melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

Caroline

NCT127 - Neo Zone [2020 SMentertainment, Caroline, Universal]

メンバーの脱退や、兵役によるブランクを乗り越え、ベテラン・グループの新たなロール・モデルを築き上げた東方神起。メンバーのソロとグループ活動を両立し、ブレイクした後は卒業という、従来のガールズ・グループとは異なるキャリアの積み方を提示した少女時代。アイドル・グループの保守本流を歩みつつ、新しい音を積極的に取り入れることで、国内外に幅広いファンを獲得したEXOなど、多くの人気グループを輩出してきた韓国エンターテイメント界のガリバー、SMエンターテイメント

同社が2016年に送り出したNCTは、「開放と拡張」をコンセプトに掲げ、タイや日本、ドイツやカナダなど、多くの国から採用した個性豊かなメンバーと、コンセプトに合わせてメンバーを選抜した多彩な派生ユニットで、短い期間に多くの金字塔を打ち立ててきた。

NCT127は同グループの派生プロジェクトを代表するユニット。韓国系カナダ人のマーク、日本人のユウタ、中国人のウィンウィンなど、メンバーの約半数が外国出身という多様性と、ステレオタイプスやLDNノイズといった海外のヒットメイカーを起用した本格的なR&Bで一躍ブレイク。2019年に発売されたEP『We Are Superhuman』は全米総合アルバムチャートで11位という大記録を残した。

本作は『We Are Superhuman』から約10ヶ月の間隔を挟んでリリースされた、彼らにとって通算3枚目のスタジオ・アルバム。また、このアルバムは、マークとテヨンが事務所の先輩達と結成したSuperMとして、ウィンウィンはNCTの中国系メンバーで結成されたWay Vの一員として活動していた、多忙な時期に録音された作品でもある。

本作の1曲目である”Elevator (127F)”は、チェイン・スモーカーズやジョナス・ブラザーズの作品を手掛けているシルベスターが制作を主導した作品。四つ打ちに近いしなやかなビートと流れるようなメロディは、ドネル・ジョーンズの”U Know What’s Up”やカール・トーマスの”She Is”のような、2000年前後のR&Bに似ている。しかし、サビの箇所をシンセサイザーの演奏で埋める手法など、R&Bを土台にしつつ、近年のポップスのトレンドを取り込んだアレンジが心憎い。

続く”Kick It”は本作からの先行シングル。Dr.ドレの『Compton』で辣腕を振るい、NCTにも”Cherry Bomb”などのヒット曲を提供してきた、ディム・ジョインツが手掛けたミディアム・ナンバー。ギターのような音色のノイズを使った、トラップともEDMとも異なる独特のビートが格好良い。歌とラップを上手く混ぜ込み、観客を煽るサビも盛り込んだ構成も面白い。楽曲自体の完成度が高いのはもちろんのこと、ライブで聴いたら盛り上がりそうな高揚感も気になるところだ。

また、本作の隠れた目玉といっても過言ではないのが、ロス・アンジェルスを拠点に活動するイアン・ジェフリー・トーマスが制作を主導した”Day Dream”だ。デビュー5年目、メンバーの大多数が20代前半という若い力を活かした、甘酸っぱいメロディと柔らかいトラックが心地よい作品だ。みずみずしい歌声と爽やかなメロディ、耳ざわりのよいトラックの組み合わせはアッシャーの代表作『8701』に通じるところがある。

そして、本作の最後を締めるのが、”Dreams Come True”。ロンドンを拠点に活動し、韓国人アーティストにも多くの楽曲を提供しているプロダクション・ユニットLDNノイズの作品だ。シンセサイザーの音色を組み合わせて作ったヒップホップのビートと、なめらかなメロディ、低声を強調して年齢以上に大人っぽい表情を見せるヴォーカルが印象的な曲だ。若くしてベテランの貫禄と大人の色気を見せる9人の成長を感じられる良作だ。

