2000年に自身のレーベル、ル・サンからリリースした1枚目のアルバム『Soulsinger』が、ソウルフルな歌声とロマンティックなメロディが光る佳作として評判になり、インディー・レーベル発の作品ながら、音楽ファンの間でも注目を集め、各国のレコード・ストアで目立つ位置に陳列された、ルイジアナ州ニューオーリンズ出身のシンガー・ソングライター、レディシことレディシ・アニベド・ヤング。

実は彼女、ジャズ・ミュージシャンのラリー・サンダースを父に持ち、祖父は伝説のブルース・シンガー、ジョニー・エース。それ以外にも、ミュージシャンとして活動している親戚が何人もいるという音楽家一族の出身。そんな彼女は、8歳の頃から地元のジャズ・バンドでヴォーカルを担当し、大学を卒業した後は西海岸を拠点にミュージシャンとして活動していたという。

2007年にジャズの名門レーベル、ヴァーヴと契約し彼女は、2016年までに5枚のアルバムを制作。全ての作品をアルバム・チャートの上位に送り込み、グラミー賞を含む多くの音楽賞にノミネートするなど、歌唱力をウリにした通好みのシンガーでありながら、商業的にも一定の成果を収め続ける本格派のミュージシャンとして活躍してきた。

今回のアルバムは、前作『The Truth』以来、実に3年ぶりとなる通算8枚目のオリジナル・アルバム。前作に引き続き、レックス・ライドアウトがプロデュースを担当。ほぼ全ての曲で彼女自身がペンを執り、カーク・フランクリンやDJカリルといった個性的なプロデューサーを起用し、ゲスト・ミュージシャンとしてBJザ・シカゴ・キッドジョン・レジェンドといった人気ミュージシャンが参加した力作になっている。

本作の収録曲で最初に気になったのは、彼女自身がプロデュースしたミディアム・ナンバー”Add To Me”だ。ダイナミックなベース・ラインと躍動感のあるビートの上で、軽やかなストリングスの演奏が響き渡るミディアム・ナンバー。一度聴いたら忘れない、キャッチーなフレーズを繰り返し鳴らすスタイルは、ヒップホップのビートにも似ている。力強い歌声を器用に扱う姿は、”Be Happy”や”I’m Going Down”などで、ソウル・ミュージックのフレーズを引用した複雑なトラックを巧みに乗りこなした、メアリーJ.ブライジを彷彿させる。

しかし、彼女の魅力は何といっても”歌”にスポットを当てたバラードだろう。そういう意味では、レックス・ライドアウトに加え、ストーンズ・スロウから4枚のアルバムを出しているバンド、ステップキッズのジェフ・ギテルマンが制作に参加した”Here”は、彼女のヴォーカルを思う存分堪能できる良曲だ。ストリングスとキーボードを駆使したしなやかな伴奏をバックに、美しい歌声をじっくりと聴かせているミディアム・バラード。力強い歌声が魅力の彼女だが、この曲でも流麗なメロディを丁寧に乗りこなしつつ、随所でパワフルな歌唱を披露している。

また、ゲスト・ヴォーカルを招いた作品では、2016年のアルバム『In My Mind』も記憶に新しいBJザ・シカゴ・キッドが参加した”Us 4ever”が面白い。70年代のソウル・ミュージックを思い起こさせる、温かい音色のギターが印象的な伴奏をバックに、しっとりと歌う二人の姿が印象的なスロー・ナンバーだ。ジャズの経験が豊富なレディシにヒップホップの影響が色濃いBJと、声質も音楽性も大きく異なる二人だが、この曲は両者に共通するルーツであるソウル・ミュージックの要素を強調することで、二人のスタイルを残しつつ、一つの作品に落とし込んでいる。シンセサイザーを盛り込んだモダンなトラックと、二人の泥臭いヴォーカルを組み合わせたジョン・レジェンドとのデュエット曲”Give You More”とはタイプの異なる曲を用意しつつ、きちんと自分の個性を発揮する技術は流石としか言いようがない。

そして、本作からの先行シングルである”High”は、彼女の作品に何度も参加しているダリル・キャンペルやチャールズ・ヒンショウが制作に携わっているスロー・ナンバー。同じフレーズを繰り返し演奏するホーン・セクションやキーボードが、ヒップホップのサンプリング・ソースのようにも聴こえる。曲調は”Add To Me”にも似ているが、こちらの曲ではアレサ・フランクリンを連想させるパワフルなヴォーカルを聴かせている。

彼女の初期の作品では、ジャズ・ヴォーカルのアルバムと勘違いしそうな程、繊細でテクニカルな演奏と歌唱が目立っていたが、ヴァーヴとの契約以降は、その傾向も薄れ、60年代、70年代のソウル・ミュージックや、現代のヒップホップ、R&Bを混ぜ合わせた、現代のトレンドを大人向けにアレンジしたR&B作品が増えてきている。大人向けの作品というと、往年の名アーティストを意識したものや、過剰な演出を控えたシンプルなものが多いが、彼女は新しい手法を積極的に取り入れつつ、それらをバンド・サウンドやソウル・ミュージックの歌唱法と混ぜ合わせることで、聴き手に懐かしさを感じさせつつ、新鮮な印象を与えていると思う。

ジャズとソウル・ミュージックをベースにしつつ、R&Bやヒップホップの手法も適度に取り入れることで、新鮮だけど飽きの来ない唯一無二の作品に落とし込んだ良作。ヒップホップやR&Bを聴いて育った人にこそ聴いて欲しい、大人になったヒップホップ世代のためのヴォーカル作品だ。

Track List
Ledisi Young, Rex Rideout, DJ Khalil, Timothy Bullock, Butta-N-Bizkit, Kirk Franklin etc

Track List
1. I Choose Today [Interlude] (Iyanla Vanzant)
2. Shot Down
3. Tomorrow Is A New Start [Interlude] (Soledad O’Brien)
4. Let Love Rule
5. Add To Me
6. Hello To The Pain [Interlude] (Iyanla Vanzant)
7. Hello
8. Forgiveness
9. Here
10. Us 4ever feat. BJ The Chicago Kid
11. Give You More feat. John Legend
12. High
13. Understanding / I Love You [Interlude] (Soledad O’Brien)
14. All The Way
15. If You Don't Mind





Let Love Rule
Ledisi
Verve
2017-09-22