melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

Republic

The Weeknd - After Hours [2020 XO, Republic]

2010年代を代表するヒップホップ・アーティストのドレイクや、人気動画投稿者から世界的なポップ・スターに上り詰めたジャスティン・ビーバーなど、現代のポップス・シーンを牽引するカナダ出身のアーティスト達。彼らは、英語圏でありアメリカに近い土地でありながら、アメリカより安全で豊かな生活を送れるという地理的なメリットを活かし、豊かで多彩な音楽文化を育んできた。

ウィークエンドこと、エイベル・マッコネン・テスファイもそんなカナダ発の世界的なアーティストの一人。エチオピア系移民の両親を持つ彼は、ジャスティンやドレイクのように、インターネット上に公表した自作曲が注目を集め、メジャー・レーベルとの契約を獲得。2012年にユニヴァーサル傘下のリパブリックに設立した自身のレーベル、XOからデビュー・アルバム『Kiss Land』をリリースすると、シンセサイザーを駆使した抽象的なサウンドと、繊細なヴォーカルが高く評価され、アメリカとカナダでゴールド・ディスクを獲得するなど、華々しいデビューを飾った。

そんな彼が大きく飛躍するきっかけになったのは、2016年に発表した三枚目のアルバム『Starboy』と同作のタイトル・トラック。“Get Lucky”などのヒット曲で世界を席巻したフランスの音楽ユニット、ダフト・パンクとコラボレーションした同曲は、プリンスのような色気とマイケル・ジャクソンのポップ・センス、レディオヘッドを連想させる幻想的なサウンドで多くの人の心を掴んだ。

本作は、2018年のEP『My Dear Melancholy』から約2年の間隔でリリースされた、彼にとって通算4枚目のスタジオ・アルバム。多くのゲストを招いた『Starboy』から一転、気心の知れたプロデューサーを中心に、初期の作品のような音数を絞ったビートや、ウィークエンドの繊細なヴォーカルにスポットを当てた本編に、多くのゲストを招いたボーナス・トラックを追加したという、異色のアルバムになっている。

アルバムに先駆けて発表された”Heartless”はアトランタを拠点に活動するプロデューサー、メトロ・ブーミンと制作した楽曲。トラップが得意なメトロ・ブーミンらしい、変則的なビートと、教会音楽のように荘厳なシンセサイザーの伴奏が印象的。リル・ウジ・バートが参加したリミックス版では、ドラムのかわりに大地をうねるようなベース・ラインを強調したアレンジになっている。

これに対し、スウェーデンの作家、マックス・マーティンと共作した”Scared to Live”は、オルガンのような音色の伴奏が印象的なバラード。繊細な歌声が魅力の彼には珍しい、朗々と歌う姿が心に残るソウルフルな楽曲だ。ボーナス・トラックとして収められたライブ・ヴァージョンでは、バンドの演奏をバックにダイナミックなパフォーマンスを披露する姿が楽しめる。

また、マックス・マーティンがペンを執った“Blinding Lights”は、A-haの”Take On Me”を彷彿させる、疾走感のあるビートと、アナログ・シンセサイザーっぽい音色の伴奏が格好良いアップ・ナンバー。リミックス版は、アナログ・シンセサイザーの音色こそ使っているものの、ゆったりとしたテンポの伴奏と、じっくりと歌いこむウィークエンドのヴォーカルが光る切ない雰囲気のバラードに仕上がっている。

そして、本作のリリース直後にリカットされた”In Your Eyes”は、『Starboy』に収録されているダフト・パンクとのコラボレーション曲”I Feel It Coming”の路線を踏襲した楽曲。YMOやクラフトワークのような80年代の電子音楽を思い起こさせるモダンな音色のシンセサイザーを多用した伴奏をバックに切々と歌う彼の姿が魅力のミディアム・ナンバーだ。『Starboy』で彼のことを知ったファンなら、きっと気に入ると思う良曲だ。

今回のアルバムは、デビュー当初の先鋭的なサウンドに回帰しながらも、『Starboy』以降のテクノ・ポップやヒップホップを取り入れた路線の曲も収録することで、大衆性と独創性を両立したものだ。マックスウェルにも通じる繊細なファルセット・ヴォイスと、フライング・ロータスやサンダー・キャットにも見劣りしない尖ったサウンドを土台にしつつ、ポップな曲から先鋭的な曲まで、幅広い作品を並べている。この、豊かな想像力とヒットのツボを確実に突く鋭い嗅覚のバランスが、彼の音楽を魅力的なものにしているのだと思う。

プリンスの先鋭的なサウンドと、マイケル・ジャクソンの大衆性を、高いレベルで両立したアルバム。『Starboy』のキャッチーさと、初期作品の鋭いセンスを両立した、彼の新境地ともいえる作品だ。

Producer
The Weeknd, Kevin Parker, Max Martin, Metro Boomin, Ricky Reed etc

Track List(通常版のもの)
1. Alone Again
2. Too Late
3. Hardest To Love
4. Scared To Live
5. Snowchild
6. Escape From LA
7. Heartless
8. Faith
9. Blinding Lights
10. In Your Eyes
11. Save Your Tears
12. Repeat After Me (Interlude)
13. After Hours
14. Until I Bleed Out




