“One Love”や”Get Up Stand Up”などの名曲を残し、レゲエ界のアイコンとして今も絶大な人気のあるボブ・マーリー。彼の息子達も、それぞれミュージシャンとして個性的な作品を送り出しているが、その中でも特に精力的に活動しているのが、ボブにとって二人目の妻である、シンディ・ブレイクスピアとの間に生まれたダミアン・マーリーだ。
10代前半から他の兄弟と一緒に音楽を始めた彼は、歌やプロダクションに興味を持った他の兄弟とは異なり、早くからディージェイ(ヒップホップでいうMCに相当)に傾倒し始める。
そんな彼は、96年に初のアルバム『Mr. Marley』でレコード・デビューを果たすと、ビルボードのレゲエ・アルバム・チャートで2位を獲得。その5年後に発表した2作目『Halfway Tree』はグラミー賞を獲得するなど、華々しい実績を上げてきた。
また、彼は自身の活動と並行して、色々なジャンルのアーティストとコラボレーション作品を録音。なかでも、2010年にヒップホップ・ミュージシャンのナズと共作した『Distant Relatives』は全米アルバム・チャートの5位を獲得。彼をフィーチャーしたエレクトロ・ミュージックのクリエイター、スカイレックスのシングル”Make It Bun Dem”は、プラチナ・ディスクに認定されるなど、偉大な父と同様に、レゲエに詳しくない人達からも親しまれるようになった。
今回のアルバムは、自身の名義では実に12年ぶりとなる通算4枚目のアルバム。近年もジェイZの『4:44』に参加するなど、多芸っぷりを発揮していた彼だが、本作ではセルフ・プロデュースの作品や兄であるステファン、幾度となくグラミー賞を獲得しているジャマイカを代表するプロダクション・チーム、スライ&ロビーといった、レゲエ畑のクリエイターを中心に起用。ゲストもステファンやメジャー・マイジャーといったレゲエ・ミュージシャンが顔を揃えた、原点回帰とも受け取れる作品に仕上がっている。
2016年に、アルバムに先駆けてリリースされたシングル曲”Nail Pon Cross”は、彼自身のプロデュースによるミディアム・ナンバー。コンピューターによる重低音を強調したビートはスレンテンのような80年代終わりから90年代初頭に流行したスタイルを踏襲したものだが、彼はナズやノートリアスB.I.G.のようなニューヨークのヒップホップ・ミュージシャンを連想させる、昔のソウル・ミュージックのような温かい音色を取り入れて、アメリカの音楽っぽく仕上げている。
また、彼自身がペンを執ったR.O.A.R.は、ブジュ・バントンの”Me & Oonu”をサンプリングした作品。マーチング・バンドっぽい軽快で緻密なビートをバックに、荒々しいパフォーマンスを聴かせてくれる。ブジュ・バントンのワイルドな歌声が、楽曲に攻撃的な雰囲気を加えている。
これに対し、ピットブルの作品に参加するなど、ダミアン同様アメリカでの活躍が目立つ兄、ステファンが参加した”Medication”は、生前のボブ・マーリーの音楽を思い起こさせる、生バンドによるゆったりとしたサウンドが心地よい曲。ステファンの艶やかなテナー・ヴォイスとダミアンのワイルドな歌声の組み合わせが面白い。歌とディージェイ、スタイルは違うが一緒に仕事をすることも多い二人だから作れる、際立った個性と一体感が両立された佳作だ。
そして、本作の隠れた目玉と言っても過言ではないのが、バウンティ・キラーやアシュリー・ロスなどの作品に携わってきた気鋭の若手、メジャー・マイジャーを招いた”Upholsteryv”だ。ピコピコという電子音を使った躍動感溢れるサウンドは、2000年代初頭、アメリカを中心に世界を席巻したダンス・ホール・レゲエを思い起こさせる。ファルセットを多用したメジャーのヴォーカルと、ダミアンのパンチが効いたパフォーマンスのコンビネーションも、いい味を出している。ボブ・マーリーの音楽が持つ親しみやすさと、21世紀に世界の耳目を惹きつけたダンス・ホールの斬新さを融合させた面白い曲だ。
今回のアルバムでも、レゲエをベースにしつつ、アメリカの音楽市場を意識してメロディやサウンドに工夫を凝らした、彼の持ち味が遺憾なく発揮されている。ボブの音楽がロックやソウル・ミュージックを取り入れながら唯一無二の個性を発揮したように、彼はヒップホップやエレクトロ・ミュージックを取り込みつつ、自分の音楽に落とし込んでいる。
ショーン・ポールやウェイン・ワンダーなど、アメリカの音楽を取り込んで成功を収めたレゲエ・ミュージシャンは少なくないが、アメリカの音楽を分解、研究して、自分の音楽の糧にした例は希少だと思う。海外のトレンドを意識しつつ、母国の音楽や自身のスタイルに昇華した好事例といえる傑作だ。