本作の魅力は、世界の大舞台を経験し、飛躍的に成長した9人の表現力と、欧米のトレンドを取り入れつつ、あくまでもヒップホップやR&Bに軸足を置いた楽曲の組み合わせだ。グループとしての活動はもちろん、Super MやWayVでも、海外の大舞台を経験してきたメンバー達の高い技術と、EDMやトラップといった海外で人気のサウンドを取り入れて、アジアでは根強い人気のあるR&Bやヒップホップを現代の音楽として磨き上げた姿勢が、彼らの個性になっている。この、アジア特有のトレンドに対応しつつ、欧米を意識した音作りと、楽曲の魅力を引き出す高い技術が彼らの武器だと思う。

厳しい環境で鍛えられた9人の個性と、欧米の実力派クリエイターを9人と結びつけ、一つの作品に導いたプロデューサー達の采配が合わさったことで生まれた良作。歌手、作家、マネジメントの三者が高いレベルのスキルと明確な方針を共有したことで生まれたハイ・クオリティなアルバムだと思う。

Producer
Lee Soo-man (exec.), Dem Jointz,Yoo Young-jin, The Stereotypes, LDN Noise etc

Track List
1. Elevator (127F)
2. Kick It
3. Boom
4. Pandora's Box
5. Day Dream
6. Interlude: Neo Zone
7. MAD DOG
8. Sit Down!
9. Love Me Now
10. Love Song
11. White Night
12. Not Alone
13. Dreams Come True




NCT#127 Neo Zone(輸入盤)
NCT127
DREAMUS
2020-03-16

Vivian Green - VGVI [2017 Make Noise, Caroline]

ヴィヴィアン・グリーンことヴィヴィアン・サキーヤ・グリーンは、ペンシルベニア州フィラデルフィア出身のシンガー・ソングライター。

子供のころからピアノを演奏し、自作曲を生み出していた彼女は、13歳の時に4人組の女性ヴォーカル・グループ、ユニーク(Younique)に加入。97年にはボーイズIIメンの97年作『Evolution』の収録曲”Dear God”でソングライターとしてデビューすると、その後はソング・ライターやバック・コーラスとして活動、ジル・スコットなどのツアーに帯同するなど、多くの仕事をこなすようになった。

このアルバムは、2015年の『Vivid』から約2年ぶりとなる、通算6枚目のスタジオ・アルバム。前作も扱っている自身のレーベル、メイク・ノイズからのリリースで、配給は前作に引き続き、クリセット・ミシェルやジョニー・ギルの作品を配給しているヴァージン傘下のキャロライン。プロデュースは彼女に加え、他の作品にも携わっているクワメ・ホランドやフィリップ・ランドルフが担当し、ゲストには ミュージック・ソウルチャイルドやシャリッサ・ザ・ヴァイオリンディーヴァが名を連ねた、本格的なソウル作品担っている。

アルバムの実質的な1曲目は、初期のカニエ・ウエスト作品を思い起こさせる、ソウル・ミュージックをサンプリングしたような伴奏が格好良い”Vibes”。声ネタなどを多用し、ヒップホップ色を強めたトラックと、その上でゆったりと歌うヴォーカルが心地よいミディアム。クリセット・ミッシェルシリーナ・ジョンソンなど、ヒップホップを取り入れたスタイルのソウル・ミュージックに取り組んでいる女性シンガーは少なくないが、この曲は他の人の作品よりもワイルドな印象。

また、本作に先駆けてリリースされた”I Don't Know”は、ウェイン・ワンダーやルシアーノなどのレゲエ・シンガーを彷彿させる甘酸っぱいメロディと歌声、陽気でまったりとした雰囲気のトラックが心に残るスロー・ナンバー。レゲエ歌手には伴奏に合わせて、柔らかく歌う歌手が多い中、所々で力強い歌声を響かせる姿が印象的。