After Hours
The Weeknd
Republic
2020-03-20

Drake ‎– Scorpion [2018 Young Money, Cash Money, Republic]

2016年のアルバム『Views』がアメリカ国内だけで160万枚を売り上げ、グラミー賞で2部門を獲得する一方、賞レースにおけるラップ作品とヴォーカル作品の区分けについて論争を巻き起こすなど、色々な形で音楽界に波紋を呼んだ、カナダのトロント出身のヒップホップ・アーティスト、ドレイク。

2017年には「プレイリスト」と銘打たれた配信限定の作品『More Life』を配信限定でリリースする一方、複数のシングルを発表しながら、欧州とオセアニアを舞台に大規模なツアーを敢行。2018年には”Nice For What”が、前週まで1位だった彼の”God's Plan”からトップをもぎ取り、ビルボードの総合シングル・チャートでは史上初となる、「同じアーティストの別の楽曲による2週連続1位」という大記録を打ち立てた。

このアルバムは、彼にとって2年ぶり通算5枚目のスタジオ作品。彼にとって初の2枚組作品で、プロデューサーにはマーダ・ビーツやボイ・ワン・ダなどのお馴染みの面々に加え、DJプレミアやDJポールといったアメリカの大物クリエイターも参加。ゲストにはジェイZタイ・ダラ・サインのほかに、マイケル・ジャクソンの名前も入った豪華なものになっている。

本作に先駆けて発表された”God’s Plan”は、2018年にリリースされ、全米総合シングル・チャートで11週連続1位を取った楽曲。シンセサイザーの伴奏とドロドロしたビートを組み合わせたトラックの上で、ヴォーカルともラップとも言い難い不思議なフロウを聴かせるアップ・ナンバー。2017年のグラミー賞で、ヒップホップとR&Bの区分について疑問を投げかけた彼が、両者の融合をさらに推し進めた面白い曲だ。

これに続く”I’m Upset”は、フィラデルフィアを拠点に活動する音楽プロデューサー、ウージー・メインを制作者に起用した作品。リル・ウジ・バートなどの楽曲をプロデュースしてきたウージーが作るビートは、華やかな音色を使ったトラップ。このあくの強いビートの上で、歌うようにラップするドレイクの姿が印象的。「歌うようにラップをする」という彼の芸風が、実は才能と努力の賜物であることに気づかされる曲だ。

また、マーダ・ビーツがプロデュースした”Nice For What”は、ローリン・ヒルの”Ex-Factor”をサンプリングした楽曲。原曲のフレーズを再生速度を上げてループさせた手法は、2000年代のカニエ・ウエストやジャスト・ブレイズを連想させる。メロディをつけず、次々と言葉を繰り出すラップは、彼の作品では珍しい分、新鮮に映る。

そして、本作の収録曲で異彩を放っているのが ”Don’t Matter To Me”だ。1983年に録音され、2014年にリリースされたマイケル・ジャクソン”Love Never Felt So Good”と同じ時期に作られた未発表曲に、ノアー・シャビブとナインティーン85がビートをつけ、ドレイクのヴォーカルを加えた仮想デュエット曲だ。現代では少なくなった起承転結のはっきりしたメロディに、現代の流行である、シンセサイザーの太い音色を使ったシンプルなトラックを組み合わせたミディアムだ。ニーヨマックスウェルのように、流麗なメロディを歌う姿は、本職のシンガーにも見劣りしない。

今回のアルバムでは、ジェイZ、2パック、アウトキャストなど、多くのアーティストが挑み、苦しんできたCD2枚組というフォーマットでありながら、最後まで間延びすることなく、クオリティの高い音楽を聴かせている。この中では、メロディを抑えたラップ作品から、ラップとヴォーカルを混ぜ合わせた作品、純粋な歌もの作品まで、多彩な表現を披露しており、正味1時間半の大作ながら、最後まで集中して楽しめる。また、トラックには、シンセサイザーを使ったモダンなサウンドと、サンプリングを利用したものの両方を揃え、音楽の幅を広げている。この、色々なスタイルを取り入れ、組み合わせるアレンジ能力と、高いスキルが彼の作品にバラエティをもたらしているのだ。

2010年代のヒップホップ・シーンをけん引してきた彼の、豊かな音楽性を存分に堪能できる傑作。彼の成功が偶然ではないことを確信させられる充実の内容だ。

Producer
Noah "40" Shebib, Boi-1da, DJ Paul, DJ Premier, Murda Beatz, No I.D. etc

Track List
Disc 1
1. Survival
2. Nonstop
3. Elevate
4. Emotionless
5. God’s Plan
6. I’m Upset
7. 8 Out Of 10
8. Mob Ties
9. Can’t Take A Joke
10. Sandra’s Rose
11. Talk Up feat. Jay-Z
12. Is There More

