melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

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T-Groove & Two Jazz Project - Nu Soul Nation [2018 LAD Publishing & Records, Kissing Fish Records]

小説家やデザイナーとしても活動しているエリック・ハッサンと、ギターやベースなど、複数の楽器を使いこなせるクリスチャン・カフィエロによるフランスの音楽ユニット、トゥー・ジャズ・プロジェクト。2017年には、初のスタジオ・アルバムとなる『Move Your Body』を発表し、ヨーロッパを中心に多くの国で高い評価を受け、その後もG.リナの”想像未来”やウッディファンクの”N.Y.B.”をリミックスして話題になった、日本の音楽プロデューサー、T-グルーヴことユウキ・タカハシ。

住んでいる土地も年齢も経歴も違う彼らは、2016年ごろからリミックスなどを通して結びつき、同年には両者の連名による初のスタジオ・アルバム『Experiences』もリリースしてきた。

本作は彼らにとって、2枚目のコラボレーション・アルバム。配信版の配給は、両者の作品を取り扱ったこともあるポルトガルのLADパブリッシング、CD盤やアナログ盤の配給は、安藤裕子や比屋定篤子などの作品を販売している日本のキッシング・フィッシュが担当している。

本作に先駆けてリリースされた”Strong Love”は、T-グルーヴの”Family”でヴォーカルを担当し、今年2月に発売されたアルバム『Not Made For These Times』でも艶やかな歌声を披露している、シカゴ出身のシンガー・ソングライター、ジョヴァンを招いた作品。メアリー・ジェーン・ガールズの”All Night Long”を彷彿させる、太い低音とゆったりとしたテンポが心地よいビートをバックに、じっくりと歌い込むジョヴァンの高い技術が印象的。一聴しただけで練り込まれたものとわかる表現を、優雅に歌い上げるジョヴァンの姿が光る作品だ。同じシングルに入っているハウス・ミュージック寄りのアップ・ナンバー”The More I Do”や、跳ねるようなベースの演奏が光るミディアム”Just Wanna”を含め、彼の参加曲にはハズレがない。

それ以外の曲では、エノイス・スクロギンスをフィーチャーした”Funky Show Time ”が面白い。49歳のときに初めてのスタジオ・アルバム『One For Funk And Funk For All』を発表した、遅咲きの名シンガーと組んだ2017年のシングル曲は、彼が得意とする、リック・ジェイムスのような80年代のファンク・ミュージックの要素を盛り込んだミディアム。キーボードの美しい音色とベースの演奏を強調した、スタイリッシュなトラックが格好よいミディアム・ナンバー。ドラムの音の跳ね具合が、ファンクの躍動感を演出している。きらびやかな上物と、ダイナミックなグルーヴの組み合わせは、両者のソウル・ミュージックに対する深い造詣を伺わせる。

また、 トロント出身のシンガー・ソングライター、ポーラ・レタンを起用した“Bring It Back Around”は、本作では異色のスロー・ナンバー。シンセサイザーの伴奏を駆使した作風は、アイズレー・ブラザーズやアンジェラ・ウィンブッシュが80年代後半に残してきたロマンティックなバラードを彷彿させる。しかし、当時の音楽との決定的な違いは豊かな低音。柔らかい音色のベースを用いて、楽曲に安定感を与えつつ繊細で滑らかなヴォーカルを引き立てている点は見逃せない。事あるごとに、70年代後半から80年代に作られた黒人音楽への愛を示してきた、彼らの持ち味が発揮された良質なスロー・ジャムだ。

そして、収録曲の約半数に携わっている、マリー・メニーが参加した曲の中では、”Diamonds”のエクステンデッド・ヴァージョンが光っている。前作『Experiences』からシングル・カットされた、彼らの人気曲のロング・ヴァージョンだ。前作に収録されたものと比べると、バス・ドラムの音が強調され、腰に訴えかける刺激的なグルーヴを堪能できるものになっている。シャーデーを思い起こさせる神秘的な雰囲気を醸し出すヴォーカルも気持ち良い。「ロング・ヴァージョン」を作った彼らの思いが垣間見える良曲だ。

