melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

Polydor

Stefflon Don - Hurtin' Me The EP [2018 Polydor]

女性ラッパーとしては19年ぶりとなる、全米総合シングル・チャート1位を獲得したカーディBを筆頭に、多くのヒット曲を残しているニッキー・ミナージュやラプソディなど、個性豊かな女性アーティストが活躍する現代のヒップホップ・シーン。アメリカ国外に目を向けると、オーストラリアのイギー・アゼリアや、日本のCOMA-CHI、ちゃんみな、韓国のCLなど、世界各地で多くの女性ミュージシャンが活躍している。

ステフロン・ドンことステファニー・ヴィクイトリア・アレンは、現在のイギリスの音楽シーンで、最も勢いのある女性ヒップホップ・アーティスト。バーミンガム生まれのジャマイカ系イギリス人である彼女は、4歳から14歳にかけてオランダで過ごし、その後、英国のハイスクールに進学。卒業後は、菓子職人や美容師の職に就くが、紆余曲折を経て音楽の道に進んだ異色のミュージシャンだ。

彼女が表舞台で注目されるきっかけになったのは、アメリカのR&Bシンガー、ジェレミーが2016年に発表した”London”。同曲で披露した、20代半ばとは思えない色気と、鋭い切れ味を兼ね備えたラップが高い評価を受けた彼女は、翌年にはイギリスのDJ、ジャックス・ジョーンズのシングル”Instruction”に参加。EDMにラテン音楽やレゲエ、ヒップホップを混ぜ合わせた個性的なビートをしっかりと乗りこなして、英国レコード協会のゴールド・ディスク認定を受けるヒット作に導いた。

本作は、彼女にとって初のアルバムとなる4曲入りのEP。既にシングルでリリースされた3曲に加え、本作がお披露目となるリミックス曲を収録したもので、2016年以降に彼女が発表した楽曲を、1枚で楽しめるものになっている。

1曲目は、本作が初出となる”Hurtin' Me (Remix)”。2017年に発表し、40万ユニットを売り上げた楽曲に、ジャマイカを代表する人気DJのショーンポール、シズラ、ポップコーンのヴァースを追加した作品。上物を強調するなど、トラックにも手を加えているが、ダンス・ホール・レゲエをベースにした原曲のビートを活かしたリミックスに仕上がっている。ジャマイカ本国だけでなく、海外のポップス市場でも評価の高いゲスト達を起用することで、彼女のウリであるヒップホップのテイストを残しつつ、楽曲にジャマイカの空気を吹き込んでいる。

続く”Hurtin' Me”は、モロッコ系アメリカン人のフレンチ・モンタナをフィーチャーした同曲のオリジナル・バージョン。上物の音数は少なめで、ロマンティックでしっとりとした雰囲気に纏め上げている。海外のアーティストとも積極的にコラボレーションしているフレンチだけあって、この曲でも彼女とスムーズなマイク・リレーを披露している。中東やアメリカの音楽のエッセンスを盛り込みつつ、レゲエやガラージの影響を強く受けた、イギリスのヒップホップにきちんと落とし込んでいる面白い曲だ。

また、イギリスのグライム・アーティスト、スケプタを招いた”Ding-A-Ling”は、シンセサイザーを多用した泥臭いビートが印象的な作品。ワイリーなどの作品を手掛けている、ライムズがプロデュースしたトラックは、低音を強調したビートと、チキチキという上物を組み合わせたトラップに近いもの。アメリカ南部で流行しているスタイルを取り入れつつ、レゲエやグライムの要素を混ぜ込むことで差別化した発想が光っている。

そして、本作の収録曲では唯一の単独名義作品である”16 Shots”は、チャーリーXCXなどの作品に携わっているフレッド・ギブソンが制作を担当。レゲトンのビートを使いつつ、分厚い音の塊をその上に被せるトラックが新鮮なミディアム・ナンバー。ラップの大半は男性顔負けのハードなものだが、随所で繊細な一面を見せるステフロンのパフォーマンスが聴きどころだ。

