melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

Concord

Stokley - Introducing Stokley [2017 Concord]

1991年に、同じミネソタ州出身の人気プロダクション・チーム、ジャム&ルイスが経営するパースペクティブ・レコードからリリースしたアルバム『Meant to Be Mint』でメジャー・デビュー。以後、ニュー・ジャック・スウィングからネオ・ソウル、ロックやジャズまで、様々なスタイルを吸収しながら、多くのファンを魅了してきたセント・ポール出身のソウル・バンド、ミント・コンディション。

メンバーの入れ替わりやレーベルの移籍を繰り返しながら、2016年までに9枚のオリジナル・アルバムと多くのシングルを発表。多くの作品が全米R&Bチャートに登場する人気バンドとなった。

ストークリー・ウィリアムスは結成から30年以上、バンドのリード・ヴォーカルを務めてきた、グループの核ともいえる人物。ヴォーカル以外にもドラムやパーカッション、キーボードなど、複数の楽器を使いこなし、演奏者やソングライター、プロデューサーとして、アッシャーやジャネット・ジャクソン、プリンスなど、多くの人気ミュージシャンの作品に携わってきた。

今回のアルバムは、そんな彼にとって初のソロ・アルバム。エスペランザ・スポルディングやタジ・マハルなど、通好みのミュージシャンの作品を数多く配給してきたコンコードからのリリースだ。全ての楽曲で彼自身が制作とプロデュースを担当し、彼以外にもフェイス・エヴァンスなどの作品を手掛けてきたカルヴィン・ハギンスや、ミュージックレディシの作品に携わってきたイヴァン・バリアスがソングライターやプロデューサーとして起用。ロバート・グラスパーやエステール、ウェイルといった人気ミュージシャンがゲストとして招かれた、豪華な作品になっている。

アルバムの1曲目は、本作に先駆けて公開された”Level”。ロス・アンジェルスを拠点に活動するプロダクション・チーム、A-チームと共作したスロー・ナンバーだ。ヒップホップの軽やかなビートと、力強い歌声を引き立てるシンプルだけど味わい深いメロディ、緩急をつけながらじっくりと歌うストークリーのヴォーカルが一体化した良質なバラードは、ラップのような歌い方を取り入れた曲が流行する中で、メロディを丁寧に聴かせるヴォーカル曲はある意味珍しい。

また、グラミー賞のR&B部門で受賞経験もあるジャズ・ピアニスト、ロバート・グラスパーが参加した”Art In Motion”は、カルヴィン・ハギンスとイヴァン・バリースがペンを執ったスロー・ナンバー。そよ風のような柔らかくて優しいメロディが心地よい作品だ。美しいメロディを引き立てるロバート・グラスパーの艶っぽいピアノの演奏と、ストークリーのセクシーなヴォーカルが曲の魅力を引き出している。

また、エステールとのデュエット曲”U & I”は、カルヴィン・ハギンスとイヴァン・バリースが制作に携わっている、しっとりとした雰囲気のミディアム・ナンバー。長い間、音楽業界の一線で活躍している両者だが、コラボレーションは今回が初めてだ。デビュー当時のメアリーJ.ブライジを思い起こさせる、古いレコードから抜き出したような温かい音色のビートをバックに、モニカを彷彿させる甘く切ない歌声を披露するエステールの存在が光る作品。エステールのみずみずしいヴォーカルと、ストークリーの包み込むような大人の色気の組み合わせも魅力的だ。

そして、本作の最後を飾るのは、ジャマイカのクラレンドン教区出身のシンガー、オミを招いた”Wheels Up”だ。ケヴィン・リトルを連想させる爽やかで軽妙なヴォーカルが魅力のオミと、ベテランらしい老練な歌唱が素敵なストークリーのコンビネーションが格好良いアップ・ナンバーだ。スティール・パンなどの音色を取り入れた、カリプソっぽい明るく楽しい雰囲気の伴奏が気持ち良い。20年以上の長い間、色々なスタイルに取り組んできたストークリーだが、中南米の音楽との相性の良さは予想外だった。

