melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

OVO

Roy Woods – Say Less [2017 OVO Sound, Warner]

レーベルのボス、ドレイクを筆頭に、2017年も多くのヒット作を発表してきた、カナダのOVOサウンド。同レーベルが、2017年も暮れに差し迫った12月に送り出したのが、気鋭の若手シンガー、ロイ・ウッズことデンゼル・スペンサーの、初のスタジオ・アルバムだ。

2014年、19歳の時にレーベルと契約を結んだ彼は、2017年までに2枚のEPと1本のミックステープ、複数のシングルをリリース。配信限定の作品ながら、ビルボードのR&Bチャートに入るなど、才能溢れる若手の一人として注目を集めた。

本作は2016年のEP『Nocturnal』以来、約1年半ぶりの新作となる、16曲入りのスタジオ・アルバム。彼にとって、初のフィジカル・リリースとなる作品で、制作にはナインティーン85やマーダ・ビーツといった、過去作にも携わっているプロデューサーのほか、パリを拠点に活動するStwoや、アトランタ出身のFKi 1stといった、外国のクリエイターも参加。それ以外にも、ゲスト・ミュージシャンとしてレーベル・メイトのパーティネクストドアDvsnなどが名を連ねるなど、期待の若手のアルバムにふさわしい、豪華な陣容になっている。

アルバムの1曲目は、前作にも携わっているトロント出身のプロデューサー、プレジデント・ジェフが手掛けた”Medusa”。重いビートと、ふわふわとしたシンセサイザーの伴奏を組み合わせたトラックは、パーティネクストドアの作品によく似ている。また、滑らかなテナーを引き立たせる繊細なメロディは、”Starboy”などのヒットで世界を席巻したウィークエンドを思い起こさせる。カナダから世界に羽ばたいた先達の手法を取り入れつつ、彼らの美味しいところを凝縮した、魅力的なミディアム・ナンバーだ。

また、彼と同年代のカナダ人プロデューサー、ルカ・ポリッジと共作した”Say Less”は、幻想的なシンセサイザーの音色が心地よい、ミディアム・テンポのバラード。しなやかな声で語り掛けるように歌うヴォーカルはラップのような歌唱スタイルのドレイクやパーティネクストドアにも通じるものがあるが、彼の曲はよりメロディを強調している。若き日のテヴィン・キャンベルを彷彿させる甘酸っぱいメロディをベースに、ヒップホップのエッセンスを盛り込んだ、21世紀版”Can We Talk”といった趣の佳曲だ。

そして、FKi 1stが制作に参加した”Monday to Monday”は、躍動感のあるビートと甘いメロディのコンビネーションが光るミディアム・ナンバー。オルガンっぽい音色のキーボードの伴奏と、歌とラップを織り交ぜてリハリをつけた構成が光る、ロマンティックな雰囲気の楽曲。電子楽器を駆使したトラックと、歌とラップを織り交ぜたスタイルは、ドレイクやパーティネクストドアの作品でも多用されているものだ。だが、彼の曲はアトランタ出身のプロデューサーと組むことで、トラップやクランクの要素を盛り込み、クリス・ブラウンアッシャーを彷彿させるアメリカ南部のテイストが強い作品に仕上げている。

だが、本作の目玉はなんといっても、本作に先駆けて公開された”What Are You On?”だろう。音楽の分野では有名なフランス人プロデューサー、Stwoと組んだこの曲は、ダンスホールレゲエやレゲトンを彷彿させる、軽妙で色鮮やかなビートが印象的。繊細な歌声を使った、しなやかなヴォーカルは、ケヴィン・リトルやウェイン・ワンダーにも少し似ているが、彼の歌の方がより爽やかな印象を受ける。

今回のアルバムは、これまでの作品で培ったノウハウをベースに、それを発展させたものだ。シンセサイザーを多用したスタイリッシュなトラックと、繊細な歌声を活かしつつ、ラップの要素を取り込んだメロディでメリハリをつけたスタイルは、今作でも変わらない。しかし、アトランタのクリエイターを起用してアメリカの音を取り込むなど、従来の路線を踏襲しつつ、それを拡張したような音楽に取り組むことで、1時間に及ぶ大作をマンネリに感じさせないよう工夫している。この、個別の楽曲とアルバム全体のクオリティを同時に考える視野の広さと制作能力が、若手とは思えないハイ・レベルな作品を生み出していると思う。

2018年以降のR&Bシーンの台風の目になるだろう、才能あふれる若手による充実した内容の作品。21歳でこのアルバムを作ってしまった彼は、今後はどんな作品を残すのだろうか、今から期待と不安で胸が膨らむ逸材だ。

