melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

RCA

Childish Gambino - This Is America [2018 RCA]

2016年に発表したアルバム『Awaken, My Love!』が、アメリカ国内だけで50万枚を売り上げ、グラミー賞の最優秀アルバム部門にノミネートするなど、ミュージシャンとしても大きな成功を収めた、チャイルディッシュ・ガンビーノこと、ドナルド・グローヴァー。

その一方で、俳優としても、コメディ・ドラマ「アトランタ」で高い評価を受け、スター・ウォーズのスピンオフ作品や、実写版「ライオン・キング」に出演するなど、着実に実績を残していった。

この曲は、『Awaken, My Love!』以来となる新作。チャイルディッシュ・ガンビーノとしては最後のアルバムになると発表している、次回作に先駆けて公開された楽曲だが、同じ時期に「同作には収録されない」というコメントが出るなど、様々な情報が錯綜している。

今回のシングルは、これまでも彼の音楽を一緒に作ってきた、ルドヴィグ・ゴランソンとグローヴァーの共同制作、共同プロデュース作品。電子音の冷たく、刺々しい音色を使ったビートは、現在流行しているヒップホップやトラップのものだが、低音を抑え気味にして、パーカッションなどの音を強調することで、フェラ・クティや彼の息子、ショーン・クティが得意とするアフロ・ビートっぽく仕立てている点が面白い。曲の途中で、リズムを細かく変える演出を盛り込むことで、ヒップホップやエレクトロ・ミュージックの象徴である「中毒性のあるループ」と、アフリカ音楽やアメリカのブルースを含む、世界各地の土着の音楽が持つ「変幻自在のアレンジ」を同居させている点も見逃せない。

また、この上に乗るヴォーカルは、ラップやブルース、フォーク・ソングなど、様々な音楽の手法を用いて、「現代のアメリカ」を描写したもの。社会問題に切り込む作品自体は無数にあるが、この曲では、抽象的で比喩的な表現を採り入れることで、政治的な作品に芸術性と娯楽性を付け加えている。

この曲の魅力は、歌、トラック、振付、映像表現など、あらゆる手段を用いて「アメリカ社会」に切り込みつつ、きちんとエンターテイメント作品に落とし込んでいるところだろう。歌やトラック以外に目を向けると、本作のミュージック・ビデオでは、ミンストレル・ショウやアフロ・ビートの表現や、現代舞踏の手法を織り交ぜたパフォーマンスを披露する一方、映像そのものも、カメラワークから小物まで、細部にも気を配った作品になっている。おそらく、コメディから先鋭的な音楽まで、あらゆる表現の世界を経験してきた彼の感性によるものが大きいだろう。

コメディアン、俳優、ミュージシャンと、多彩な顔を持ちながら、全ての分野で高い成果を上げてきたドナルドの豊かな才能が凝縮された珠玉の一品。インターネットによって、映像作品を気軽に楽しめるようになった現代ならではの傑作だ。

Producer
Donald Glover Ludwig Göransson

Track List
1. This Is America



Tinashe - Joyride [2018 RCA]

2000年頃から役者として活動。2007年にはヴァイタミンCがプロデュースし、ヘイリー・キヨコやアリー・ゴニーノが在籍していた、5人組のガールズ・グループ、ザ・スタナーズに参加。コロンビアからEPをリリースしている、ケンタッキー州レキシントン生まれ、カリフォルニア州ラ・クレセンタ・モントローズ育ちのシンガー・ソングライター、ティナーシェことティナーシェ・ジョーゲンセン・カシンウェ。

2011年にソロ歌手に転身した彼女は、リル・ウェインなどのカヴァー動画をインターネット上に公開する一方で、自主制作のミックス・テープも発表。これらの作品が注目を集めた彼女は、2014年にRCAから初のスタジオ・アルバム『Aquarius』を発売。アメリカ国内だけで70000枚を売り上げた。その後も、ニッキー・ミナージュやケイティー・ペリー、マルーン5などのツアーに帯同しながら、2016年には2作目のスタジオ・アルバム『Nightride』を発表。精力的に活動してきた。

本作は、彼女にとって2年ぶり3枚目、CD盤が正式に発売された作品としては『Aquarius』以来、4年ぶり2枚目となるアルバム。プロデューサーにはスターゲイトやヒット-ボーイといった、個性豊かなヒット・メイカーが集結。その一方で、ソングライティングは彼女自身が主導するなど、久しぶりのフィジカル・リリースに向けた、彼女の意気込みを感じさせる作品になっている。

本作のリード・シングルは、ミーゴスのオフセットをフィーチャーした”No Drama”。プロデューサーには、ニーヨの”So Sick”やサム・スミスの”Too Good at Goodbyes”など、多くのヒット曲を手掛けているスターゲイトを起用。美しいメロディを引き立てるシンプルなアレンジがウリの彼ららしい、洗練されたトラックと、彼女のみずみずしい歌声が心地よいミディアム・ナンバー。耳に刺さるような強烈な音色を使うことが多いトラップのビートを、スターゲイトらしい上品な音色で構築した発想が面白い。