初のソロ作品となる今回のアルバムでは、ミント・コンディションを彷彿させる、一つ一つの楽器の出音にまで気を配った、丁寧な作りのスロー・ナンバーやミディアム・ナンバーを中心に、グループの作品では使いにくい音色やアレンジも取り入れた良作になっている。スティール・パンやサンプリング風の音色、ジャズなどのエッセンスを吸収することで、グループで築き上げたストークリーのイメージを残しつつ、自分のスタイルを確立しているあたりは、色々なアーティストと仕事をしてきた彼らしさが発揮されていると思う。

演奏と歌唱で多くのファンを魅了していたミント・コンディションの良さを残しつつ、グループ名義の作品とは一味違うアプローチを聴かせてくれる面白い作品。流行の音楽には抵抗があるけど、新しい音には興味のある、好奇心旺盛な大人にお勧めの、安定感と新鮮さが魅力の佳作だ。

Producer
Stokley Williams, Carvin "Ransum" Haggins, Johnnie "Smurf" Smith, Ivan "Orthodox" Barias, Sam Dew

Track List
1. Level
2. Organic
3. Think About U
4. Cross The Line
5. Art In Motion feat. Robert Glasper
6. Hold My Breath
7. Victoria
8. U & I feat. Estelle
9. Way Up feat. Wale
10. Be With U
11. Forecast
12. Victoria (reprise)
13. We/ Me
14. Now
15. Wheels Up feat. Omi






Introducing Stokley
Stokley
Concord Records
2017-06-23

Taj Mahal & Keb' Mo' - TajMo [2017 Concord Records]

68年に、自身の名前を冠したアルバム『Taj Mahal』でメジャー・デビュー。ジャズやソウル、カリプソやゴスペルなど、色々な音楽を飲み込んだスタイルと高い演奏技術で注目を集め、69年にはローリング・ストーンズが制作した映画「The Rolling Stones Rock and Roll Circus」に出演。92年にはライ・クーダとのコラボレーション・アルバム『Rising Sons』を発表するなど、50年に渡って音楽業界の一線で活躍してきた、ニューヨーク出身のシンガー・ソングライター、タジ・マハルことヘンリー・セントクレア・フレデリックス。

かたや、80年にケヴィン・ムーアの名義で発表したアルバム『Rainmaker』でレコード・デビュー。その後は、ブルースやカントリー、ゴスペルなどへの造詣を活かした作風で、3度もグラミー賞を獲得。2015年にはバラク・オバマ大統領(当時)がホワイト・ハウスで開催したコンサートに、アッシャーやスモーキー・ロビンソン、トロンボーン・ショーティーなどと一緒に出演したことも話題になった、サウス・ロス・アンジェルス出身のシンガーソングライター、ケブ・モことケヴィン・ルーズベルト・ムーア。

双方ともに長いキャリアと豊富な実績を誇り、確固たる個性を打ち出してきた二人による、初のコラボレーション作品が、このアルバムだ。

ケブ・モーのレコード・デビューをタジ・マハルが口添えし、ステージでは何度も共演するなど、これまでにも多くの接点があった二人だが、1枚のアルバムを一緒に作るのはこれが初めて。近年も、ヴァレリー・ジューンウィリアム・ベル、エスペランザ・スポルディングといった、大人向けのアーティストが新作を発表しているコンコードからのリリースで、二人の持ち味ともいえる雑食性が発揮されたブルース作品になっている。

アルバムの1曲目を飾る”Don't Leave Me Here”は、ビリー・ブランチの泥臭いブルース・ハープで幕を開けるミディアム・ナンバー。マディ・ウォーターズを彷彿させる荒々しいヴォーカルは、60年代初頭のチェス・レコードの作品を思い起こさせる。しかし、サデアス・ウィザスプーンの重々しいドラムや、3人のホーン・セクションによる重厚な伴奏のおかげで、当時の作品にはない華やかさと高級感が漂っている。

これに対し、ケブ・モーが主導した”All Around The World”は、軽快な伴奏と力強い歌声の組み合わせが心地よいポップなミディアム・ナンバー。フランク・ザッパやオドネル・リーヴィーなどの作品に参加している大ベテラン、チェスター・トンプソンがドラムを担当し、マイケルB.ヒックスが軽妙なキーボードの演奏を聴かせるポップな楽曲。ドン・ブライアントウィリアム・ベルにも通じる泥臭い歌を聴きやすい音楽にアレンジしてみせる、彼らの編集能力が光る曲だ。