ひとくちに女性ラッパーと言っても、歌とラップを使い分けるミッシー・エリオットや。女性ならではの切り口をウリにするニッキー・ミナージュやローリン・ヒルなど、色々なタイプのアーティストがいるが、彼女の面白いところは、一つのスタイルに固執せず、柔軟に切り替えることのできる点だろう 。”Hurtin' Me”で披露するセクシーな表情から、”Ding-A-Ling”で見せる可愛らしい一面、”16 Shots”で聴かせるハードなラップまで、剛柔入り混じったパフォーマンスを、トラックにあわせて器用に使い分けるスキルが、彼女の強みだろう。

レゲエやエレクトロ・ミュージックなど、色々なジャンルの音楽を飲み込みながら、独自の発展を遂げたイギリスのヒップホップ。同国の個性豊かなサウンドを乗りこなし、新鮮な作品に落とし込む彼女は、今後のイギリスのヒップホップ・シーンの台風の目になりそうだ。

Producer
Rodney Kumbirayi, Hwingwiri, Rymez, Fred Gibson

Track List
1. Hurtin' Me (Remix) feat. Sean Paul, Popcaan, Sizzla
2. Hurtin' Me feat. French Montana
3. Ding-A-Ling feat. Skepta
4. 16 Shots









Hurtin' Me
Universal Music LLC
2017-08-11







Lana Del Rey - Lust For Life [2017 Interscope, Polydor]

2008年にリジー・グラント名義のEP『Kill Kill』で鮮烈なレコード・デビューをした、ニューヨーク出身のシンガー・ソングライター、ラナ・デル・レイこと、エリザベス・ウールリッジ・グラント。

2012年にインタースコープと契約を結び、アルバム『Born To Die』を発表すると、全米アルバム・チャートで1位を獲得。全世界で700万枚を売り上げる大ヒット作となる。その後も2014年に『Ultraviolence』を、2015年には『Honeymoon』をリリース、両作品とも各国のヒット・チャートで上位に食い込み、ゴールド・ディスクを獲得するなど、華々しい成果を上げている。

また、2012年にはボビー・ウーマックの遺作となったアルバム『The Bravest Man in the Universe』に収録されている”Don't Let Me Be Misunderstood”に客演。2015年にはウィークエンドのアルバム『Beauty Behind the Madness』からシングル・カットされた”Prisoner”に参加、翌年にはアルバム『Starboy』からのシングル曲”Party Monster”にソングライターとして関わるなど、R&Bファンの間でも知名度を高めていった。

このアルバムは、彼女にとって2年ぶり4枚目のフル・アルバム。これまでの作品では、ポップス畑のクリエイターと一緒に作ることが多かった彼女だが、本作ではボーイ・ワン・ダやメトロ・ブーミンといったヒップホップやR&Bで実績のあるプロデューサーを多数起用。ゲスト・ミュージシャンにもウィークエンドやエイサップ・ロッキーなど、ヒップホップやR&Bが好きな人にはおなじみのアーティストが集まるなど、ブラック・ミュージックを積極的に取り入れた音楽に取り組んでいる。

本作の2曲目、ウィークエンドをフィーチャーした”Lust for Life”は、ブリトニー・スピアーズからウィークエンドまで、幅広いジャンルのミュージシャンと仕事をしてきたスウェーデン出身の名プロデューサー、マックス・マーティンが参加したミディアム・ナンバー。電子楽器を多用した幻想的なサウンドをバックに、繊細な歌声をじっくりと聴かせている。電子音を多用した伴奏と、高音を聴かせることに重きを置いたメロディ、ガラス細工のように繊細で透明な歌声活かしたヴォーカルの組み合わせはウィークエンドの”Starboy”を思い起こさせる。