Producer
Dzeko, FKi 1st, FrancisGotHeat, Murda Beatz, Nineteen85 etc

Track List
1. Medusa
2. Little Bit of Lovin
3. Say Less
4. Take Time feat. 24hrs
5. Something New
6. Top Left
7. BB
8. Back It Up feat. PartyNextDoor
9. Glasses
10. The Way You Sex
11. Monday to Monday
12. What Are You On?
13. Balance feat. Dvsn and PnB Rock
14. In the Club
15. B-Town
16. Undivided





Say Less [Explicit]
OVO Sound/Warner Bros.
2017-12-01

Majid Jordan - The Space Between [2017 OVO Sound, Warner]

2013年に、ドレイクが経営するOVOサウンドと契約。同社に所属する初の音楽ユニットになったマジッド・ジョーダン。

トロント大学の学生だったジョーダン・ウルマンとマジッド・アリ・マスカティが2011年に結成したこのグループは、最初ころは自宅で楽曲を制作し、インターネットの音楽配信サービスに公開することで名を上げてきた。

楽曲が評価され、OVOと契約した彼らは、2013年にドレイクのシングル”Hold On, We're Going Home”のソングライター兼ゲスト・ヴォーカルでレコード・デビュー。全米総合シングル・チャートの4位という華々しいデビューを飾ると、翌年には自身名義の”A Place Like This”を皮切りに、複数のシングルを発売。2016年には初のフル・アルバムとなる『Majid Jordan』をリリースしている。

このアルバムは、前作の発売から僅か1年半という短い間隔でリリースされた通算2枚目のフル・アルバム。マジッド・ジョーダン名義でプロデュースした作品が大半を占めていた前作に対し、本作ではほとんどの曲がジョーダン一人のプロデュースによるもの。それに加え、前作にも参加している40やナインティーン85などの、OVOに所属するプロデューサーが顔をそろえ、彼の持ち味であるスタイリッシュなR&Bの良さを引き立てている。

アルバムの目玉は、なんといってもスターゲイトが制作に参加した”Body Talk”だろう。ニーヨやリアーナの楽曲を手掛け、昨年はディズニー映画の主題歌でもペンを執るなど、多芸っぷりを発揮しているスターゲイトの才能が加わったこの曲は、レゲトンの要素を盛り込んだビートと、しなやかなメロディが印象的なダンス・ナンバー。洗練された歌唱が魅力の彼と、スターゲイトが得意とする流麗なメロディの相性は抜群だ。陽気で華やかなレゲトンを、洗練されたメロディのR&Bと一体化するセンスも素晴らしい。

また、同じレーベルに所属するパーティーネクストドアをフィーチャーした”One I Want”は、OVOらしいシンセサイザーを多用したトラックと、歌とラップを織り交ぜた歌唱が光るミディアム・ナンバー。彼らが得意とするスタイルをベースにしながら、聴き手に新鮮な印象を与えるアレンジが魅力の好曲だ。

それ以外の曲では、ドレイクからリンキン・パークまで、様々なジャンルのアーティストの作品に関わってきたイルセイ・ジューバーがソングライティングで参加した”Phases”が面白い。しっとりとした雰囲気のバラードから、80年代のディスコ・ミュージックを思い起こさせるモダンなダンス・ナンバーへと繋がっていく展開が面白い佳曲だ。80年代のダンス・ミュージックの極端に洗練されたサウンドを、現代のポップスに落とし込むスキルが素晴らしい。

そして、先日、2枚目のフル・アルバム『Morning After』をリリースしたレーベル・メイトの音楽ユニットdvsnとコラボレーションした“My Imagination”は、dvsnが制作に参加したアップ・ナンバー。シンセサイザーの音を重ね合わせたスタイリッシュなサウンドをバックに、みずみずしい歌声を響かせる姿が印象的な楽曲だ。甘酸っぱい歌声を引き立てる爽やかなメロディーが心地よい曲だ。

彼らの面白いところは、アッシャーやオマリオン、ジャスティン・ビーバーといった、人気シンガーにも通じる、甘く爽やかなヴォーカルを備えながら、その声を使って本格的なR&Bに取り組んでいるところだろう。ポップ・スターになりうるポテンシャルを持った声を用いて、繊細な表現が求められるシンプルで洗練されたR&Bを作ったことで、若い世代には親しみやすく、大人には若々しさと落ち着いた雰囲気に落とし込んでいる点は見逃せないと思う。

親しみやすいけど上品、新鮮だけど飽きの来ない魅力的な作品だ。

Producer
40, Jordan Ullman, Majid Jordan, Nineteen85, Stargate

Track List
1. Intro
2. Gave Your Love Away
3. OG Heartthrob
4. Body Talk
5. Not Ashamed
6. One I Want feat. PartyNextDoor
7. You
8. Phases
9. Asleep
10. What You Do to Me
11. My Imagination feat. Dvsn
12. The Space Between
13. Outro





Majid Jordan
Warner Bros / Wea
2017-12-15

dvsn - Morning After [2017 OVO Sound Warner Bros.]

