melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

SMentertainment

Yesung - Beautiful Night [2021 SM Entertainment]

平昌五輪の閉会式でのパフォーマンスが「オリンピックの歴史上、最もSNSで話題になった瞬間」という大記録を打ち立てたEXO、アジア人歌手としては史上2組目となる、全米アルバムチャート1位を記録したSuperM、現在は各メンバーのソロ活動が注目を集める少女時代など、多くのタレントを世に送り出してきた韓国SMエンターテイメント

同社に所属するスーパージュニアは、バラエティ番組での活躍や中南米へのツアーなど、 他のグループとは一味違う、ユニークな活動でも知られるベテラン・グループだ。同グループのメンバーであるイェサンは、「芸術的な声」という意味の芸名を持ち、韓国音楽界でも卓越した美しい声で知られている。

そんな彼は、グループがデビューすると間もなくソロ曲を発表。その後も2021年までに3枚のEPと1枚のスタジオ・アルバム、多くのシングルを世に出している。

今回発表された3年ぶりの新作EPは、意外にもシティ・ポップ路線の作品。アルバムのオープニングを飾る“Beautiful Night”は、煌びやかなシンセサイザーと艶かしいギターやサックスの組み合わせが心地よいアップナンバーだ。続く“Phantom Pain”は、ディアンジェロのブラウンシュガーを彷彿させるシンプルなメロディと伴奏で、透き通ったヴォーカルの良さを余すことなく伝えている。 このほかにも、レトロなリズムボックスが鳴らす軽やかなビートと、甘酸っぱいメロディが心に残る“Fireworks”のような、モダンな音色を上手に使ったR&Bが目立っている。

この説明だけを読むと、本作は近年、アジア各地で流行している日本の80年代のポップスをなぞったアルバムのように感じる人もいるだろう。だが、本作からはそういう雰囲気が微塵も感じられない。それは、随所に当時の音楽の要素を入れながら、それと一緒に現代的な表現を盛り込んでいるからだろう。

それを象徴するのが、柔らかい音色のギターをバックに歌う”Like Us“だ。この曲ではふくよかな楽器の音色をバックに、韓国のドラマや映画で耳にすることが多い、歌手の表現力を引き出す美しいメロディを聴かせている。この、80年代の日本のポップスから楽器の音色やメロディを参考にしながら、あくまでも現代の韓国のポップスとして聴けるように作っているところが、本作の特著なのだ。

「芸術的な声」という呼び名の彼にしか作れない。美しいメロディと豊かな表現力が印象的な作品。「ヒップホップが強い国」という韓国のイメージを良い意味で壊してくれる。


Producer
Lee Soo Man etc

Track List
1. Beautiful Night
2. Phantom Pain
3. Corazon Perdido (Lost Heart)
4. Fireworks
5. No More Love
6. Like Us
7. A Letter in the Wind








NCT127 - Neo Zone [2020 SMentertainment, Caroline, Universal]

メンバーの脱退や、兵役によるブランクを乗り越え、ベテラン・グループの新たなロール・モデルを築き上げた東方神起。メンバーのソロとグループ活動を両立し、ブレイクした後は卒業という、従来のガールズ・グループとは異なるキャリアの積み方を提示した少女時代。アイドル・グループの保守本流を歩みつつ、新しい音を積極的に取り入れることで、国内外に幅広いファンを獲得したEXOなど、多くの人気グループを輩出してきた韓国エンターテイメント界のガリバー、SMエンターテイメント

同社が2016年に送り出したNCTは、「開放と拡張」をコンセプトに掲げ、タイや日本、ドイツやカナダなど、多くの国から採用した個性豊かなメンバーと、コンセプトに合わせてメンバーを選抜した多彩な派生ユニットで、短い期間に多くの金字塔を打ち立ててきた。

