melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

XL

Gil Scott-Heron & Makaya McCraven - We’re New Again: A Reimagining by Makaya Mccraven [2020 XL Recordings]

1970年に初のスタジオ・アルバム『Small Talk At 125th & Lenox』を発表すると、ユニークな言語感覚を活かした鋭いリリックと、盟友ブライアン・ジャクソンをはじめとする名うてのミュージシャン達が生み出すダイナミックなサウンドで、ポエトリー・リーディングの可能性を大きく広げた、ギル・スコット-ヘロンことギルバート・スコット-ヘロン。

彼はXLレコーズに所属する電子音楽のクリエイター、リチャード・ラッセルと共作した『I’m New Here』を発表した翌年、2011年に62年の生涯を閉じるまで、15枚のスタジオ・アルバムと多くの楽曲を残してきた。また、その音楽はポエトリー・リーディングの作品としてはもちろん、良質の演奏が堪能できるジャズやファンクの傑作として、そして言語を音楽として楽しむヒップホップの元祖として、多くの音楽好きを魅了してきた。

本作は、2010年にリリースされた『I’m New Here』のヴォーカルを再編集し、シカゴ出身の気鋭のジャズ・ドラマー、マカヤ・マクレイヴンが率いるバンド・メンバーの演奏と組み合わせたリメイク作品。同じような企画は英国の電子音楽作家、ジェイミーXXがビートを再構築した2011年の『We're New Here』でも行われていたが、こちらはシンセサイザーを多用したエレクトロ・ミュージック作品だったこともあり、生演奏による再構成は初となる。

収録曲に目を向けると、実質的なタイトル・トラックに当たる”I’m New Here”は、2016年に『Wax & Wane』の日本盤CDがリリースされたことでも話題になったフィラデルフィア出身のハープ奏者、ブランディー・ヤンガーの艶めかしい演奏が印象的なミディアム・ナンバー。ダイナミックなグルーヴを叩き出すマカヤと、色っぽいギターやベースの伴奏、甘い歌声のように響くギルの声の組み合わせが心地よい作品だ。

これに対し、”Where Did the Night Go”は、60年代後期のオーネット・コールマンやアルバート・アイラーの作品を彷彿させる音と音の隙間を効果的に使った抽象度の高いアレンジが光る作品。生演奏のような豊かで温かい音色の伴奏だが、これは全部シンセサイザーで制作された打ち込み音楽。シンセサイザーの進化と、それを巧みに使いこなすマカヤ達の制作スキルが聴きどころだ。

それ以外の曲では、ブルック・ベントンが制作したボビー・ブランドの1959年のヒット曲”I’ll Take Care of You”のカヴァーも見逃せない。『I’m New Here』ではギターとピアノの音色をバックに訥々と歌った作品だったが、本作では、ブランディー・ヤンガーのハープやマカヤが打ち込んだシンセ・ベースを組み合わせたバンド・サウンドになっている。豪華な演奏の影響からか、ギルの声も殺伐としたブルースというよりはイナたいソウル・ミュージックのように聴こえるから面白い。演奏がヴォーカルの印象を大きく変えることを再認識できる良曲だ。

今回のアルバムは、ブライアン・ジャクソンと共作していた時代の作品のように、ジャズやソウルのエッセンスをふんだんに盛り込んでいながら、過去の作品の焼き直しに終わらない新鮮さがある。それはおそらく、このアルバムのヴォーカル・トラックが生演奏を前提に作られたものではないので、他の作品とは大きく異なるアレンジが施されているからだと思う。

偉大な先人の遺作を、鋭い感性と高い演奏スキルで新しい音楽に生まれ変わらせた名作。AIにはない豊かな想像力と大胆な発想を持つ人間だからこそ生み出せる音楽だろう。必聴。