これに対し、エイサップ・ロッキーとプレイボーイ・カルティの二人が参加し、ボーイ・ワン・ダがプロデュースを担当した”Summer Bummer”はピアノをバックに訥々と歌うという意外な幕開けが面白い曲。ここからパーティネクストドアドレイクを彷彿させる、シンセサイザーを多用したダークな雰囲気のヒップホップのトラックにつなぐ手法が新鮮だ。ゆったりとしたテンポのビートの上で、リズミカルに言葉を繋ぐ二人のラッパーと、あくまでも淡々と歌うラナ・デル・レイの対照的なパフォーマンスが光っている。

一方、エイサップ・ロッキーを招いたもう一つの楽曲” Groupie Love”はリック・ノウェルズら、ポップス畑のクリエイターが制作に携わっている楽曲。シンセサイザーの音色を重ね、ストリングスのように聴かせる伴奏に乗って、語り掛けるように歌う姿が印象的な曲。スロー・テンポのバラードに、あえてラップを組み込んで起伏をつけるセンスと、ポップスのバラードに溶け込むよう、抑揚を抑えたラップを披露するエイサップ・ロッキーの技術が聴きどころ。

そして、メトロ・ブーミンがプロデューサーに名を連ねる”God Bless America: And All the Beautiful Women in It”は、ヒップホップのビートを取り入れたミディアム・ナンバー。DJプレミアやピート・ロックが作っていたような、緻密でリズミカルなトラックを採用しつつ、じっくりとメロディを歌う姿が魅力的。パワフルなヴォーカルをウリにするソウル・ミュージックとは一味違うポップスのバラードだが、荘厳なメロディに軽妙な印象を持たせるアレンジが魅力の曲だ。

今回のアルバムでは、ヒップホップやR&Bのミュージシャンを起用して、新しいスタイルに挑戦しつつ、これまでの作品に慣れ親しんできたファンの期待を裏切らない絶妙なバランスの楽曲が目立っている。ウィークエンドやフランク・オーシャンなど、ヒップホップやR&Bとロックやポップスの要素を融合したスタイルのミュージシャンが流行る中で、彼らの手法をポップスの側から取り入れたように映る。

R&Bやソウル・ミュージックではないが、アメリカの音楽に黒人音楽が深く根差していることを感じさせる佳作。好き嫌いは別として、「時代の音」として触れてほしい。

Producer
Lana Del Rey, Rick Nowels, Benny Blanco, Boi-1da Emile Haynie etc

Track List
1. Love
2. Lust for Life feat. The Weeknd
3. 13 Beaches
4. Cherry
5. White Mustang
6. Summer Bummer feat. ASAP Rocky, Playboi Carti
7. Groupie Love feat. ASAP Rocky
8. In My Feelings
9. Coachella: Woodstock in My Mind
10. God Bless America: And All the Beautiful Women in It
11. When the World Was at War We Kept Dancing
12. Beautiful People Beautiful Problems feat. Stevie Nicks
13. Tomorrow Never Came feat. Sean Ono Lennon
14. Heroin
15. Change
16. Get Free





Lust For Life
Lana Del Rey
Interscope
2017-07-21

Mura Masa ‎– Mura Masa [2017 Anchor Point, Interscope, Universal Music, Polydor UK]

ギターやベース、ドラムやヴォーカルまで何でもこなし、パンクからゴスペルまで、色々な音楽に取り組んできた、イギリスのガーンジー島出身のDJでプロデューサー、ムラ・マサことアレックス・クロッサン。彼にとって待望のフル・アルバムが本作だ。

ハドソン・モーホークの作品を聴いてエレクトロ・ミュージックに開眼。動画投稿サイトなどを通して、ジェイムス・ブレイクやSBTRKT、ゴリラズなどの音楽を研究した彼は、自身もエレクトロ・ミュージックを作るようになる。そして、2014年に初の作品”Lotus Eater”を音楽配信サイトに投稿すると、ラジオ番組に取り上げられるなど話題を呼ぶ。その後、大学進学のため、サセックス州ブライトンに移り住むと、ステージにも立つようになり、現地ではレコード・デビュー前ながらチケットが完売するほどの人気だった。