また、タイ・ダラ・サインフレンチ・モンタナを招いた”Me So Bad”は、クリス・ブラウンジェレミーなどの作品に携わっているヒットメイクとドレ・ムーンが制作を担当したアップ・ナンバー。ジェイソン・デルーロの作品を彷彿させる色鮮やかな音色の伴奏と、レゲトンのビートが気持ちよい。歌とラップを両方こなせるタイ・ダラ・サインの器用なパフォーマンスと、フレンチ・モンタナの切れ味鋭いラップが楽曲にメリハリをつけている。

また、スウェーデンのエレクトロ・バンド、リトル・ドラゴンとコラボレーションした”Stuck With Me”は、フェリックス・スノウなどが手掛ける電子音を組み合わせたスタイリッシュなビートと、繊細な歌声を持ちながら、随所で武骨な表現を見せるユキミ・ナガノの歌声が心に残るミディアム。ティナーシェとは異なるタイプの歌手と組むことで、楽曲に起伏をつける手法が光っている。

そして、スターゲイトが手掛けるもう一つのシングル曲”Faded Love”は、アトランタ出身のラッパー、フューチャーが参加。トラップを取り入れた”No Drama”に対し、こちらの曲は”Me So Bad”に近い、ラテン音楽のエッセンスを盛り込んだ鮮やかなトラックが魅力的。フューチャーのドスの利いた声が、軽妙なビートを引き締めている。ティナーシェの声をサンプリングしたサビも凝っている。

彼女の音楽の面白いところは、ビヨンセやリアーナのようなメイン・ストリームのR&Bを意識しつつ、シドシーザの作品を彷彿させる、尖ったサウンドを積極的に取り入れている点だ。アリーヤのような繊細で透き通った歌声を活かすため、伴奏の音を厳選しつつ、その組み合わせで新鮮な音楽を作る戦術は、同じように繊細な声をウリにするシド達とよく似ている。しかし、ガールズ・グループや俳優の仕事も経験している彼女の音楽は、彼女達の音楽と比べるとキャッチーで親しみやすい。この、前衛的な音楽性と大衆性の絶妙なバランスが、彼女の音楽の面白いところだと思う。

キャッチーな作品の随所に、前衛的な演出を盛り込んだ曲作りが光るアルバム。パワフルな歌をウリにする歌手が多いなかで、細部にまで気を配った表現と、新しいサウンドを積極的に取り込む大胆さで勝負した珍しい作品だ。

Producer
Tinashe, Hitmake, Hit-Boy, Stargate, T-Minus, Hitmaka, Mario Luciano etc

Track List
1. Keep Your Eyes On The Road (Intro)
2. Joyride
3. No Drama feat. Offset
4. He Don't Want It
5. Ooh La La
6. Me So Bad feat. French Montana, Ty Dolla $ign
7. Ain't Good For Ya (Interlude)
8. Stuck With Me feat. Little Dragon
9. Go Easy On Me
10. Salt
11. Faded Love feat. Future
12. No Contest
13. Fires And Flames





JOYRIDE
TINASHE
EPIC
2018-04-13

Snoop Dogg - Bible Of Love [2018 RCA Inspiration]

92年にドクター・ドレの”Deep Cover”に客演する形で表舞台に登場。同年に発表された、”Nuthin' but a 'G' Thang”の冒頭で、多くのラッパーに引用されるフレーズを残し、名を上げたスヌープ・ドッグことカルバン・ブロータス。

93年に、ドレがプロデュースを担当した初のスタジオ・アルバム『Doggystyle』を発表。全世界で1000万枚を売り上げる大ヒット作になるが、同時期に殺人事件への関与が疑われたため、一時的に活動が停滞。また、ドレと所属レーベルのオーナー、シュグナイトとの軋轢もあり、2枚目のアルバム『Tha Doggfather』ではドレが制作から外れ、三年のブランクを挟んでのリリースとなる。

その後は、レーベルを移りながら、2017年までに15枚のスタジオ・アルバムと7枚のコラボレーション作品、3枚のEPと多くのミックス・テープを制作。2013年には、スヌープ・ライオンと改名してレゲエ・アルバム『Reincarnated 』を録音し、同じ年にはディム・ファンクと組んだ『7 Days of Funk』発表、2015年にはファレル・ウィリアムスが全面的にプロデュースした『Bush』を発売するなど、作品ごとに個性豊かなミュージシャンを起用し、リスナーの度肝を抜いてきた。

本作は、今年2月に発売されたEP『220』から僅か1か月、スタジオ・アルバムとしても2017年の『Neva Left』以来、約10か月ぶりとなる新作。アルバム毎に様々なコンセプトを提示してきた彼が、本作のテーマに選んだのはゴスペル(余談だが、彼は『Reincarnated 』を録音した時に、ラスタファリズムに改宗したはずだが、現在はどうなったのであろうか?)。ロニー・ベリアルなど、ヒップホップ畑のプロデューサーを多く招く一方、ゲストには、キム・バレルやメアリー・メアリーのような人気ゴスペル・ミュージシャンや、クラーク・シスターズやランス・アレンのようなゴスペル界の大御所、フェイス・エヴァンスやK-Ciのような有名R&Bシンガーまで、個性豊かな面々を招聘。ラッパーの視点を介した、ヒップホップに慣れ親しんだ若者にも楽しめる、キャッチーで格好良いゴスペル作品を残している。