Producer
Makaya McCraven

Track List
1. Special Tribute (Broken Home pt.1)
2. I'm New Here
3. Running
4. Blessed Parents
5. New York is Killing Me
6. The Patch (Broken Home pt.2)
7. People of the Light
8. Being Blessed
9. Where Did the Night Go
10. Lily Scott (Broken Home pt.3)
11. I'll Take Care of You
12. I've Been Me
13. This Can't Be Real
14. Piano Player
15. The Crutch
16. Guided (Broken Home pt.4)
17. Certain Bad Things
18. Me and the Devil




Kaytranada ‎– 99.9%[2016 XL Recordings]

15歳のときに楽曲制作を始め、2010年以降はケイトラナダ名義でプロデュースやリミックス、ヨーロッパやオセアニア地域を含む世界各地でのライブ活動などを行なっている、ハイチのポルトープランス生まれ、カナダのモントリオール育ちのクリエイター、ルイス・ケヴィン・セレスティン。彼にとって、初のフル・アルバムとなる作品が、英国のXLレコーディングスからリリースされた。

これまではビート・メイカーとして、主に電子音楽の分野で楽曲制作やDJ、ライブ活動などを行う一方、プロデューサーや演奏者として、ジ・インターネットの2015年作『Ego Death』に収録されている"Gift"や、アンダーソン・パックが2016年に発表した『Malib』に収録の"Lite Weight"、バッドバッドノットグッドの2016年作『IV』に収録されている"Lavender"を手がけるなど、色々なジャンルの音楽に携わってきた彼。今回のアルバムでは、これらのコラボレーションを通して培った、幅広い人脈をフル活用して、ヴォーカル曲やラップものにも挑戦。インストゥメンタル曲やリミックスを通して磨かれた音に対する鋭いセンスと、シンガーの持ち味を活かした、親しみやすい作風の好作品に仕上げている。

まず、収録された15曲の中から、ヴォーカルものに目を向けると、クレイグ・デイヴィッドをフィーチャーした"Got It Good"と、アンダーソン・パックを起用した"Glowed Up"の2曲が目立っている。音と音の隙間を多めにとった、抽象的なトラックを採用している両曲。だが、前者はジェイ・ディラの作品を彷彿させるシンプルなビートに乗せて、流麗なメロディをじっくりと歌い込む、電子音楽版ディアンジェロといった趣の楽曲。耳元を爽やかに抜ける電子音と、クレイグのクールな歌声がマッチした佳曲だ。一方、後者は、電子音楽畑出身らしいルイスが作る前衛的なトラックと、ラップもこなせるパックのリズム感が光る楽曲。コンピュータでなければ作れない、ドラムから上物まで全てが異なる変則的なリズムを刻むトラックと、そこから一定のリズムを見出し、正確なメロディを紡ぎ出すパックのセンスが合わさった、奇抜だけど緻密な楽曲。この2曲は、ヴォーカルの個性に応じて、色々なスタイルを使い分けるケイトラナダの技術力が堪能できる名演だ。

それ以外の曲では、ドラマーが参加した2曲も面白い。まず、ストーンズ・スロウから3枚のアルバムを発表しているドラマーのカリーム・リギンズとトロント出身のシンガー・ソングライター、リヴァー・ティバーが参加した"Bus Ride"。こちらは、ジェイ・ディラやコモンの作品でも披露している、カリームの複雑なのに正確無比なビートと、リヴァー・ティバーのストリングスやホーンが心地よいインスト・ヒップホップ。また、彼らの作品でも共演しているカナダのジャズ・バンド、バッドバッドノットグッドと組んだ"Weight Off"は、カリーム・リギンズとは対極の荒っぽいけど力強く、勢いのある演奏が格好良い人力ドラムンベース。バンド演奏ならではの、ダイナミックなグルーヴが魅力的だ。

だが、彼の本領が発揮されているのは、コンピュータを駆使したインストゥメンタルだろう。中でも、ブラジルの女性シンガー、ガル・コスタの"Pontos de Luz"をサンプリングした"Lite Spots"は、ブラジル音楽独特のリズムを、前衛的な電子音楽の構成にうまくはめ込んだ、DJの経験も豊かな彼の編集センスが発揮された楽曲だ。