そんな実績が買われ、ドイツのジャカルタ・レコードと契約した彼は、2015年に初のEP『Someday Somewhere』を発表。BBCのプレイリストに入るなど、高い評価を受ける、そして、自身のレーベル、アンカー・ポイントを立ち上げた彼は、ポリドールインタースコープとも配給契約を結ぶ。また、2016年にはエイサップ・ロッキーとのコラボレーション曲”Love$ick”を発表。2017年には、イギリスのラッパー・ストームジーの”First Things First”をプロデュース。同じ年には、イギリスの女性シンガー、ナオのリミックス・アルバム『For All We Know - The Remixes』で”In the Morning”を担当して話題になった。

本作は、彼にとって初のフル・アルバム。アサップ・ロッキーやナオのほか、ブラーやゴリラズでおなじみのデーモン・アルバーンも参加するなど、気鋭の新人のメジャー・デビュー作にふさわしい、豪華な顔ぶれが集結している。

アルバムに先駆けて発表された”Love$ick”は、エイサップ・ロッキーをフィーチャーしたヒップホップ色の強い曲。スティール・パンやトイ・ピアノの音色を使った色鮮やかなトラックと、荒々しいラップの組み合わせが面白い曲。電子音楽を中心に、色々な音楽への造詣が深いムラ・マサの柔軟な発想が光っている。

続く”1 Night”は、イギリス出身の女性シンガー、チャーリーXCXとコラボレーションした、前曲同様、カラフルなトラックが魅力のアップ・ナンバー。”Love$ick”はヒップホップのビートを取り入れていたが、こちらの曲はカリプソやレゲトンの要素を盛り込んだポップで軽妙なサウンドが印象的。チャーリーXCXの爽やかで甘酸っぱいヴォーカルと、陽気なトラックの相性も素晴らしい。

また、アイルランド出身、ロンドン在住の女性クリエイター、ボンザイを起用した楽曲。感情をむき出しにしたワイルドなヴォーカルと、精密なリズムを刻む電子音楽の対称的な音のコンビネーションが光る佳曲。エレクトロ・ミュージックでありながら、どこか生演奏のような雰囲気を感じさせるアレンジが格好良い。

そして、本作の収録曲では最も早く公開された”Firefly”はナオがゲストで参加。妖精のような可愛らしい歌声で、軽快な電子音の上を舞うように歌う姿が魅力的。彼女のアルバムでも感じたことだが、ナオの歌声はポップなトラックと組み合わせると最も輝くと思う。

今回のアルバムでは、既に公開されてる作品同様、R&Bやカリプソなど、色々な音楽の要素を取り入れつつ、音色を選別に工夫を凝らすことで、一貫性のある独自の音楽を構築している。このような作品を生み出す、音楽に対する造詣の深さと、鋭い聴覚が彼の持ち味なのだと思う。

弱冠21歳(本作の発表時点)でこのクオリティ。今後、どんな進化を遂げてくれるのか楽しみな、期待の若手による傑作だ。

Producer
Mura Masa

Track List
01. Messy Love
02. Nuggets feat. Bonzai
03. Love$ick feat. A$AP Rocky
04. 1 Night feat. Charli XCX
05. All Around The World feat. Desiigner
06. give me The ground
07. What If I Go feat. Bonzai
08. Firefly feat. Nao
09. NOTHING ELSE! feat. Jamie Lidell
10. helpline feat. Tom Tripp
11. Second 2 None feat. Christine & The Queens
12. Who Is It Gonna B feat. A. K. Paul
13. Blu feat. Damon Albarn





Mura Masa
Mura Masa
Imports
2017-07-14

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