NCT127は同グループの派生プロジェクトを代表するユニット。韓国系カナダ人のマーク、日本人のユウタ、中国人のウィンウィンなど、メンバーの約半数が外国出身という多様性と、ステレオタイプスやLDNノイズといった海外のヒットメイカーを起用した本格的なR&Bで一躍ブレイク。2019年に発売されたEP『We Are Superhuman』は全米総合アルバムチャートで11位という大記録を残した。

本作は『We Are Superhuman』から約10ヶ月の間隔を挟んでリリースされた、彼らにとって通算3枚目のスタジオ・アルバム。また、このアルバムは、マークとテヨンが事務所の先輩達と結成したSuperMとして、ウィンウィンはNCTの中国系メンバーで結成されたWay Vの一員として活動していた、多忙な時期に録音された作品でもある。

本作の1曲目である”Elevator (127F)”は、チェイン・スモーカーズやジョナス・ブラザーズの作品を手掛けているシルベスターが制作を主導した作品。四つ打ちに近いしなやかなビートと流れるようなメロディは、ドネル・ジョーンズの”U Know What’s Up”やカール・トーマスの”She Is”のような、2000年前後のR&Bに似ている。しかし、サビの箇所をシンセサイザーの演奏で埋める手法など、R&Bを土台にしつつ、近年のポップスのトレンドを取り込んだアレンジが心憎い。

続く”Kick It”は本作からの先行シングル。Dr.ドレの『Compton』で辣腕を振るい、NCTにも”Cherry Bomb”などのヒット曲を提供してきた、ディム・ジョインツが手掛けたミディアム・ナンバー。ギターのような音色のノイズを使った、トラップともEDMとも異なる独特のビートが格好良い。歌とラップを上手く混ぜ込み、観客を煽るサビも盛り込んだ構成も面白い。楽曲自体の完成度が高いのはもちろんのこと、ライブで聴いたら盛り上がりそうな高揚感も気になるところだ。

また、本作の隠れた目玉といっても過言ではないのが、ロス・アンジェルスを拠点に活動するイアン・ジェフリー・トーマスが制作を主導した”Day Dream”だ。デビュー5年目、メンバーの大多数が20代前半という若い力を活かした、甘酸っぱいメロディと柔らかいトラックが心地よい作品だ。みずみずしい歌声と爽やかなメロディ、耳ざわりのよいトラックの組み合わせはアッシャーの代表作『8701』に通じるところがある。

そして、本作の最後を締めるのが、”Dreams Come True”。ロンドンを拠点に活動し、韓国人アーティストにも多くの楽曲を提供しているプロダクション・ユニットLDNノイズの作品だ。シンセサイザーの音色を組み合わせて作ったヒップホップのビートと、なめらかなメロディ、低声を強調して年齢以上に大人っぽい表情を見せるヴォーカルが印象的な曲だ。若くしてベテランの貫禄と大人の色気を見せる9人の成長を感じられる良作だ。

本作の魅力は、世界の大舞台を経験し、飛躍的に成長した9人の表現力と、欧米のトレンドを取り入れつつ、あくまでもヒップホップやR&Bに軸足を置いた楽曲の組み合わせだ。グループとしての活動はもちろん、Super MやWayVでも、海外の大舞台を経験してきたメンバー達の高い技術と、EDMやトラップといった海外で人気のサウンドを取り入れて、アジアでは根強い人気のあるR&Bやヒップホップを現代の音楽として磨き上げた姿勢が、彼らの個性になっている。この、アジア特有のトレンドに対応しつつ、欧米を意識した音作りと、楽曲の魅力を引き出す高い技術が彼らの武器だと思う。

厳しい環境で鍛えられた9人の個性と、欧米の実力派クリエイターを9人と結びつけ、一つの作品に導いたプロデューサー達の采配が合わさったことで生まれた良作。歌手、作家、マネジメントの三者が高いレベルのスキルと明確な方針を共有したことで生まれたハイ・クオリティなアルバムだと思う。