XLといえば、インディペンデント・レーベルでありながら、アデルやプロディジーなどの有名ミュージシャンの作品を取り扱う一方で、タイラー・ザ・クリエイターやジェイミーxxのような気鋭のアーティスト、ボビー・ウーマックの『Bravest Man in the Universe』や、ギル・スコット・ヘロンの『I'm New Here』といった大物の作品まで配給してきた英国の名門レーベル。その中でも、ボビー・ウーマックやギル・スコット・ヘロンのアルバムでは、経験豊かなミュージシャンとフレッシュな感性で評判の高いクリエイターをコラボレーションさせることで、先鋭的でありながら、キャッチーで聴きやすい音楽を聴かせてくれた。今回のアルバムでは、そのときのノウハウが活かされており、ケイトラナダの斬新なサウンドを、幅広い層から受け入れられているゲストの個性を合わせて、とっつきやすい楽曲に着地させているように映る。

ビート・メイカーの作る音楽というと、コンピュータを使った奇抜な作品をイメージする人も少なくない。だが、このアルバムでは斬新さを保ちつつ、尖った音楽に慣れていないリスナーの耳に届くよう、細かいところまで配慮されている。20代前半とは思えない、鋭い感性と老練さが両立された傑作だと思う。


Producer
Kaytranada

Track List
1. Track Uno
2. Bus Ride feat. Karriem Riggins and River Tiber
3. Got It Good feat. Craig David
4. Together feat. AlunaGeorge and GoldLink
5. Drive Me Crazy feat. Vic Mensa
6. Weight Off feat. BADBADNOTGOOD
7. One Too Many feat. Phonte
8. Despite the Weather
9. Glowed Up feat. Anderson .Paak
10. Breakdance Lesson N.1.
11. You're the One feat. Syd
12. Vivid Dreams feat. River Tiber
13. Lite Spots
14. Leave Me Alone feat. Shay Lia
15. Bullets feat. Little Dragon





99.90%
Kaytranada
Xlrec
2016-05-06

Sampha - Process [2017 Young Turks, XL Recordings]

2010年にCD-Rでリリースした自主制作のEP『Sundanza』でデビュー。同作に収められている、ソウル・ミュージックと電子音楽やヒップホップを融合した個性的なサウンドが、新しい音に敏感な音楽ファンやミュージシャンの間で注目を集めた、サウス・ロンドンのモーデン出身のシンガー・ソングライター、サンファことサンファ・シセイ。彼にとって初のフル・アルバムが、XL傘下のインディー・レーベル、ヤング・タークスから発表された。

デビュー後の彼は、アーロン・ジェロームの音楽プロジェクト、SBTRKTやドレイク、カニエ・ウエスト、フランク・オーシャン、ソランジュなど、先進的な音楽性で多くのファンを魅了する人気ミュージシャンの作品に、制作やヴォーカルで参加し、その美しい歌声と鋭いセンスを披露してきた。

そんな彼にとって、CD形式では初のアルバムとなる本作では、マックスウェルの柔らかいテナーヴォイスとサム・スミスの洗練された歌唱、それにフライング・ロータスのように巧みな電子音の使い方と、Jディラを思い起こさせる厳選した音色を巧みに配置したビートが合わさった、独特の世界観を感じさせる傑作だ。

まず、アルバム発売に先駆けて発表された”Blood On Me”は、ナズやギャングスターの音楽を連想させる、90年代のヒップホップっぽい軽快なビートに、電子音を絡めたトラックを使ったアップ・ナンバー。そんなトラックの上で、感情をむき出しにしながら、泣きじゃくるように激しく歌うサンファの姿が印象的。

