melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

Capitol

Lil Yachty - Teenage Emotions [2017 Quality Control Music, Capitol, Motown]

2015年ごろに音楽活動を開始。多くのステージや客演を経験する一方で、ファッション・リーダーとして情報サイトにも登場するなど、様々な分野で活躍。若者の間で人気を博してきた、ジョージア州メイブルトン生まれ、アトランタ育ちのラッパー、リル・ヨッティこと、マイルス・パークス・マッコルン。

2015年に発表したEP『Summer Songs』が、自主制作による配信限定の作品ながら、キャッチーで斬新な作風で注目を集め、その後に発売された3枚のEPも一定の成果を残した。また、2016年にはカニエ・ウエストが経営するブランドでモデルを務める一方、モータウンキャピトル、クオリティ・コントロールと同時に契約(ただし、前2社はユニバーサル傘下)。同年には2枚のミックス・テープをリリースしてヒットさせた。そして、2017年には、アメリカの雑誌フォーブスが選ぶ「30歳以下の重要人物30人」に19歳の若さで選ばれるなど、早くから将来を嘱望されてきた(余談だが、10代のアーティストは、彼以外にラッパーのデザイナー、シンガー・ソングライターのデイヤがいる。また、20代のミュージシャンでは、ウィークエンドガラントブライソン・ティラーなどが取り上げられている)。

本作は、彼にとって待望のファースト・アルバム。プロデューサーには、ディプロやステレオタイプス、レックス・ルガーなどのヒット・メイカーが名を連ね、ゲスト・ミュージシャンとして、ミーゴスやYGなどが参加した、新人の作品としては異例の、豪華な面々が集結したものになっている。

アルバムに先駆けて発表された”Peek A Boo”は、アトランタ出身のリッキー・ラックスがプロデュース、グイネット群出身で、レーベルの大先輩でもあるミーゴスが客演した、ジョージア州の出身の3人による作品。90年代終盤、ジャーメイン・デュプリなどが頻繁に作っていた、ドラムのテンポを落としつつ、シンバルを通常の半分の間隔で刻むことで、アップ・テンポの音楽のように聴かせるトラック、いわゆるバウンズ・ビートと、対照的な声質を活かした二人のラップが格好良い曲。太いバリトン・ボイスのミーゴスがサビで煽ったあとに、ヨッティが荒々しい声で飄々と言葉を繋いでいくマイク・リレーを堪能してほしい。

これに対し、コンプトン出身のYGと、オークランド出身のカマイヤーを招き、レックス・ルーガーがトラックを制作した”All Around Me”は、ゆったりとした雰囲気のトラックと、三者三様のラップが印象的なミディアム・ナンバー。オートチューンで声を加工したヨッティがサビを担当し、YGのワイルドなラップと、カマイヤーのセクシーなフロウを引き立てている。シンセサイザーを駆使したトラックと、オートチューンで加工した声によるリラックスした雰囲気のヴォーカルは、T-ペインにも少し似ている。

彼がヴォーカルを披露した曲で、もう一つ見逃せないのが、バーミンガム出身の女性ラッパー、ステフロン・ドンを起用した ”Better”だ。エイコンの”Don’t Matter”を連想させる、レゲエとヒップホップを融合したトラックと、肩の力を抜いた歌声が心地よいミディアム・ナンバー。レゲエのリズムをきっちりと乗りこなすステフロンのラップも格好良い。ジャスティン・ビーバーやダニティ・ケインなど、多くの人気ミュージシャンに携わってきた、ステレオタイプスの手掛けるトラックも光っている。

そして、アルバムに先駆けて公開されたもう一つの楽曲”Bring It Back”は、フリー・スクールのプロデュース作品。デュラン・デュランやデイヴィッド・ボウイのような、80年代のロック・ミュージシャンのヒット曲を思い起こさせる、電子ドラムやシンセサイザーの音色を多用した、ロック寄りの楽曲。音数を絞った伴奏に乗って、朗々と歌う姿はカニエ・ウエストの『808s & Heartbreak』っぽくも聴こえる。

彼の面白いところは、飄々と言葉を繋ぐラップと、地声で歌うヴォーカルを使い分けながら、オートチューンも使いこなすという風に、変幻自在にスタイルを変えるヴォーカルと、バウンズ・ビートやトラップだけでなく、レゲエやロック、アフリカ音楽まで乗りこなす器用さだと思う。その手法は、まるでファッション・ショーに出演するモデルが、様々なデザインの服と一体になりながら、しっかりと自分の個性を表現する姿とダブって見える。