今回のアルバムは、前作以上にディスコ・ミュージックの面白さをアピールした作品になっている。軽快な音を響かせるギターや、シンセサイザーを多用した高級感溢れる伴奏、優雅で洗練されたヴォーカルを活かした曲作りは前作と変わらない。しかし、本作では上品な雰囲気を残しつつ、ベースやドラムの音を適度に強調することで、ソウル・ミュージックの持つ躍動感と親しみやすさを盛り込むことに成功している。

また、もう一つの面白いところは、この作品に複数の国の人が関わっていることだろう。日本とフランスのクリエイターが曲を作り、アメリカやカナダなどのヴォーカルが歌を吹き込み、ポルトガルや日本のレコード会社が配給する。そこには、「日本人らしさ」「フランス人らしさ」という枠を超えて、「ソウル・ミュージックへの愛」を「私達の音楽」で表現し、広めようと尽力する人達がいる。この2点が本作の大きな特徴だろう。

アメリカで生まれ、その後世界各地に広まり、それぞれの土地で独自の進化を遂げたソウル・ミュージック。そんな各地のミュージシャンが、21世紀に入り、通信技術などの発展で互いに結びつくようになったことで生まれた奇跡の1枚。世界各地で自分達の音楽を模索する、ソウル・ミュージック・ラバーの存在を再認識させてくれる作品だ。

Producer
Two Jazz Project, Yuki "T-Groove" Takahashi

Track List
1. New Humanist Whisper feat. Marie Meney
2. Funky Show Time (Extended Version) feat. Enois Scroggins
3. The More I Do feat. Jovan Benson
4. Soul Nation feat. Brae Leni
5. Bring It Back Around feat. Paula Letang
6. Venus feat. Marie Meney
7. Soho Sunset feat. Enois Scorggins
8. Stay With Me feat. Marie Meney
9. Diamonds (Extended Version) feat. Marie Meney
10. Strong Love feat. Jovan Benson
11. The Groove Revolution feat. Brae Leni & Marie Meney
12. Just Wanna feat. Jovan Benson
13. Under The Pressure feat. Enois Scroggins & Marie Meney
14. Take This Love (Album Version) feat Marie Meney
15. Last Humanist Whisper feat. Enois Scroggins





Nu Soul Nation
T-GROOVE & TWO JAZZ PROJECT
Kissing Fish Records
2018-05-02


Two Jazz Project & T-Groove - COSMOS 78 [2017 LAD Publishing & Records]

探偵小説などを書いている、マルセイユ出身の小説家でデザイナーのエリック・ハッサンと、ベースやギターの演奏家であるクリスチャン・カフィエロによる音楽ユニット、トゥー・ジャズ・プロジェクト。そして、八戸出身、東京在住の音楽プロデューサー、ユウキ・タカハシによる音楽プロジェクト、T-グルーヴ。両者によるコラボレーション作品。

結成から10年を超え、『Hot Stuff』や『Experiences』といった、ジャズや電子音楽、ソウル・ミュージックなどを融合した、独創的なスタイルの傑作を残してきたトゥー・ジャズ・プロジェクトと、日本在住の若いクリエイターでありながら、UKソウル・チャートの2位を獲得したトム・グライドの“Party People”や、サン・ソウル・オーケストラの”Can't Deny It”のアレンジやリミックスに携わり、自身の名義でもソーシー・レディをフィーチャーした”Spring Fever”などのヒット曲を残しているT-グルーヴ。

これまでにも、いくつかの作品を一緒に録音してきた彼らのEPは、「ファンタスティック・レトロ・フューチャリスト・ファンク・オデッセイ」をテーマにしたコンセプト・アルバム。制作にはトゥー・ジャズ・プロジェクトの楽曲でも素敵なパフォーマンスを披露してきた、女性シンガーのマリー・メニーとサックス奏者のディダーラ・ラ・レジー、T-グルーヴの作品で躍動感溢れるベースを聴かせてくれたタカオ・ナカシマも参加。隙の無い強力な布陣でクールなダンス・ミュージックを作り上げている。