一方、ヴァーブやコンコードからアルバムを発表している、ジャズ・シンガーのリズ・ライトをフィーチャーした”Om Sweet Om”は、フォークソングの要素を取り入れた、牧歌的な雰囲気が印象的な曲。チェスター・トンプソンやブルースハープ担当のリー・オスカーといった、ジャズ畑のミュージシャンと、キーボードのフィル・マデイラやパーカッションのクリスタル・タリフェロなど、ロックやポップスに強いミュージシャンを組み合わせることで、ゆったりとした雰囲気を保ちつつも、正確で隙のない、ハイレベルなパフォーマンスを聴かせている。

そして、二人の持ち味ともいえる雑食性が最大限発揮されたのが”Soul”だ。サデアス・ウィザスプーンやマイケルB.ヒックスに加え、シーラE.がパーカッションで参加。タジ・マハルがウクレレやバンジョーを担当したこの曲は、ハワイアンともカリプソとも異なる、陽気で泥臭いサウンドが心地よい曲。どのジャンルにも分類できないが、聴きやすく、楽しい雰囲気の音楽が多い彼ららしい佳曲だ。

今回のアルバムでは、コラボレーション作品に多い、意外性に富んだ楽曲は少なく、どちらかといえば、二人の音楽性が上手く混ざり合った良曲が多い。両者の音楽性が、ブルースをベースにしつつ、色々な音楽を混ぜ込んだものという点も大きいだろう。しかし、華やかな音色の楽器を使って、重厚なブルースにポップな空気を吹き込むのが得意なタジと、ヴォーカルの良さを引き出す技術の高さが魅力のケブという風に、両者の強みが少しずつ違うこともあり、二人のスタイルをベースにしつつも、各人のソロ作品とは一味違う、独特の音楽を生み出している。

ブルースやゴスペル、ソウル・ミュージックなど、二人が親しみ、演奏してきたアメリカの色々な音楽を一枚のアルバムに凝縮した、濃密で充実した作品。アデルやメイヤー・ホーソンのように、往年のブラック・ミュージックから多くの影響を受けたアーティストが人気を集め、BTSがケブ・モーの"Am I Wrong"をサンプリングした楽曲をヒット・チャートに送り込むなど、ルーツ・ミュージックから影響を受けた音楽をたくさん聴くことができる現代。そんな時代だからこそ聴きたい、懐かしいけど新鮮なアルバムだ。

Producer
Keb' Mo', Taj Mahal

Track List
1. Don't Leave Me Here
2. She Knows How To Rock Me
3. All Around The World
4. Om Sweet Om
5. Shake Me In Your Arms
6. That's Who I Am
7. Diving Duck Blues
8. Squeeze Box
9. Ain't Nobody Talkin'
10. Soul
11. Waiting On The World To Change




TAJ MAHAL & KEB' MO' [12 inch Analog]
TAJ MAHAL & KEB' MO'
TAJMO
2017-06-16

Valerie June ‎– The Order Of Time [2017 Concord Records]

2006年に自主制作のEP『The Way Of The Weeping Willow』でデビュー。2012年以降はジャズやソウルの実力派ミュージシャンの作品を数多く配給している、ビバリーヒルズのコンコード・レコードと契約しているテネシー州ジャクソン生まれ、メンフィス育ちのシンガー・ソングライター、ヴァレリー・ジューン。彼女にとって、2013年の『Pushin' Against a Stone』以来となる、通算4枚目のフル・アルバム。

前作では、ブラック・キーズのダン・オーバックとフェアファクス・レコードのケヴィン・オーグナスがプロデュースしていたこともあり、オルタナティブ・ロックやルーツ・ミュージックから強い影響を受けているように映ったが、元々は父の影響でゴスペルやソウル、R&Bなどに慣れ親しんできたらしい。そんな彼女は、ボビー・ウーマックやプリンスを担当したこともあるプロモーターと出会ったことを切っ掛けに、ミュージシャンとしてのキャリアを本格的に開始した。