積極的に個性を主張しなくても、他人とは違う自分らしさを表現することは可能だということを証明したような、自然体のラップと、色々な音楽を取り入れる器用さが魅力の佳作。過剰なくらい個性を際立たせることが良しとされたヒップホップの世界に、新しい価値観を吹き込んでくれそうだ。

Producer
Digital Nas, Ricky Racks, Lex Luger, K Swisha, The Stereotypes, Diplo, Free School etc

Track List
1. Like A Star
2. DN Freestyle
3. Peek A Boo feat. Migos
4. Dirty Mouth
5. Harley
6. All Around Me feat. Kamaiyah, YG
7. Say My Name
8. All You Had To Say
9. Better feat. Stefflon Don
10. Forever Young feat. Diplo
11. Lady In Yellow
12. Moments In Time
13. Otha Sh*t (Interlude)
14. X-Men
15. Bring It Back
16. Running With A Ghost
17. FYI (Know Now)
18. Priorities
19. No More
20. Made Of Glass
21. Momma (Outro) feat. Sonyae Elise





Teenage Emotions
Lil Yachty
Quality Control
2017-05-26

Mary J Blige - Strength Of A Woman [2017 Capitol Records]

1992年に、アップタウン・レコード初の女性シンガーとして、アルバム『What's the 411?』でメジャー・デビュー。同作からシングル・カットされた『You Remind Me』と『Real Love』が、2作連続でR&Bチャートの1位とゴールド・ディスクを獲得。その後も2016年までに11枚のオリジナル・アルバムと8枚の企画盤、全米総合チャートを制覇した”Family Affair”や、同R&Bチャートを制覇した”Be Without You”など、多くのヒット曲を残してきた、ブルックリン出身のシンガー・ソングライター、メアリーJ.ブライジこと、メアリー・ジェーン・ブライジ。

このように書くと、順調満帆なキャリアを歩んでいるように見えるが、彼女は常に、新作にかかる期待の大きさや、次々に登場する新人ミュージシャン達、類稀な歌声を持つシンガー故のマンネリ化の危機と戦ってきた。その苦悩を伺わせる一端として、これまでにも、ソロ・デビュー作『The Miseducation of Lauryn Hill』がグラミー賞を総なめにした直後のローリン・ヒルが制作した”All That I Can Say”や、カリフォルニア州コンプトン出身のプロデューサー、ドクター・ドレを招聘した”Family Affair”、デビュー・アルバム『In the Lonely Hour』が各国のヒットチャートで1位を獲得していたロンドン出身のシンガー・ソングライター、サム・スミスがペンを執った”Therapy”などをシングル曲として発表。従来の彼女の音楽性からはイメージしづらい、意外な人物とのコラボレーションで私達を驚かせてきた。

そして、今回のアルバムは、前作『The London Sessions』以来、約3年ぶりとなるオリジナル・アルバム。

アルバムからシングル・カットされた3曲のうち”Thick of It”については過去に触れているので、残りの2曲について説明すると、アルバムの1曲目に収められている”Love Your Self”はダリル・キャンパーがプロデュース。フィーチャリング・アーティストにカニエ・ウエストを起用したミディアム・ナンバー。60年代から70年代初頭にかけて、2枚のアルバムをチェスから発表している、SCLCオペレーション・ブレッドバスケット・オーケストラ&クワイアの”Nobody Knows”をサンプリングしたこの曲は、勇壮なホーンの演奏を核にした荘厳なトラックと、キャリアを重ねる中でますますパワフルになったメアリーの歌声がぶつかり合う、ダイナミックな楽曲。50セントの”I Don't Need 'Em ”やゴーストフェイス・キラーの”Metal Lungies”で使われてる有名なサンプリング・ソースに新しい解釈を吹き込んだダリル・キャンパーの制作技術にも注目してほしい。余談だが、今後の動向が気になるカニエ・ウエストのパフォーマンスもいい味を出している。

そして、もう一つのシングル曲”U + Me (Love Lesson)”は、アッシャーの2016年作『Hard II Love』に収められている”No Limit ”や、ニーヨの2015年作『No Limit』に入っている”Congratulations ”などを手掛けてきたブランドン・ホッジがプロデュースを担当。こちらは、シンセサイザーの甘い音色を軸にしたロマンティックなミディアム・バラード、力強い歌声を聴かせることが多いメアリーに、艶めかしいメロディを歌わせるブランドンの作曲スキルと、一つの曲の中で色々な表情を見せるメアリーの歌声が聴きどころ。色々なタイプの楽曲を自分のものにしてきた彼女の強みが発揮された作品だ。