また、もう一つの先行リリース曲”Timmy's Prayer”は、カニエ・ウエストが制作に参加したミディアム・ナンバー。管楽器のような音色のシンセサイザーが物悲しい雰囲気を醸し出すトラックでは、他の曲と同じように、シンセサイザーを使ったビートも、どこか哀愁を帯びたように聴こえる。こんな重く、暗い雰囲気の曲に、サンファはロックのビートとギターを奏でるように多くの電子音を盛り込んで、ブラッド・オレンジやレディオヘッドのようなオルタナティブ・ロックっぽい前衛的な楽曲に纏め上げている。彼の歌も、この曲ではどこかラフで爽やかな感じがする、ロック色の強い佳曲だ。

それ以外にも、ガラージっぽい軽妙なビートに、軽い音色のスネアと電子音を組み合わせた高速で鋭いビートの上で、リバーブをかけたファルセットを響かせるアップ・ナンバー”Kora Sings”や、ピアノとシンセサイザーを使った神秘的な伴奏をバックに、繊細な歌声を絞り出すように歌い上げるバラード”(No One Knows Me) Like The Piano”なども、R&Bが好きな人には魅力的だと思う。

だが、彼の本領が発揮されているのは、やっぱり電子音楽とソウル・ミュージックを融合させたミディアム・ナンバーだろう。このアルバムでは”Reverse Faults”や”Under”、”Incomplete Kisses”などがそれに該当する。その中でも、”Incomplete Kisses”は電子楽器の音色に空間処理を施して作った幻想的なトラックの上を、エフェクトがかかったサンファのヴォーカルが響き渡るミディアム・ナンバー。メロディ自体は、フランク・オーシャンやアンダーソン・パックの流れを汲む、ソウル色の薄いR&Bといったところだが、ジェイムズ・ブレイクやフライング・ロータスの系譜に立つ、電子音楽とポップスを融合したトラックや、両者を結び付け、一つに纏め上げる音響技術のおかげで、彼にしか作れない個性的なソウル・ミュージックに仕上がっているのが面白い。

彼の音楽をじっくり聞くと、個別の要素は色々なミュージシャンにルーツを求めることができると思う。ファルセットを駆使したヴォーカル・スタイルは、マーヴィン・ゲイにはじまり、近年ではマックスウェルやロビン・シックなどが採用しているし、感情をむき出しにする繊細なヴォーカルはレディオヘッドのトム・ヨークなど、ロック・ミュージシャンを中心に多くの歌手が取り入れている。電子音楽をポップスに援用する手法も、フライング・ロータスやジェイムズ・ブレイク、ジェイ・ディラなどの作品で見られるもので、全て、純粋な彼のアイディアではない。

だが、彼の面白いところは、色々な音楽で使われている手法を集め、一つの音楽に詰め込みつつ、引用や加工の仕方を工夫することで、各手法の特徴と残しながら、自分の音楽に仕立て上げている点だと思う。その象徴が”Timmy's Prayer”で、電子音を多用しながら、ロックのビートに、レディオヘッドっぽい退廃的なメロディ、サム・スミス風のスタイリッシュなヴォーカルという、タイプの異なる音楽のエッセンスを、一つの作品に詰め込みつつ、きちんと整合性を取っている点が、彼の音楽の特徴だと思う。2013年に、デーモン・アルバーンがボビー・ウーマックの『Bravest Man in the Universe』でエレクトロ・ミュージックとソウルの融合に挑戦していたが、このアルバムは同作の手法を磨き上げ、ソウルと電子音楽を完全に一体化しつつ、各要素の特徴を残した作品といってよいだろう。

これだけ多くの要素を詰め込みつつ、一つの作品に落とし込むセンスはただものではないと思う。カニエ・ウエストの『The Life of Pablo』やソランジュの『A Seat at the Table』が好きだった人にはぜひ聴いてほしい、個性的な発想と緻密な構成、高い演奏技術が光る良作だ。

Producer
Sampha Sisay, Rodaidh McDonald

Track List
1. Plastic 100C
2. Blood On Me
3. Kora Sings
4. (No One Knows Me) Like The Piano
5. Take Me Inside
6. Reverse Faults
7. Under
8. Timmy's Prayer
9. Incomplete Kisses
10. What Shouldn't I Be?






 
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