイズレー・ブラザーズを思い起こさせる。

今回のアルバムは、既存の作品のテンポや響きに手を加えたもの。リミックス作品としては比較的シンプルなアレンジを施したものになっているが、原曲のイメージを残しながら、全く違う曲に聴こえるのは、「チョップド&スクリュード」との高い相性を見抜いた両者の嗅覚と、原曲の持つソウル・ミュージックやヒップホップ、ジャズのテイストと、電子音楽の醍醐味である、楽器の響きと音の隙間を活かしたアレンジによるものが大きいと思う。

オリジナル曲に対する鋭い視座と、それを具体的な作品に昇華する技術が揃ったことで生まれた良質なリミックス作品。リミックスやカヴァーといった、既存の作品を利用する音楽を扱うミュージシャンが、どのようにして原曲と向き合っていくか、考える一助になりそうな良盤だ。

Producer

Flying Lotus, Sounwave, Thundercat

Remixer
DJ Candlestick, OG Ron "C"

Track List
1. Rabbot Hoe (Chopnotslop Remix)
2. Drink Dat (Chopnotslop Remix) feat. Wiz Khalifa
3. Lava Lamp (Chopnotslop Remix)
4. Weakstyle (Chopnotslop Remix)
5. Show You The Way (Chopnotslop Remix) feat. Kenny Loggins, Michael McDonald
6. Where I'm Going (Chopnotslop Remix)
7. Tokyo (Chopnotslop Remix)
8. Uh Uh (Chopnotslop Remix)
9. Inferno (Chopnotslop Remix)
10. Them Changes (Chopnotslop Remix) 11. I Am Crazy (Chopnotslop Remix)
12. 3AM (Chopnotslop Remix)
13. Jethro (Chopnotslop Remix)
14. The Turn Down (Chopnotslop Remix) feat. Pharrell
15. Walk On By (Chopnotslop Remix) feat. Kendrick Lamar
16. Day & Night (Chopnotslop Remix)
17. A Fan’s Mail (Tron Song Suite II) (Chopnotslop Remix)
18. Jameel’s Space Ride (Chopnotslop Remix)
19. Captain Stupido (Chopnotslop Remix)
20. Friend Zone (Chopnotslop Remix)
21. Bus In These Streets (Chopnotslop Remix)
22. DUI (Chopnotslop Remix)
23. Blackkk (Chopnotslop Remix)
24. Drunk (Chopnotslop Remix)




Drank
Thundercat
Brainfeeder
2018-03-16

Thundercat ‎– Drunk [2017 Brainfeeder]

ロス・アンジェルスの音楽一家に育ち、15歳のころからベーシストとしてプロのライブやレコーディングに参加。デビュー前には、本名、ステファン・ブルーの名義で、エリカ・バドゥの『New Amerykah: Part One (4th World War)』や『同Part Two』、ジョン・レジェンドの『Once Again』など、様々なミュージシャンの作品に携わってきた、ミュージシャンで音楽プロデューサーのサンダーキャット。

その後、2011年には現在の名義でアルバム『The Golden Age of Apocalypse』を発表。ジャズをベースに、ヒップホップや電子音楽、ソウル・ミュージックなどの要素を取り込んだ独特の作風で、ジャズやソウルに慣れ親しんだ年配の音楽愛好家から、ヒップホップや電子音楽を好む若いファンまで、幅広い世代の人々から高く評価された。

本作は、2015年にリリースしたEP『The Beyond / Where the Giants Roam』以来2年ぶり、フル・アルバムとしては2013年に発表した『Apocalypse』以来、約4年ぶりとなる新作。マイルス・デイヴィスがエレクトリック・サウンドへ傾倒した作品で世間を驚かせ、マハビシュヌ・オーケストラやウェザー・リポートといった、斬新な音楽性のジャズ・バンドがロック・ファンも巻き込んで大流行した、70年代のコロンビア・レコードのジャズ作品を彷彿させるジャケットが目立つ本作。その内容も、ジャケットのインパクトを裏切らない、昔の音楽を踏まえつつ、斬新なサウンドに挑戦した、前衛的な作品に仕上がっている。

まず、本作を聴いて印象に残ったのが、アルバムに先駆けて発表された”Show You The Way”と”Them Change”の2曲。元ドゥービー・ブラザーズのマイケル・マクドナルドと、彼の代表曲”What A Fool Believes”の共作者としても有名なケニー・ロギンスをフィーチャーした前者は、ドゥービー・ブラザーズやスティーリー・ダンのヒットで一大ブームとなった、スタイリッシュな演奏と流麗な歌唱が特徴的なロック、AORの要素を取り入れたミディアム・ナンバー。フライング・ロータスやトキモンスタの音楽を連想させる、小刻みに鳴るドラムや電子音と、シンプルで洗練されたメロディを丁寧に歌うヴォーカルの対照的な姿が面白い、電子音楽ともソウルとも異なる不思議な雰囲気の曲だ。