それ以外の曲に目を向けると、カナダ出身のクリエイター、ケイトラナダと同国出身のファンク・バンド、バッドバッドノットグッドがプロデュースした”Telling The Truth”が面白い。ケイトラナダらしい、シンセサイザーを駆使した浮遊感のあるトラックと、バンドの生演奏を混ぜ合わせたエレクトロ・ミュージックともソウル・ミュージックとも異なる不思議な雰囲気のトラックの上で、リズミカルに言葉を紡ぐアップ・ナンバー。サビを担当するケイトラナダのしなやかな歌声と、それ以外のメロディを担当するメアリーの芯が太いヴォーカルの対比も新鮮だ。

また、本作のタイトル・トラックである”Strength Of A Woman”は、ブランドン・ホッジとともに、テディ・ライリーがプロデュースを担当したミディアム・ナンバー。といっても、実際にはブランドン色の濃い楽曲で、甘くポップなメロディと、大地を揺らすような重いビートが格好良い楽曲。アレサ・フランクリンを彷彿させるパワフルな歌声を持ちながら、本作のような軽妙なメロディの曲では、絶妙な力加減で乗りこなしてみせるところが、彼女の歌の醍醐味だと思う。

今回のアルバムは、前作に比べると、コンピュータやサンプリングを多用した重厚なトラックの上でパワフルな歌唱を聴かせる、ビヨンセやリアーナの近作の手法を踏襲した、アメリカのR&Bの流行を素直に取り込んだ曲が目立っている。そういう意味では、原点回帰のようにも見えるが、色っぽいメロディに定評があるブランドン・ホッジや電子音楽畑出身のケイトラナダなど、新しいクリエイターと積極的に組むことで、過去の作品に親しんでくれたファンの期待を意識しつつ、音楽の幅を広げているように見える。

常に変化し続ける音楽、ヒップホップの女王という異名に違わない、着実かつ大きな進化を見せた作品。まだまだ後進に道を譲る気はなさそうだ。

Producer
Mary J Blige, Darhyl "DJ" Camper Jr., David D. Brown, Theron Feemster, Brandon "B.A.M." Hodge, Teddy Riley

Track List
1. Love Yourself feat. Kanye West
2. Thick Of It
3. Set Me Free
4. It's Me
5. Glow Up feat. DJ Khaled, Missy Elliott, Quavo
6. U + Me (Love Lesson)
7. Indestructible
8. Thank You
9. Survivor
10. Find The Love
11. Smile feat. Prince Charlez
12. Telling The Truth feat. Kaytranada
13. Strength Of A Woman
14. Hello Father




ストレングス・オブ・ア・ウーマン
メアリー・J.ブライジ
ユニバーサル ミュージック
2017-04-28

Mary J. Blige – Thick Of It [2016 Capitol]

おそらく、90年代以降の音楽業界では、作品のクオリティとセールスの両面で最も安定した成果を残し続けている女性シンガーの一人、メアリー・J.ブライジの、2014年以来となるオリジナル・アルバムからの先行シングル。

彼女といえば、1991年のデビュー以降、ショーン・コムズにはじまり、ローリン・ヒルにDr.ドレ、ザ・ドリームにサム・スミスと、作品ごとにその時代をリードするクリエイターと組んできた。だが、その一方で、流行のサウンドからは一歩距離を引いた、保守的なメロディとアレンジの作品が中心で、音楽業界の台風の目でありながら、ゲームのルールを変えるような影響力を発揮することはなかった。

今回の新曲は、ジョン・レジェンドの『Love In The Future』やニーヨの『Non-Fiction』などを手掛けてきた、ダリル”DJ”キャンパーをプロデューサーに迎え、ジャズミン・サリヴァンが楽曲制作に参加したミディアム・バラード。ジャズミンが生み出すメロディは、ラップと歌の中間のようなもので、粗削に聴こえる分、聴き手には親しみやすい。だが、高声から低声までフルに使って、話し声の起伏や強弱を『歌』に変えなければいけないこの手の曲は、歌い手の視点に立つと大変厄介なものだと思う。

だが、こんな新しいタイプの曲でも、メアリーの歌声は怯むことなく、自分の色に染め上げている。彼女の特徴ともいえる、太く強靭なファルセットや強烈だが丸みを帯びた地声を器用に使い、ラップや話し声が持つ抑揚や起伏に対応しつつ、きちんとメロディを聴かせることに成功している。しかも、ラップの起伏を歌に取り入れることで、表現の幅をこれまで以上に広くしているようにも見える。

デビュー当初の弾けるようなヴォーカルから、恵まれた歌声を器用に使いこなす大人のシンガーへ、着実に進化し続ける姿を楽しめる。さて、新作はどんな内容になるのだろうか。今から楽しみだ。

Producer
Darhyl "DJ" Camper Jr.


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