Producer
Damian Marley, Stephen Marley, Sly & Robbie, Stephen McGregor
Track List
1. Intro
2. Here We Go
3. Nail Pon Cross
4. R.O.A.R.
5. Medication feat. Stephen Marley
6. Time Travel
7. Living It Up
8. Looks Are Deceiving
9. The Struggle Continues
10. Autumn Leaves
11. Everybody Wants To Be Somebody
12. Upholsteryv feat. Major Myjah
13. Grown & Sexy feat. Stephen Marley
14. Perfect Picture feat. Stephen Marley
15. So A Child May Follow
16. Slave Mill
17. Caution
18. Speak life
10代前半から他の兄弟と一緒に音楽を始めた彼は、歌やプロダクションに興味を持った他の兄弟とは異なり、早くからディージェイ(ヒップホップでいうMCに相当)に傾倒し始める。
そんな彼は、96年に初のアルバム『Mr. Marley』でレコード・デビューを果たすと、ビルボードのレゲエ・アルバム・チャートで2位を獲得。その5年後に発表した2作目『Halfway Tree』はグラミー賞を獲得するなど、華々しい実績を上げてきた。
また、彼は自身の活動と並行して、色々なジャンルのアーティストとコラボレーション作品を録音。なかでも、2010年にヒップホップ・ミュージシャンのナズと共作した『Distant Relatives』は全米アルバム・チャートの5位を獲得。彼をフィーチャーしたエレクトロ・ミュージックのクリエイター、スカイレックスのシングル”Make It Bun Dem”は、プラチナ・ディスクに認定されるなど、偉大な父と同様に、レゲエに詳しくない人達からも親しまれるようになった。
今回のアルバムは、自身の名義では実に12年ぶりとなる通算4枚目のアルバム。近年もジェイZの『4:44』に参加するなど、多芸っぷりを発揮していた彼だが、本作ではセルフ・プロデュースの作品や兄であるステファン、幾度となくグラミー賞を獲得しているジャマイカを代表するプロダクション・チーム、スライ&ロビーといった、レゲエ畑のクリエイターを中心に起用。ゲストもステファンやメジャー・マイジャーといったレゲエ・ミュージシャンが顔を揃えた、原点回帰とも受け取れる作品に仕上がっている。
2016年に、アルバムに先駆けてリリースされたシングル曲”Nail Pon Cross”は、彼自身のプロデュースによるミディアム・ナンバー。コンピューターによる重低音を強調したビートはスレンテンのような80年代終わりから90年代初頭に流行したスタイルを踏襲したものだが、彼はナズやノートリアスB.I.G.のようなニューヨークのヒップホップ・ミュージシャンを連想させる、昔のソウル・ミュージックのような温かい音色を取り入れて、アメリカの音楽っぽく仕上げている。
また、彼自身がペンを執ったR.O.A.R.は、ブジュ・バントンの”Me & Oonu”をサンプリングした作品。マーチング・バンドっぽい軽快で緻密なビートをバックに、荒々しいパフォーマンスを聴かせてくれる。ブジュ・バントンのワイルドな歌声が、楽曲に攻撃的な雰囲気を加えている。
これに対し、ピットブルの作品に参加するなど、ダミアン同様アメリカでの活躍が目立つ兄、ステファンが参加した”Medication”は、生前のボブ・マーリーの音楽を思い起こさせる、生バンドによるゆったりとしたサウンドが心地よい曲。ステファンの艶やかなテナー・ヴォイスとダミアンのワイルドな歌声の組み合わせが面白い。歌とディージェイ、スタイルは違うが一緒に仕事をすることも多い二人だから作れる、際立った個性と一体感が両立された佳作だ。
そして、本作の隠れた目玉と言っても過言ではないのが、バウンティ・キラーやアシュリー・ロスなどの作品に携わってきた気鋭の若手、メジャー・マイジャーを招いた”Upholsteryv”だ。ピコピコという電子音を使った躍動感溢れるサウンドは、2000年代初頭、アメリカを中心に世界を席巻したダンス・ホール・レゲエを思い起こさせる。ファルセットを多用したメジャーのヴォーカルと、ダミアンのパンチが効いたパフォーマンスのコンビネーションも、いい味を出している。ボブ・マーリーの音楽が持つ親しみやすさと、21世紀に世界の耳目を惹きつけたダンス・ホールの斬新さを融合させた面白い曲だ。
今回のアルバムでも、レゲエをベースにしつつ、アメリカの音楽市場を意識してメロディやサウンドに工夫を凝らした、彼の持ち味が遺憾なく発揮されている。ボブの音楽がロックやソウル・ミュージックを取り入れながら唯一無二の個性を発揮したように、彼はヒップホップやエレクトロ・ミュージックを取り込みつつ、自分の音楽に落とし込んでいる。
ショーン・ポールやウェイン・ワンダーなど、アメリカの音楽を取り込んで成功を収めたレゲエ・ミュージシャンは少なくないが、アメリカの音楽を分解、研究して、自分の音楽の糧にした例は希少だと思う。海外のトレンドを意識しつつ、母国の音楽や自身のスタイルに昇華した好事例といえる傑作だ。
Producer
Damian Marley, Stephen Marley, Sly & Robbie, Stephen McGregor
Track List
1. Intro
2. Here We Go
3. Nail Pon Cross
4. R.O.A.R.
5. Medication feat. Stephen Marley
6. Time Travel
7. Living It Up
8. Looks Are Deceiving
9. The Struggle Continues
10. Autumn Leaves
11. Everybody Wants To Be Somebody
12. Upholsteryv feat. Major Myjah
13. Grown & Sexy feat. Stephen Marley
14. Perfect Picture feat. Stephen Marley
15. So A Child May Follow
16. Slave Mill
17. Caution
18. Speak life