30曲を超える収録曲のなかで、最初に目を惹いたのはフェイス・エヴァンスをフィーチャーした”Saved”。3rdジェネレーションと組ませ、力強いコール&レスポンスを披露した壮大なゴスペル・ナンバーだ。スヌープの声がほとんど入っていないので、どちらかといえばフェイスの新曲っぽい。ヒップホップの要素を織り込んだ曲が多い本作では珍しい、歌の力だけで勝負した良曲だ。

これに対し、『Hidden Figures』のサウンドトラックに収録されている”I See A Victory”でも美しい歌声を聴かせてくれたキム・バレルを起用した”Sunshine Feel Good”はロマンティックなメロディと滑らかな歌が心に残るミディアム。乾いた音色を使った軽快なビートは、ネプチューンズの作品っぽくも聴こえるが、プロデューサーはトネックスの名義で多くのヒット作を残している、西海岸出身のゴスペル・シンガー。B.スレイドだ。ジェイZの2017年作『4:44』でも、美しい歌声を聴かせてくれた彼女だけあって、ヒップホップとの相性は抜群だ。

また、近年はヒップホップやR&Bのミュージシャンとコラボレーションすることが多い、チャーリー・ウィルソンを招いた ”One More Day”は、キーボードの伴奏をバックに朗々と歌う姿が印象的なミディアム・バラード。色っぽい歌唱と、ダイナミックなパフォーマンスをを使い分ける技術が魅力のチャーリーだけあって、この曲でも豊かな表情を見せてくれる。

そして、アルバムの最後を締める ”Words Are Few”は、本作の収録曲を複数手掛けている、B.スレイドが参加した壮大なスロー・ナンバー。トネックス名義の作品でも聴かせてくれた、キャッチーでスタイリッシュなメロディやトラックと、大胆に強弱をつけたヴォーカル・アレンジで、親しみやすさと荘厳さを両立した曲作りは圧巻の一言、脇を固めるスヌープのラップが、曲に起伏をつける手法は、R&Bシンガーとの共演でも多用されているものだ。

このアルバムでスヌープが披露したのは、ヒップホップ・アーティストのフィルターを通した、現代のゴスペル音楽だ。ビートを含む伴奏やアレンジ、メロディでは若者に人気のヒップホップやR&Bの技法を盛り込みつつ、歌詞やヴォーカルでは王道のゴスペル・スタイルをきちんと聴かせる。この絶妙なさじ加減が、本作の醍醐味だと思う。

デビュー20年を超える大ベテランとなり、新しい音楽を開拓するだけでなく、既に存在する音楽の魅力を発掘して再評価する役割も求められれるようになった、スヌープ・ドッグの豊かな経験と高い制作技術が発揮された良作。多くのミュージシャンが自身の原点に掲げるゴスペルの魅力を、現代のヒップホップやR&Bに慣れ親しんだ若いリスナーに届けてくれる面白い作品だ。

Producer
Snoop Dogg, Lonny Bereal etc

Track List
Disc 1
1. Thank You Lord Intro feat. Chris Bolton
2. Love for God feat. Uncle Chucc, The Zion Messengers & K-Ci
3. Always Got Something to Say
4. Defeated feat. John P. Kee
5. In the Name of Jesus feat. October London
6. Going Home feat. Uncle Chucc & The Zion Messengers
7. Saved feat. Faith Evans & 3rd Generation(ereal Family)
8. Sunshine Feel Good feat. Kim Burrell
9. Sunrise feat. Sly Pyper
10. Pure Gold feat. The Clark Sisters
11. Pain feat. B Slade
12. New Wave feat. Mali Music
13. On Time feat. B Slade
14. You feat. Tye Tribbett
15. One More Day feat. Charlie Wilson
Disc 2
1. Bible of Love Interlude feat. Lonny Bereal
2. Come as You Are feat. Marvin Sapp & Mary Mary
3. Talk to God feat. Mali Music & Kim Burrell
4. Changed feat. Isaac Carree & Jazze Pha
5. Praise Him feat. Soopafly
6. Blessing Me Again feat. Rance Allen
7. Blessed & Highly Favored Remix feat. The Clark Sisters
8. Unbelievable feat. Ev3
9. No One Else feat. K-Ci
10. Chizzle feat. Sly Pyper & Daz Dillinger
11. My God feat. James Wright
12. When It's All Over feat. Patti LaBelle
13. Crown feat. Tyrell Urquhart, Jazze Pha & Issac Carree
14. Call Him feat. Fred Hammond
15. Change the World feat. John P. Kee
16. Voices of Praise
17. Words Are Few feat. B Slade








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