だが、本作のハイライトは何といってもフィリップ・ランドルフが制作に参加した”Happy With You”だろう。シンセサイザーを軸にしたシンプルな伴奏をバックに、丁寧にメロディを歌う彼女の姿が印象的なスロー・ナンバー。ギターやドラムの生演奏が主体の50年代から、延々と使われてきた古典的なアレンジとメロディを、豊かな表現力と歌声で新鮮な音楽に聴かせる技は圧巻の一言だ。

そして、ミュージック・ソウルチャイルドを招いた “Just Like Fools”は、同曲の路線を踏襲したバラード、グラマラスで器用な歌が魅力のヴィヴィアンと、柔らかい声と武骨な歌唱が魅力のミュージックの個性がぶつかり合う、ダイナミックなバラード。高い技術とパワーを兼ね備えた両者の持ち味が遺憾なく発揮された名演だ。

彼女のアルバムは、シャンテ・ムーアレイラ・ハザウェイといった歌唱力をウリにした女性シンガーと比較しても保守的な作品に映る。緻密ではあるが、奇抜なアレンジは皆無で、彼女がキャリアをスタートした90年代のR&Bをベースに、ヴォーカルの表現を駆使して楽曲に様々な表情を与えている。その姿は、アレサ・フランクリンやエッタ・ジェイムスといった、ずば抜けた歌唱力を武器に、色々な曲に魂を吹き込んだ名シンガーを思い起こさせる。

「歌」の可能性を極限まで突き詰めた、高い実力を持つ歌手による本格的なヴォーカル作品。斬新なサウンドが次々と生まれる2018年では歌の持つ無限の可能性が堪能できる数少ないアルバムだ。

Producer
Vivian Green, Kwame Holland, Phillip "Phoe Notes" Randolph

Track List
1. Overture
2. Vibes
3. Promise
4. I Don't Know
5. That's What Love Can Do
6. 1st Time (Again)
7. Happy With You
8. Just Like Fools [Revisited] feat. Musiq Soulchild
9. Chances
10. Mutual Feelings feat. Charisa the Violindiva
11. Supa Dope Fresh Beat Show (Interlude)
12. Sunglasses
13. Stop Sleeping (See the Light)



Vgvi
Vivian Green
Make Noise Llc
2017-10-06

Mavis Staples - Mavis Staples: I'll Take You There: An All-Star Concert Celebration [2017 Caroline International]

メイヴィス・ステイプルズはイリノイ州シカゴ出身のシンガー・ソングライター。1950年に家族と結成したゴスペル・グループ(後のステイプル・シンガーズ)の一員として音楽活動を開始し、53年にシングル『These Are They / Faith And Grace』でレコード・デビュー。その後は”I’ll Take You There”や”Respect Yourself”、”Let's Do It Again”などの後世に語り継がれる名曲と、多くのアルバムを残し、2000年にはロックの殿堂入りも果たしている。

また、彼女自身は69年に初のソロ・アルバム『Mavis Staples』を発表。以後、2016年までに14枚のアルバムと30枚以上のシングルを発表。近年はベン・ハーパーやボン・イヴェールのジャズテン・ヴァーノンを起用したアルバムを発表したり、アーケード・ファイアやゴリラズの作品に客演したりするなど、70歳を超えた今も一線で活躍している。(余談だが、ゴリラズのツアーには映像で参加している)

このアルバムは、彼女の生誕75歳を祝って行われたコンサートを収めたライブ盤。多くの後輩ミュージシャン(といっても、現役のミュージシャンで、彼女より先にデビューした人は殆どいないが)が集結し、ステイプル・シンガーズやソロ名義で発表した名曲を披露している。

本作のトップ・バッターを飾るのは、ケンタッキー州出身のベテラン女性シンガー・ソングライターのジョーン・オズボーン。69年の初ソロ作『Mavis Staples』に収められている”You're Driving Me”に取り組んでいる。フレッド・ブリッジ作の泥臭いソウル・ミュージックを忠実に再現する歌唱力は圧巻の一言だ。

