オクラホマ州マスコギーの出身、49歳の時にフランスのディスコ・ミュージック専門レーベル、ブーギー・タイムズからアルバム『One For Funk And Funk For All 』でデビューした、異色の経歴のシンガー・ソングライター、エノイス・スクロギンス。その後も、オクラホマ州のタルサに拠点を構えながら、ウィンフリーやワズ・ザ・ファンクファザーといった、アメリカやフランスで活躍する、80年代のディスコ・ミュージックや、90年代前半にアメリカの西海岸で流行したヒップホップのような、アナログ・シンセサイザーとリズム・マシーンの音色を活用したモダンな作風を得意とするミュージシャン達とコラボレーションするなど、精力的に活動。多くの録音をファンキーサイズやディギー・ダウンといったファンク・ミュージックに力を入れているフランスのレーベルから発表してきた。

本作は、2015年の『On A Roll』以来、約2年ぶりとなる通算8枚目のオリジナル・アルバム。同時に、今回のアルバムは、これまでにも複数の楽曲で制作に参加してきたフランスのプロデューサー・ユニット、ザ・タッチ・ファンクとの初のコラボレーション作品でもある。

アルバムの1曲目に収められている、本作からのリード・シングル”I Just Wanna Sing”は、ロス・アンジェルスを拠点に活動する女性シンガー、Jマリーをフィーチャーしたアップ・ナンバー。プリンスやミント・コンディションに触発され、エレクトリック・サウンドを取り入れたR&B作品を録音してきたマリーの、クールな歌声が聴きどころ。彼女の歌声に呼応するかのように、グラマラスで流麗な歌を聴かせるエノイスや、シンプルで洗練されたトラックも見逃せない。

一方、ティスミジーが参加した”You Got To Boogie”は、乾いたギターの音色や様々なリズム・マシーンの音色を組み合わせた華やかなトラックが印象的な、ディスコ・ナンバー。アナログ・シンセサイザーの柔らかい音色と鋭い音色のシンセ・ベースが、スレイヴやワンウェイなどのディスコ・バンドを思い起こさせるキャッチーなダンス・ナンバーだ。

また、2015年にシングル盤で発表された”Steppin’ Out”は、ハウス・ミュージックに近い、テンポの速いビートに乗せて、流れるような歌声を披露する、力強い演奏の中にも優雅さを感じさせるダンス・ナンバー。疾走感は魅力的だが、個人的には同作のB面に収められている”What Can I Do ”の方がお勧めだ。こちらは、ゴリゴリとしたシンセ・ベースと、他の曲よりも控えめに鳴るシンセサイザーの伴奏が特徴的な、ファンク色の強い曲。パーカッションの使い方はエムトゥーメイに、ベースの使い方はリック・ジェイムズに少し似ている、先鋭的なサウンドが特徴的だ。80年代後半のソウル・ミュージックが好きな人なら、思わずニヤリとしてしまう演出が盛り沢山な点も心憎い。

だが、本作で一番の聴きどころといえば、やはりブラック・ロスを起用したミディアム・ナンバー“Let's Fall In Love Again Tonight”だろう。勇壮なホーンで幕を開けるこの曲は、メアリー・ジェーン・ガールズの”All Night Long”を思い起こさせる、重厚で落ち着いた雰囲気とポップさを兼ね備えたグルーヴに乗せて、エノイスが年季を重ねた声でしみじみと歌い上げる、ロマンティックな楽曲。電子楽器の音色を取り入れた楽曲も、甘い歌声が魅力の歌手も決して珍しくないが、酸いも甘いも嚙み分けてきたベテラン歌手が、生楽器とシンセサイザーを組み合わせたモダンで華やかなサウンドをバックにその実力を遺憾なく発揮する姿は、やはり格別のものがある。

本作はコラボレーション・アルバムと銘打っているものの、今までのエノイスの作品と基本路線は変わっていない。アナログ・シンセサイザーやリズム・マシンを使ったモダンだけど温かみのあるトラックの上で、ボコーダーやトークボックスを織り交ぜながら、バリー・ホワイトを彷彿させるふくよかで柔らかい歌声を響かせるスタイルは、本作でも健在だ。あえて違いを強調するなら、今回のアルバムでは、ヒップホップ畑のクリエイターと共同作業をすることで、ディスコ・ミュージック寄りの楽曲が増えた点だ。

メイヤー・ホーソンもメンバーに名を連ねるタキシードや、ディム・ファンクも一因であるナイト・ファンクなど、80年代のディスコ・ミュージックから多くの刺激を受け、現代の音楽として再構成しようとする試みが各所で見られる中、2000年代から一貫してディスコ・ミュージックに取り組んできたシンガーが、経験の差を見せつけた本格的なソウル作品。彼らやブルーノ・マーズなどの音楽が好きな人は、ぜひ一度耳を傾けてほしい。

Producer
The Touch Funk

Track List
1. I Just Wanna Sing feat. J Marie (Radio Edit)
2. Coody Funk feat. Lonnie Barker Jr.
3. You Got To Boogie feat. Tysmizzy
4. This is What I Do
5. Miracle Potion feat. Hic Box, Shawn Biel
6. You Whisper Another Man's Name
7. What Can I Do (Main Version)
8. Get Down (Interlude)
9. This is For The B-Boys
10. Rewind Time feat. MNMsta
11. Let's Fall In Love Again Tonight feat. Black Los
12. Steppin' Out (Main Version)





Real-E
Diggy Down Recordz
2017-03-15