Producer
Lee Soo-man (exec.), Dem Jointz,Yoo Young-jin, The Stereotypes, LDN Noise etc

Track List
1. Elevator (127F)
2. Kick It
3. Boom
4. Pandora's Box
5. Day Dream
6. Interlude: Neo Zone
7. MAD DOG
8. Sit Down!
9. Love Me Now
10. Love Song
11. White Night
12. Not Alone
13. Dreams Come True




NCT#127 Neo Zone(輸入盤)
NCT127
DREAMUS
2020-03-16

BTSを起点に韓国のR&B、ヒップホップの重要アーティストを並べてみた。

2018年6月2日付のビルボード総合アルバム・チャート で、BTSの『Love Yourself: Tear』がアジア出身のアーティストとしては史上初、外国語作品としてはイル・ディーヴォの『Ancora』以来12年ぶりとなる1位を獲得した。この記録については色々な意見はあるけれど、ヒップホップやR&Bが好きな自分にとっては、彼らの記録は時間をかけて現代の形になった、韓国のヒップホップやR&Bの一つの到達点のように映った。そこで、今回は番外編として、韓国のヒップホップやR&Bの歴史で重要な役割を果たしたアーティストと楽曲を9組取り上げてみた。

選定基準は
1.韓国のヒップホップやR&Bに何らかの影響を与えた(と思う)アーティストであること
2.単純な売り上げだけでなく、後の時代に何らかの影響を与えた曲であること
この二つ。
それでは、一組ずつ紹介してみよう。


Seo Taiji & Boys – Come Get Some [1995]

韓国のR&B、ヒップホップを語るにあたって、避けて通れないのが90年代前半に一世を風靡した、3人組ダンス・ヴォーカル・グループ、セオ・タジ&ボーイズ。当時、アメリカで流行していたニュー・ジャック・スウィングを取り入れ、歌って踊れてラップもできた同グループは、歌謡曲が中心だった韓国の音楽市場にR&Bブームを巻き起こした。また、グループの解散後、メンバーのヤン・ヒュンソクは芸能事務所YGエンターテイメントを設立。後述するBIGBANGなどのヒップホップ・アクトを育て、韓国をアジア屈指のヒップホップ大国にした。

この曲は、95年にリリースされた4枚目のアルバム『Seo Taiji and Boys IV』に収録。前作『Seo Taiji and Boys III』でロックに取り組んで人々を驚かせた彼らは、このアルバムでDr.DreやIce-Tなどの成功によって注目を集めていた、アメリカ西海岸のヒップホップに挑戦。収録曲の大半が検閲(当時、韓国では検閲制度が存在した)に引っ掛かったという、ポップ・スターらしからぬ過激なリリックと、本場のギャングスタ・ラップにも見劣りしない重厚なサウンドが話題になった。余談だが、BTSは2016年に、セオ・タジの芸能生活25周年記念の企画で、この曲のリメイクにも挑戦している。原曲の雰囲気を残しつつ、21世紀を生きる彼らに合わせてリリックを書き直したラップは必聴。






1TYM – 1TYM [1998]

セオ・タジ&ボーイズ解散後、ヤン・ヒュンソクが立ち上げたYGエンターテイメントからデビューしたのが、4人組の男性グループ1TYM(ワンタイム)。曲の途中でラップを挟む、歌って踊れるヴォーカル・グループが主流の時代に、ラップを中心に据えた独自のスタイルで。後進に多くの影響を与えた。また、グループの解散後、中心人物のテディ・パクはプロデューサーに転身、BIGBANGの”Fantastic Baby”や2Ne1の”Fire”といったヒット曲を数多く手掛け、アジア屈指のヒット・メイカーとして歴史に名を残した。余談だが、BTSのラップ担当の3人は、オーディションの合格時に「1TYMみたいな(あまり踊らない)本格的なラップグループを作ろう」と口説かれたらしい(その後は言う由もがな)。


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