その後は、ケブ・モーやオーティス・クレイら、ベテラン・シンガー達が彼女のキャリアを祝福する名演奏を披露し、本日の主役、メイヴィスへと繋いで行く。

彼女のステージは、ステイプル・シンガーズの名義で71年に発表した”Respect Yourself”でスタート。ニューオーリンズを代表するR&Bバンド、ネヴィル・ブラザーズの一員であるアーロン・ネヴィルと披露したデュエットは、長いキャリアと豊富な実績が反映された、パワフルな歌唱と豊かな表現力が存分に発揮された名演だ。30年以上前にリリースされた曲を、現在の自分達に合わせてアレンジし直す技術が見どころだ。

これに対し、本作の収録曲では最も新しい、2013年のアルバム『We'll Never Turn Back』が初出の”Turn Me Around”は、御年67歳のベテラン・ブルース・シンガー、ボニー・レイットとのコラボレーション。ボニーが鳴らす荒々しいギターの音色をバックに、力強いヴォーカルを披露するメイヴィスの姿が印象的な名演だ。遥か昔に還暦を迎えたとは思えない二人の、パワフルなパフォーマンスを堪能してほしい。

そして、本作の最後を飾るのは、ザ・バンドが68年のアルバム『Music from Big Pink』で発表し、ステイプル・シンガーズが同年のアルバム『Soul Folk In Action』で取り上げた”The Weight”だ。原曲がザ・バンドの作品だけあって、ブルースやロックのミュージシャンが多数参加している本作のバンド・メンバーとは相性が良い。近年はロック畑のミュージシャンと共演することの多いこともあり、ステイプル・シンガーズ時代にはないロックの繊細な表現への適応力を見せている。

今回のステージでは、ブルースやソウル、ロックなど、色々な分野で活躍するベテランが集まり、老練した技で彼女のキャリアを総括、祝福している。だが、一番輝いているのは、豪華なゲストを前に、圧倒的な歌唱力を見せている主役のメイヴィスだと思う。何十年も前に発表した楽曲を、現在の声質や技術に合わせて巧みにアレンジし、現在の彼女の音楽に仕立て上げる技術は稀有なものだと思う。

豊富な実績を誇る名手たちによる、名シンガーへの最高の祝福。本作を堪能した後は、参加ミュージシャンや彼女のオリジナル・アルバムにも耳を傾けてほしい。ポピュラー音楽の奥深い世界を堪能できると思う。

Producer
Keith Wortman

Track List
Disc 1
1. Joan Osborne - You're Driving Me
2. Keb' Mo' - Heavy Makes You Happy
3. Otis Clay - I Ain't Raisin' No Sand
4. Buddy Miller - Woke Up This Morning
5. Patty Griffin - Waiting For My Child To Come Home
6. Emmylou Harris - Far Celestial Shore
7. Michael McDonald - Freedom Highway
8. Glen Hansard - People Get Ready
9. Mavis & Aaron Neville - Respect Yourself
10. Widespread Panic - Hope In A Hopeless World
11. Ryan Bingham - If You're Ready (Come Go With Me)
12. Grace Potter - Grandma's Hands
13. Eric Church - Eyes On The Prize
Disc 2
1. Taj Mahal - Wade In The Water
2. Gregg Allman - Have A Little Faith
3. Mavis & Bonnie Raitt - Turn Me Around
4. Gregg Allman, Taj Mahal, Aaron Neville, Bonnie Raitt, & Mavis Staples - Will The Circle Be Unbroken
5. Mavis, Win Butler & Régine Chassagne - Slippery People
6. Mavis & Jeff Tweedy - You Are Not Alone
7. Mavis Staples - I'll Take You There
8. Mavis & everybody: Encore: The Weight




Mavis Staples I'll Take You There: All-star Concert Celebration
オムニバス(コンピレーション)
Caroline
2017-06-01

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