2006年にドレイクが設立。当初は彼のミックス・テープを配給するためのレーベルだったが、2012年以降は、ワーナー・ミュージックと契約した彼が率いるレーベルとして多くの人気ミュージシャンやクリエイターを輩出しているOVOサウンド。当初はボイ・ワン・ダやT-マイナスといった、プロデューサーが主力だったが、2013年のパーティーネクストドアやマジッド・ジョーダンを皮切りに、シンガー・ソングライターや音楽ユニットとも契約するようになる。特に、パーティーネクストドアは2枚のアルバムを全米R&Bチャートの1位に送りこむなど、レーベル内でもドレイクに次ぐ華々しい成果を上げてきた。

dvsnはシンガー・ソングライターのダニエル・ディレイと音楽プロデューサーのナインティーン85によるユニット。2015年に同レーベルと契約すると、翌年に発表した1枚目のフル・アルバム『Sept. 5th』がR&Bチャートの17位となるスマッシュ・ヒット。マックスウェルを彷彿させる、ダニエルの繊細でしなやかなヴォーカルと、ナインティーン85が作り出す洗練されたトラックが話題になった。

このアルバムは、前作から約1年ぶりとなる2枚目のフル・アルバム。制作には2人に加えレーベル・メイトの40や、ドレイクの作品にも数多く携わっているマニーシュ、オランダの人気ソングライター、ロビン・ハンニバル等が参加。前作の手法を踏襲しつつ、それを拡大したスタイリッシュなR&Bを聴かせている。

アルバムに先駆けてリリースされたシングル曲”Think About Me”は、制作を2人、プロデュースをナインティーン85が担当したバラード。重い音を使ったビートを軸にしたトラックと、みずみずしいヴォーカルのコンビネーションが魅力のバラード。浮遊感が心地よい上物が彼の色っぽい歌声を引き立てている。

これに続く”Don't Choose”はパーティーネクストドアがソングライティングに参加したスロー・ナンバー。彼の作品を連想させる、チキチキという音を使ったヒップホップ寄りのビートの上で、語り掛けるように歌う姿が印象的な曲。流れるようなメロディでありながら、ラップのように多くの言葉を盛り込むパーティーネクストドアのスタイルと、ナインティーン85が手掛けるシンプルなトラックの組み合わせが新鮮だ。コーラスとして組み込んだ、アイザック・ヘイズの歌声がアクセントになっている。

また、マニーシュが制作に携わった”Mood”は、ファルセットを多用した美しいメロディとピアノやギターの音色を巧みに取り入れたトラックづくりのセンスが光るスロー・ナンバー。高音を多用したスタイルはマックスウェルの”Fortunate”や”I Wanna Know”などを思い起こさせる。電子楽器を中心に使いつつ、アコースティック楽器のような音色を盛り込んで70年代のソウル・ミュージックのように聴かせる手法は面白い。

だが、本作の目玉は、二人で制作したスロー・ナンバー”P.O.V.”だろう。R.ケリーがペンを執ったマックスウェルのバラード”Fortunate”をサンプリングしたこの曲は、90年代のR&Bを思い起こさせる温かい音色のトラックと、ダニエルの繊細な歌声の組み合わせが気持ち良い作品。楽曲の冒頭で使われているマックスウェルの歌声が、ダニエルのきめ細かで滑らかな歌声を際立たせている。

彼の音楽は、レーベル・メイトのR&Bミュージシャンであるマジッド・ジョーダンやロイ・ウッズ、プラザと比べると、繊細な歌声の魅力を引き立たせる、流麗なメロディをじっくりと聴かせる作風が特徴的だ。シンプルなトラックとしなやかなメロディという、90年代から現代にかけて、色々なミュージシャンが挑戦し、ヒット曲を残してきたR&Bの王道ともいえるスタイルを取り入れながら、新しい音楽のように聴かせているのは、音の配置や響きにも配慮した彼らの高いスキルによるものが大きいと思う。

新しい音を取り入れているにもかかわらず、どこか懐かしい雰囲気を感じる佳作。90年代にR&Bを聴いていた人にお勧めしたい本格的なR&Bグループだ。

Producer
Nineteen85, 40, Alpha, Maneesh, Noël, Robin, Hannibal

Track List
1. Run Away
2. Nuh Time / Tek Time
3. Keep Calm
4. Think About Me
5. Don't Choose
6. Mood
7. P.O.V.
8. You Do
9. Morning After
10. Can't Wait
11. Claim
12. Body Smile
13. Conversations in a Diner






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