アウトキャストの2006年作『Idlewild』に客演したことで表舞台に登場。同グループのビッグ・ボーイの口添えで、ショーン・コムズの知己を得たことをきっかけに、彼が経営するバッド・ボーイと契約。2007年に配信限定のアルバム『Metropolis』でメジャー・デビューを果たした、カンザス州カンザスシティ出身のシンガー・ソングライター、ジャネール・モネイことジャネール・モネイ・ロビンソン。

同作に収録された”Many Moons”がグラミー賞にノミネートするなど、個性的な音楽性が評価された彼女は、2010年に初のフル・アルバム『The ArchAndroid』発表。その後は、コンスタントに新曲を発表しながら、エイミー・ワインハウスやメイヤー・ホーソンとツアーを行う一方、役者としても「ムーンライト」や「ドリーム」などのオスカー作品で、存在感を発揮してきた。

本作は、自身名義の作品としては2013年の『The Electric Lady』以来、実に5年ぶりとなる3枚目のスタジオ・アルバム。プロデュースは、彼女が率いる音楽レーベル、ワンダーランド・アーツ・ソサエティに所属するネイト・ワンダーやチャック・ライトニング、ナナ・クワベナなどが担当。その一方で、ゲスト・ミュージシャンには、「ドリーム」のサウンドトラックでコラボレーションしたことも記憶に新しいファレル・ウィリアムスや、ビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンなどが名を連ねるなど、自社のクリエイターと外部のアーティストを上手に使い分けた作品になっている。

アルバムの収録曲で一番最初に公開されたのは、クワベナとワンダーの共同プロデュース作品である”Django Jane”。音数を絞ったシンプルなトラックの上で、ラップと歌を織り交ぜたパフォーマンスを披露するミディアム・ナンバーだ。ラップと歌を組み合わせる手法と、一音一音を丁寧に聴かせるミディアム・テンポのビートは、パーティーネクストドアの作風にも少し似ている。

また、同日に発表された”Make Me Feel”は、テイラー・スウィフトやブリトニー・スピアーズの曲を書いたこともある、スウェーデンのプロダクション・チーム、マットマン&ロビンが制作したミディアム・ナンバー。軽やかなギターのカッティングを盛り込んだ伴奏は、ジェイムス・ブラウンが活躍していた時代のファンク・ミュージックを彷彿させるが、ビートなど含めたアレンジ全体に目を向けると、ブリトニーの新作に入っていても不思議ではない、ポピュラー・ミュージック作品に落とし込まれているから面白い。ヒップホップの枠組みに囚われない彼女の絶妙なバランス感覚と、それを引き出すプロダクション技術が光っている。

そして、本作のリリース直前に発売されたシングル曲”Pynk”は、ワンダーとロス・アンジェスを拠点に活動する気鋭のクリエイター、ワイン・ベネットをプロデューサーに起用したミディアム・ナンバー。フィンガー・スナップとシンセベースを組み合わせて、ドゥー・ワップの軽妙さとヒップホップの躍動感を一つの曲に同居させた演出が面白い。他の曲ではあまり見られない繊細なヴォーカルや、サビの箇所で挿入されるハードなギターの音色など、色々な演出を盛り込んで、楽曲に起伏をつけつつ、ひとつのストーリーを持った作品に落とし込むアレンジ聴きどころだ。

それ以外の曲では、”I Got The Juice”も見逃せない。映画「ドリーム」のサウンドトラックでもタッグを組んだ、ファレル・ウィリウアムスをフィーチャーしたこの曲は、ワンダーランド・アーツ・ソサエティ所属のクリエイターがトラックを制作。ファレルの作品ではあまり耳にしない音色を使いつつ、彼が作りそうなビートを組み立てるセンスが面白い。ファンクやロック、レゲトンやカリプソのエッセンスを盛り込みつつ、ヒップホップに落とし込むファレルの手法を自分の音楽の糧にした良曲だ。

今回のアルバムでも、彼女の音楽性は変わることなく、ロックやファンク、ポップスやエレクトロ・ミュージックの要素を飲み込んだ、独創的な音楽を披露している。そんな彼女の音楽の面白いところは、経営者としてのしたたかさとバランス感覚を、奇抜で先鋭的な音楽性と両立しているところだ。楽曲制作は彼女を中心に、自身が率いるワンダーランド所属のクリエイターで行いつつ、楽曲に彩を添えるフィーチャリング・アーティストには、ファレルやブライアンといった有名ミュージシャンを起用する。この、自身の音楽性と、商業的な成功の両方を大切にできる意志の強さと狡猾さが、彼女の魅力だと思う。

多くのミュージシャンが鎬を削り、生き馬の目を抜くような厳しい競争にさらされながらも、自分の強みを見失うことなく、したたかに世を渡る彼女の強さが発揮された良盤。華やかなスポット・ライトを浴びるポップ・スターであると同時に、自分や後進のために、新たな光を灯し続ける彼女の姿が印象的だ。

Producer
Janelle Monae, Nate “Rocket” Wonder, Chuck Lightning, Mattman & Robin etc

Track List
1. Dirty Computer feat. Brian Wilson
2. Crazy, Classic, Life
3. Take A Byte
4. Jane's Dream
5. Screwed feat. Zoë Kravitz
6. Django Jane
7. Pynk feat. Grimes
8. Make Me Feel
9. I Got The Juice feat. Pharrell Williams
10. I Like That
11. Don't Judge Me
12. Stevie's Dream
13. So Afraid
14. Americans





DIRTY COMPUTER
JANELLE MONAE
ATLAN
2018-04-27