Disc 2
1. Peak
2. Summer Games
3. Jaded
4. Nice For What
5. Finesse
6. Ratchet Happy Birthday
7. That’s How You Feel
8. Blue Tint
9. In My Feelings
10. Don’t Matter To Me feat. Michael Jackson
11. After Dark feat. Static Major & Ty Dolla $IGN
12. Final Fantasy
13. March 14




Scorpion
Drake
Universal / Island
2018-07-13

The Weeknd - My Dear Melancholy, [2018 XO, Republic]

2016年にリリースしたアルバム『Starboy』が、アメリカ国内だけで200万枚を超える売り上げを記録し、フィンランドやオーストラリアなど、複数の国のヒット・チャートを制覇。ドレイクやジャスティン・ビーバーとともに、カナダ出身の世界的な人気アーティストとして知られるようになったウィークエンド。

2017年は、他のアーティストの作品への客演やプロデュース、自身名義のワールド・ツアーに力を注ぐなど、新作のリリースはなかったものの、2018年には映画「ブラック・パンサー」のサウンドトラックに参加。今後の動きが注目されていた。

本作は、3月末にリリースされた初のEP。事前の告知は一切なく、突然発表されたこのアルバムには、フランク・デュークスやサーキットといったおなじみの面々に加え、マイク・ウィル・メイド・イットやスクリレックスといったヒットメイカーが参加。『Starboy』の成功で高まった新作への期待に応えた、良作になっている。

アルバムのオープニングを飾るのは、フランク・デュークスがプロデュースした”Call Out My Name”、ヒップホップやソウル・ミュージックというより、イマジン・ドラゴンズやリンキン・パークのような黒人音楽の影響を受けたロック・ミュージシャンに近い、ダイナミックなメロディと伴奏が心に残るスロー・ナンバー。繊細なハイ・テナーを振り絞って、大胆な歌唱を披露する姿は、マックスウェルにも少し似ている。

続く、”Try Me”はマイク・ウィル・メイド・イットが制作に携わったスロー・ナンバー。マイクといえば、ケンドリック・ラマーの”HUMBLE.”やビヨンセの”Lemonade”などの有名名曲を手掛ける一方、グッチ・メインやレイ・シュリマーにもビートを提供している叩き上げのビート・メイカー。この曲では、甘酸っぱい歌声で切々とメロディを口ずさむウィークエンドの魅力を、バラードに合わせてシックに纏め上げたトラップのビートで丁寧に盛り立てている。エレクトロ・ミュージックと物悲しいメロディの組み合わせは、前作に収録されている彼の代表曲”Starboy”を思い起こさせる。

そして、収録曲の中でも異彩を放っているのが、フランク・デュークスとスクリレックスの二人がプロデュースした”Wasted Times”。ジャスティン・ビーバーをフィーチャーした”Where Are Ü Now”が世界的なヒットになり、コーンやダミアン・マーリーG-ドラゴンなど、活動地域も音楽ジャンルも異なるアーティスト達と組んできた、スクリレックスが参加したこの曲。エレクトロ・ミュージックのDJらしい、キャッチーなフレーズの引用と、ヴォーカルの魅力を引き出す絶妙なさじ加減が光っている。ミディアム・テンポの作品ではあるが、曲調は”Where Are Ü Now”にも少し似ている。個性豊かなアーティストと仕事をしてきた彼の鋭い視点と、制作技術が発揮された楽曲だ。

だが、本作の目玉は何かと聞かれたら、フランスのリヨン出身のDJ、ゲサフェルスタインを招いた2曲”I Was Never There”と“Hurt You”だと思う。モダンなシンセサイザーの音色を多用しながら、奇をてらわないシンプルなアレンジで、爽やかな雰囲気に纏め上げている。繊細でしなやかな歌声が魅力のウィークエンドの魅力を引き立てた手法は、『Starboy』で腕を振るったダフト・パンクにも通じるものがある。

今回のアルバムは、前作の音楽性をベースに、よりロックやポップスに歩み寄ったスタイルの作品だ。滑らかで繊細だけど豊かな歌声と、絶妙なコントロールが魅力の歌唱技術を活かしつつ、各曲では、R&Bの様式に拘らず、新しい音やアレンジを随所で取り入れている。このあらゆる音楽ジャンルのファンに目を配った音楽性が本作の醍醐味だと思う。

ブルーノ・マーズやアデルがヒット・チャートや音楽賞を制覇し、多くの国でR&Bをベースにしたヒット曲が生まれている2010年代。今や音楽市場の主役になった印象もあるR&Bに、ロックやエレクトロの表現技法を組み合わせて、このジャンルが持つ新鮮さと大衆性を際立たせた、現代のR&Bとポップス・シーンを象徴するような良作だ。

Producer
Frank Dukes, DaHeala, Mike Will Made It, Skrillex, Cirkut

Track List
1. Call Out My Name
2. Try Me
3. Wasted Times
4. I Was Never There feat. Gesaffelstein
5. Hurt You feat. Gesaffelstein
6. Privilege






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