一方、『The Beyond / Where the Giants Roam』からの再録になる後者は、アイズレー・ブラザーズの77年のヒット曲”Footsteps in the Dark ”のフレーズを弾きなおしたトラックが心地よいミディアム・バラード。ロナルド・アイズレーの豊かな声としなやかな歌唱を活かしたロマンティックなバラードに、声質が固く、手の込んだ複雑な演奏やトラック作りが得意なサンダーキャットが独自の解釈を加え、美しいメロディと、奇抜なサウンドを両立した面白い曲だ。

余談だが、この2曲では日本のテレビゲーム「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」の効果音が演奏の一部として使われている。どちらの曲でも、指摘されるまで気づかないくらい巧妙に埋め込まれていて、彼の遊び心と、あらゆる音色を自分の音楽の糧にする貪欲さにびっくりしてしまう。

また、ゲスト・ヴォーカルをフィーチャーした楽曲には、他にも面白いものが揃っている。中でも、2015年を代表するヒップホップ作品『To Pimp A Butterfly』で共演したケンドリック・ラマーが参加した”Walk On By”とファレル・ウィリアムズが客演した”The Turn Down”の2曲は、ゲストの意外な一面を引き出した非常に刺激的な楽曲だ。

まず、”Walk On By”はティミー・トーマスの”Why Can We Live Together”を連想させるリズム・ボックスの音色を使ったトラックと、サンダーキャットの色っぽいファルセットが気持ちいいミディアム・ナンバー。絶妙のタイミングで入り込むケンドリック・ラマーの淡白なラップが、ヴォーカルの艶を引き立てるムーディーな楽曲だ。

また、”The Turn Down”は彼のデビュー前に共演経験もある、サーラ・クリエイティブ・パートナーズの新曲と勘違いしそうな、強烈なエフェクターを使った、おどろおどろしいトラックとメロディが異彩を放つヒップホップ・ナンバー。ファレルといえば、奇抜だが耳障りの良い楽曲が多いアーティストで、今回のように幻想的なトラックと退廃的なメロディの作品はおそらく初めてだが、ここまでマッチしているとは正直予想していなかった。

もちろん、ゲスト・ミュージシャンが参加していない録音にも、魅力的な演奏が数多くある。その中でも、特に面白いのはアルバムの3曲目に収められている”Uh Uh”だ。ドラムンベースのようなアップ・テンポの変則ビートに乗せて、ジャコ・パストリアスが乗り移ったかのように複雑なフレーズを素早く、正確に演奏する姿が格好良い、ベーシストとしての彼の魅力が最大限発揮されたインストゥメンタル・ナンバーだ。

そして、さらにもう1曲だけ取り上げるなら、ヒップホップのように精密なビートの上で、マハビシュヌ・オーケストラのパフォーマンスを連想させる、インド音楽の要素を取り入れた即興演奏が格好良い”Blackkk”も見逃せない。マイルスが生きていたら、こんな音楽を作ったんじゃないかという空想が膨らむ、奇抜でありながらじっくりと練り上げられた跡が伺える名演だ。

今回のアルバムは、過去の作品と比べてもヴォーカリストやラッパーの客演が増え、彼自身が歌を吹き込んだ曲の割合も高く、トラックもヒップホップやR&Bのトレンドを意識した、先鋭的でありながら、ポップで洗練されたものが目立っている。

その理由は憶測の域を出ないが、フランク・オーシャンやザ・インターネットの成功で、音楽業界の台風の目となった同郷のヒップホップ・クルー、オッド・フューチャーや、レーベル・メイトのトキモンスタとも幾度となく録音しているR&Bシンガー、アンダーソン・パックのブレイクが大きいのではないかと考える。

彼らの個性的な音楽の成功に刺激され、自分達の尖ったサウンドを守りつつ、ロックやヒップホップの要素を取り入れることで、自分達の音楽を幅広い層にアピールできると踏んだのかもしれない。もっとも、彼はデビュー前から、エリカ・バドゥやビラルなど、多くの個性派R&Bシンガーと仕事をしていたので、彼女達から受けた刺激の方が大きいかもしれないが。

本作でのサンダーキャットは、ケンドリック・ラマーやフランク・オーシャンといった、メジャー・レーベルで成功を収めた前衛ヒップホップ、R&Bのアーティストを意識しすぎて、彼の持ち味である、大胆な発想と、それを可能にする演奏技術がちょっと影を潜めた感もある。だが、ジャズとヒップホップとソウルを股にかけ、一つの音楽に落とし込んだ作品としてのクオリティは間違いなく極めて高い。そう断言できる2017年を代表する傑作だと思う。

Producer
Flying Lotus, Thundercat etc

Track List
1. Rabbot Ho
2. Captain Stupido
3. Uh Uh
4. Bus In These Streets
5. A Fan's Mail (Tron Song Suite II)
6. Lava Lamp
7. Jethro
8. Day & Night
9. Show You The Way (feat. Michael McDonald & Kenny Loggins)
10. Walk On By (feat. Kendrick Lamar)
11. Blackkk
12. Tokyo
13. Jameel's Space Ride
14. Friend Zone
15. Them Changes
16. Where I'm Going
17. Drink Dat (feat. Wiz Khalifa)
18. Inferno
19. I Am Crazy
20. 3AM
21. Drunk
22. The Turn Down (feat. Pharrell)
23. DUI
24. Hi (feat. Mac Miller) (Bonus Track)






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