本作に先駆けて発表された”Night Flight”は、オクラホマ州出身のシンガー、エノイス・スクロギンスをフィーチャーした曲。フランスのディスコ音楽レーベル、ブーギー・タイムスからデビューするなど、ヨーロッパでの知名度が高い彼は、これまでにも2016年のシングル『Soho Sunset 』、2017年のシングル『Funky Show Time』などで共演している旧知の間柄。自身の作品ではグラマラスでファンキーな歌唱が魅力のエノイスだが、この曲ではバリー・ホワイトを彷彿させる優雅な歌声を聴かせてくれる。マリーの透き通った歌声と絶妙なタイミングで入り込むディダーラのサックスも格好良い。

これに続く”Space Machine”は、マリーがメイン・ヴォーカルを担当。ハウス・ミュージックのような四つ打ちのビートや、シンセサイザーを多用した伴奏は、ドナ・サマーの”I Feel Love”のような、黎明期のテクノ・ミュージックを彷彿させる楽曲。ディム・ファンクやダフト・パンクなど、70年代や80年代のディスコ音楽を咀嚼した作品を発表しているミュージシャンは少なくないが、ハイ・エナジーの要素を取り入れた曲は珍しい。

また”Passion”は、ピアノっぽい音色のキーボードを活かしたトラックが、ロリータ・ハロウェイのようなハウス・ミュージック寄りのディスコ音楽を連想させる佳曲。涼しげな声でメロディを歌いながら、曲間では急に色っぽい声を出すマリーの意外な一面が面白い。

そして、本作唯一のインストゥルメンタル作品”Cosmos 78”はニュー・オーダーの”Blue Monday”を思い起こさせるロー・ファイな電子音が格好良いテクノ色の強い曲。電子音とファンク寄りの太いベースを一つの音楽に組み合わせる技術が光っている。

アルバムの最後を飾るのは、マリーがヴォーカルを担当した”You Are My Universe”。温かい音色のキーボードやサックスを効果的に使ったサウンドは、ディミトリ・フロム・パリのような、きらびやかでおしゃれな雰囲気のハウス・ミュージックの影響も垣間見える。マリーの豊かな声量と表現力も見逃せない。

彼らの音楽の醍醐味は、機械を使った精密なビートと、ギターやキーボード、パーカッションといった人間が演奏する楽器を組み合わせながら、それを一つの音楽に落とし込むセンスだと思う。それが可能なのは、各人の技術の高さと感性の鋭さによる部分が大きいが、その中でも、ギターやベースを担当する、クリスチャン・カフィエロやタカオ・ナカシマによるダイナミックかつ緻密な演奏が、機械を使ったビートと人の手による生演奏を一体化するのに大きく貢献していると思う。また、各人の演奏を一つの作品に纏め上げる、録音、編集技術の妙も大きいだろう。

ダフトパンクやマークロンソンなど、70年代、80年代のディスコ音楽を意識した作品を発表するアーティストがひしめき合うなか、楽器の演奏と機械のビートを組み合わせた、モダンでファンキーな作風で、彼らとは一味違う「21世紀のディスコ音楽」を提示してくれた傑作。ディスコ音楽やクラブ・ミュージックが好きな人なら、思わずニヤリとしてしまう演出が盛り沢山の面白いアルバムだ。一つでも気になる曲があったら、ほかの作品も手に取ってほしい。そのクオリティの高さに驚くと思う。

Producer
Yuki T-Groove Takahashi & Two Jazz Project

Track List
1. Night Flight feat. Enois Scroggins & Marie Meney & Didier La Regie
2. Space Machine feat. Marie Meney & Didier La Regie
3. Passion feat. Marie Meney & Didier La Regie
4. Cosmos 78
5. You Are My Universe feat. Marie Meney & Didier La Regie




COSMOS 78
LAD Publishing & Records
2017-05-12

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