これまでの作品では、ローカル・シーンのソウル・ミュージックやR&Bをベースに、フォーク・ソングやロック、ジャズなどのエッセンスを盛り込んだバンド・サウンドを聴かせてくれた彼女。本作でもその路線は変わっていない。むしろ、プロデューサーがアレンジや演奏の技術に定評のあるマット・マリネッリとリチャード・スフィフト(”Just In Time”のみ担当)に変わり、ソングライティングを彼女自身が主導するようになったことで、ヴァレリーの趣向や方向性がより明確になった。

アルバムに先駆けてシングル・カットされたのは”Astral Plane”と”Shakedown”の2曲。前者は、4人のホーン・セクションを含む、豪華なバンド・メンバーが生み出す重厚なサウンドと、ヴァレリーの繊細なヴォーカルが印象的なバラード。大人数のバンドを黒子のように使って、自分の歌声を引き立てる技術や、タジ・マハルを彷彿させる民族音楽のエッセンスを取り入れたメロディを盛り込む作曲センスが面白い佳曲だ。

一方、荒々しいギターの音色と彼女自身が奏でるハンド・クラップが心を掻き立てる後者は、ジャニス・ジョップリンの再来を思わせる、スピーカーを突き破りそうな勢いで弾け飛ぶ音の塊がここちよいアップ・ナンバー。ギターを含む各楽器の音色を加工せず、自然体な雰囲気を演出している点以外はエイミー・ワインハウスにもちょっと似ている、本作の中で最も気になる曲だ。

それ以外の曲では、アルバムのオープニングを飾る”Long Lonely Road”も見逃せない曲だ。ドラムやギターによるシンプルな編成のバンドをバックに、じっくりと丁寧に歌いこんだフォーク・ソング風のバラード。前作までの彼女を知る人には、こちらの曲の方が好みかもしれない。

また、アフリカ西部の民族音楽の要素も垣間見える個性的なメロディの”Man Done Wrong”も捨てがたい。パーカッションやバンジョーを取り入れた伴奏と、非西洋圏の要素を取り入れたメロディの組み合わせた楽曲は、ボブ・ディランがラジオ番組で紹介していた音楽を、現在の技術で再構築したもののようにも見える。

そして、絶対に聞いてほしいのはハモンド・オルガンを伴奏に取り入れた”The Front Door”。フォーク・ソングをベースに、ハモンド・オルガンと荘厳なメロディでゴスペルの要素を加えたスロー・ナンバー。白人と黒人のルーツ音楽を融合させた、ありそうでなかったタイプの楽曲だ。

彼女の曲は、シンセサイザーを使った華やかなビートが主流の2017年の音楽業界では、決して目立つタイプではないと思う。そもそも、パワフルな歌手が鎬を削るR&Bやソウルに慣れ親しんだ人々や、斬新なサウンドを次々と生み出しているロックの世界に馴染んだ人々が、20世紀中盤から、長い時間をかけて今の形になった、ソウルやR&B、ブルースやフォークの要素を取り込んだ彼女の音楽を聴いて、どんな反応を示すのか、かなり不安がある。だが、アメリカのルーツ音楽を丁寧に遡り、自分の音楽の土台にしているセンスと勤勉さは、決して見逃せないと思う。また、自分達の音楽が伝わらないことを時代のせいにするのではなく、自分達のルーツを丁寧に研究して、現代に生きる人々に伝わる形に還元して発信された本作は、アメリカの音楽を愛聴する人にとって決して無視できないものだと思う。

広い国土と様々な人種を抱え、色々な文化が混ざり合いながら、現在の形に発展してきたアメリカの、2017年時点の音楽の姿を感じさせる佳作。アメリカ音楽の原点を思い出したいとき、耳にしたいアルバムだ。

Producer
Matt Marinelli, Richard Swift

Track List
1. Long Lonely Road
2. Love You Once Made
3. Shakedown
4. If And
5. Man Done Wrong
6. The Front Door
7. Astral Plane
8. Just In Time
9. With You
10. Slip Slide On By
11. Two Hearts
12. Got Soul





The Order of Time
Valerie June
Concord Records
2017-03-10

 
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