サンダーキャットの名義で多くの傑作を残しているステファン・ブルーナーや、名うてのドラマーとして、カマシ・ワシントンケンドリック・ラマーまで、様々なアーティストと共演しているロナルド・ブルーナーを兄弟に持ち、自身もマット・マーシャンズ率いるR&Bバンド、インターネットの一員として活動してきた、シンガー・ソングライター兼キーボード奏者の、キンタローことジャミール・ブルーナ。

カリフォルニア州ロスアンジェルス出身のジャミールは、2013年から2016年までインターネットの一員として活動。その縁もあり、タイラー・ザ・クリエイターやエイサップ・ロッキー、ゴールドリンクといった、ヒップホップ・ミュージシャンの作品に数多く関わってきた。

また、その一方で、2017年には初のミックス・テープ『Commando Existentral』を発表。同年には初のEP『Universal EP』をリリースするなど、アーティストとしても頭角を現してきた。

本作は、2017年に公開した2枚の録音作品を1枚のCDに収めた企画盤。収録された全ての曲をプロデュースし、ソングライティングや演奏、ヴォーカルも担当するなど、彼自身が大部分の工程に携わった力作となっている。

本作の目玉は、何といってもアンダーソン・パークをフィーチャーした”MK”。グラマラスなベースの音色とロックのビートを組み合わせたバック・トラックはゴリラズの作風に近い印象。テナーのパーク、バリトンのジャミールという違いはあるものの、しゃがれた声を絞り出すスタイルで共通する両者による息の合ったデュエットが面白い。

同作の収録曲で、もう一つ記憶に残ったのは”Alien Trap”。タイトルに違わないトラップのビートに、宇宙人が出るSF映画を彷彿させるふわふわとした電子音や、エフェクトをかけた声のラップを組み合わせたヒップホップ作品。この曲のように奇抜な音色を組み合わせた作品には、斬新なサウンドを強調しすぎて、何度も聴くのは辛いものが少なくないが、この曲では聴き手に強い印象を与えるポイントに絞り込んで使うことで、楽曲としての完成度を高めている。余談だが、曲中に流れるチャイムの音色は、アメリカでも使われているのだろうか。

これに対し、『Commando Existentral』の収録曲では”Song For Us Bounce”が目を惹く。電子楽器を多用した刺々しい音色と、声域全体を使った歪なメロディを歌うヴォーカルの組み合わせは、パーラメントの『Mothership Connection』を思い起こさせる。時代が違うとはいえ、大人数のバンドで生み出されたP-ファンクのサウンドを、一人で鳴らす彼の技術には驚かされる。

そして、このスタイルをさらに深めたのが”Song Joint Flip Lit”。乾いた音を鳴らす電子楽器を使ったトラックは、ネプチューンズのサウンドによく似ている。しかし、その上に乗っかるのはファレルが歌うような軽妙なメロディとは対極の、不可思議なメロディ、個性的なサウンドで一世を風靡した、ネプチューンズとファンカデリックの音楽を一つの作品に同居させた、大胆な発想が光る楽曲だ。

彼の音楽の面白いところは、シンセサイザーを軸に据えつつ、多彩な表現を繰り出している点だろう。トラップに始まりロックやファンク、R&Bなど、色々なジャンルの音楽を取り入れ、自分の作品の糧にしている。この豊かな感性と高い構成力が彼の良さだと思う。

二人の兄に勝るとも劣らない、高い演奏技術と音楽センスが遺憾なく発揮された良作。サンダーキャットやフライング・ロータスの音楽が好きな人なら絶対に夢中になるだろう。音楽に対する深い造詣と鋭い視点、具体的な作品に落とし込む技術が心に残る作品だ。

Producer
Kintaro

Track List
1. Alt Pln
2. Mk feat.Anderson .Paak
3. West
4. Trap You
5. Alien Trap
6. Aussie feat.Tru Sound
7. Chillin
8. Next To You
9. Song For Us Bounce
10. Song Joint Flip Lit
11. Soul Boy
12. Untitled Bullshit
13. Once More With This “Put In Work Bullshit”
14. Beez In Duh Trap Final (BONUS TRACK)